不器用だから(作:髭虎)
ウロウロと、俺はベンチの近くを落ち着き無く動き回っていた。
幼馴染からの連絡を待って十数分。手の中の携帯は、いまだ震えない。
「はぁ……どうすりゃよかったんだろうなぁ」
あいつは──子無音は、俺にとってただの仲の良い友だちだ。バカ話をして、一緒にふざけあって、振り回して振り回されて。女の子として意識したのも、もしかしたら今日が初めてで。そりゃ嫌いなわけじゃない。でも、だからっていきなり告白されても俺は頷けなかった。頷けるわけがなかった。
あぁ、きっと俺はひどい男なんだろう。
あいつに目の前で告白されて、そこで思い浮かんだのは俺の幼馴染──芽衣の顔だったんだから。ちゃんとあいつを見て答えてあげられなかったんだから。
そこまで考えたところで、不意に手元の携帯がピロンと通知音を吐き出した。
慌てて開いた画面には、小無音・A・ツンデリアの文字。思わぬ相手に俺は内心凄まじく動転しながら、ゆっくりと通知をタップする。
『今日は、なんかごめん』
情けねぇな、俺。
勇気を出したあいつに、謝らせてしまった。その事実に頭が一気に冷えていく。
ここで間違えたら一生後悔する。そんな確信があったから。
俺はいつもの倍くらいの時間を掛けて、返信の言葉を打つ。
『謝るなら俺の方だよ』
『なら、私とまた友だちに戻ってくれる……?』
『俺の方からお願いしたい。
こんな俺だけど、仲良くしてください』
打ってから、今度はしばらく返事がなくて。
早打つ心臓。背中を伝う嫌な汗。断られたらどうしようなんて考えながら……ピロン、と。返ってきた返事を恐る恐る覗き込む。
『そういうとこだよ、この女たらし』
ひどい言いがかりだった。だけどあいつは抗議すら許してくれないらしい。俺が文字を打つより先に、あいつから短いメッセージが飛んでくる。
『でもまあ、うん。いいよ』
思わず、指が止まった。
相変わらず不器用で、それでいてどこか分かりやすい。文面から伝わってくる強がりに、今のあいつの顔が簡単に想像できてしまう。
『乙灰が好きな人は、私じゃなくて芽衣ちゃんみたいだからね、そこはもうすっぱり諦める。
だから、これはお前の友だちとしてのお節介』
きっと泣いている。
俺が泣かせた。だから、こんなにしてもらう資格なんて俺にはないのに。
『展望台に来て。そこで、芽衣ちゃんが待ってます。お前も告白してフラれてしまえ!』
あぁほんとに──不器用なやつだなぁ。
すぐに行く、と返信して。
俺はあふれる気持ちを吐き出すように、遠くに見える展望台へと駆け出した。