アメリカのトップ
「我々アメリカは、日本に対して宣戦布告する!!!」
何故こんな事になったのか……自分たちでも振り返る必要がある。あれは国際会議へと向かう前まで遡る……
「プライベートジェットってもう少し小さいものだと思ってました」
今天馬たちがいるのは成田国際空港。建物や滑走路の状態が心配だったが、問題なく離着陸ができる程度には原型をとどめていた。
そして滑走路にあるのは普通の飛行機ではなく、総理になったら自由に使えるというプライベートジェットだった。天馬がイメージしていたプライベートジェットは、せいぜい10人くらいが乗ることのできるくらいの大きさだが、今目の前にあるのはその倍ほどの人数を乗せることができる。
「実際に乗せる人数は10人もいませんし、もう少し小さいのでも良かったのですが、万が一の増員のためにこの大きさのものにしました。実際、余裕を持っていて良かったでしょう?」
「アハハ……」
そういって総理の視線は、天馬の後ろへと注がれた。そこにいたのは鏡華、ではなく甲斐だった。実はあの後、甲斐に少しぼかしながら何があったのか説明した。そしたら役に立てなくてもいいからついていきたいと言われ、相羽さんに相談していた。さすがに相羽さんの一存では決められなかったみたいで、総理を説得するから、そのかわりにレベルを25まで上げてきてほしいと要望を出された。総理に相談して許可を取るまでの時間を考えると、恐らく3日ほどの時間しかなかったが、甲斐はなんとか目標を達成できた。
ちなみに現在のステータスがこちら
名前:甲斐鋼征 レベル28
身体能力150 魔力90 精神力150 運30 総合力420
スキル
鋼化 身体強化 拳術
固有スキル
鋼の後光
称号
【忍耐】の卵
相羽さんに言われた日からもレベル上げをしていたみたいで、前にレベルを見たときより20もレベルが上ってかなり強くなっていた。鏡華との修行も毎朝欠かさずやってきたのでレベル以上の強さを持っていると思う。
「相談したとは言え、かなり直前になってしまって申し訳ないです」
「いえ、相羽くんは悪くありません。強い方が増えるのはこちらとしても嬉しいですしね」
思ったより歓迎されているのか、甲斐はほっと胸をなでおろしている。元々天馬たちが近藤に会わなければ声がかかっていたのは甲斐だっただろう。
今回国際会議に参加するメンバーは、天馬、鏡花、紀野総理、相羽さん、甲斐、対策本部の人たちが3人、紀野総理の秘書、通訳が2人といった感じだ。人数も少なくはないため、必然的に通訳の人が増えてしまった。てかすごいのが紀野総理に通訳はつかないらしい。英語ペラペラなんだと。何が出来ないんだこの人……
「では出ましょうか。皆さん乗り込んでください」
腕時計で時間を確認した秘書さんに声をかけられ、皆でプライベートジェットに乗り込む。そして10時間ほど空をさまよい、ロサンゼルス国際空港へと到着した。
プライベートジェットから降りると、一人の男性が少し離れたところに立っており、天馬たちが出てくるのを確認すると、こちらの方に歩いてきた
「皆様、ようこそアメリカへ。私は今国際会議で皆様のご案内などさせていただくロイ・アンダーソンです。以後お見知りおきを」
「日本国内閣総理大臣、紀野静です。今回はよろしくお願いします」
「こちらこそ。それでは皆様、早速会場まで向かいましょう」
流れるように天馬たちを空港の外まで案内し、用意されていたリムジンへと乗り込んだ。まさかリムジンに乗ると思ってはおらず、人生初リムジンに少し浮足立ってしまった。
「そういえば移動中や会議中に魔物が襲ってきたりはしないんですか?」
運転手は別にいるのか、天馬たちと同じように座っているロイに聞いてみた。今はともかく、会場内から魔物の気配を掴むのは難しい。というかこの気配を感じることすらまだよくわかっていないのだ。余程強くない限りは目に見える範囲かそれなりに近くないと感じない
「問題ありません。会場はもちろん、この車にも強力な結界を張っています。安心して移動、会議を行う事ができるでしょう」
サラッと言ったが、結界なんて日本では聞いたこともなかった。といっても天馬が見たり来たことのあるものは全部魔物か甲斐のチームの人達だけだった。もしかしたらまだ会ってないだけで日本にもいるかも知れない、と少しだけ期待に胸を膨らませた
「到着です。こちらが今回の会場、ロサンゼルス・コンベンション・センターです」
ロサンゼルス国際空港から来るまで数十分、今世界でもトップのプレイヤーがここに集まる。その事実に、プレイヤーの男二人は身震いがしていた。一方鏡華はというと、時差の関係もあってか少し眠そうにしていた
「この扉の先が、講堂となっております。お席の方にそれぞれの名前が振ってあるので、そちらにお座りください」
席の説明だけすると、ゆっくりと扉を開けていく。扉が開くに連れ、天馬でもわかる強い気配が徐々にあらわになってきた。そして会場の中に入ると、一際大きな気配の方へと視線を向ける。そこには筋骨隆々で顔にちょっとした傷のある、第一印象は「マ◯ィア?」な男性がいた。そして次の瞬間……
『遅いわよ日本!日本人はもっと行動が早いと思っていたけど、かなりののろまみたいね!』
視線を向けている方から、声がした。話してた内容は英語だったので、通訳してもらいやっとわかったが、声色は言ってしまえば女児のようなものだった。声のした方を改めてみると、先程見ていた男性の膝の上に女の子が座っていた
「あー、グリーン大統領、お久しぶりです。お元気そうで何より。ところでそちらのお嬢さんは?」
『アメリカで最もレベルの高いプレイヤー、メアリー・ミラーだ』
「まだ子どもじゃん」
紀野総理が話しかけたおかげでわかったが、あの怖そうな男性はアメリカの大統領だそうだ。そして膝に乗っているのはアメリカのNo.1プレイヤーだという。とても信じれなかったが、口には出さなかった。恐らく皆嘘だろ、といった感想を持っただろうが口には出さなかった……お前以外はな!鏡華!
