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和解、そして指導

「よし、今日はレベル上げに行こうか」

「おー」




朝ご飯も食べ、今日することの確認をしてすぐに家を出る。玄関の戸締まりもしっかり確認して……オートロックだったからいらなかった。テラスに出て、【空間跳躍】を使って鏡華と対策本部へと向かった。

俺達と近藤さんが東京に来たときと同じ光が今度は対策本部の正面玄関に降り注いだということで、詳しい事情を知らない人たちはかなり焦っていたが、状況を見に来た近藤さんによって誤解は解けた。



「おはよう、二人とも」

「おはようございます、近藤さん」「おはよう」

「一応聞くけど、今日の予定は?」

「二人でレベル上げですね。ちょっとした東京観光も兼ねてるんですけど、地理には全く詳しくないので適当に魔物がいそうなところを回るつもりです」

「そうだったか、実は二人に頼み事があったんだ」

「頼み事?」

「あぁ、東京に来てすぐ出会った集団がいただろう。あいつらのレベル上げに付き合ってほしいんだ」




あー、確かにいたな。いきなり襲いかかってきたやつ。いくらこの世界になって日が浅いとは言え、確かにレベルを上げとかないと危ない気はする。が、正直気は進まないな……こんなご時世だから気が立っているのは仕方ないとして、集団のリーダーをしているならもう少し落ち着いて判断してほしかったな



「どうする?鏡華」

「……前に話してくれた世界の混合の詳しいことは理解できてないけど、待ってくれるようなものじゃないのはわかる。ならいつまでもリーダーの役割の人が弱いままだとこの先困る人が出る」




確かに、鏡華の言う通りだ。鏡華に説明した手前、少し言いにくいのだが俺もあんまり世界の混合について理解しているわけじゃない。俺が鏡華に話したのは神久夜に聞いたことをそのまま話しただけだから。



「じゃあここで待ってるので、連れてきてもらってもいいですか?」

「ありがとう、少し待っててくれ」




近藤さんが走って本部の中へと入って、ものの10分ほどで派手髪を先頭に置いた集団を連れてきた。後ろの着いてきている多くの人は雰囲気が少しピリついているくらいで、この世界の状況なら仕方ないだろう。それはいいとして例の派手髪だ。他の人達とは違う雰囲気を纏っていた。こちらを睨んでいるようには見えるが、殺気は感じない……なんだ?




「紹介するよ、こちらは……」

甲斐鋼征かいこうせいだ。あんたらに言いたいことがある」



近藤さんに呼ばれた派手髪は、一歩前に出て名乗った。そして言いたいこととは、十中八九会った時のことだろう。



「言いたいこと?」

「……先日はすまなかった!!」

「え?」




腰を90度も曲げ、謝罪の言葉を口にしたのは耳を疑った。俺と鏡華は驚いているが、近藤さんを含む後ろの人達は微笑んでいた。そして近藤さん以外も、頭を下げた。



「焦っていたとは言え、短慮が過ぎた。不審な光の元に見知らぬ人がいたとは言え、少しでも視野を広げれば近藤さんがいた事には気付いたはずだった。自分の未熟を恥じるばかりだ」

「あ、あぁ。怪我はなかったし気にしないでください。むしろこちらこそ思いっきり気絶させてしまって申し訳ないです」

「いや、あれは仕方ない。むしろ簡単に倒してくれて感謝している。正直なところ、最高レベルのプレイヤーなんだとか言われて調子に乗っていた部分もあったからな」




それを言ったら、俺も気付かないところで調子に乗っているのかも……いや、鏡華にボコボコにされたしどっちかと言えば自信折れまくってるな

甲斐さんも後ろの人達も本気で反省しているみたいだ。第一印象からは想像はできなかったな。




「まぁこれからよろしくお願いします。俺は桜田天馬です。それでこちらは御上鏡華です。ちなみに甲斐さんを気絶させたのはこっちですね」

「天馬、一言多い。よろしく」

「桜田に御上か。甲斐”さん”は少し他人行儀がすぎるし、敬語も外してもらって構わない。むしろ外してくれ」

「わかった、あと俺のことは天馬でいいよ。名字は呼び慣れてなくて変な感じがする」

「天馬ね、よろしく頼む」




少しだけ距離を縮めることができ、固く握手を交わした。その後は後ろにいた人たちとも自己紹介などをして仲良くする。ちなみに他の人達は鏡華が甲斐を倒したのを知っていたからか、かなり人気があるみたいだ。




