7話_希望の光は
得体の知れない柱を目指し、走り続ける2組のパーティ。
打倒シュラフ組の、しよ、しの、アキト、巨人の4名。
打倒クリエ組の、先輩、さわ、ハクトの3名。
それぞれ同じ方向に向かって柱を見上げる。
「所で、あの柱ってどうやって中に入るんだ?」
アキトの問いかけに、先輩が即答で答える。
「入口がないなら作ればええんよ。巨人はん出番やで」
「心得た」
巨大化し右腕に力を溜めようと試みた同時刻。上空から大きな音がし、瓦礫が雨のように迫る。
予想外の出来事に慌てる一行。そんな中、魔法陣を展開し、ドーム型の光を造り出す全魔導士。
「やっぱ魔導士さんが仲間にいると助かるな。今までは回数制限付き、しかも回復要因にしか使って来なかったやつに比べたら全然安心するぜ」
ハクトの言葉に一同がうなずく。その光景を見て、複雑な表情になる全魔導士。
空から小さな人影を発見したさわが、指差し伝える。
「ねえ、みんな見て。誰か落ちて来るよ」
一行が何者かを目撃する時間から数秒前の事。全魔導士の造り上げた魔法陣の中で、休息をとっているお仲間が2名。
「へっぷち」
「なーに?風邪引いたの?あまり近寄らないでよ」
「ああ、悪い……って、きっと噂してんだろ。てかお前も背中をくっつけて来るなよ」
「仕方ないでしょ?魔法陣の範囲が小さいんだし、ったくしよめ、わざとだな」
空で何か壊れた音が聞こえる。しかし2人は立ち上がらず、今は回復を待つのです。
「心配しなくてもみんなは無事だ」
「まだ何も言ってないっての。ま、しよもいるしね。最後の奇跡……ちゃんと届けれた?」
「……ああ。これで僕の役目は終わったよ」
「そか。あ、戦士からあんたに伝言預かってたのよ」
「戦士さんから?……聞かせてくれる?」
彼の背中に体重を預け、彼の顔が見える所まで自分の顔を近づけて口を開く彼女。
「『早く終わらせて、みんなを連れて帰って来い』だって」
「何?新手の告白なのか?」
「あんた、ぶん殴るわよ?」
「そう怒るなよ…………やっぱ彼は"彼女"だったのか」
「ごめん、私がドジったばっかりに」
彼は微笑み彼女を責める事はせず、素直に感謝し頭を下げる。
彼女は彼の行動に視線が泳ぎ、再び背中合わせで顔を隠す。
「まだ終われないな。みんなを連れて帰らなくちゃ」
「私も背負わせて。彼女さんのためにも、必ずみんなを」
~ Battle Bet Quest 7ミシシッピ_希望の光は ~
ゆっくりと回転しながら宙を舞う2人の精霊。
その中で、クリエがアペリラの上を取り、右手で首を掴む。呼吸を封じられるも冷静な目で相手を睨み、一瞬目蓋を閉じるアペリラ。しかし、閉じた目蓋が開いた瞬間、彼女の瞳が金色に変わり、左手を伸ばし相手の腹の辺で掌を光らせる。危険を察した彼もまた、瞳を金色に変化させ掴んでいる右手の掌を光らせた。
互いに放ったゼロ距離攻撃。
空で大きな爆発音が轟いた時、2人は既に消えていたのであります。
地上で見上げていた一行が、爆発音で驚き、すぐに戦闘準備に入る。
「あんな派手な事出来るんはアペちゃんしかおらへんやん」
「みんな気をつけろ。おそらくクリエも一緒だ」
「しのちゃん、アキトくん。ここはうちらに任せて、はよシュラフの所へ行き」
全員で戦っていては、シュラフを野放しにしてしまう。そう考えた先輩が、目的の再確認も兼ねて2人に言葉を投げる。
「先輩に従いましょ。大丈夫。アぺリラもいるんだし、ね?」
「我も全魔の者の意見に賛成だ。元凶を止めぬ限り、状況は悪化する」
しよと巨人の言葉にうなずき、柱へと走り出す2人。遅れて巨人としよも、この場を後にする。
「んじゃま、俺たちは不良少女のサポートって事でいいんですかい?」
「自信があるならクリエの相手してもらっても構へんで?」
「ま、とりあえずアペリラちゃんを探そうよ」
「ン?呼んだ?」
一行の前に姿を現すアペリラ。見れば、若干息を切らしている様子。
「よ。不良少女。大丈夫か?」
「ウン。ちょっと痛かったけどね。あ、ちなみにおにーちゃんなら即死だったよ」
「うわ、厳しい意見だな」
桜色の髪を左手でかき上げ、ハクトと楽しく会話している姿をじっと見ている先輩。それに気づいたアペリラが歩み寄って来る。
「パイセンのおねーちゃん。今から本気であの子の相手をするけどいい?」
「ええよ。けど無茶な注文するけど、出来れば命までは奪わないで……下さい」
「そんな事はしないよ。だって大事な家族なんでしょ?おねーちゃんたちから聞いてるし。だからボクが言いたいのは、全力で相手をさせてと言うお願いなんだ」
「アペリラちゃん……よっしゃ。遠慮せんと本気見せたり」
先輩の言葉に軽くうなずき少し口元が緩むアペリラ。そして、誰もいないはずの方向に指を向け、注意を促すのであります。
「……足音が近づいて?……みんな、来るよ」
さわの声で構える一行、その数歩先で立ち止まるアペリラ。
金色の瞳が鋭く光り輝き、拳を固めるクリエ。
アペリラは左の拳を軽く固め、瞳の色を変化させクリエを静かに睨む。
互いの瞳の中に映し出される互いの姿……互いの瞬きで姿を消すと同時にぶつかり合う拳と拳。
精霊同士の本気の戦い。果たして、いかなる結末になるのでしょうか?
