表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

木漏れ日の中で

 研究所の一室の寝台で、私は目覚めた。

 部屋の壁の姿見を見ると、エドガーが言った通り、真っ白な寝衣(ナイトドレス)を着た16歳の私になっていた。健康そのものだが筋力がほとんどない身体は、起き上がるだけで大地震に揺られたような目眩がする。


 研究所の白い無機質な廊下を、壁にもたれながらやっとのことで歩く。神殿の中庭と研究所の中庭の作りは同じで、カーライルが所長になった後に大々的に作り替えたのだと気付いた。

 研究所に不必要な中庭は、彼にとって唯一の憩いの場だったということが、今ならわかる。

 廊下から中庭の回廊まで体を引きずるようにすすみ、回廊の角で息を整え、自身を励ます。

 彼に会いたい気持ちが、私を動かしていた。


(きっと、あの場所までいけば会えるわ……)


 動き慣れない体は歩く度に貧血のように目の前が暗くなる。


 もう少し。


 もう少し。


 私はやっと、中庭の木の下に置かれた白い揺れ長椅子(スイングチェアー)を見つける。


 力を使い果たし、そのまま長椅子に横たわる。午后(ごご)の暖かな熱をはらんだ風が木を揺らしている。ひだまりは私の冷えた体を優しく包んでくれる。

 休むうちに眠ってしまったようだ。梢の揺らぐ音がして目が覚め、やわらかな木漏れ日が顔にかかった。


 いつの間にか、側に背の高い男が立っている。


 白いシャツにベージュ色の脚衣(トラウザーズ)とシングルの襟付きベスト。ベストのボタンホールから左のポケットに懐中時計を仕舞った、こういう格好もよく似合う。少年の頃は細かったが、胸板も厚く、背が高くしなやかで、大人になった彼はとても素敵だなと思う。


 慈愛に満ちた漆黒の瞳が真銀(ミスリル)縁の眼鏡を通して私を見守っている。


 沢山、話したい事があるのに、胸が苦しく涙が溢れて言葉が出てこない。


 何もかもわかっているように、カーライルは微笑み、そっと頬を撫でてくれる。




「おかえり」





 この声がずっと聞きたかった。






「ただいま」






 私は彼の手を取り、微笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