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天羽 睦月は、どうあがいても男の娘である。

 自身の所属クラスである1年C組へ到着し、自身の荷物を下ろす。と言っても、教科書やノート、問題集の類はすべて机と教室後方にあるロッカーの中に入れてあるので、鞄の中は自作の弁当と今日授業のある体育の体操服だけだ。


 とくにたいしてすることもないので机にでべーっと腕を枕にしながらボーっとしていると、五分かそこら、そのぐらいたったあたりで頭を軽くはたかれた。


 「おはようさん」

 「んー? おはー」


 僕の頭をはたいてくれた犯人は、今年の春からの級友、尾畑 永守ながもりだった。にやっと笑った口元、十人に聞けば七人くらいはその容姿をほめるであろう見た目の永守は、なんだか機嫌がよさそうだった。


 「どしたの、そんなににやにやして。気持ちが悪いぞ」

 「うっわ、ひっで。でも今日の俺はそんなことは気にならない!」

 「ほーん」

 「なぜならもんのすんごく機嫌がいいからだ!」

 「あそ。僕は寝る」


 どうでもいいけど、運動系の部活に所属しているのに、そのキンキラキンにさりげなくできない金髪はまずいんじゃないだろうか。先輩に目をつけられたりとか。まぁ、僕には関係ないのでどうでもいいか。


 くだらないことを考えてしまった、とホームルームまでまだある時間を睡眠に費やそうと再び腕を枕にすべく組もうとすると、それを永守にがっしりつかまれた。さすがは運動部。帰宅部の僕の力ではびくともしない。あ、単純に僕が非力なだけか。


 「なにさ」

 「俺がご機嫌な理由、聞きたくはないかい?」

 「いやべつにどうでもいい。寝たい」

 「そうか。で、俺が機嫌がいい理由なんだが、近々転校生が来るらしいぞ」

 「勝手にはじめやがったぞこいつ」

 「で、その転校生なんだが、外国人らしくてな。ほら、これ写真。美少女だとは思わんか?」


 そう言って手の中のスマートフォンを見せつけてくる永守。画面には少しぎこちない表情をしている僕らと同年代の銀髪の少女が。クラスも一学年三クラスしかないような片田舎の高校だ、転校生なんて来ればそこらじゅうで話題になるだろうし。それに、この見た目なら話題になっていてもおかしくはない。


 「確かにそう思うけど、そんなに騒ぐほどか? べつにうちのクラスに来るってわけじゃないんだろ? てかその写真どうしたん」

 「いやしかし、このレベルの美少女はなかなか……。写真は担任からプラモで買収し入手した」

 「担任ェ……」

 「つーか、おめーは美少女に興味ないのか? ……まあこの学校の二大美少女ともなれば、綺麗な顔は見慣れてるもんな?」

 「うっせ、ほっとけ、鼻にマスタード詰めるぞ、粒入りでな」

 「俺は粒ない方が好きかなぁ」


 そう、僕、天羽睦月は、高校一年男子としては随分中性的な、いや少女的な見た目をしているのだ。その容姿は十人に聞けば十二人が美少女だというほど(妹の如月調べ)。妹と町を歩くと、何度も姉妹として間違えられてしまう。せめて妹じゃなくて姉として間違えてほしい。いやそれも嫌なのだが。性別間違えているし。


 「つーか、その髪型やめて短くしてみれば?」

 「もうそれ試した」


 永守が指さす先には、ふわっと一つにまとめられているところどころにはねまくる独特な猫っ毛は後ろ髪がある。


 「切ってみたことあるんだよ、これ」

 「どうなったんだ?」

 「田舎の虫取り網をぶん回してる少年少女みたいになった」

 「そうか……」

 「もう、男らしくなるなんて無理なのかな……」

 「あきらめるなよ、がんばれ」

 「最近腰が括れてきた」

 「…………」

 「なんか言えよっ!」

 「ま、まぁ別に見た目だけが男らしさじゃないからさ?」

 「何で疑問形なのさ」

 「そのレベルで美少女顔だとなぁ、流石にフォローのしようがないっつーか」


 その言葉でがっくりうなだれる僕。互いに同じタイミングで溜息が出た。


 「はぁ」

 「溜息をつきたいのは私の方なのだが」

 「ゲッ、クーコさん!?」

 「久瑠実先生、もしくは山中先生と言いなさいこの大馬鹿者。朝のHRから放課後までは携帯電話の使用禁止だ。没収」

 「そんな、無慈悲なぁ」


 新たに現れたうちのクラスの担任に携帯を没収されてしまう永守。しっかり閉められたネクタイにベスト、パンツスーツがよく似合う山中久留美担任は今日も格好が良かった。

 

 教室前方、黒板の上の時計を見てみると、すでにHR開始の時刻だ。うちの高校は朝のSHRから放課後までは携帯の電源を切ることになっていて、教師に見つかるとそくボッシュートされ保護者同伴でないと返却してもらえない。永守の親はみたことないけれど、いい顔はされないだろう。


