終わり、始まった、
本編どうぞ!
「佐藤」日本で一番多いみよじが書いてある表札、
自宅、実家どちらも俺が呼ぶには似つかわしくない家の扉の前、俺は途方にくれている。
それは、家出した子供が家に帰ってくるのが気まずいとか、そう言う途方にくれているわけではなく、
家の鍵がなくて家に入れない、
ただそれだけだ。
呼び鈴をならしても、誰も出てくるはずもなく、
俺はかれこれ7分ぐらいは、ドアとにらめっこをしている。
俺の淡い希望では、5分ぐらいも扉の前で困っていれば、どこからか優しいお姉さんが、
『大丈夫ですか?』
と声をかけてくれるはずだった。
けれど、
現実はそう甘くはない、
というより少しばかり俺に問題があるかもしれない。
真っ白の長袖に、
真っ白の長ズボン、
真っ白の靴にマスク、
警察官の前を通ったら20歳にもなっていないのに100%職質される格好だからかもしれない。
というか、そうだろう。
『はぁー』
ため息を吐きながら俺はもと来た階段を降りることにした。
螺旋になっている階段は、夕方の日差しを浴びて、薄くオレンジ色になっている。夏の終わり、9月の終わりだというのに、傾きかけた夕日は夏はまだ終わっていないと主張するように階段に向けた日差しを、俺にも向けてきて蒸し暑い、そんな階段を常人じゃない俺は常人よりも遅く、降りていった。
正確にどのくらいかはわからないが、少なくともエレベーターの倍の時間は、かけて一階まで降りてきたことは間違いない。
エレベーターの方がはるかに早くこんなに疲れないで着いただろうでも、途中で誰か乗ってきて、
(何この人?)
全身真っ白でお笑い芸人のコスプレしてるのかしらなんて、独特な目で見られた日には俺は死にたくなる。
その恐怖から俺はエレベーターを使わなかった。いや、使えなかった。
辺りを見渡せば、15分程度前通った出入り口、それと、何故あるのかわからないトイレにつながる扉。
俺はトイレの扉の反対、対になっている扉を二度三度ノックした。
『はーい』
中年のおじさんぐらいの声だろうか、当たり障りのない返事したおじさんと、扉の横についた小窓を通して目が合う。
出たお腹、
少し丸まった背中、
薄いシワの畳まれた顔、
まさに中年を絵に書いたような人物だ。その中年は、
ここの大家が自分である事を主張するように、大量の鍵をぶらぶらと下げながら、コツコツと音をたてながら、扉に近づいてくる。
妙にゆっくり回されるドアノブ、
それに反するように勢いよくあいた扉は俺のわずか5センチほどを円を描くように、とうり過ぎた。
中年から発せられる、コツコツという足音は止むことを知らず、
少しずつ俺から離れて行く。
(ここまで、無視されると、怒りを通り越して、逆に清々しいよ、なんかのドッキリかと普通だったら思っちゃうよこれ)
なんてことを思いながら、
中年の髪の毛が全部抜け落ちる妄想をし、俺は中年の後ろに付いて歩いた。
エレベーターを使うかと思っていた中年はエレベーターの横を通って階段の方へ足を進めた。
そこからの中年の動きは、俺とどれだけいたくないか主張するものだった。俺が降りてきた螺旋階段を俺が上がった10倍ぐらいの速さ、もはやダッシュといえるぐらいで上がっていった。
気持ちはわかる、けれどそこまで行動に表されると、俺の心がポキっと音を立てて折れそうになる。
きっと普通の一般住人だったたら、あの大家も螺旋階段を、普通の速さで登り、たわいもない世間話でもしたのだろう、
まぁたわいもない世間話になんか意味はなんのだろうが。
俺が登り終えると俺の心はパリパリと剥がれおちそうだった。
行動が早いのはいいことだ、全くもって悪いことではない。
だが、ここまで早いと本当に俺の心が折れそうだ。
俺が螺旋階段を登りきった時、もうそこに、中年男性の姿はなかった。
代わりに、廊下を少し行ったところ、一台のエレベーターの降りる音が聞こえた。
中年のくせに頭を使ったことと、悲しさを通り越して、だてに年はとってないなと関心してしまった自分がいた。
(佐藤)再び向かい合う表札は、30分ぐらい前と変わらず、3年前とも変わらない。表札にかかった埃を払い、鍵の開けられた扉の、ドアノブに手をかけ、勢いよく開けた。
扉の勢いで舞いあげられた 、チリや埃は、オレンジ色の夕日の光を扉の隙間から浴びて、
少しだけ綺麗に見えた気がした。
扉が少しづつ締まっていくにつれて、俺のいるこちら側は暗くなっていく。
玄関と一緒に光に取り残された俺は廊下の電源を手探りで探し始めた。カチッと音をたててなった電源と同時に、パッと辺りが明るくなった。
『懐かしいな』
埃だらけの廊下を見て、汚いと言う前にこんな言葉が出たのは、
俺が成長して大人になったからだろうか?