・・・
・・
・
戦艦から崩れ落ちた残骸がゴーレム化し、白衣の男とともに一行を苦しめる。
巨人としのはゴーレムに殴り掛かり、しよは攻撃魔法の準備を整えている最中、アキトが白衣の男に弓を構え問う。
「お前が本体か?」
彼はその質問には興味を持たず、両手を突き出し魔法陣を2つ展開させる。彼の攻撃よりも先にアキトは矢を放つも、体を貫通し彼方へと飛んで行く。
「幻影か?人間を相手にすると厄介だな」
「それは頭の悪い者が言う台詞だ。覚えておけ」
特定不能な所から放たれた風と炎の攻撃魔法。アキトは戦闘経験がない彼女を守るために走りだす。
「大丈夫。みんな危ないから伏せて」
しよが微笑むと同時に右手から解放される巨大な大魔法。
慌てて地面に伏せるアキトと仲間。彼女を中心に広がる白い光が、2種類の攻撃魔法を消し去り、ゴーレムをも破壊したのであります。
「女、まだそのような魔力を隠し持っていたのか?」
「さあ、どうかしらね。あなたには色々と恨みもあるけれど、個人的な復讐じゃなくて、託された想いと仲間のために、私はあなたを止める。それだけよ、シュラフさん」
左手で腕輪をそっと撫で、白衣の男に答えたしよ。腕輪を変化させ光の弓を造り出し、アキトに掌を差し出すと、察した彼は追尾用の矢を差し出したのです。
(私はあの人と繋がっていた……だったら、見つけられる)
貰った矢を内太ももに滑らせ、弓を構え天を射る。
「しのちゃん、巨人さん。矢の到達点を狙って」
2人はうなずき、力を溜めつつ矢を追い掛ける。アキトも体勢を整え、追撃の準備に入っていたのでありました。
・・・
・・
・
柱付近に広がって行く白い光。それを金の閃光が空に色付け、絡まるように地面に落ちる。
向こうが魔力の戦いであるならば、こちらは精霊力の戦い。一行がサポートしようにも、格の違いゆえ、ただ呆然と立ち尽くすのみ。唯一出来る事と言いますと、飛んで来る破片や衝撃から、己の身を守る事なのです。
「無茶苦茶だな、あいつら」
「うちが使っていた力の遥か先を行っとるな」
「……アペリラちゃん。なんだかやり辛そう」
視線は逸らさず、痛みをこらえ息を整えるアペリラと、傷だらけではありますが、涼しい顔を魅せるクリエ。
小さくため息をついて、彼女は思っている事を口にする。
「やれやれ。痛みを感じないってのは、意外と厄介なものだね」
「なら無駄な抵抗はもうやめたらどうだ?」
「ムダ?君はボクと同じ力を持ってるのは理解したけれど、ボクより優れてる存在と思ってるの?」
彼女の挑発に怒りを隠せない彼。しかしそれは、自分の存在の限界を知っているからゆえの行動なのだと、彼女は悟ったのであります。
「オレはお前と同じ力を持っていると言ったな。なら、いずれお前が勝手にくたばるだけだ。痛みは体力も奪うのだろ?しかもなぜだか知らないが、お前はオレより柔い」
「……男って最低だな。あ、おにーちゃんたちは別だけど」
少し恥じらいを浮かべて、右手で膨らみを隠した彼女。
実際、このまま長期戦になれば、いくら優れた存在でも体力は底をつく。彼女はそれを知っている。しかし、力を入れ過ぎて彼を壊してしまうのも困る。その辺の力加減が掴めない。色々余計な事を考えていると、ますます行動が不利になる。案の定、彼が先に行動し、彼女の死角を捕えるのでございます。
「ほら、今は戦いに集中しなさい」
間一髪の所に黄色の風が通り過ぎ、彼の拳に手応えは感じない。
その後。不気味な刀が彼の左脇腹に届く。
「峰打ちだ。安心して吹っ飛べ」
刀は紅色の光を放ち、精霊を弾いたのであります。人間が精霊を弾く?一体誰が?
