楽しくて、苦い(作:柴野まい)
朝、俺は暴力女(貧乳)と一緒に映画を観るために、郊外のショッピングモールに行こうとしていた。
「なんでいるんだ」
「それはこっちのセリフだ」
……バス停前で遭遇したよ!
うん、そりゃそーだよな! あのモールに行くバスこれしかないからな!
「とんだ災難だよ」
そう言いながら蹴られた。
俺の大事な部分を。
「ぐぉっふぅ!?」
スズメバチに刺された時の100倍痛かったぞ!
くそっ!
「貧乳のくせに」
「あ? 今なんつった?」
俺の頭にエイリアン掴みをかましてきた。
痛い痛い! いろんな意味で終わるわ!
「堪忍してつかぁさい」
「うん。私は寛大だからね。許してあげようじゃないか。もう一度言ったら……どうなるか、分かっているよね?」
ヒエッ。
背後になんかやばい感じのオーラが見える。
腕組みして仁王立ちしてるから余計に怖い。
貧乳だから迫力はないけど。
「わ、わかった」
「よろしい、では行くぞ!」
何事もなかったかのように笑顔になってる。
変わり身の早さすげー。
そしてこえー。
おっぱいに癒されたい……。
バス待ちの列には、そりゃあおっぱいはあるけどさ。
はー。あの成長期おっぱいが恋しい。
会いたいなー。
って、行くぞってなんだ!
なんでお前走ってんの!?
「バスは!?」
「男だろうが! 走れ!」
ふざけんなぁぁぁ!!
流石にこいつを1人で行かせるのは、俺の良心が痛む。
ぐちぐち言いながらもついてきた俺偉いぞ、偉い。
「つ、疲れた……」
「正直ごめんな。本当について来るとは思わなかった」
泣いていいな、俺。
心の中でシクシク泣いていると、隣にいた体力おばけがペットボトルを差し出してきた。
「おお、ありがとな」
お礼を言いながら、ペットボトルを受け取る。
俺の苦手なブラックコーヒーだった。
嫌がらせだ。
「俺がブラックコーヒー苦手なの知ってるだろ!?」
「もちろん知っているとも。せっかくの私の好意を無下にするつもりかい?」
ぬぬぬ。そう言われると申し訳なくなってくる。
「ありがとな」
とりあえずもらっとく。
「さてと。映画の座席はとってあるんだよな?」
「もちのろん! 特等席だよ!」
それは楽しみだ。
その後なんやかんやあったが、なんとか俺たちは映画館に入れた。
面白くて熱中してた。
ううむ、ここまで良い映画だったのか。
タイトルから感じるギャグ感は打ち消されず、しかし感動させようとしてくる映画製作者に敬意を払うわ。
1番の名シーンは、主人公が転生した直後に戦った敵の言葉だ。
「チクビのないおっぱいなんてただの肌色だ!」
俺にも衝撃が走ったぜ……。
その後、チクビ最高!とチクビに取り憑かれた主人公が、自分に魔改造を施したんだ。
そして完成したのが、胸部装着型対世界破壊兵器チクビームだったんだ。
なんの因果か、適当に設定したはずのチクビームは、ガチの世界破壊兵器への特攻をもっていた。
なんやかんや戦いに巻き込まれて、そして世界を救うわけだ。
その途中で最初に戦った敵は、息をひきとるんだ。
チクビの良さについて語り合う親友になれたのに。
泣いたわ。
そして世界を救った後、チクビの良さを教えてくれた敵の墓に行って、酒をかけ、お礼を述べて颯爽と去って行ったシーンは、涙なしには観られなかったぜ。
隣にいたペチャパイも泣いていた。
上映が終わって、俺たちは映画の感想を言いあいながら、劇場を後にする。
「泣けたねえ」
「ああ、来てよかったよ」
そして、隣人お待ちかね、買い物タイム突入である。
しばらくそのまま買い物してた。
前を向くと、そこには、幼馴染がいた。ロリ巨乳最高!
こっちを見てはいたけど、声もかけずにスルーされた。
ガーン。
その後、いろいろ買ってた。ピアスイヤリングネックレス。似合わねー、と笑っていたら、蹴られた。痛い。ペチャパイに映えてていいと思うのもあった。
そして、別れの時。……カッコ良く言って見たかっただけだ。月曜日に会うし。
「今日は楽しかったよ」
「ああ。俺も楽しかった」
「また一緒に来てくれるかい?」
「ああ、お前のペチャパイも悪くないなと思ったしな」
オシャレしているこいつに、不覚にもドキッとした。
「……じゃあさ。私のことも意識してくれたってことだよね」
「え?」
「私は君を特別だと思っている。友達としてではなく、ね」
え……?
呆然としてる俺の前には、いつもばか騒ぎしてるペチャパイ。告白、ってことだよな。え、え、でも。……俺には。
「すまない。俺には好きな奴がいる」
「……それは、幼馴染さんのこと?」
そう言って、向こう側を指差す。
そこには、幼馴染がいた。さっきと同じように。
!?
答えられなかった。
「わかってた、わかってた!」
そう言って、顔を覆って走り去っていく。
そして、幼馴染が後を追いかける。
なんでお前が行くんだ。
呆然としていると、メールに着信がきた。
追いかけてくんな、という短い文面。
俺は、追いかけなかった。
その後に飲んだブラックコーヒーは、まずかった。