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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

帝国奇譚

幸せルートに行きたい皇帝と復讐を望む悪女

作者: 千鶴
掲載日:2021/06/10

転生ものです。初めての投稿なので色々齟齬がありますが大目に見てください。離婚された方がやり直しに奔走するのではなく、ざまあされた方が頑張ってほしいと思い書きました。よろしくお願いします

死を目前にした猛獣のような甲高い咆哮が、人々の鼓膜を震わせた。


 手足に重い枷を嵌められながらも、女は鎌を振り上げた死神から逃れようと暴れ回る。

 

 屈強な男たちがその両脇を抱え、力任せに引きずり上げた。


 三十段もの階段を上りきると、そこには代々王家の処刑人を世襲してきた男が二人、仕来り通り長刀を両手で構え、罪人を待っていた。


 女が姿を現した瞬間、広場を埋め尽くした群衆の高揚した声が、処刑台を震わせた。

 

 一年前、彼らはその女に熱狂的な賛辞を送っていたというのに。


 女は今や、国王を騙した稀代の悪女だった。


 ――私は、ただ幸せになりたかっただけだ。


 ただ愛する人と、平和に暮らしたかっただけなのに。

 それが、なぜ……。


 前王妃を国外追放に決めたのは、女との愛を選んだ国王だった。

 

 前王妃の一族を投獄するよう唆したのは、女を養女にしたジルブレッド伯爵だった。


 なぜ、私がこんなことに――。

 廃后にされた元王妃の復讐の標的にされただけなのに。


 このままでは、死にきれない。


 私の死を嘲笑う者たちを、許しておけない。


 曇天に振り上げられた長刀の下、命の灯が消えるその瞬間まで、私を陥れた者たちへの呪詛を――。


 必ず蘇って、復讐を。


 王都に初雪が舞ったその日。

 

 稀代の悪女――国王を謀った女、ゾーイ・グラード・ジルブレッド伯爵令嬢は、国中の怨嗟を浴びながら、二十年の生涯を終えた。

















 「……神聖なる神の代理人である大神官の御前にて、王妃ソマリエとの婚姻破棄を奏上し、離婚を申請いたします」


 離婚裁判の翌朝。

 

 夢を媒介にして、流れ込んでくる膨大な記憶を思い出した。


 ――ああ、またここから始まるのか。


 底のない荒れた海に突き落とされ、藻掻き苦しんだかのような疲労感。

 

 体中の空気が抜けるかのような深いため息をつき、両手で顔を覆った。


 まだ侍従は来ていない。


 起床までの間に、ひっくり返されたおもちゃ箱のような記憶を整理できるだろう。


 最初の生では、この後ソマリエは隣国の王太子と再婚し、二男三女を儲けて幸せに暮らした。


 一方、愛妾ゾーイと再婚した私は――


 彼女の度重なる不正と、エスカレートしていく粛清を庇いきれなくなり、最終的に彼女は悪女として処刑された。


 何が起きたのか、未だに分からない。


 だが、ゾーイの処刑を見届けた翌日、目が覚めると――離婚裁判の翌日に戻っていた。


 大神官を訪ねて離婚を撤回し、安堵した直後。


 ゾーイは王妃を暗殺した。



 三度目は――。


 王妃による愛妾暗殺計画が発覚し、裁判にかけられた後だった。


 王族の罪人が収容される「嘆きの塔」。


 そこへ向かった時には、すでに彼女は薬死していた。


 違和感を抱いた私は、密かに調査を進めた。


 そしてその事件が冤罪であることを突き止めた。


 ゾーイはどの生でも処刑されている。


 だが、その過程は毎回異なっていた。



 ――ならば、彼女もまた記憶を持っている可能性が高い。


 今生では、ソマリエはまだ生きている。


 だが選択を誤れば、再び殺されるだろう。


 かといって、今の段階でゾーイを処罰することもできない。


 ならば――まだ綻びが表に出ていない今、説得するしかない。


 彼女の恨みを晴らし、彼女への恨みも断ち切るために。


 そして、自分自身の罪と向き合うために。


 国王は侍従を呼び、支度を命じた。


 今度こそ、この繰り返しを終わらせる。


 未来を信じ、王は愛妾の待つ奥宮へと向かった。



 








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