全く変わらない3年前の廊下は裸足で歩くには汚すぎ、スリッパで歩くには、気が引けた。
何故だか、ここが他人の家だと、感じさせられるようで、まぁそのとうりなのだがそう考えてしまうとあの時のことを実感してしまう。
『さー始めよう』
気合いを入れるように、大きく出した声は、思ったよりも大きく響いた。
それがより一層1人を感じさされようだった。
リビングのスイッチというのに廊下の途中にあるおかしな、
リビングの電気のスイッチに手をかけたが、つけることはなかった。
廊下をまっすぐ行ったところにある、リビングの扉のすぐ横の、扉が、半開きになっている。
警察が行き来はしていたが、
それ以外は、誰もくる人はいないはずだが。
電気をつけることも忘れ、俺は少しづつ早まる鼓動を抑えながら、扉に近づいていた。
抑えようとすればするほど、
早くなる鼓動、
背中にかく嫌な汗、
空き巣じゃないことを願いながらドアノブに手をかける。
1、2、3、だー、心で叫びながら勢いよく開けた扉は、その勢いで壁にぶつかる。
目の前に広がる光景に目を奪われながら、跳ね返ってくる扉を掴む、というより、力が抜けるようにもたれかかった。
間取りでいえば、7畳くらいだろうか、その部屋全体が真っ白というにふさわしい、パウダースノーだろうかと思うほどの、埃に包まれている。
本棚なのか、タンスなのかの判別もつかないほどびっしりと、まるで岩に苔が生えるようについている。
今から、ここを片付けると思うだけで、このまま床に突っ伏して眠りたくなる。
が、そもそも三年そこそこで、ここまで埃なんて積もるものなのか、
どう考えてもおかしい。
親が埃で世界征服を企むマットサイエンティストだったら話は別だが、俺がいた三年前は少し狂っていただけだったと思う。
人間変わるものだから分からないが、そんなことを考えながら指で埃をすくう。
思ったよりも深くない埃の層は簡単に空気中にふわふわとまう。
手に当たった感覚で何が置いてあるのかはわかった。
ここは全部本棚だ。
目で認識することはできないが、
扉以外の壁に、本棚というにはほど遠い白い物体がそこにはある。
部屋の中央に置かれた白い塊を軸に一周できるようになっている部屋はどう見ても、
『異常』
その言葉で片付けられた。
ふと、全体を見渡すように見てみると、床には埃がなく、
まるで周り本棚や中央の本棚に吸い取られているように見えた。
その怪奇現象でも説明のつかないだろう、そんな中央の本棚に目を向けると、俺がさっき触れた段の上ぐらいだろうか、
長方形の赤い穴が空いている。
今すぐ部屋を出るべきだと本能に訴えられた俺は、後ろを振り返った。
[え?]
手をかけ、一度は止まっていたはずの扉が閉まっている。
その時とっくに足はすくみ動けなくなっていた。
別に幽霊が怖いとかそういった意味で動けないわけじゃない。
狭いところが怖い。
閉じ込められた時は無意識に死を覚悟してしまう。
どうしようもない不安にかられ、鼓動が早くなりそれでも体は動くことを拒む。
呼吸を整え頭を冷静に戻す。
それだけを考えて動き出した脳は案外性能がよく作動したようで、足が動き出した。
動いたと思っても出られない現状からは、何も変わりわしない。
突っ立ていても変わってくれない現状に勘弁した俺は、
足を進め、
赤い穴へと近づいた。
近づいてわかった。
これは穴じゃあない。
一冊の本だ、周りの本が真っ白というなか、この一冊だけには、埃すら付いていない。
まるで、この本の存在を主張するために、周りが真っ白になっているかのように。
光るように綺麗な表紙には殴り書きで子供の書いた字のようなものが書いてあり、何が書いてあるかは分からない。
でも、わかったとしてもろくなことは書いてなさそうなことは分かった。
ペラペラとページをめくると、
どのページにも子供が書いた絵と殴り書きで書かれた文章のようなものが書いてある。
一枚一枚絵が違い、ページからはクレヨンのような独特の匂いもした。
最後までめくり終え、
1ページ目に戻ると、
1ページ目と2ページ目がくっついてめくれていなかった。
ページの端を持ち力を入れた時
俺の体は、青白い光に包まれた。
かろうじて見えた文章は
弱々しく書かれた、
『ありがとう』
だった。
これを見てる方は前の話も見てくれたことでしょう。ありがとうございました。
どうだったでしょか?
たのしんでいただけたら幸いです。
次回もよろしくお願いします。