『なんだと!子供だからって無礼がまかり通ると思っているの!』
「よくわからないんだけど、アメリカの子どもは皆こんななの?だとしたら大人はすごい大変だね」
「きょ、鏡華さんや、一旦口を閉じることは出来ますか?」
「なんで?先に無礼を働いたのは向こう。だったら堂々としてればいいの」
「流石に堂々としすぎなんだよ!子供相手に大人げなさすぎるわ!……あ」
『……そこまで馬鹿にするならいいでしょう!』
止めに入ったつもりが、火に油を注ぐ結果となってしまい、少女の怒りは限界に達してしまった。今にも暴れだしそうな震え方をしながら、叫んだ。
『我々アメリカは、日本に対して宣戦布告をする!!!』
ここで冒頭に戻る。鏡華による譲る気のない口撃に、天馬の天然爆弾が炸裂し、アメリカ最強の逆鱗に触れることになった。ちなみにその言葉は本気だったみたいで、メアリーが叫んだ次の瞬間、大量の軍人がなだれ込んできて、日本の人間を囲んだ。
「初めてのアメリカの地で初めての国際会議、そこで体験するのは銃を突きつけられることでした……なんてお土産話にもなるかよ!!」
対抗するかのように天馬も叫ぶと、それに合わせて2つの影が動いた。1つは言わずもがな鏡華だ。そしてもう一つは……なんと甲斐だ。相羽さんが設定した同行の条件により、レベルが格段に上がり以前までとは比べ物にならないほど強くなっていた。
「これも!御上の!お陰だな!」
一区切りごとに軍人を一人ずつ倒していく。拳術のスキルも持っていたこともあり、素手での戦闘技術は特に飲み込みが良かった。鏡華も少しだけど驚いていたが結構印象的だった。
ちなみに鏡華はというと、刀の鵐目と呼ばれる柄の方の先端部分で軍人のみぞおちを突きまくって気絶させている
「別に合図じゃなかったのに……そんな完璧な動きされると前もって決めてたみたいじゃん」
「俺の中では決めてたぜ?軍人たちがなだれ込んできたときには」
「マジか……鏡華は?」
「甲斐が動いたから、私も動いた」
見て動いたのに動きに少しのズレもなかったのが怖すぎるんだが……という本音は隠しておく。チラッと周りを見ると、総理たちは安堵の表情を浮かべており、アメリカ以外の各国は驚きの表情を浮かべている。そして当のアメリカはと言うと、かなり悔しそうな表情を浮かべていた
「あー俺達は戦いたくないし、宣戦布告なって辞めてほしいんですが……」
『どこがよ!思いっきり返り討ちにしてるじゃない!こうなったら私が……』
『やめなさい』
『痛っ』
激昂したメアリーが動き出そうとその場から立ち上がったが、大統領により止められた。まさか後ろからげんこつが来るとは思っていなかったのか、かなり驚いている表情をしている。
『ちょっとダディ!なにするの!』
『黙りなさい。お前は確かに強くなった、だからといって偉くなったわけではない。日本に宣戦布告するしないの判断は、大統領である私が決めることだ』
ん?ダディ?
『日本の皆さん、我が娘が失礼した。娘はああ言ったが、我々アメリカは日本に対して宣戦布告をする気はさらさらない。安心してほしい』
「娘!?」
アメリカのNo.1プレイヤーが、現アメリカ大統領の娘という事実に、日本どころか他の国々までざわつく事態になった。当の本人たちは何故止めたのか、いうことの口論を繰り広げていた。
「し、しかしグリーン大統領はグリーン・ブラウンというフルネームだったはず……メアリーさんとは名字が違うと思うのですが」
緑なのか茶色なのかどっちだよってツッコミそうになった、あぶない。
総理が大統領に聞いたことは各国の代表たちまで思っていたことにようで、かなり注目の的になっている。
『メアリーは私の娘だ。しかし私と妻が離婚した際に、親権が妻へと渡り名字が変わったということだ。離婚をしても父と呼んでくれることには、この子に感謝している』
『ダディ……』
各国の注目のもと親子で親睦を深めるのは非常にいいが、もう少し周りを考えてほしいと思っているのは、天馬だけではないはずだ……