「それじゃあそろそろレベル上げに行こうか。甲斐、いつものレベル上げを見せてくれるか?俺と鏡華は後ろから見て、アドバイスをしたり危なくなったら助けに入る。近藤さんに皆のレベルアップに付き合ってくれと言われているからな」

「おう!よし皆、行くぞ」




甲斐を先頭に、グループで移動を開始する。正面玄関からそのまま南に進むと、まさかのゴブリンの集落があった。あまり大きくないのが救いで、ゴブリンの総数は20いるかいないかだろう。【鑑定】したところ、レベルも高くて5だったので手助けが必要ということもないだろう。




「じゃあ甲斐、とりあえずあの集落を潰す。一応撃ち漏らしはこっちでなんとかするが、目標は誰も怪我なくゴブリンの全滅だ。人数は少しだけ劣っているが、まぁ大丈夫だろう。頑張れ」

「任せろ!やるぞお前ら!」

『おぉぉぉぉぉぉ!!』

「はい減点」

『え?』



勢いよく突撃しようとしていたところに減点を加える。甲斐も含め、皆がきょとんとしている。まぁこれからやるぞって時に水を差されたらそうなるか



「天馬、減点て何が……?」

「戦い方だよ、アドバイスするって言ったろ?そうだな……今回の場合、ゴブリン達は幸いこちらに気付いていない。なのに大声を出して全員で突撃すると向こうに気付かれてせっかくのアドバンテージを失うだろ?そうだな……ここは数人が反対の方向に移動し、そこから奇襲をかける。その奇襲でゴブリンは少なからず混乱するはず、その隙を待機している本隊が攻める。今回は皆がどんなステータスをしていて、どういう戦いが得意なのかわからないから、こういう策でいくのはどうだ?」


「天馬……天才か!?俺達じゃそんなことミリも思いつかなかったぞ!よし、5人ほど逆方向に移動。芦原、向こうの指示は任せる。タイミングはそっちの判断に任せる。こちらでしっかり見ているから動きがあり次第こっちも動く」


『了解!』




甲斐に名前を呼ばれた芦原という人と、他に四人ほどがゴブリンらにバレないように遠回りをしながら本隊とは逆方向に移動する。移動するまでの間に残りの人達のステータスを見ておいた。知らないと今後一緒に戦うとなっても連携が取れなくなる。皆悪くはなかったが、甲斐は成長が楽しみなステータスをしていた。




名前:甲斐鋼征     レベル8

身体能力:50 魔力30 精神力50 運20 総合力200

スキル

鋼化 身体強化 拳術

固有スキル

鋼の後光

称号

【忍耐】の卵




レベルが低いだけで、この時点のステータスとしたら一級品と言えるだろう。身体能力なんてレベルが同じなら俺も鏡華も抜かれてしまう。あとは何と言っても固有スキルだ。《鋼の後光》、このスキルを持つものに感謝や敬いなどの気持ちを持っていると、《鋼化》の劣化版のようなステータスアップがあるらしい。ちなみに《鋼化》は身体能力が3割ほど上昇し、少しでも魔力を送り込んだ先が鋼のような体になるそうだ。今は戦いの前ということで流石に見せてもらうのはやめたが……。そして《鋼の後光》での上昇率は1割。これは数字だけ見ればしょぼいかもしれないが、将来性はすごいだろう。甲斐に良い感情を向けていれば、本来のステータス以上の力を出せる。まぁ少し懸念点もあるが、それは甲斐本人が気づくまで黙っていよう。



「天馬、やるみたいだよ」

「向こうのチームか……甲斐!準備を整えろ!」

「おう!よっしゃ皆!天馬が作戦考えてくれたんだ!これで負けてみろ?御上の地獄のシゴキが待ってるぞ!」

『おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』



勢い十分、覚悟バッチリ。「やっぱり甲斐は人の前に立つのが上手いな」と心のなかで思った。口には出さない。口に出していることがあるとすれば、鏡華さんが「私を出汁に使うな」という文句を言っているくらいか




『ギャァァァァァァァ!!』



甲斐が発破をかけた直後、集落の方からゴブリンの叫びが聞こえた。芦原たちが動いた証拠だ。

俺はすぐさま集落に視線を戻し、芦原たちの無事を確認する。見える範囲では倒れているゴブリンは3体。その少し集落に踏み込んだ位置で別のゴブリンと戦闘している。思ったよりも優勢みたいで、怪我を負う様子もない。



