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王立魔法研究所

「兄さんを早く治せっ‼」


 薄暗い拷問室は古い魔道ランプで照らされ、ひんやりとしていた。両手両足を拷問台の枷に括りつけられたシヴァが叫ぶ。端正な顔を歪め感情をあらわにするこんな彼を、前世では見た事がなかった。

 私はカーライルに駆け寄り、完全回復(パーフェクトヒール)を惜しみなくかける。手早く完璧に治療を終えてやっと、少年時代の彼らがこんなところにいる事に戸惑う。


「兄さん? 兄弟なの?」


 意外な事実に思わず呟いてしまうが、答えたのはシヴァではなかった。


「左様、コイツらは兄弟なんですよ、聖女殿」


 癒してもなお、ぐったりしているカーライルの髪を残虐な笑みを浮かべたアロンザが乱暴に掴む。


「エドガー・カーライル・シェラード。14歳。シェラード伯爵の嫡男だったが、家督を叔父に奪われ、魔力の高さから研究所へと売られた。そっちはオスカー・ルイ・シェラード。12歳。コイツの弟で、やはり高魔力。美しい兄弟なので惜しいですが、お互いに傷つけられる所を見せ合って、高魔力者が本来持っている潜在能力を引き出そうとしているのです。能力が引き出された後に魔核を取り出す。いい方法でしょう?」


「何て悪趣味なの。反吐が出るわ」


 あまりの事に、思わず本音が出てしまう。アロンザが一瞬驚いた目をするが、すぐに獲物を見据える目になる。


「お前……隷属していないな? ハンスは何をやっているのだ。まあいい……」


 アロンザが手をかざすと、私は衝撃波で壁まで吹き飛んだ。頭を強くぶつけて立ち眩む。


「お前は体内から魔核を取ったら用済みだ。今から切り刻んでやる」


 アロンザが放った風の刃は速く、私の身体能力では避けられない。私の左腕は、いとも容易く切り取られる。凄まじい痛みに顔を歪め、切られた手首を握り止血する。


(このままではいけない)


「くっ……動くなっ‼」


 アロンザが一瞬、動きを止めて、狡猾な笑みを浮かべる。


「何だ今のは? 魅了か? それにしても重いな。しかし、残念だが私のつけている魔道具は国宝でね。どんなに強い精神魔法でも、これをつけていればかからない。お前、研究しがいがありそうだ」


 アロンザは左手の魔道具を見せて(わら)い、更に私を切り刻もうと手を上げる。私はそれに対峙し、体内の魔力を全て集中させアロンザを見据える。魔道具を壊す為には、私の生命力をフルに使った洗脳魅了が必要だ。それをすれば私の体は再び使い物にならなくなる。


(私の命に代えても、カーライルを助けてみせるわ……)


 自分でもここまで強く人を守ろうという気持ちが湧いてくるのを不思議に思う。

 向かってきた風の刃が、突然展開された防護魔法で弾かれる。驚いたアロンザと私が魔力が放たれた方へと振り向く。


「彼女に、手を出すな……」


 鎖の音をさせて、エドガーがこちらを向く。


「庇うのですか? エドガー君。しかし、君に何ができると……お前……まさか……!」


 エドガーの瞳は黄金に光り、アロンザは完全に動きを止める。


「僕たちを解放して、お前は死ね」


 どれだけ強い洗脳を使ったのだろうか、アロンザのつけていた魔道具が派手な音を立てて壊れる。

 虚ろな目をしたアロンザは完全に洗脳にかかり、エドガーとオスカーの枷を外す。私は驚きつつもその隙に左手を回復させる。

 アロンザはエドガーとオスカーを解き放つと、自分の首に手を向ける。たった今その手から放たれる風の斬撃の威力を受けたばかりなので、この後どうなるか容易に想像がついた。


「君達は、見るな」


 エドガーは私とオスカーを抱いて自分はアロンザの方を向く。彼の優しさを感じるが、同時に守られてばかりは嫌だと思う。


(私が、貴方を守りたい)


「貴方もよ!」


 私はエドガーの目に手を当てる。エドガーは一瞬驚くが、振り払う事はしないでくれた。


 アロンザの首が転がっていく音がし、周囲に血しぶきが舞う。


 エドガーとオスカーは振り返らずに拷問室を出ようとするが、私は思い立って、エドガーの抉られた目と私の切られた腕、そして壊れた魔道具とアロンザの遺体を隠遁魔法で極力見ない様にして、カーライルから引き継いだ異空間収納へと収める。拷問部屋に浄化の魔法をかけ、血痕も魔力行使跡も消去する。

 前世、間者として立ち回っていた時の知識が役立つ。これで追手が来ても私たちの痕跡を探す事は困難になるはずだ。


「早く‼」


 エドガーとオスカーに促され、私達は研究所を後にし、神殿へと向かった。



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