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総理大臣

結局その日は会議室で雑魚寝という事になった。しかし流石に全員が広く使えるスペースはなく、何人か抱き合って寝ている。こんなところでBLの花を咲かせるなよ……

天馬が起きたのは朝の6時、日が昇って少ししたくらいだろう。段々と覚醒していく意識の中、女性陣の中で抱き枕のようになって寝ていた鏡華を起こす。



「鏡華さんや、朝ですよ〜。修行の時間ですよ〜」

「んぅ……あと10分……」

「その幸せそうな空間から抜けたくないのはわかるけど、あなたから言い出したことだぞ」




何度か軽く揺すっても動こうとしないので、先に甲斐を起こしに行くことにした。甲斐は誰かと抱き合っているということはなく、静かに寝ている……寝相を除けば。


「(なんだこの寝相……大の字ならまだわかるし可愛いものだけど、これは俗に言うセクシーポーズか?うっふぅ~ん、とか言いそう)」


「うっふぅ~ん」

「起きてんだろ」

「ぐえッ」



心の中を読まれたのかと思ったが、よく見ると体が僅かに動いているし、ものすごく薄目でこちらを見ている。寝相に合う言葉を言い、思わず顔面にチョップを加えてしまう。いや、この分だとこれが寝相かも怪しいが……




「痛ぇなー……寝起きなんだから優しくしてくれよ」

「あんなポーズ取って待ってるくらいには先に起きてたんだろ、なら寝起きでもないだろ」

「いや、ほんとにさっき起きたし、起きてから体動かしてないぞ?」

「まじかよ」



ってことは素であの寝相ってことだったのか……しかも無自覚じゃなくて、自分の寝相を自覚している。それならこういうネタに走ることも可能か……


「それはそうと天馬さんや……」

「ん?」



チョップで痛めたのであろう額を抑えながら、起き上がって反対の手で天馬の肩に触れて耳元に口を持ってくる。


「朝チュンは止めはしないけど、せめて二人っきりのときにしときな。俺は良くても他の奴らが怒り狂って殺しに来るぞ」

「俺が今怒り狂って殺しに行くのはだめか?」

「ハハッ!意外と健康にもいいらしいからな、どういう理屈かは知らんけど」

「死ね」




朝っぱらから冗談を言い合いながら、ふと思った。我ながら馴染むのが早いな、と。元々最低限のコミュニケーション能力はあるつもりだし、人と話すのも嫌いじゃない。むしろノリが合うやつとはずっと話してたいと思うほど。それでも、会って1日の甲斐たちとここまで仲良くなれたのは、やっぱり甲斐のおかげというのが強いだろう。ほんとに、人間として敵わないなと心のなかでだけ呟く



「うるさい、しばくよ……おはよう」

「おはよう、鏡華」

「御上の寝起きの情緒どうなってんだよ、強すぎて完全に目覚めたわ」



鏡華も無事に起き、そこからは何もなく修行に励むのだった。ちなみに今日の修行、甲斐が初参加ということもあり、少しだけいつもより時間がかかってしまった。それにより寝ていた皆も起きていて、少しだけ修行を見学していた。長く見ていた人ほど、翌日、翌々日と修行に参加していくのだが、それはもう少し先に話。




「キッツ……天馬、毎日こんな修行してるのか?」

「いや、こっちに来てからだからまだ2回目だな、しかも一回目は昼前だったからぶっちゃけ朝イチは今日が初だ」

「うへ〜、それでよくそんな余裕そうだな」

「まぁ今回は甲斐に合わせてレベルも下げてたし、余裕っちゃ余裕だな」

「言ってくれるぜコノヤロー」




なんてことのない雑談をしながら朝食を食べていると、近藤さんがすごい勢いで食堂へと飛び込んできた。



「桜田さん!御上さん!すぐに応接室に来てくれ!」

「近藤さん?どうしたんですか?」

「説明したいのだが、今は一刻も争う。何も言わずについてきてくれると助かる」

「……わかりました、すまん甲斐、これ片付けておいてくれ」

「おう、言えそうだったらあとで後で何があったか教えてくれ」

「言えそうだったらな」




ギリギリ食べきっていない朝食を甲斐に託し、近藤さんのあとを急いでついていく。応接室へつくと、その場には相羽さんと、一人の中年の女声がソファに座っていた。



「お待たせしました、二人とも、こっちに座ってくれ」



近藤さんは、その女性へ一礼すると、ちょうど対面する位置になるところへと座るよう促す。相羽さんも前に見たときより真剣な顔つきをしている。何かしらあるのだと思い、気を引き締めた。


「まずは挨拶を、はじめましてお二人共。私は現内閣総理大臣、紀野きのしずかと言います。一応メディアにも出ているので、もしかしたら顔くらいは見たことあるかもしれませんが……」

「はじめまして、桜田天馬です。お顔も名前もご存知ですよ、革命総理という異名に恥じない政策を次々と進めているとか」

「お恥ずかしい、少しだけ以前の総理たちとは違った舵を取っているだけですよ」



第105代内閣総理大臣 紀野静 46歳。20代の頃、若くして地方議員に選出され、必ず何かしらの成果を上げてきた有名な政治家。彼女の名前が多くの人に知られたのは、東日本大震災の直後。自衛隊の派遣や支援物資の運搬が遅れており、このままでは二次災害だけでは済まないと言われるほどのひどい状況を、この人の指示の元、二次災害の発生すら防いだという。ちなみにその後の国会で、救助や支援の遅れについて深く追求することがあり、当時の総理大臣やその他の大臣には相当煙たがられたそう。そしてその後も非常に有益な政策を打ち出し続け、一昨年総理大臣にほぼ満票という快挙で選出された。その後の政策は国と国民、両方に益のあるものばかりで、何度総理大臣を選び直そうが結果は変わらないと言われている。ちなみに支持率は脅威の99.5%である