それは誰もが疑うべき存在。最弱の侍気取り"MURABITO"
「その言い方はやめてくれ、ま。すごいのは全魔断刀だけどな」
「別にいいじゃない。あんたの出番がまだあったんだから」
「どう言う事なの?しかもその刀になんで精霊の玉が?」
ヒロとみあが、アペリラに説明している所に先輩組も合流。いよいよ大詰めとなりつつあるこの状況の中、瞬間移動で姿を現した"機械装甲"
「真精霊よ、大人しく私の実験材料となれ」
・・・
・・
・
全魔導士の放った矢が柱付近の瓦礫に刺さる。その3秒後に振り降ろされる2つの拳。
「「そこだ」」
瓦礫が砕け飛び出す影。それを見越して追撃の矢が届くも、軽く擦る程度のダメージ。
冷静でいながらも表情はやや曇ったアキト。それを見て「次は当たるよ」と笑顔を送るしよ。
すかさず魔法陣を展開すると彼も構える。
「所詮は魔力が限界のお前らに、この私が倒される事はない」
シュラフが両手に魔法陣を展開して何かを召喚している。
それを阻止すべく、赤い光を纏った蹴りが右腕を襲うも、既に召喚された"鉄の装甲"の一部が、腕を守り弾かれる。
「な、なんやの?」
「主様、離れるぞ」
巨人がしのを抱えてシュラフから離れると、白い光魔法と水色の矢が、シュラフに向かって飛んで来る。
「もう遅い……変身……」
いやはや、今のは何かに引っ掛かりそうではございますが、元号も変わった事ですし、流して次に進みますと、召喚された鉄の装甲が、シュラフのどや顔とどや声とともに全身に装着。説明が雑ですが、彼は全身に鉄の装甲を身につけた存在へと変化したのであります。
変身が完了すると同時に魔法と矢も着弾しましたが、シュラフの装甲には何も変化がございませんでした。
「え?当たったよね?もしかしてあの装甲って、魔法無効化出来るの?」
「いや、おそらく能力の無効化だろうな。俺の矢も、魔力ではあるが物理のスキルだ」
「さっきも言ったように、魔力が限界のお前らに、"機械装甲シュラフ"は倒せん」
「「…………ダサいな」」
遠い目で鉄の装甲改め、機械装甲を見る2人。そこへ巨人達も合流し、シュラフを見る。
「格好やネーミングは置いといて、これは厄介な事になったかもしれへん」
しのは遠距離用のスキルをシュラフに放つも無効化された。それで確信した事を一行に告げる。
「あの装甲は精霊の力を持っている」と。
「ほほう。お前はどうやら他の者とは頭の出来が違うらしいな」
「冗談はその格好だけにしといてんか。そんなん誰でも気がつくやろ」
そう言ってしよと巨人に同意を求めるも、とぼけられてしまい、困った顔になる彼女。
「時間の無駄だ、私の目的は真精霊の回収」
その言葉を残し、彼は一行の目の前から姿を消したのであります。
「皆の者、我の手に乗れ。全魔の者、風系で加速出来るか?」
「は、はい。準備します」
巨人の全身が巨大化し元の大きさに戻ると、一行達は手の上に飛び乗り、巨人が力の限り地面を蹴って跳び上がれば、しよが放つ風の魔法で空を飛ぶ。魔力を更に上げ速度を上げて行く中、彼女自身のバランスが保てなくなって来ているのを感じ、両側で支える2人。その優しさに触れ、元気いっぱいの笑顔で魔力を放出する彼女。
「すまぬ全魔の者。だが走るより遥かに早い。だが、追いついたとして、策はあるか?」
「私は平気です。それに、この2人を見て、良い事を思いつきました」
精霊を吹き飛ばし、しばしの休息も束の間、一行の元へシュラフが姿を現したのであります。
「真精霊よ、大人しく私の実験材料となれ」
シュラフの右腕から紅色の光が放たれた時、アペリラが仲間全員を回避可能な場所まで瞬間移動させた。
見ると。地面が崩壊し、熱い煙が上がっている。高密度の魔力攻撃。
「ウウン。それだけじゃないよね。ボクしか感じないかもだけど、この力は」
「「精霊の力」」
先輩とさわが声を揃えてアペリラの代弁をすると、驚いた表情で2人を見る。
しかし一行は彼女達には驚かず、納得してアペリラの前に立ち、シュラフに向かって構える。
「ダメだよみんな。その人の相手はボクが」
「あんたの相手は精霊でしょ?こっちは私らがなんとかするわ。希望の光はまだ消えてないでしょ?」
みあの言葉を聞き、あの玉が埋め込まれていた刀を思い出す。
「すまないねアペリラ。どうやら"まり"がコイツに細工をしたようだ」
「……みたいだね。ボクもそれでいいアイデアが浮かんだよ。みんな、少しだけ頑張ってくれる?」
アペリラの言葉に一行は答える。
ヒロは全魔断刀をみあに預け、竹槍と草刈鎌を構える。
「案外お似合いよ。ヒロ」
「笑うなって。言っとくが、さっきの不意打ちはまぐれだからな。レベルも1だし」
「なあ、みあちゃん。その刀、うちに使わせて。うちならアレが使える」
「んじゃま、先輩を主軸として、俺らはアイツの隙を作りますか」
刀を先輩に渡し、全魔断刀改を構えると、3人は先にシュラフの元へと走り出す。
先輩は、胸に手を当て軽く目蓋を閉じると、アペリラに向けて、優しく言葉を掛けるのです。
「私も、あなたたちのような家族になりたい。今からでも遅くないやろか?」
