5話_そんなスキルありましたっけ?
ゲームの世界に来て、数ヶ月が過ぎました。
道中、様々なイベントがあったり、しよちゃんの情報収集をしたり、あっと言う間の日々でした。
その中で変わった事と言えば、私達が暮らしていた元の世界との通信、細かく言うと、アペちゃんと連絡が取れるようになった事ですかね。
きっかけは、ヒロくんから手渡された小さな玉でした。
お話は、メタル系の魔物に勝利した夜まで遡ります。
宿屋で解散した仲間達。序盤での荒稼ぎのおかげで、1人1部屋ずつ使用して休む。
私は戦闘で汚れた身体を、シャワーで念入りに洗い流し、バスタオル姿でくつろぎ中でした。
コンコンと木の扉を叩く音が、静かな部屋に心地よく響き渡り、私はとりあえずドアの近くまで足を運び、返事をします。
『はーい。どちら様?』
『ごめんしの。少し相談に乗って欲しい事があるんだ。部屋に入っていいかい?』
声の主はヒロくんでした。彼から相談なんて珍しいなと思い、私は何も考えずに返事をし、彼を招き入れようとしました。ええ。お察しの通り、ドジを踏んだのです。
『別にかまへんで、どうぞ』
『お邪魔し……ごめん。また後で来る』
『ちょ、ヒロく……へ?……はぅ、死にたい』
と。お約束のイベントを回収し、お話しを本題へ進ませるとですね。
『この玉なんだけど、心当たりあるかい?』
『これって、アペちゃんの?』
『なるほど。やっぱり、あの子は本物だったんだ』
『一体どう言う事?説明してくれへん?』
私は彼から、アペちゃんの玉の事を詳しく聞きました。とは言え、本人が夢うつつの出来事だったので、言ってる内容に確証はないと言われましたが、ここにある玉は紛れもなく本物であり、彼女が造り出した"精霊の玉"。
簡単に説明すれば、精霊力の結晶であり、彼女の一部であると言う事。それを彼女から受け取り、使用方法は、私に聞けばわかると言われたそうです。
『なぁ、ヒロくん。こんな事言えば軽蔑するかもしれへんけど、この事は2人だけの秘密にしてくれへん?』
『ん?別にいいよ。何か考えがあっての事なんだろ?』
『おおきにな。多分やけど、これは後に必ず必要になって来るかもしれへん』
『わかった、とりあえず使い方はわかるかい?』
『うん。でも今すぐは使えないかも。簡単に説明するとね……』
そして現在。私達は、最も重要な魔物と遭遇したのです。
~ Battle Bet Quest 5ミシシッピ_そんなスキルありましたっけ? ~
「悪い事は言わん。引き返せ。さもなくば、命のやり取りになる」
私達の進む先に、"巨人系"の魔物が門番のように立ち塞がります。
戦闘準備に入る、みあちゃん、アキトくん、ヒロくん、そして私。
残りのメンバーは離れた場所に待機しつつも、いつでも交代出来るように構えます。
「わざわざ忠告してくれるって事?それとも私らじゃ相手にならないって言いたいのかしら?」
「威勢がいいな盗賊。だがやめておけ。この先には、もはや立ち入るな」
「ヒロくん。どう思う?」
「多分、思ってる事は同じだと思う」
「なら、まずは穏便にだな。なぁアンタ。俺達は、きっとこの先にいるヤツから仲間を救わなきゃならない。その理由もお見通しで話しているのか?」
「仲間?……"金色の瞳"の事か?」
金色の瞳?どこかで聞いた事あるような響きだけど、それは相手の勘違い。私達はまず、話しが通じるかどうかわからないけれど、この先に向かう理由を説明する事にしました。
とは言え、敵である相手に仲間の居場所なんて……期待はしていませんが、意外にも聞く耳は持ってくれました。
「成程。では全魔導士の為に命を掛けて戦って来たと言う訳か」
「違うわね。もっと単純な答え。大切な仲間を救いたい。それだけよ」
みあちゃんの言葉にうなずく一同。
「お前達の問いの応えは、おそらくこの先にある。"シュラフ"と言う者を探せ」
「シュラフ?そいつが俺達の仲間を?」
「断言は出来ないが、ヤツはここ数ヶ月で異常な力を手に入れた。その原因がその者の力であるのなら、確信はある」
巨人の言葉が事実であれば、シェラフと言う者に会えば、彼女の居場所もわかる。
ようやくゴールが見えて来た気がします。ですが、この先へ進むと言う事は、つまり……
「あの。私達は貴方と戦わなくてはいけませんか?正直、恩を徒で返すような事はしたくありません」
「…………」
私の問いに、悩み困っている様子。そこから察するに、相手は元から戦う意思はないみたいです。
となれば、こちらからもう少しお願いすれば……
