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銀髪留学生、襲来

襲来とか言いつつ、まだなーんも進んでないという

 六限目の授業までをこなし、山奥にある学校の生徒玄関前まで来てくれる路線バスにのり、帰路についた。一番早いバスに乗ったにもかかわらず、家までは一時間ちょっとの道のりなので家につくのは四時半ぐらいだ。


 いつもは部活のある妹よりは早く家につくので鞄から家の鍵を取り出していたのだが、今日はどうやらいつもと違うらしかった。


 家の前にはタコさんマークでおなじみの引っ越し業者のトラックが一台とまっていて、同じく妙にリアルなタコが描かれた作業服を着ている業者さんが忙しなく荷物を運んでいた。


 え、何事?


 とりあえず、珍しくこんな時間に制服姿で帰宅していて、業者さんのお手伝いをしている妹に話しかけてみる。


 「おい妹よ。これは何事か」

 「あ、お兄ちゃんお帰り」

 「ただいま。で、これは? 何で引っ越し業者が来てんの?」

 「あー、お兄ちゃんには教えて無かったのか~」

 「え、なになにその反応。言ってみ、お兄ちゃんに隠してること全部言ってみ?」

 「うちでホームステイやるんだよ」

 「は?」


 ホームステイ。外国人留学生などが、現地の一般家庭に寄宿(してその国の一般的な生活を体験)すること。

 つまり、外国の人がうちで一定期間生活する。はぁ?


 「は? うちで?」

 「そう」

 「誰が来るの?」

 「おとーさんの職場の取引相手の重役の娘さん」

 「なんで?」

 「その子が日本の文化に興味があるんだってさ。お父さんから聞いた」

 「何でクソ親父は許可を出したんだ?」

 「なんでもホームステイさせてくれたら好条件で提携を結んでくれるとかなんとか」

 「あのワーカーホーリックめっ!! 抗議してやる」


 ポケットからスマートフォンを取り出し電話を掛ける。相手はもちろんクソ親父。

 向こうは朝五時だというのにワンコールで出やがった。


 「おお、どしたの睦月ちゃん」

 「死ねクソ親父」

 「いきなりきついねぇ。お父さんちょっと興奮しちゃう」

 「チッ」

 「父に向かって舌打ちしましたよこの息子」

 「禿げろ」

 「やめて! お父さんの頭皮をいじめないで! ……で、何の用? 睦月ちゃんが高い国際電話をかけてくるなんて珍しい」

 「料金は全部そっち持ちだから大丈夫」

 「えっ」

 「で、如月から聞いたけど、ホームステイって何」

 「じゃあ知ってるでしょ? 取引相手の重役の娘さん」

 「なぁ、うちで家事やってるの誰か知ってる?」

 「そりゃぁ、如月ちゃんができる訳ないし、睦月ちゃん」

 「ちゃんをつけるな。つまり僕の負担が増えるという認識でOK?」

 「大丈夫大丈夫、食事も洗濯も、二人も三人も変わらないって!」


 こいつめ、実際にやると結構大変なんだぞ、家事って。健康に悪いから、と自炊するように言われ、その条件として贈られた生活費の残りはすべて僕が使ってもいいというおまけ・・・がなければ絶対にこんなことはやらないのに。


 「というか、クソの取引先ってことはイギリス人? 僕英語あんまり得意じゃないんだけど」

 「もう親父とすら呼んでくれないのか……。その点は全然大丈夫。日本に興味があるって如月ちゃんから聞いたでしょ?」

 「まぁ、一応」

 「彼女、日本語ちゃんと話せるし、日本の生活も割と詳しいから大丈夫だと思うよ」

 「彼女、ってことは女? おい、如月がいるとはいえ年頃の男がいる家に女の子を放り込むのはいかがなものか」

 「あー、平気でしょ、睦月ちゃん女の子みたいだし」

 「死ね」

 「まぁ、引き受けなかったら生活費減らすだけだしね。高校も同じところだから、サポートしてあげるんだよ? あ、そうそう。同意があればその子に手、出していいからね? むしろ落としてしまいなさい。仕事が楽になるから」

 「おい今なんつった」

 「たぶん、時間的にはそろそろ着くんじゃないかな。こっちも仕事に行かなきゃだし。バイバイ」

 

 一方的にぶつりと切れる電話。怒りのあまり握りこんだ携帯電話が、圧力警報アラートを鳴らしていた。


 「どうだったー、お兄ちゃん」

 「あー、するらしいなホームステイ」

 「でしょ」

 「でしょ、じゃないだろこの愚妹がっ! ホウレンソウを知らんのか馬鹿たれ!」

 「お兄ちゃんが聞いてるもんだと思ってた」


 切れた僕にたいして、妹は我関せずとのほほんと冷蔵庫にあった棒アイスをかじりながら答えた。ああーもう、生活費を減らすなどと、ジョーカーを軽々しく切りやがって。


 「で、いつ来るの?」

 「今日」

 「マジで?」

 「まじまじ、今から迎えに行くところ」

 「どこに?」

 「駅」

 「なんでこう、僕のいないところで決めちゃうかなぁまったく」


 溜息をつきながら玄関に戻り、もう一度靴を履く。エコバックと食費用の財布も持っておくことにする。確か、冷蔵庫の中の調味料が減っていたはずだ。


 「なに、お兄ちゃんも来るの?」

 「食材の買い出し。三人分もないから」


 ほへー、と言いながらランニングシューズを履く妹をつれ、僕は駅へと向かうことにした。

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