『大和撫子』
「『大和撫子』とか、態度や表情が穏やかで、
容姿端麗、清楚で言葉使いが美しく、
男性を立てるような女が、
一番、素晴らしいって言うけどよぉ…。」
と、お兄ちゃんは、私に言った。
「『大和撫子』は…お兄ちゃんには…ダメなの…?」
と、おずおずと私は、
言葉の続きを何とか更に聞き出そうとした…。
「いや。
ダメっていうか。
そらぁ美人だったら、もちろん良いんだけどな。」
と、ぽりぽりと鼻の頭を掻きながら、
「ちょっとな…。その…。
オレはよぉ…。
その…清楚とか…男性を立てるとかよぉ…。
もし…ホントにやってくれたら…嬉しいけどよぉ…。」
と、お兄ちゃんの言葉は尚も歯切れが悪い。
それは、私のせいなんだろうなって…。
私は直感した…。
ずっと…昔から…、
お父さんと、お母さんに、
「女の子なんだから、いつも穏やかで、おしとやかに、
男の子たちを立てる様な優しい子になりなさい。」
と、教わっていた…。
私は、それを、できるだけ守ろうとした、
だって、お父さんと、お母さんが、
「そういう、穏やかな女の子に……
『大和撫子』になったら…きっと…お兄ちゃんも…喜んでくれるから。」
と、いつも私に言い聞かせてくれていたからだ。
彼は、本当のお兄ちゃんじゃなくて、
私の家の近所の3つ上の男の子だ…。
『下ネタ』ばかり言う困った人だけど、
それは、私たちを明るくしてくれるために、
ワザと言ってくれる優しい『下ネタ』で…。
この想いを…お兄ちゃんに言えなくて…。
だから、私は、それを、お父さんとお母さんに相談した。
そしたら、お父さんとお母さんは、
『じゃあ、もっと、おしとやかになって、
もっと『大和撫子』の様になりなさい。
そうすれば、きっと、お兄ちゃんも…。』
と、私を応援してくれたんだ…。
だから、私は、ずっと、
穏やかに、おしとやかに、
お兄ちゃんを立てて来た。
けど、
「やっぱしな…。その…。
あんまし…気遣って貰い過ぎると…。
こっちが…そわそわして落ち着かないっていうかよう…。
だから…『ツンデレ』とかの方が…オレは良くてな…。」
と、申し訳なさそうに、お兄ちゃんは呟いた…。
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5年後…。
「ホント!
アンタってば、年上のクセに、バカなんだから!」
「全く…オマエは…。
ま…そういう元気なとこが…良いんだけどさぁ。」
私は、『大和撫子』の殻を、
すっかり脱いでいた。
このダメダメで大好きな奴の為に…。