天羽家の新しい住人(2)
短いけど日刊ランキングに乗っていたのでうれしくて投稿。
近々話をまとめるかもしれない。
食卓に着いた僕らは、とりあえず今後の方針について話すことにした。と言うのも、シャーロットのこれからの行動によって準備する物も変わってきてしまう。
「今日の学校はどうだった?」
「楽しかったわ。これが日本の青春と言うものなのね。それに、友達もできたわ!」
うれしそうに笑いながら話す彼女は、そのままカワハギの肝をまるまるぱくりと食べ、うえ、と吐き出した。
「これ、とても苦いわ! ムツキ、これは食べられるところじゃないでしょう?」
「カワハギの肝は醤油に溶かして食べるんだよ」
「醤油に入れるのはワサビだけではないのね」
「イギリスの日本料理店に行ったときに、そのまま食べて泣いてたものね、シャーロット」
「キサラギ!? その時に誰にも言わないって約束したじゃない!!」
「あはは、付け合せはいろいろいるよ。マヨネーズを溶かす人とか、そもそも刺身を醤油じゃなくてポン酢で食べる人とか。それにしても箸の使い方上手だね。私はワサビを溶かす派~」
「それは行儀が悪いからやめなさい如月」
箸を振り回してはしゃぐ如月に注意を飛ばしておく。こいつはうっかり何をしでかすのかわからないのだ。この前も不注意で庭にある洗濯竿を折りやがった。サマーソルトをやってみたかっただけと言っていたが、本当にできたのだろうか。とりあえず洗濯竿が折れたということは足は届いたのだろうが、僕はその現場を目撃していないので真偽のほどはわからない。お兄ちゃん妹がそんなに武闘派だったなんて聞いてないよ。
ふとシャーロットの手元を見てみると、箸を上手に使う綺麗な指先があった。本当はスプーンやフォークを出すべきで、配慮に欠けているかなぁ、なんて考えていたが、杞憂だったようだ。むしろ彼女の箸さばきは、よっぽど箸を使うのが下手くそな日本人よりもきれいなモノだった。
「箸、使えるんだ。外国人はまずこれに苦労するって聞いたけど。練習したの?」
「イギリスにいるときから食事は箸でしていたわ」
誇らしげに胸を張る彼女。日本での生活が充実しているようで何よりだ。いつ日本に来ても大丈夫なように練習に練習を重ねたとのこと。シャーロットを見ていて思うのだが、最近の日本人よりも、日本大好きな外国人の方が日本を愛しているんだなぁ。愛国心、というものが日本人は薄いのだろうか。まぁ、僕もそういうそういう愛国心の薄い日本人なんだろうけど。政治の話題とか、あまりしないし。
とりあえず、当面の心配事はなくなったのだし、あとは生活用品を買いに街中まで連れてって言ってあげるだけでいいし、僕の小遣いが少なくならなさそうで良かった。
しんなことを考えていると、少し気まずそうにシャーロットが口を開いた。
「あのね、ムツキ……」
そう言ってみあげてくるシャーロット。僕は最後の刺身をぱくりと口に放り込んだ後で、食器を持って立ち上がったので、妹よりもさらに背の高いシャーロットを僕が立っていて彼女が椅子に座っているという限定的な条件のもとでのみ見下ろすことになる。
綺麗系銀髪美少女の彼女に気まずそうに上目づかいをさせていると、なんだかいけないことをしているような気分になる。
とりあえず重ねた食器や箸をテーブルにもう一度置き、椅子に座って話を聞く体制になる。順風満帆だと思っていた彼女の留学生活だが、何か問題点があるらしい。クソ親父からも言われているし、同居人となった彼女の力になるのはやぶさかではない。こういうついつい世話を焼いてしまう性格が、女子力が高いやら、やたらと迷子の小さな子にたかられるのだろうと苦笑しながら返事をした。
「どうしたのシャーロット。何か悩み事でもあるの?」
「えっとね、ムツキ。私、今日学校からでる最後のバスに乗ってきたじゃない?」
「まぁ、今日帰りに乗ってきたバスならその時間帯につくだろうね」
「それで部活を見学に行ってきたからこの時間になってしまったのだけれど……」
「えーと、つまり。部活に入りたいってこと?」
そう尋ねるとおずおずと小さく一回首を縦に振る。つまりはイエスということだ。
「べつに、そんなこといちいち相談しなくてもいいのに」
「でも、飲み物の準備とかなら自分で出来るけど、着替えとか、部活の道具だって……、こっちにはもってきていないし、その、ショップにも案内してもらわないといけないし……」
「一人も二人も変わんないよ。如月だって部活やってるし」
「そうなの?」
「あれ、如月から聞いてない? ちょっと前に一回だけ全国にでて有名になったんだよ? まぁ、一回戦負けだったからそんなに有名じゃないけどね。あ、イギリスじゃ日本の片田舎のことなんて知りようがないか」
「迷惑じゃない?」
「全然。飲み物の準備と、どうせ学校遠いんだし、おなかもすくだろうからお弁当も作ろうか? あ、まずは道具をそろえなきゃね」
迷惑じゃない、どころか大歓迎である。シャーロットは新しい交友ができるし、僕には自由な時間ができる。正直、いくらシャーロットが気さくで話しやすいとはいっても、出会って一週間もたっていない同年代の女性と一つ屋根の下で暮らすのはとてもつらい。あ、これはシャーロットには内緒で。
「ムツキ……」
喜びからか頬を上気させてこちらを見つめてくるシャーロット。
「やっぱり、ムツキはいいお嫁さんになるわ」
台無しになった。