1話+_フラグは午後の会話から
時計の長針と短針が真上に重なる時間。昼食の下準備に悪戦苦闘中な私。
いつもなら、もっと余裕があるのだけれども、今日はそうも行かないのよ。
だって。今日は、いえ。正確には、もうすぐ来るのよ。
誰がですって?それは、、、
「おにーちゃんが来るー」
そう、私のおにーちゃん。じゃないわよ。まあ、男性なのは合ってるわ。
そいつは私の友達であり、私にとっては……っと。さっさと仕度済ませなきゃ。
「アペリラ。エアコンの温度を少しだけ上げといて。アイツ寒いのダメみたいだから」
左手で敬礼をし、リビングで稼働している、エアコンのリモコンへと歩き出す彼女。
それを確認し、残りの作業にとりかかる私。
ふふっ。大変だけど悪くない気分。目的がある方がやりがいがあるわね。
~ Battle Bet Quest 1+ミシシッピ_フラグは午後の会話から ~
「「いらっしゃい」」
「元気そうだな、2人とも。お、アペリラは少し大人になったか?」
「えへへー、さすがおにーちゃん。気づいてくれたんだ」
「あんた、ほんとにそう思ってる?」
「ん?だって少し髪が長くなってるし、顔も少しだけ幼さが消えた気がする」
へぇ。見てないようでちゃんと見てるのね。ん?見てる?って事は当然
「で。あんたの大好きな部分も変化あった?」
「残念ながら僕はそこまでの執着はないし、君の大事な娘さんをそんな目で見てないから安心しな」
「そ。とりあえず上がってちょうだい」
「では、御邪魔します」
客人をリビングへと通し、私が昼食を作る間、アペリラが話し相手になってくれていたの。
「でね、来年の春になったら、学校へ行きなさいって言うんだよ」
「学校か~。アペリラは行きたくないのかい?」
「ウーン。ボクがそこに行くと、色々と迷惑かけないかな?」
「そうだな。どちらかと言えば、アペリラが学校のみんなに合わせる事が出来れば、問題はないかもだな」
「それって、髪を黒くしたり、能力を使うなって事だよね?」
「ああ。窮屈かもしれないけど、慣れれば楽しいと思うよ?友達も出来るだろうし」
「ともだち?ボクには、おにーちゃんたちや、おねーちゃんたちがいるよ?」
「私ら年寄り相手より、同じ歳の子らと一緒に過してみれば、良い刺激になるわよ?」
彼女は私らとは違う種族なのは知ってる。でもね、能力さえ使わなければ、人間と同じ生き方をしてもいいと思うの。別に使ってもいいんだけど、それを受け入れられるか否かで、彼女に対しての見え方も違ってくると思うのね。だったら初めから"私は人間です"から始めて、同級生の友達を作らせてあげたい。そして、いつか彼女にも……まあそこは焦らなくていいけど。とにかく私が学校に行かせたい理由はこんな感じよ。
「人間は嫌いじゃないんだよね?」
「ウン」
「別に僕たち以外に、能力を見せつける事はしてないよね?」
「ウン。必要な時にだけ使ってるよ」
ほー。なら、早朝の空から勢い良く降って来たのはどう説明してくれるのかしらね?