アペリラは明るい声で、「大丈夫。そのためにボクやみんなを頼ったんでしょ?」と彼女に答えると、「おおきに」とかすれた声と涙を零し、目蓋を開く。
「わあ。おねーちゃんすごいね。純粋じゃないけれど精霊だよ」
金色に輝く瞳が、少し細くなって頭を下げると、両手で刀を握りその場から消える先輩。人を超え、精霊に及ばない存在。彼女がクリエを産み落として身についた力。しかし今回は限りなく精霊に近い。その答えはアペリラの力を使用したから。
「行っちゃったね。クリエも戻って来そうだから、私はここで待つよ。それに何か言いたそうだしね」
「おねーちゃんはいつから精霊の力を感知出来るようになったの?」
「え?そだな~、君と出会った頃くらいかも。なんとなく頭の中に残ってるって感じかな」
「そっか。ごめんなさい。ボクがおねーちゃんを巻き込んだからそうなったんだね」
「別に気にしなくていいよ。おかげで彼を通じて色んな友達も出来たしね。それに、あっても無駄にならない力だし。それより、いいアイデアって何?」
その質問に、少し気取りながら口を開こうとした矢先に飛ん来る漆黒の槍。
それを寸ででかわし、「せっかちだな。もう少し空気読んでよ」と言いながらクリエに顔を向ける。
無論そんな言葉が届きはしない。彼の辺一面に広がる無数の槍。まるであの時と同じ状況だと感じるさわ。恐怖を隠せない彼女の顔を見て、瞬間移動で彼女の隣りに立つアペリラ。
「利き手は右だよね?大丈夫、ボクが側にいる。だから何も心配しないで"一緒に戦おう"」
「で、でもあの槍は精霊の……私は相殺出来ないし、あなたの足手まといになる」
アペリラは首を振って否定し、「これがさっきの答えだよ」と言って、彼女の右手の甲をそっと撫でる。
彼女の手の甲に紅色の玉が現れ、何かを思い出したような表情でアペリラを見るさわ。
「……うん、わかったよ」
リミット解除のスキルを発動し、両手の先に魔法陣を展開する。紅色の玉も輝き出した時、魔法陣が不安定になり暴走し出す。
(どうして?私じゃコレは使いこなせないの?もっちゃんさんの支えがないから?どうしたら……)
「ちょっと力が入り過ぎかな。魔力を抑えてアペリラの玉にだけ意識を集中して」
突然背後から声が聞こえたと思うと、今度は背中に触れて来る優しい右手。その手から流れて来る魔力が、暴走していた魔法陣を安定させる。そして「お姉さんが出来るのはここまで」と言う言葉で、彼女は心も安定し、瞳の色が金色に変わったのであります。
「ありがとう"しよ姉"。いっくよ」
漆黒の槍に対抗する槍は、漆黒から純白へ。そして、純白を超え、限りなく光に近い綺麗な色へと進化したのであります。
「精霊、自分を分けたな?試してやるよ。コピー女」
「君だって同じ様な存在なんじゃないの?」
同時に放たれる無数の槍と槍。
いつもの流れでありますれば、相殺で終わる。ですが、今回は違う。クリエの放つ漆黒の槍を次々と砕き、光に近い槍が彼に向かって飛んで行く。「なぜだ?それほどアイツの力は強いのか?」と吠える彼の背後に、アペリラが現れ口を開く。
「ウウン。人間は強いんだ。ボクたちよりも遥かにね」
さわに気を取られ、精霊の行動を見落としたクリエは、背後からの衝撃波で空へと浮かぶ。同時に持っていた"腕輪"も投げるアペリラ。
「おねーちゃん、お願い」
「わかったわ」
アペリラの合図でしよが腕輪を変化させ、キューブ型の器の中に、クリエを閉じ込めたのであります。
今度の器は先程とは別物に近い。なぜなら、真の精霊の力と、全魔導士の力を掛け合わせた代物でございますゆえ。
必死で抵抗しているクリエでしたが、今回ばかりは完全に動きを封じられたと考えてよいでしょうな。
「フウ。とりあえず、しばらくは安心だね。お疲れ様、おねーちゃんたち」
「私はしよ姉がいなければ何も出来なかったよ。てか何でここに?」
説明しますと、彼女は一行と巨人の手の上に乗っていたのですが、シュラフの攻撃を遠くで目撃し、一刻も早くアペリラの所へと思い、腕輪を変化させ飛んで来たようです。残された仲間は走ってこちらに向かっている模様。そして、先程の戦いに加わったと言う事ですな。
「で。クリエを閉じ込める作戦は、彼の記憶の中で思いついたの。さわさん、羨ましい体験をしたようね」
「ち、違うもん。あれはそんなんじゃない……てか私のプライバシーはないの~?」
さわをからかいながらも、精霊化に導いた彼女。彼女の目的は、アペリラの力を借りて精霊化する事でしたが、既にアペリラは同じ事を思いついたと知り、2人を残してシュラフの方角へと歩き出していたのです。
「しよおねーちゃん。時間がなくて今はこれが限界なんだ。受け取って」
アペリラがしよに投げた"3つの精霊の玉"。振り返り両手で受け取ると、早速自分に使用し、瞳の色を変化させる。
「もう使わないと決めていたのだけれど……今度は正しい使い方をするね」
元気いっぱい胸いっぱいの笑顔が、精霊の心に届く。その姿を見て安心し、彼女に後の事を託したのであります。
・・・
・・
・
後の事。すなわちこのゲームの魔王でもあり、一行が止めなければならない存在。彼もまた精霊の力を操り、一行に牙をむく。あちら側では今、先輩を中心に皆が悪戦苦闘中。
