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恋とは甘いものかしら?  作者: 遠野翔
5/10


 3日間も自室に引きこもって過ごした結果。


 アンリお兄様が社交パーティーでお姉様をエスコートしていた事実と、2人が婚約しているという事実は必ずしもイコールではないという結論に至って、私は部屋を出ることにした。


 3日ぶりに姿を現した私に、サントスが少し驚いた様子で、「大丈夫ですか?」と珍しく声をかけてきたわ。

 さすがに家族の食事の場には行く気はしなくて、庭に出ることにした。


 すると、そこにはお姉様の姿があった。…正直、まだ会いたくなかったわ。

 一瞬たじろいだけれど、私の頭の中には「エスコートしていただけで、婚約はしていない」という可能性があって、仮に婚約していても、まだ奥の手はあるの。だから、大丈夫だわ。


 だから、ここは恐れず、思い切って声をかけることにした。


「お姉様」

「…カティア!」


 声をかけると、お姉様はこちらに走り寄ってきて、私を抱きしめようとした。

 けれど、私は半歩後ろに下がってそれを避けた。お姉様はそれでも、少しためらいながら、手を握った。


 そして開口一番こういったのだ。


「カティア、ごめんなさい」


 お姉様は、何を謝っているの?アンリお兄様にエスコートされたこと?2人で踊ったこと?それとも、婚約したこと?謝れば、済むと思っているの?

 私はきっと、無意識のうちに、お姉様を睨みつけていたと思う。

 お姉様の目が、悲しみに染まるのがわかったもの。


「何を謝っているの?」

「…あの夜、社交パーティーのことよ」

「だったら、教えて。アンリお兄様がお姉様なんかのエスコートをしていたの?」

「それは」


 言葉では謝ってくるくせに、誠意を見せないお姉様にイライラした。

 言葉に詰まる姿を見て、まるでアンリお兄様との間に2人だけの秘密があるようで、許せなかったの。


「いいわ、別に。社交パーティーのエスコートくらい」

「カティア、」

「エスコートだけよね?でも、それだけでしょ?」


 私は、祈るようにお姉様を見つめた。

 見方によっては、脅しているように見えるのかもしれないわね。


 今まで、お姉様は気が弱くて、私が少し睨みつけたり、怒りをぶつければ、私が望むようにしてくれたわ。

 怒れば、謝る。おもちゃを欲しがれば、譲ってくれる。自慢すれば、褒めてくれる。


 …だから、イライラしたの。

 困ったように視線を足元に落とすお姉様に、「婚約なんてしていない」という言葉をくれないお姉様に。






「…婚約を申し込まれて」

「…え?」


 鉛でも飲み込んだかのように喉の奥が詰まって行く感覚がした。

 体の中から、細胞が分解されて行くような、頭の中が真っ白になっていく。





「う、そよ…どうして、お姉様なの?」


 緊張からか、口の中の唾液が全くなくなって、嫌な粘つきを感じた。

 まるで、見えない手に首を絞められているかのように、喉から声が出ない。





 信じられなくて、信じたくなくて。

 なぜ、お姉様なの?


「返事は、したの?」

「え?」

「アンリお兄様に、返事はしたの?お姉様」

「…いいえ、まだ。カティア。でも、あのね」





 …ごめんね、お姉様。





「私、アンリお兄様を愛してるの」

「…っ」

「お姉様、わかっていたわよね?私はアンリお兄様じゃないとダメなの、ずっと好きだったの。どうしようもなく好きになってしまったの。…もし、アンリお兄様が他の誰かのものになるなら、死んでしまうかも…」

「…っカティア、そこまで…」

「そうよ、私はそれほど、アンリお兄様を愛してるの」


 


 恋は、甘くて、苦しい。

 私のアンリお兄様への愛情は、最初は小さな蕾のような、可愛らしいものだったわ。

 だけど、長い時間をかけて、私はその蕾を大きく育てたの。大切に、大切に…。

 

 優しい姉を脅してでも、この恋は、渡せないわ。



次回、回想編に入ります。

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