「そんな事が許されると思ってないよな?オマエ」
突然の声に一瞬驚き、仲間達は声の出所を探します。が。姿は何処にも見当たりませんでした。
それもそのはず。ここは荒野でありながら林がある場所。隠れる事は造作もないこと。
「やはり監視済みと言う訳か。聞け。まだ人間を通すとは…」
「ダマレ。オレをがっかりさせるな」
姿なき者の力強い声が、再び辺りに響き渡ると同時に、空が黒く染まって行くのが見えました。
「ダメ!みんな集まりなさい!」
誰よりも早く危険を察知したもっちゃん先輩が、私達に指示を出し、道具袋から広範囲型の防御アイテムを取り出し、空へと投げ、青白い光の防御壁を展開させました。
その光はドーム状になり、仲間達を包み込みます。まるで大きな傘のようでした。
「巨人のあんた。うちらから離れるの!早くしないと巻き込まれるわ」
「遊び人。ヤツを知っているのか?」
「そんな事を答えてる暇なんてないわ。はよ逃げて」
「見くびるな。お前達こそ、そんな柔な防御では貫かれるのがオチだ」
「もはやオマエたちに逃げ場はないぞ。ほら、耐えてみせろ」
黒く染まった空の正体。それは無数に広がる漆黒の光槍。
その槍が…………私達に向かって雨のように降り注ぐ。
「パイセン。さっきのもう1つ」
みあちゃんの言葉に反応し、もっちゃん先輩は防御アイテムを投げる。
足下に黄色い光を展開させ、空に向かって高く跳ぶ。空中で防御アイテムをキャッチして空を睨んだ彼女。
既に槍もこちらに向かって来てる中。彼女は、巨人の頭上付近でアイテムを投げ、2枚目の防御壁を作り出しました。
「巨人。さっきのお礼よ」
「ふっ。粋な真似を」
その数秒後。防御壁に刺さる無数の漆黒。しかし。容赦ない凶器の雨は、とどまる事を知りませんでした。
「ん~。これじゃあまり持たないな。次の手を考えるか」
「なら私が、ありったけの力を使ってみるよ」
「ほほう。槍には槍ってか。いいぜ。その賭け乗った」
1枚目の防御壁から外に出たハクトさんとさわさん。彼女の頭上に桃色の魔法陣が現れ、両手を槍の方向へと向ける。それと同時に魔方陣も槍の方向へと移動し、眩しく光り出しました。
「あかん。妹、そいつはあんたじゃ無理や」
「でも、やらなきゃみんなを救えないでしょ?打ち勝てなくても、相殺くらいは出来ます」
「ハクトはん。頼むから妹と一緒に戻って来てくれへん?」
「悪いな姉御。俺は彼女に賭けたんでな」
「っもう。あの子たちったら」
どうやらさわさんは、ものまねのスキルで、同じ量の槍を造り出そうとしているようです。しかも彼女の特殊能力。リミット解除を使用して、全ての力をこの一撃に込めようとしているの。
「あ、あれ?何でまね出来ないの?……てかこの能力が解らないよ」
「せやから言うたやろ。妹、1度しか出来ひんから、よう感じてまねるんやで」
「え?もっちゃんさん」
気づけば、さわさんの後にもっちゃん先輩が立っていて、さわさんの背中目掛けて両手を添えました。
「こ……これって……」
「考えんでええ。もう出来るやろ」
「もっちゃん……さん。あなた……ううん。ありがとうございました」
意識を高め、魔方陣から漆黒の槍が姿を現し始めます。
「さわっち、もう1枚目が壊れそうよ?間に合う?」
「はい。頑張ります」
さわさんの身体全体に、桃色の光と金色の光が現れ、大量の槍が出来上がった時。
漆黒の槍は、防御壁を貫き飛んで来ました。
「守り抜くわ。絶対に」
両手に力を込め、槍を放つさわさん。
万が一に備えて、ハクトさんがさわさんの盾になり、空を見据えます。
「アイツは……ククク。これは面白い」
ぶつかり合う漆黒の槍と漆黒の槍。双方砕け、次々と消滅して行く。
その光景を何処かで眺め、姿なき者があざ笑う。
一方のさわさんは、限界まで力を高め続け、苦痛の表情を浮かべます。
「ここまで来たら絶対負けるんやないで。MPゼロになったら、うちの全て持って行ってええから」
「は、はい。てか、今もその両手から注いでくれてるの知ってます」
「……妹。ならあんたは負けるはずない。せやろ?」
「当然ですよ。ここで勝負に出ます。もっちゃんさん、行きますよ?」
「やん。妹ったら、みなの前でイクだなんて。大胆な子」
「はいはい。そっちは後で魅せますんで、真面目にお願いします」
「みなの前で?」
「それは嫌です」
もっちゃん先輩の唇付近に紫色の光が現れ、さわさんの左頬に軽くキスをする。
「うちからのご褒美や、これでしばらく能力が底上げされるで」