「ちぃぃい。俺のカードが通用しねえな」「僕の武器もまるで歯が立たない」
「てかあんたらはもう下がりなさいよ。まるで戦力にならないわ」
なかなかどうして、ここに来て職業の選択が仇になっている男2名。
それもそのはず。賭博師と村人がラスボスに挑もうなんて、どう転んでも無理ゲー過ぎるのです。ついでに申しますと、遊び人もそうなのですが、今は精霊の力を備えたセクシー侍。彼女がいなければ、シュラフに対抗出来る存在はアペリラくらいなのです。
彼女達の前で責任を押し付け合っている男達。それを眺めながら、みあの隣りに立つ先輩。
「今のは声が張ってええツッコミやったで。でも彼らもよく頑張ってくれとるやん」
「そうですけど、正直パイセンも思ってるでしょ?邪魔だって」
「気づけへんかった?うちらに攻撃の矛先が向いてへんのを。あの子らは、シュラフの気をわざと引きつけとんのや」
「私はバカですから、そこまで考えて戦えません。ですが、あいつらの努力は理解しました。だから心配なんですよ。こんな戦い方がいつまでも通用しないでしょ?」
「せやな……後はうちが決着を着けて来るわ。危ないから、みあちゃんは2人を連れて下がってや」
先輩の意見を却下しようと口を開くも、瞬間移動で既に消えてしまわれた。
その数秒後に到着する、巨人、しの、アキト。お互いの情報を交換し、シュラフの攻略を探るも答えは直ぐに見つかった。要するに、精霊の力を無効化すればよい。すなわち、鉄の装甲を壊せば魔力も通用するし打撃も効果がある。さすればどうやって壊せばよいか?その答えはと申しますと。
「うちが装甲を壊す」
シュラフの胸の装甲に紅色の光が走る。しかし、装甲が切り裂ける事はなく、刀が装甲を滑っただけ。何故か?それは彼女自身の能力値が低かったから。深く言えば、攻撃を得意とした職業ではなかったゆえに生じた誤差、身内に本気で刃を向ける躊躇い、体力の限界などもございます。
「どうした?手が震えているぞ。入神状態に長時間耐えるのはさぞ辛かろう」
「黙って。うちはみんなに甘え過ぎていた分、今ぐらいはしっかりお姉さんしなくちゃあかんのや」
自分の限界を超える力を、精霊の玉に願う。大量に流れ込んで来る力に意識が朦朧となりながらも、唇を噛んで自分を保つ。その姿が見るに耐えないシュラフは、彼女の目の前で魔法陣を展開させる。慌てて手を交差させ、防御体勢になった彼女の右手を狙い、持っていた刀を弾き飛ばす。
「しま……んんっあぁぁ」
力を強制解除された彼女。瞳の色が元に戻り、入神状態の反動が体全体に伝わり痙攣しながら地面に倒れる。
「お前はまだ生かしてやる。今度は真精霊の子を産ませ……」
言葉の途中。顔の装甲目掛けて、光に包まれた平手打ちがシュラフに命中。もの凄い勢いで一行が集まっている所まで吹き飛んで行く機械装甲。
「最……低よ。シュラフさん」
金色の瞳が鋭く輝き、彼女の前で桁違いの力を魅せる。精霊に最も近い人間の登場でございます。
「その声は……妹?」
「いえ、姉の方です。先輩?もしかして眼が?」
「心配せんといて……時期に見える……強制解除は頭の中が変になってな……体力の消費が激しいんよ……まるで交わった後みたいにな」
「口だけは正常みたいですね…………後は任せて下さいますね?」
仰向けで身動き出来ず、荒い呼吸で大きな胸を揺らしながら、「頼んだで」とうなずく先輩。
刀を預かり、先輩の寝ている地面に魔法陣を残し、一行の所へ消える。
「ほんま……立場ないな……年上なのに……うちが年下みたいやわ」
独り言を呟く彼女の前に、静かに現れ答えを差し出す女性。
「そんな事ないですよ。もっちゃんさんは私たちのお姉さんです。この力にも慣れましたから、しよ姉の魔法陣ごと移動させますね。そしてあの子を導いて下さい。これはお姉さんにしか出来ないんです」
彼女の言葉が終わる頃、静かに眠りにつく先輩。普段では、滅多に魅せる事のない、自然体の表情を愛しく思い、頭を撫でる。
・・・
・・
・
一行がシュラフ攻略作戦を話し合っていた時。東の方角から鉄の固まりが流れ落ちて来るのを感知し、各々が散開しながら構えると、西の方角より全魔導士が現れる。
「ずいぶん派手な演出ね。全魔導士はなんでもアリなのかしら」
「ははは、ごめん。つい力が入っちゃって。さ、これで最後にしよう」
彼女は、みあとヒロに向かって精霊の玉を投げ、「あと2人、私と一緒に」と簡潔に言葉を作った。
「アキト、任せていいかい?僕はレベル1だし、ハクちゃんは職業的に向いてない」
「んだな。お前さんなら、その力を十分使いこなせるだろ?」
軽くうなずき、受け取った玉を右手の甲に埋め込むアキト。そして、道具袋から"仮面とクゥトラ"を取り出し、顔と頭に装備し叫ぶ。
「変身」
「「それ言っちゃうんだ。てかずっと持ってたんかい」」
どうやら、シュラフの武装が羨ましかったようですな。男性陣からはアキトが参戦する事となりましたが、女性陣はと言いますと。
「みあちゃんが使い。うちはみんなを護衛するわ」
