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恋とは甘いものかしら?  作者: 遠野翔
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 お姉様の姿が見えなくなると、アンリお兄様は、突然その場に倒れこんだ。


 「お兄様っ、」


 慌てて駆け寄る。

 お兄様は、膝から崩れ落ちて、そのまま仰向けに倒れた。


 私も、地面に膝をつき、改めてお兄様の顔をそっと見遣る。


 普段ならばきらきらと輝くシルクのような髪は艶を失い、顔色もひどかった。

 エメラルドグリーンの瞳は、まっすぐに虚空を見つめていた。


「…アンリお兄様」


「…こんなこと、するつもりは、なかった。…シシィが、他の男と夫婦になろうとも、友人として、近くで見守ることができると思っていたんだ」


 それは、いつものアンリお兄様の声色だった。

 柔らかくて、落ち着く。そんなことに、どうしようもないくらいホッとした。



「…でも、カティアが僕に想いを寄せているとわかってから、シシィは僕を避けるようになってね。彼女は、僕とカティアが一緒にいると嬉しそうで、…思い知った。シシィにとって、僕は、いてもいなくても良い存在なんだって。ならばいっそのこと、恨まれてしまえ、と」


「僕は、本当に馬鹿だね。愛した人も、大切な友人も失ってしまった」


 心が、痛い。


「そして、カティア。…君も、傷つけてしまった。」


 お兄様は、私の髪をそっと撫でる。

 ボロボロになりながら、私のために目を細める姿が、痛々しくて見ていられなかった。


 確かに、アンリお兄様は、お姉様とサントスの仲を引き裂こうとした。

 それは、悪いことだったわ。

 …でも、本当に、ふたりの仲を壊してしまう気も、なかった。


 ”…終わらせてくれ”


 アンリお兄様は、叶わない恋をしていた。

 きっと、それだけなの。叶わない恋なら、どこかで、終わらせなければいけない。

 たとえ、自分の気持ちに嘘をついても、


 私は、お兄様の手をそっと握った。

 ”アンリお兄様。

 私ね、お兄様の奥さんになりたくて、たくさんお勉強したの。

 お兄様と、両思いになって、結婚することが、ずっと夢だったの。

 お姉様と全然違って性格が荒っぽいから、お兄様を癒してはあげられないかもしれないけれど、力になりたいの。”



 もう、伝えられない言葉を、何度も胸の中で繰り返した。



 でもね、私ったら、私ではない誰かを思って咽び泣くアンリお兄様を、変わらず愛しいと感じてしまうの。これは、おかしいことなのかしら?


 たとえ、このカティアのために泣いてくれなくても、私は、その涙を止めて差し上げたいって強く思ったわ。

 これ以上、お兄様に何も失わせやしない。何より、私がこの恋をまだ終わらせたくないのだから。



「…お兄様、泣かないで。カティアが、ずっとおそばにいますわ」




最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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