ホンキとホンキ(作:小鳥遊賢斗)
「ま……待ってぇ……!」
私はあの後、小無音ちゃんの後をしばらく追い掛けたけど、全く捕まる様子が無かった。
運動部には入ってなかったし、この胸部にある膨らみのせいで、走るのがただでさえ大変なのだ。
それに引きかえ、小無音ちゃんは陸上部に入っているし、胸も……いや、これはさすがに失礼か。でもその膨らみのせいで色々と苦労している私にとっては、素直に羨ましい。
「も、もう無理ぃ……」
私はとうとうその場にへたりこんでしまった。
すると、私の前に手が差し伸べられた。
「追い掛けてきてくれたのに、本気で逃げることもなかったよ。ごめんね」
私はその手を取り、立ち上がる。
「私、馬鹿だよね。本当は最初から分かってたのに。なんであんなこと言っちゃったんだろ……」
「でも、私思うんだ。本気で頑張ればきっと小無音ちゃんも――」
「無責任なこと言わないで」
「!」
正直、彼女の発言には驚かされた。突然強い口調になったから。
「芽衣ちゃんはいいよね。あいつの幼馴染で、子供の頃から一緒だから、何も努力しなくても仲良くなれるんだ。胸も大きいし。あと胸も大きい。本当はあいつのこと好きなんじゃないの?」
私はしばらくの間俯くことしか出来なかった。さっきの出来事で、少し彼を意識している自分が居るから。いや、だからこそ今は――
「……ごめん、今の言い方、ちょっとキツ――」
「そうだよ」
「!?」
小無音ちゃんが目を大きくしてあからさまに驚いた。
それもそうだ。いつもおっとりしてる私からの反撃が来るとは思わなかっただろうし。
「じゃあ……じゃあなんで小無音ちゃんは告白しない? 絶対成功するのにさ。小無音ちゃんは私に足りないもの全部持ってる。可愛いし、胸も大きいし、性格もおっとりしてるし、胸も大きい。これ以上あいつが望むものも無いのに」
「だって……」
言え、私。本心を言うんだ。なんで私が告白しないのか、その理由を。
「だって私は小無音ちゃんが一君のこと好きだって知ってたもん!」
「……そんなことして私が嬉しいとでも思ってるの?」
「へ?」
「そんなことして私が嬉しいとでも思ってるのかって訊いてるの!」
彼女の言葉に私はただただ狼狽した。
「分からない? 何が言いたいのか! 私は芽衣ちゃんに譲られてあいつを手に入れるなんて、私惨めなだけじゃん! でもそれ以上に……」
雨でもないのに、地面にポタリポタリと水滴が落ちる。
「芽衣ちゃんが幸せなら私だって幸せなんだよ?」
予想外のその言葉に、思わず私は俯きながら貰い泣きしてしまった。
「あいつは芽衣ちゃんを選んだんだからさ! 芽衣ちゃんに譲られたから、今度は私が譲る番。だからさ」
小無音ちゃんが私の両肩に手を置く。
「幸せになりなさいよね!」
私が顔を上げると、雨上がりに差し込む太陽の日差しのような、そんな眩しい笑顔が、そこにあった。