「いいえ、あんたが使うの。でも私も戦うし、護衛なら巨人に任せていいわよね?」
大きく頭を下げ、戦力外メンバーの元へと歩き出す巨人。しのの手を取り、しよの元へと向かうみあ。全魔断刀を手にして口を開く。
「私はコレがあれば十分。精霊化になれなくても、装甲を壊すくらいなら出来るわ」
「みあちゃん……わかった。なんかあったら、うちがみんなを守ってあげるよ」
しのはみあから玉を受け取り、左手の甲に埋め込む。そして「チェンジ」と言いながら、左手を空へと伸ばす。瞳の色が金色に変わり、若干髪の色も変化したかのように思えましたが、こちらは気のせいでございます。
「……揃ったね。こっちは準備出来たわよ?いつまでそこで休んでるつもり?わざわざ待っててくれた事には、いちを感謝しとくけど、容赦はしないからね」
しよの瞳が金色に変化し彼を睨むと、ゆっくり立ち上がったシュラフが、両手に魔法陣を展開させる。
それが合図と悟った一行。各々の得意な方法で彼へと立ち向かう。
「ことごとく私の邪魔ばかり。お前らが同じ力を手にしたとて、この装甲は簡単に砕けはせんぞ」
・・・
・・
・
空に浮かぶキューブ型の器に、巨大な魔力と精霊力が流れ、クリエの動きを封じている。その近くで監視するアペリラ。少しだけ息が荒いのを見逃す事なく、彼女を挑発するため口を開く彼。
「どうした?オレを閉じ込めるのにほとんど力を使ったか?精霊ってのは案外もろい物なんだな」
「勘違いしないでよ。こっちも約束があるから力を制限しているんだ。その気になればキミを消し去る事くらいは簡単に出来るよ」
(この姿じゃなければね。今はここまでが限界か。大量の力を同時に吸われると、こんなに負担になるなんて知らなかったよ)
相手に弱みを見せてはダメだと知っている分、あくまで自然な態度で返す彼女。
「ただいま」と言う言葉とともに彼女の隣りへ姿を現すさわと先輩。
「お帰り……って、どうしたの?傷は酷くない?」
「慌てるな。ママは何処もケガしてない。きっと力の反動だ。人間なのに無理するからこうなるんだ」
慌てるアペリラを見て、器の中から腕を組みながら自然と口を開くクリエ。思わず器を見るアペリラと、優しく微笑み、先輩の手に手を重ねるさわ。
「さすが親子だね。勘違いされてまた暴れられる覚悟もしてたけど」
「ナンダ?望んでいるのならそうしてやるぞ?」
「お母さんを巻き込んでもいいの?ってこれじゃ~こっちが悪者扱いされそうだね。ねえ?少しだけ話をしない?」
「別に話す事なんて…………勝手に喋れ。だが、隙あらばいつでも消してやる」
減らず口、横柄な態度。それでいて親思いな少年。そう言った子はいつの時代でも存在するこの世界。彼もまた、その中の1人に過ぎません。ただ……特別な力を植え付けられて産まれて来なければ……今頃は普通の生活を送っていたでしょうな。しかしそんな非常識な存在でも、常識に変換して暮らしている人も存在するこの世界。少なくとも、ここで戦う一行はそうであり、彼の心を動かす事が出来ると信じているのです。
「あなたはお母さんに捨てられたと思ってるのよね?本人が言ってたわ。でもね、それは違うのよ」
「実際いなくなった。捨てたんじゃなかったら逃げたんだ。オレが普通じゃないから」
「……確かに……逃げたと言われたら…否定は出来ひん……けど」
意識を取り戻した先輩でしたが、体の自由がままならない。せめて顔だけでもと、クリエに視線を合わせて語り出す。
先輩が精霊の子を作る実験体にされていた事。先輩にしか精霊の子が産めない結果となり、監禁され実験道具にされようとしていた事。シュラフの実験の末路が、人類滅亡に結びつくかもしれない危険を感じ、阻止しようと決意し、行方を暗ませた事。そして。
「あなたをあいつから取り戻す力を手に入れ、いつか一緒に暮らしたいと願って今日まで生きて来たわ」
「な、ナニを今さら……オレはパパの言う事しか聞かない。そんな言葉なんて……しんょぅ」
「騙されてあなたを宿したのも私。精霊の力を持たせて産んでしまったのも私。結果的にあなたたちから逃げたのも私。全部私を責めてもらっても構わない。でも、もう何を言っても遅いかもしれない……けど…………私は……ずっとあなたを愛し続ける」
溢れ出す感情と涙が、言葉に重みと強さを与える。
が、クリエは視線を逸らし、ただ黙るのみ。そんな中、アペリラが彼の言葉を否定する言葉を投げる。
「さっきパパの言う事しか聞かないって言ったけど、ホントにそうかな?キミはボクをこっちの世界に来れないようにロックしたよね?それって、パパの実験の邪魔をしたって事にならない?」
「そ、それは……」
彼女の問いに慌てて否定しようとするも、言葉が見つからない。逸らした視線が先輩に戻り、さわが後押しする。
「お母さんの話しを聞いて、納得出来る部分もあったでしょ?少なくとも誰が正しくて、誰が間違っているのかって事くらいは。ね?」
「…………パパの装甲は精霊の力じゃなきゃ壊せない。だが、壊せても魔力がある限り再生する。パパを止めるなら、魔力切れにするか、魔力を断つ事だ」