 「では、本日の連絡事項だが……」


 先生が話をし始めたので、僕は眠りにつくことにした。





 夏休み明けではあるが、うちの学校は普通に授業がある。昼休み前の四限目に体育があると、なんだかちょっと気分が落ち込む。

 片田舎の高校、予算も少なく、更衣室なんてものはありはするがとても遠いので男子はもっぱら教室で着替える。僕もそれに習い、服を脱ごうとすると永守にワイシャツのボタンをはずそうとするボタンを留められた。


 「なにさ」

 「お前はトイレで着替えるんだ」

 「なんで」

 「自分の見た目を忘れたのか?」

 「それでも僕は男なんだい!」

 「あそこにいる山田を見てみろ」


 永守に指差された方を見ると、こちらを見て息をハァハァさせているメガネの山何とか君が。き、きめぇ。


 「ちっ、違うんだ! 僕は睦月ちゃんのヘソチラではぁはぁしてたわけじゃないんだ!!」

 「あー、山ゴンザベス君だっけ?」

 「誰だよそれは。山田君な」

 「そうそう、山なべしき君。とりあえずきもいんだけど。あとちゃん付けすんな」

 「あっ、そうだね睦月君、その、あの、別に本当に君の生着替えでハァハァしてたわけじゃないからね?」


 うわぁ。お前ホモかよぉ。どう見ても発言が不審者な山びこ君に内心(表情に思いっきり出ていると思うけど)気持ち悪がっていると、リアル男の娘の蔑み目はぁはぁとか小声で聞こえてきた。やべぇよこいつ。


 しかし、イケイケリアリアしたグループにうっわ山田ホモかよー! とか言われ、必死に弁明死に向かう山しゃもじ君は僕から離れていったので、それを確認してトイレの方へと向かう。着替えるのは個室に入ってしっかり鍵を閉めてからだ。なんだか自分の身の危険を感じた。特に尻に。


 田舎特有の土地だけはある我が校のグラウンド(サッカー、野球、ソフト、テニスが同時に使ってもまだ余る)の外周750メートルを一周し、体操を行ってから整列する。夏休み明けの暑い時期、もうすでに僕は汗だくで息も絶え絶えだ。


 種目はソフトボール。もう一、二週間あとの体育大会でやるチーム対抗ソフトボール戦の練習だ。一応、僕もチームに所属してはいるものの、僕がいるライトはほとんどボールが飛んでこないから基本突っ立っているだけでいい。たまに飛んでくる打球は陸上部の子が自慢の足で全部取りに行ってしまうし。打席も九番と最後の方だ。チームメンバーは十人なのであしからず。


 野球部の子が三振をもぎ取り攻守交代。いるよね、得意種目になるとすっごい頑張り出す子。まぁ、僕に関しては得意種目なんてものはハナから存在しないので頑張りようがない。

 同じチームである永守が汗まみれになったキャッチャーマスクを敵チームのキャッチャーに渡しながらこちらに近づいてくる。敵キャッチャーは嫌そうに顔をしかめ、膝のあたりの体操服で汗を拭いていた。

 

 「睦月、キャッチャー変わって、めっちゃ怖い」

 「や」

 「もはや一文字ですかそうですか」

 「あんな剛速球正面からキャッチしたくない」

 「わかる、ってか体験してる。ナウで」


 何故かチームメイトに我らが睦月きゅんに危ないことさせとんじゃおらとぼこられている永守をしり目に、僕は二回で回ってきた打順につく。相手のチームの投手が素人だと、打順がなかなか回らないのも素人野球、いやソフトボールの特徴だよなぁ。

 やけに大きく感じるヘルメットがずれたのを直しつつバットを構える。握りは左が上で短く持つんだっけ。


 おーい、バッターは睦月きゅんなんだから手加減してやれよ、怪我なんかさせたらぶっ殺すぞピッチャー、と言う野次と当たり前だ、と言ってうなずくピッチャー。最近なんだが、睦月きゅんファンクラブなんてものもできたと永守から聞いた。聞きたくなかったな、そんな事実。


 ピッチャーから放たれる第一投はふわふわ~とした、それでいてストライクゾーンは外れない明らかに手加減されている物。バットに当てない方が難しい。


 だが僕は空振りよろめく。ずれたヘルメットのつばが鼻にぶつかった。いてえ。野次や内外手からはか~わ~い~い~との声が。ほっとけよ。


 ヘルメットをかぶり直し二投目。だが空振り。再び野次からは歓声が沸く。


 「なぁ、天羽の性別ってなんだろうな」

 「睦月きゅんの性別は睦月きゅんだろ」

 「じゃぁ、この胸から湧き上がってくる暖かくもすっぱい感情は……」

 「ああ、それは恋だな、間違いない。俺が保証する」

 「俺、ファンクラブ入るわ」

 「ファンクラブの会則は厳しいぞ?」

 「知ってるよ。それでも、睦月きゅんのためならば」

 「ああ」


 もうやだこの学校、変態しかいねぇのか。

 

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