「なら学校が終わって家に戻るまで、能力は使用しなくても平気?」
「ウーン。仕方ないな。でも、友達に何かあったら使うからね?」
「ああ。なら来年の春からアペリラは学生さんだな」
「わーい。学生」
あの子ったら、あいつの口車に乗せられて。ま、そのおかげで学校には行ってくれそうで安心したわ。
「はい。待たせたわね。お昼にしましょ」
「おー、さすがおねーちゃん。リクエストどうりだ」
「なるほど、納得が行くラインナップだな」
約束どうり、ロコモコとポキとマラサダを用意し、食卓には南国チックな雰囲気を醸し出していたわ。
「いただきます」と宣言したアペリラが、ロコモコを頬張る。それを見て微笑みながら彼も食べる。
なんだか心が温かくなる感覚。やっぱこれよね。誰かの為に尽くして喜んでもらえるのって、好きかも。
なんて事を言ったら、私が彼に、是非とも自慢の手料理を食べてもらいたいから誘ったみたいになるわね。
誤解のないように言っとくとね、私は彼にはちょっとした恩?と言うか借りがあるの。だからそのお礼に誘ったって感じ。どんな借りかって?それは続きを読んでくれれば理解してもらえると思うわ。
「悪いわね、奥さんいるのに食べてもらって」
「そこは気にしなくていいよ。ちゃんと了解してもらってる。それより僕の方こそ、あいつらに悪い気がしてな」
「それこそ気にしなくていいわ。これに関しては、私もアイツらも、あんたには頭が上がらない立場なんだし」
「突然どうしたのさ?僕は何もしていないし、君があいつらを想ってくれたから今の状況になったんだろ?」
「まーそうだけど、よく考えてみて。高校生も今も、あんたが存在しなかったら、こんな状況にはなってないわよ」
「おねーちゃんにとっては、おにーちゃんはホントに特別な存在なんだね」
私と彼の会話の途中、彼女からの横槍が、的確に差し込まれたわ。
「ち、ちが。ま、まー確かに。あんたは私のライバルだし、他の人とはちょっとだけ違うけど」
「はは。ほんと変わんないな。でも僕には借りがあるとか、感謝するとかはなしにしようぜ。君の彼氏たちは僕の友達だった。それでいいじゃないか」
「……。ま、そう言う事にしといてあげるわ」
昼食も終わり、頼んでもいないのに、彼が後片付けを手伝ってくれている。
ここで口を出すと、彼のお節介の妨げになると思い、あえて何も言わずに洗い物を始める私。
それをニヤニヤしながら眺めている彼女。
「フフフ。こうやって見ていると、夫婦みたいだね」
一瞬お皿を投げつけてやろうかと思ったけど、ここは無言でスルーする事に。
一方彼は、彼女に向かって少しだけ笑顔を魅せて作業に戻る。
なんだかお互い成長したのだと、この時感じたわ。でもね、彼女は予想外の反応に少し不機嫌気味。
「何さ2人して、つまんない。そりゃー、おにーちゃんはもう結婚してるの知ってるけどさ、もう少し付き合ってくれてもいいじゃん」
「あのねー。そのネタは彼の奥さんに失礼だから、冗談でも言ってはダメよ」
「あ。そうか。ごめんなさい」
彼女は彼に頭を下げて謝罪する。その頭を軽く撫でて、彼がこんな事を言い出したわ。
「アペリラが言いたい事って本当はこうじゃないかな?君はそろそろ結婚してもいいんじゃない?って」
「私?……そうね……」
「ん?もしかして、僕を誘ってくれたのって、あいつらの相談事なのか?」
「え?そうじゃないけど。もう少し話せる時間あるかしら?」
「僕は構わないけど、とりあえず先にこれを済ませてしまおうか」
・・・
・・
・
片付けも終わり、ようやく落ち着いた所で、私は今朝の出来事を話そうとしたのだけど、まず先に、彼に相談してみる事にしたわ。
っとその前に、いい機会だから彼女の事も聞いとこうかしら。
「そう言えば、最近は連絡取り合ってるのよね?」
「ん?誰と?」
「誤摩化してるの?私の親友とよ。あ、先に言っとくけど、色黒の子じゃない方だかんね」
「ああ、そうだな。と言っても頻繁には連絡してないし、たまに送られて来る画像で、彼女の成長ぶりが伺えるくらいかな」
そう言いながら彼は、彼女とやり取りしている一部を見せてくれたわ。
私の親友から彼に送って来ている画像。それは本人が作った手料理の数々。
「へぇ。あの子も少しは出来るようになって来たわね。何の料理か分かるし」
「それに関しては同感だな。あとは味なんだけどね、こればっかりは食べてみなくちゃね」
「見た目がはっきりしてるんだから大丈夫よ。て事は、そろそろ彼女もかな?」
「ならその頃になれば、同時に祝い事出来るかもな。で、君にあいつらが迷惑をかけてるのか?」
「え?そ、そうじゃないわね。どちらかと言えば私かもね」
「話してもらえる?」
私の彼。
それはそこにいる彼の友達。