息子の言葉を聞き、重ねてくれていたさわの手を、軽く握る先輩。その仕草に優しく答え、クリエに感謝を述べるさわ。彼は何も答えず、背を向け、そのまま動かない。
ただ、口元は少しだけゆるんでいるようにも見えたのでございます。
・・・
・・
・
機械の装甲を身につけている分、スピードが落ちると思いきや、むしろ早くなっているシュラフ。
しのが真っ向勝負で装甲を砕きにかかるも、武術のレベルは互角で装甲まで拳が届かない。
しよが魔法で応戦するも、すぐに相性の悪い属性魔法で攻撃を相殺し、反撃される。
背後から奇襲を狙うアキトでありましたが、瞬間移動でまた仕切り直しになる始末。
その流れが繰り返され、刀を構えたまま攻撃に転じれないみあ。
「焦っちゃだめ。私が動けないって事は、策を練りなさいって事よ。って、私が苦手なやつじゃない」
『おねーちゃん、聞こえる?聞こえたら心で返事をして』
イライラする頭の中を少女の声が支配する。その声で冷静さを取り戻す彼女。感じた通り、心で返事をする。
『その声はアペリラね?そっちは片付いた?』
『ウン。そっちの状況は?』
『絶賛交戦中よ。でもなかなか装甲が壊せなくて困ってるわ』
『装甲を壊してどうするつもりだったの?』
みあはシュラフを倒す作戦をアペリラに伝えると、クリエから教わった案を伝える。言わば、作戦の軌道修正であります。装甲を破壊する。これは必須条件であり、変更個所は、破壊後に魔力を断つ。それが唯一可能な人物は、偶然にも彼女……正式には彼女が持つ刀であります。
『ボクがそっちに行こうか?』
『いいえ。最後くらいは私らでなんとかしてみせるわ。とは言え、あなたの力を頼ってるんだけど。ごめんね、負担かけてるみたいで』
『おねーちゃん、知ってたの?』
『その声聞けばね。少しだけ元気が足りないし。でも、そっちの方が大人っぽくていいわよ』
「ワケがわからないよ」と言葉を返しながらも、後の事を任せるアペリラ。
「ちゅー事は、こちらも長くは戦われへんな。てか、さっき壊したのに再生しよったし」
「そうね。でもアペリラの言葉でシュラフさんを確実に止められる事が解った」
「サポートは任せろ。全てお前に合わせる。やれるか?みあ」
皆に伝えなくても既に理解済みと知った彼女。大きく深呼吸をし、魔力と精霊力を同時に繋ぐ。
黄色い光を両足に纏わせながらも、両手に握っている刀には紅色の光を纏わせ、シュラフを睨む。
「さっさと片付けて、ゲームクリアよ」
勢いよく地面を蹴り、黄色い閃光が機械装甲へと走る。
両手から放たれる黒い闇魔法が彼女に迫る時。仮面の男が彼女の前方に現れ、前宙しながらシュラフの魔法を吸い込み奪う。
彼女は迷わず空にいる彼の真下を通り過ぎ、シュラフの目の前まで辿り着くと、サイドテールを靡かせて、桃色の光の剣を握った女性が、彼女の右隣りに現れる。
「しよ、合わせられる?」 「もちろんだよ。みあ」
左足を力強く地面に着け、刀先を足下からすくい上げるようにして、シュラフの装甲を狙うも、寸での所でかわされ、勢いのあまり、刀が両手から空へと舞い上がる。
自然と刀に目線が流れるシュラフ。しかし、みあは左手に全魔断刀改を持ち、彼の右腕付近を狙うと同時に、桃色の光の剣が彼の左腕を捕えようとしていたのでございます。
「盗賊と全魔の挟み撃ちか。しかし遅い」
両手を彼女達に向け、至近距離で魔法を放つシュラフ。が、左手の方向にいる彼女は、同じ魔法で相殺しつつ剣を振り下ろそうとし、右手の方向にいた彼女は、既に姿が消えている。
「んっ。硬いよぉ~」
シュラフの左腕の装甲に剣が届くも、力不足で装甲が壊せない。
「貴様。全魔導士ではないな」
「さて、私は誰でしょう?」
「さわさん、うちが押し込む」
シュラフに少し微笑み、霧の如く姿が消えて行く彼女の背後から、赤色の光に包まれた左拳を、彼の左腕に全力で打ち込むしの。
避ける事もままならず、見事装甲は破壊され、そのまま東の方へ体が傾き流れ飛ぶ。
「な、なんだこの空間は」
「遅いと言ったわりには、私の動きは見えてなかったのね」
シュラフが向かっている行先、それは彼女が全魔断刀改で開いた次元の狭間。成人男性がすっぽり入るくらいに、地面から空に向かって楕円を描くように裂けている。
しのが押し込むと言った意味。もうお解りですな。
「片腕だけでも封じる」
落ちてきた全魔断刀を空中で握り直し、遠心力を加えて刀を振るみあ。見事、シュラフの左腕の魔力を断つのです。
一瞬、痛みを覚悟した彼でしたが、脳に何も伝わって来ない。疑問に思うも理解は直ぐに出来た。
「貴様、魔力を」
「はい、正解。そしてもう入ってるから」
言葉を言い終わる頃には地面に着地し、刀を彼に向けつつ、再び地面を蹴る彼女。
シュラフは次元の狭間に吸い込まれ、みあも後を追うように中へと進み、姿を消したのであります。
・・・
・・
・
一面灰色に染められた空間の中で、戦い続ける男女。
互いに魔力をぶつけ合い、距離を詰める事は困難な状況。
「やはり片腕だけではこの程度か」
「ならもう諦めたらどうですか?とは言え、片手だけでも十分強いじゃないですか」