「それで、総理がなぜここに?ここに来るまで大変でしたでしょう」

「幸いなことに魔物たちとの交戦は0、何事もなくここにつくことが出来ました。今回二人をお呼びしたのはほかでもありません。日本のプレイヤーの代表として、1週間後に開かれる国際会議に出席していただきたい」

「「!?」」



近藤さんの焦りようからただごとではないのはわかっていたが、まさかこんなことになるとは……確かに日本のようなことが世界中でも起きている。考えなかった訳では無いが、自分たちのことで頭がいっぱいになっていて海外のことなんて気にも留めてなかった。


「一応聞きますが、何故自分たちなんですか?」

「世界がこのようになってはや数日、未だに混乱こそあれ、冷静になってくる者も少なくありません。そこでこの世界になる前となった後、あの日を境に何が変わったのかを考えました。一つはモンスターと総称されることになった化け物たち。やつらは我々人間などより強く、困ったことに銃火器の効き目が薄いです。もちろん効果がまったくないとは言いませんが、まぁないに等しいでしょう。あまりにコスパが悪いのです」



なるほど、だから自衛隊などによる掃討作戦などが行われないのか。銃火器が人間並みに効いていれば被害を少なく、もっと言えばなくせた場所もあっただろう。でもそうはいかなかった……



「そして2つ目は、レベルとステータスと呼ばれるものです。さながらゲームや漫画の世界のようで、我々老人にはついていけそうにありませんが……これらが高ければ高いほど、超人的な身体能力を手に入れ、モンスターを倒すことができます。これに関しては、お二人のほうが詳しいでしょう」


「(いや詳しいわけじゃないけど、全く知らないってわけでもないな)」


「たまたま私の近くで仕事をしているものがこういうものに詳しかったため、対策本部を作った後の方針も迷わずに済んだのですよ」



総理の横に座っている相羽さんが、補足というように説明してくれた。相羽さんはまだ若そうだし、ゲームや漫画に詳しい友人や同僚がいても不思議じゃないな



「そしてレベルが高いプレイヤーのスカウトに成功し、様々なことに協力してくれると約束していただいた、という報告を受けまして、今回のお誘いをさせてもらったのです」

「なるほど……」




今まで一般人として生きてきたから、国際会議に出席してくれと言われてもうまく飲み込めない。そこの出席する意味とは何なのか、今まで革命的で国民に有益な政策を取ってきた人とは言え、なにか裏があるのかと疑ってしまう



「何故俺達なのかというのはわかりました。でも俺達が国際会議の場に行って何をするんですか?英語も話せるとは言えないですし、緊張で頭真っ白になりそうですよ」


「そうですね、隠しても仕方ないので正直に言います。まずは私や要人の護衛です。自分で言うのもなんですが、今国のトップを失うわけにはいきません。今、政府はあまり機能しているとは言い難い状況ですが、対策なども進み本来の動きを取り戻そうとしているのです。そして2つ目が……こちらは政治的な意味合いが強いのですが、諸外国へのアピールですね」


「アピール?」


「はい、我が国はこれほど強いプレイヤーを抱えているぞ、自国の問題が片付き次第派遣してやってもいいぞ、といった感じでしょうか。こんな状況なのにというか、こんな状況だからというか、恩を売るための準備、みたいなものですね」




つまり政治の道具として使われると……これだけ聞くとあまりおもしろくない話だし、日本に残ってレベル上げをしたほうが有意義な時間を過ごせるかもしれない。何か最もらしい理由をつけて断らないとな……



「……他の国の一番強い人も来るの?」

「鏡華?」

「えぇ、一番、が来るかは確約できませんが、弱い方は来ないでしょう」



先程まで話を聞いていただけの鏡華が口を開き、総理に質問をした。近藤さんも鏡華が喋ると思っていなかったようで不思議そうな顔をして驚いている。


「天馬、これはいい機会じゃない?」

「いい機会?」

「この問題は日本だけの問題じゃない、世界の問題。遅かれ早かれ他の国とも連携を取る日が来ると思う。今回はその最初の日。自己紹介しに行くって考えればいいんじゃない?」

「……そうだな。総理、今回の件、お引き受けします」

「ありがとうございます、詳細な日時などは追って相羽などに伝えさせます。今日はお時間いただきありがとうございました」



ソファから立ち上がり、二人に向かってお礼を言うと、部屋から出ていった。出ていく際に横顔が見えたが、安心しているようだった。恐らく鏡華だけでなく、総理にまで断ろうとしていたのがバレていたのかもしれない。あんなことを言われた時点で、鏡華にはバレているのが確定しているのだが……



「鏡華、」

「天馬も間違いじゃないと思う。強くなるのは大事。けど仲間を作るのも大事。すんなり上手くいくとも思わないけど、速いほうが何事も楽」



もはや心を読まれることがデフォルトになってきた今、あまり喋らなくても会話が成立するという奇妙な光景になっていた。相羽さんも近藤さんも、天馬が何を考えているのかはわからないため、あまり会話の内容についていけてないみたいだ



「まぁ、各国からの報告によれば、現在判明しているトッププレイヤーたちに性格がひどすぎる人はいないそうです。強いて言うならアメリカのトッププレイヤーが少し気難しい方、というくらいでしょうか」

「自由の国だから、色々な人がいるんでしょうね」



ハハハ、などと他人事のようになって話していたが………














「我々アメリカは、日本に対して宣戦布告する!!!」





マジですか

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