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1.彼女との出会い


ようやく第1話です…

 


 5限の日本地史学Aの講義が終わって帰路に着く。

 今日はバイトも無いので気楽なものだ。


 大学から家までは自転車で5分。

 2ヶ月も通っているので、もう道も覚えた。


 アパートに着き、誰もいない自室の鍵を開ける。

 陽が落ちるにはまだ早いが、既に部屋の中は薄暗かった。




 簡単な部屋の掃除を済ませ、愛用のVRギアを手にベッドに横になる。

 頭に被って、もう何度押したかわからない起動ボタンを押す。


 すぐに現実(こちら)での体の感覚が消え、一瞬の浮遊感の後、いつもの殺風景な小部屋に通される。



『おっはよーございますなのにゃ!!』


 耳に痛い甲高い声と共に、猫耳メイドのサポートAlが現れた。

 何とは言わないが相変わらずデカい。しかもメイド服がそれを強調するようなやつだからなおさら目立つ。

 世の男性が好きそうな要素全部載せだけど、属性盛りすぎで胃もたれしそうだ。そしてことごとく俺の趣味と合わない。


『相変わらずご主人様はリアクション薄いのにゃ?メイにゃんそんなに魅力…ない…?』


 上目遣いでこちらをうかがうAIメイドを見ながら、運営に送るサポートAIランダム制の廃止レポの内容を考える。


『むぅ~…せめて何か言ったらどうにゃ!!』

「早くログボと今日のミッション出してくれ。」


 AIが不機嫌そうにプレゼントBOXを差し出す。

 今日のログボはゲーム内通貨2000S(スター)か…


『デイリーミッションは【ペア戦で50位以上】にゃ!残存チームが50組以上の時に抜けると、最終順位が50位以内でもカウントされないから要注意にゃ。』

「マップ指定はあるのか?」

『指定なしにゃ。通常戦闘モードならどのマップでもいいにゃ。』

「わかった。じゃあゲームに入れてくれ。」


 事務的な返答だけとりあえず返しておく。


『ほ~んと、ご主人様はつれないにゃあ…』


 AIの嘆き?を聞きながら、俺はまた別の空間に旅立った。




 次に気がついたのは、いつものショッピングセンター、通称"ログインモール"の中央広場の中だ。

 特に待ち合わせも買い物の予定もないので、モールを出ていつもの酒場へ向かう。モールは人が多くて苦手なのだ。


 モールを出て、大通りを少し歩いて路地へ入る。

 しばらく進めば昨日も来た酒場へ到着だ。


 入り口の扉を開け中へ入る。店の雰囲気には場違いな、明るい音色のベルが俺の来店を歓迎した。



 いつものカウンター席に座り、カウンターをタップしてメニュー表を呼び出し、いつもの日替わり果実ジュースを選択する。席についたら試合の前にまず注文。それがここの(マナー)だ。


 注文が終わり、カウンターの奥でマスターが準備に取りかかる。今日はパイナップルのようだ。無愛想に差し出されたグラスを受け取り代金を払う。


 グラスを煽って一気に飲み干した。酸味と甘味が程よく混ざりあって喉をかけ降りる。政府の方針のせいで未成年はVRでも酒を飲めないが、これはこれで悪くない。


 空になったグラスを返し、ホーム画面から試合モードを選択する。

 まずは…デイリーミッションあるし、久しぶりにペア戦にするか。マップはまぁランダムでいいだろ。


 モードを選択し、マッチ開始を押した。




 気がつくと、俺はジャングルの中に立っていた。

 まぁ本物のジャングルほど鬱蒼としてはいないのだが。

 木々の向こうには、石で出来たピラミッドがそびえている。名前が出てこないが、南米の世界遺産になってる遺跡みたいな場所だ。


「アマゾンかぁ…」


 あまり得意ではないマップにあたってしまい、思わずぼやいてしまう。

 あとの問題はペアを組む相手なわけだが…


【"ジゼル"さんが入室しました。】


 ペア相手の入室を告げるメッセージが現れ、俺のHPゲージの下にもう一本ゲージが追加される。

 マップを開くと、ジゼルというプレイヤーは、ここから見えるピラミッドのすぐ近くにいるらしい。

 せめてペアの相手くらい、まともな人でありますように…そんなことを考えながら、俺はピラミッドへ向けて歩き出した。




 茂みをかき分け、ピラミッドの根元にたどり着いた。

 既に多くのプレイヤーが周囲に集まっている。


 俺のペアの人は…っと、どうやらすぐそばの建物跡?みたいなとこにいるらしい。


 崩れた石壁の間を抜けて建物跡に入った。

 どの部屋も屋根が無くなり、日光が直接降り注いでいる。

 一番広い部屋の、真ん中に残された石作りのテーブルに、暗緑色のフードつきコートを被った、小柄なプレイヤーが腰掛けている。


 フードの端からわずかに見えた長い髪からして、どうやら女性のようだ。

 彼女?の頭の上には、味方を示す水色のマーカーが表示されている。


「えっと…ジゼルさんですか?」


 俺が声をかけると、フードの頭が僅かに動きこちらを向いた。目深に被ったフードのせいで、未だに顔は見ることが出来ない。

 女子プレイヤーは粘着されることも多いし、大変なんだろうな。


「Juneさんであってますか…?」


 答える代わりに、彼女が逆に聞いてきた。


「あっ、はい。Juneです。よろしくお願いします。」


 少し慌てながら俺がそう言うと、彼女-ジゼルは小さく頷きまたうつむいた。


「あの…!えっと、どこに降りましょう?」

「Juneさんにお任せします…」


 小さいが、透き通った彼女の声。

 なぜだろう。どことなくその声に懐かしさを感じた。



【搭乗場所へ集合してください】


 唐突に表示されるシステムメッセージ。

 まもなく試合開始のようだ。


 スッとジゼルがテーブルから飛び降りた。


「じゃあ、行きましょうか。」


 地に降りた彼女は、俺が思った以上に小柄だった。




 彼女と共に、ピラミッドの隣にある広場に向かう。

 プレイヤーの群れの向こうには、いくつもの回転するプロペラが見え、そこから巻き起こる風がジャングルの木々を激しく揺らしていた。


「どこでもいいとのことなので、俺がいつも行くところにしようと思ってるんですけど、本当に大丈夫ですか?」


 いくつかある搭乗待ちの列の1つに並びながら確認する。

 ジゼルが小さくコクりと頷いたので、俺は乗り込む機体の行き先を馴染みの場所に設定した。



 列はどんどん短くなり、ついに俺たちの番になった。

 NPC搭乗員の案内で、大きく開いた尾部の入り口からアメリカ海兵隊の輸送機、MV-22 オスプレイへ乗り込む。


 続いてジゼルが乗り込み、俺の隣へ座る。

 女子と並んで座る機会なんて久しくなかった身としては、少しばかり緊張で体が強ばっても仕方ないと思う。


 シートベルトを締める頃、後部の入り口が閉じてエンジンの回転数が上がり始める。

 すぐに機体が地面を離れ、垂直に空へと上がった。

 まぁ、上がった感覚があるのは乗ってる俺たちだけで、外の人たちには入り口が閉じたことすら見えてないのだが。


 離陸した機体は、誰に見送られることもなく、向きを変えてジャングルの上を飛んでいく。






作者のリアルが少し忙しいので更新はしばらくスローペースになりそうです。

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