「貴様こそ何を狙っている?全魔導士よ。本気を出さないのか?それとも本気の一撃を既に用意しているのか?」
考えを先読みされ、右手の甲で輝いている精霊の玉を、彼に見せながら口を開く。
「ええ。ここなら全力を出しても被害はない。これで最後にしてみせますよ」
「そうね。ただし、こっちは2人でだけど」
全魔導士の隣りに盗賊が立ち、全魔断刀を構える。
「よかろう。だが、これだけは答えろ。真精霊とはどう言う繋がりだ?」
「あの子は私たちの友達であり」 「あんたと同じ、家族みたいなもんね」
「成程、少し興味が湧くぞ。ならば私が真精霊を手に入れ、繋がりのある貴様らに精霊の子を」
「あなたの頭の中ってそればかりなの?ほんっと最低の変態ね」
「パイセンの旦那になった理由がなんとなくわかった気がしたわ」
頬を赤らめて彼に罵倒するしよ。若干、紅色の玉の輝きも、少し濃くなった感じがするようなしないような。
一方みあは、変態脳を共感し合えると言う概念から、夫婦になれた事を理解する。(失礼やな。byもっちゃん)
先輩からのツッコミも入りました所で、正真正銘のクライマックスでございます。
「狙いは装甲の破壊と魔力を断つ事。理解していれば対処も可能」
シュラフが装甲を切り離し、魔力で6枚の装甲を体の周りに浮遊させる。
「みあ、私は一度きりしか使えない。この意味わかるよね?」
「上等よ。安心して暴れて来なさい。仲間意外に汚された恨みも込めてね」
「その言い方じゃ色々と誤解されるから……じゃ、行って来る」
右腕を真横に払い、紅の玉から大量の精霊力を解放し、左腕に3つの魔法陣を展開し、腕の中に入るよう、リング状に変化させた。
そして一瞬うつむいた彼女が、目元に手をやり、シュラフに向かって走る。
彼は闇属性の魔法を彼女に向かって放つも、避ける事もせず直進して来る。数発彼女に着弾するも、それを無効化させ、彼の手前数十センチで左腕を構える。
「考えたな。右腕の力は、私の装甲と同じ魔力の無効化に使うか」
「最後だから1つだけ教えておいてあげる。私の虹彩は何色に見える?」
「アンバーアイズだと?貴様、入神状態ではないのか?」
彼の姿が彼女の"綺麗なアンバー色"の瞳に映り、答えが間違っていた事を知る。
彼女の虹彩は、金でもなければ、茶色でもない。日本人にしては珍しい虹彩色。
精霊化状態であれば金色になっているはずの彼女でありますが、実は未だに未解放のまま。
「ただのカラコンよ」
彼の一瞬の思考のずれをチャンスとし、アンバーアイズをゴールドアイズへと変化させる彼女。
そして、構えていた左腕の魔法陣が高速回転し、光魔法を精霊力と混ぜ合わせ放つ。
彼は近くの装甲を盾にして攻撃を食い止めるも、勢いは止まらない。装甲が砕け危険を感じた彼が、瞬間移動でこの場から消えると同時に、彼女の魔法陣が役目を果たし、粒子状になり、1つ消えたのであります。
「要は当たらなければ私の勝ちだ。奴らは時期に空っぽになる」
「そうね。だからこれで本当におしまい」
瞬間移動で移動した彼の背後に、瞬間移動で姿を現した彼女。
独り言に答える形で彼を振り向かせた矢先。右手の掌に、巨大な玉を造り出し、ありったけの精霊の力を解放し、ぶつける彼女。
「間に合え」
必死の抵抗で、残り5枚の装甲を盾代わりに並べるシュラフ。
「壊れてぇぇぇ」
次々と装甲が砕けて行く中、徐々に玉が小さくなって行く。残り2枚の所で勢いが止まるも、右手の甲にある精霊の玉に負荷を掛け、小さくなった玉を光の剣へと変化させ、左腕の魔法陣の力と混ぜ合わせる。そして"2本の刃"が装甲へとぶつかるのです。
「みあ」
「このまま押し切るわよ、しよ」
みあの全魔断刀が、彼女の力に加わり彼を追い詰める。
残り1枚の装甲を砕き終える頃には、光の剣と魔法陣も消滅……精霊力と魔力を使い果たした全魔導士。
力の負荷が掛かり、灰色の地面へと崩れ落ち、身につけていた衣装も、元の布へと戻ってしまった様子。
しかしシュラフは、装甲を囮に彼女達から距離を置き、装甲の再生を試みている。
「忘れていないか?お前の相手は彼女達だけではないぞ?」
「き、貴様は……何だ?力が奪われる」
シュラフの目の前に突然現れた仮面の男。
彼が精霊の力で最も得意とする能力……それは吸収。
「一口に精霊の力と言っても様々だ。力、時、吸収、変化……それを自在に操る事が出来るのが精霊」
「貴様は……お前は一体……」
「望んだ答えでなくて悪いが、俺は人間だ……彼女の力を借りて、奪う能力が得意なだけだ」
彼がシュラフの元から姿を消すのと入れ違いに、みあの全魔断刀がシュラフの胴体を貫く…………
「悪いわね……2人じゃなくて……」
彼の魔力が完全に消滅した事を確認し、灰色の地面に仰向けに倒れる彼女。
もはや抵抗もせず、その場に立ち尽くすシュラフ…………
「やったよ……みんな…………パイセン」
彼女達を遠くで見守り、仮面を外すアキト。「おつかれ」と声には出さず、心の中で呟く。
疲れ果て、目を閉じ休む彼女達。なんとも無防備過ぎではありますが、彼を信じているから出来る行動でありましょう。
「お前達らしいよ全く。。。さて、これで残る課題はあと1つだな」