学生時代からずっと付き合っていたその人は、ある時。音信不通になったわ。
ああ、これで終わりなのねと正直思ったし、諦めもついた。
でもね。家にいる彼女、アペリラが現れたと同時にあの人も帰って来た。
そして。アペリラの一件で、私を想ってくれた人がいた。
その人もまた、彼の友達だったの。
それから時は流れたけれど、未だに私は答えを出せないでいる。
それはどちらも大切って言えばそうだし、ただ私が答えを出したくないと言えばそれも正解。
なら、なぜそうなっているかと言えば……簡単な事なのよ。
「結婚ってどうなの?」
私は子供のような質問を、彼に本気で聞いてみたわ。
すると彼は、笑ったりせず、真面目に答えてくれたのよ。
「別に何かが変わるとか、特別な変化が起るわけではないよ。でも、この人を大切にしなくちゃって気持ちは大きくなったかもね。君がもし、彼らがどちらも大切で選べないと思うのなら、今はそれでいいと思うよ。それに、どっちを選んでも彼らは受け入れてくれるさ」
「だといいんだけれどね。みんなには悪いけど、もう少しだけ考えさせてもらうわ」
「そうしな。君の手を、生涯離さない人が見つかればいいね」
「そうね。ありがと。でも今は、私が両腕をアイツらに引っ張られている感じかもね」
その言葉を聞いて「のろけですか?お嬢様」と彼は言って来たもんだから、私もいつものノリで「あんた、引っ叩くわよ?」と突き返す。ま、彼と私は大体こんな感じ。
でも真面目な話。私が答えを出した時、彼らは……
無意識に右手が胸の辺りまで上がった時。若々しい両手が右手を包み、悪戯っぽく笑い、こう言って来たわ。
「なんならボクが見て来てあげようか?」
「面白い事を言うわねーアペリラ。いつからあんたはそんな先に飛べるようになったのかしら?」
私は彼女に笑顔を見せつつも、後半の口調に怒気を混じらせ、眉をつり上げる。
「ご、ごめんおねーちゃん。出来ても絶対にしないから」
「もしかして、完成しつつあるのかい?」
「ウン。まだ少し先しか見えないけどね、少しずつ時間は伸びて行っているよ」
別に、彼女に備わった能力だから文句は言わないけどね、今朝だって彼女のおかげで懐かしい人には会えたし。
ん?懐かしい人?そうだ。パイセンから誘われた事、彼に話しておかなくちゃ。
「今朝だってその能力を使って、私に懐かしい人に会うとか言っちゃって、本当に会ったから正直驚いたわよ」
「懐かしい人?君の古い友達とか?」
「はずれ。実はその人は、あんたの方がよく知っている人よ」
「ええ?君と僕が共通して知ってる、懐かしい人だなんていたっけ?」
そ、そうよね。よく考えてみると、私と彼が共通して知ってる人だなんて、いつものメンバーくらい。私の友達なんて彼は知らないし、紹介すらした事はないわ。だけどね、なぜかその人は記憶にあるのよね。あれは確か……そう。女子会をした時に会ったのよ。うん、きっとそう。
「覚えてない?あんたのバイト先で少しの間だけ働いていた先輩。私の高校の先輩でもある人よ」
「ああ。もっちゃん先輩の事かな?」
彼も気づいてくれた事だし、私はパイセンに誘われたゲームの話しをしてみる事にしたわ。
「と、こんな感じ。私はやってみようと思うし、あんたも誘うつもりよ?BBQ。ついでに奥さんも一緒に誘えば?」
「君がゲームに興味を持つなんてな、それとも先輩の力になりたいとかかい?」
「別にどっちも違うけど。とりあえず、みんなと楽しめるならそれでいいのかなって思っただけよ」
とは言え。パイセンの事だから、何か目的があって私らを集めようとしているのではないか?
その考え方も頭にあるのよね。
「その顔つきじゃ、、、いや、とりあえず考えさせてくれないか?」
「ええ。強制じゃないから。みんなにも声はかけてみるつもりだし」
「ねぇ。そんな話しばかりしないでさ。せっかくだし遊ぼうよ」
彼女の言葉で話しを打ち切られてしまったわ。
仕方ないわね。この件は、夜に彼も含めて相談してみるとして、パイセンに返事を出そう。
・・・
・・
・
「今日はありがとう。久しぶりに君と落ち着いて話せたし、楽しかったよ」
「気が向いたらまた来なさい。この子も喜ぶし」
「それはおねーちゃんもの間違いじゃないのかな?本当に素直じゃないんだから」
「こら、余計な事は言わなくていいの」
彼はお約束のやり取りだと思い、笑顔で手を振り帰って行ったわ。
思えば長い付き合いになったわね。とは言え、空白の時間の方が長いのだけれど。
今もこうして繋がりが出来ている。そのきっかけをくれたこの子にも感謝しなくちゃね。
私は彼女の頭を優しく撫でる。少し嬉しそうな顔を私に魅せて彼女は聞くの。
そう。あたりまえな答えと知っていながらも────
「楽しかった?」
「まーね。さて、夕飯の買い物に行くわよ」