「甲斐さんや、あのままだと芦原さんに全部持ってかれますよ」

「まじか!グズグズしていられない!皆、突撃だァ!」

『オラァァァァァァ』




甲斐を先頭に、本隊がゴブリンたちの背後から襲いかかる。それにしてもよく叫ぶな、皆。

甲斐ら本隊が合流してからはものの2分で全滅できていた。



「……思ったより強いのかもな、皆」

「ゴブリンが弱いだけじゃない?」

「鏡華さん、辛辣っすね」

「おーい天馬!終わったぞ!」



鏡華と少しだけ感想を言い合っていたら、甲斐がこっちに走ってきていた。他の皆も、歩きながらではあるがこちらに戻ってきている。

全員が戻ってきたところで、天馬・鏡華さんによる今回の総評が始まった




「えーまず、正直言って驚いた。こんなに早く全滅できるとは思わなかったよ」

「おぉ、天馬が褒めた……俺達そんなすごいことしたか?」



甲斐たちには驚くようなことはなかったみたいで、俺の中での評価が低すぎたと少し反省した。

しかし鏡華はさきほど同様辛口で、芦原たちのチームで本隊が合流するまでにあと3体は倒せたと思っているそう。甲斐たちの本隊は、もう少しバラけて攻めても良かったのではないかと。今回は俺と鏡華がいたからあまり撃ち漏らしに気を使わなくても良かったが、ひと塊で攻めると思わないところで逃がしてしまうかもしれない。今自分たちはレベルを上げて強くなっているからあまり感じないが、レベルを上げてない人からしたら普通のゴブリンでも十分な脅威だ。



「この世界になったばかりの頃、皆怖かったでしょ、あんな魔物でも……」

『……。』



鏡華にも、ゴブリンを見て恐怖を感じた瞬間はもちろんある。今は少し刀を振るうだけでゴブリンを倒せるほど強くなったが、彼女は女子高生だ。こんな血が舞うような場所にいるべきではない。

同じようなことを思ったのか、甲斐たちの表情も暗い



「だから、あらゆる危険を考えて戦って。以上」

『はい!』




鏡華の静かな喝により、皆さっきよりも真剣な顔つきになった。今なら同じような状況に出くわしても、何も考えずに突撃、なんてことにはならないだろう。



「今後だけど、皆は今24人いる。それを4チームずつに分けようと思う。今の全員で攻撃というのも数的有利からの安全性があるだろうけど、レベル上げの効率で言ったらおそらくかなり悪い。俺たちの時と比較して考えた結果、レベルを上げるための……経験値にしようか。経験値がチームの皆に分散されている可能性が高い。もちろん分散と言っても、均等なのか貢献度によって違いが出るのかはわからないけど」


「なるほど、だから少人数に人数を絞って、分散されてもより経験値が手に入る用にするってことか」

「正解。一応言っとくけど、仲の良さでテームを組むなよ?もちろんコミュニケーションによるチームの連携は大事だけど、スキルなどによるお互いの相性を忘れたらだめだ」

「私と天馬の場合、私が前衛、天馬が後衛で状況によって前衛に加わるといった感じかな。自分の出来ない、苦手な部分をカバーできるスキルを持った人と組むと戦いやすいし生き残りやすいと思う」



俺と鏡華の説明に、周りの仲間を見渡したり、改めて自分のステータスを確認したりする動きがちらほら見える。

その後、甲斐の指示の元、前衛後衛に分けられ、レベルの同じ人達と組んでいた。チームを組んでしばらくはコミュニケーションを取り、自分たちに合った作戦などを考えていく。改めて、いい人たちだと思ったのは内緒だ




「じゃあ早速、チームごとにバラけてレベル上げに行ってもらう。甲斐、芦原のいるチームは自由に動いてくれ。そして、残りの2チームには俺と鏡華がサポートに入る。あまり差はないとは言え、この中ではレベルが低めだから、万が一のこともある」

「了解、最終的に合流とかはするか?」

「うーん、日が落ちる前に対策本部正面玄関前に合流、そこでその日の成果を報告し合って明日以降の予定も立てよう」

「よし、じゃあAチーム、早速行くぞ」

「Bチームも、って俺がリーダー?」




甲斐がAチーム(仮名)を率いて北の方へと進んでいくと、芦原のいるBチーム(仮名)は南に進んでいった。ちなみにBチームのリーダーは芦原で決まりだそうだ

そして残ったCチームには鏡華が付き西へ、Dチームには俺が着いて東へと向かった。



「ちなみに、今日の成果が一番ショボかったチームには鏡華の地獄の修行が待ってるよ」ボソッ



東の方へと進みながら、Dチームの皆にしか聞こえない声でそう言うと、顔を引き攣らせながらやる気を出していた。



鏡華さん、出汁に使ってすみません

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