身体全体に纏っている桃色と金色の光が強くなり、さわさんの全身が火照り出す。
先輩の特技と理解し、彼女は一瞬目を閉じ、力強く空を見ると同時に、右手の甲に左掌を重ね、漆黒の槍に変化を加えます。
漆黒の槍は”純白の槍”へと姿を変え、全ての闇を駆逐して行く。
「アノ能力をここで吐き出したとはな。……もはや救う術はないぞ?女」
・・・
・・
・
はぁ……はあ…………はぁ……どうにか……みんなを…………ま……
薄れて行く意識、感覚がマヒして崩れて行く身体。
限界を超えた能力を、必要以上に注ぎ過ぎた反動なのね。でも悔いはないよ。だって守りたい人達を守れた。おかしいな?私ってそんなタイプの人間じゃないのに。ああ。やっぱ彼との出来事が…………
「妹。しっかりし」
「姉御、俺が彼女を」
もっちゃんさんが、私の身体を必死で支えてくれていた所に、ハクトさんが振り向き、私を軽々と抱き抱えてくれた。その頃には、私の意識はもうなかったけれどね。
「見事だ、まさかヤツと互角に渡り合えるとはな」
「これで互角なら、次は確実にやられるわよ?だって……うちにはもう……」
巨人の言葉に本音を零したもっちゃんさん。うなだれて何かを悔やんでいるようだった。
気がつけば、私の所にみんなが集まって来て、安否を気遣ってくれている。
「少しは休めたか?まだオレを愉しませてくれる力はあるんだろうな?」
その最悪の声を耳にし、私を抱き抱えてくれているハクトさんを中心に、仲間が円を描く形になって、私を守る陣形を作ったの。
「厄介なのは、相手が見えない事だな」と言いつつも既に攻撃の準備を始めるアキトさん。
「なら僕がなんとかしようか?」と厄介事を買って出ようとしているヒロさん。
「まち~な。アキトくん、下手に相手を刺激せんとき。それと、ヒロくんのスキルは"あの子"には通用せえへん。さっきの妹の件は特別なんよ。せやから今は、別の方法で生き延びる手段を考えてくれへん?」
いつになく真剣なもっちゃんさんの言葉。それと同時に気づき始める仲間達。
そう。もっちゃんさんは、あの子が何者なのかを知っている。
でもね、そんな事は今はどうでもよかったの。
だって、この状況をどうにかしない限り、事は進まないと知っていたから。
「なー?どっかで聞いとるんやろ?そんなに楽しみたいんやったら、うちとさしで勝負せえへんか?それとも隠れて攻撃する事しか出来ひんタイプなんか?」
「し、しのちゃん。いきなり何言い出すんよ?」
「ククク。随分な言いようだな。だが、お前の手には乗らんぞ。このオレが人間の相手なぞ」
「ではこの者の相手は我に任せて、早々に去ってはもらえぬか?」
姿なき者と巨人の会話を聞き、満足気の表情を見せたしのさん。すかさず巨人の方へ歩き出し、言葉を投げる。
「なぜ?貴方とならわかり合えると思っていたのに」
「勘違いするな人間、我はこの場所を守る者、進むなら我を倒す事だ」
言葉を言い終わる手前から、力強い右の拳が、しのさん目掛けて降り降ろされる。
その拳をバックジャンプでかわし、仲間の近くに着地した。
外れた拳は地面を砕き、大きな音と砂誇りが舞い上がる。その音で私は意識を取り戻したわ。
「よ。お目覚めかい?」
「ぁれ?……身体が動かないや。……どう?よかった?」
「冗談言えるなら大丈夫だな。だが、もうしばらくじっとしといてくれ」
「うん。ありがと」
ハクトさんから今の状況を説明されて、事態はまだまだ深刻なんだと理解したけど、今の私はみんなの足手まとい。スキルだってもう…………微かに残っている。これならもしかして。
動かない右手に意識を集中して、残りの力をそこに集める私。
「ハクトさん。もっちゃんさんと話がしたいの……彼女の側まで……私を」
・・・
・・
・
冷徹な視線で見下ろす巨人と、恩恵の視線で見上げる武道家。
何かを悟ったのか、信頼からなのか、ナイフを構える盗賊。
その背後に遠距離攻撃の準備に入る男が2人。
「これで……いいのよね?」
「恩を仇で返す選択になるが、今はこれしか方法がない。許せ」
みあの問いに答える巨人。謝罪の言葉を耳にし、少し安心した彼女。大きく深呼吸をして、迷いを断ち切ったのであります。
「よく聞いて。私が突っ込むから、合図をしたら私の左右ギリギリを追い越すように撃ってちょうだい」
「何言ってるんだよ?当たったらどうするんだ?」
「大丈夫。あんたもアキトも得意なんでしょ?弓」
「やってみるしかないぞヒロ」
「てか僕は職業違うだろうに」
「でも装備はそれじゃない。私は信じるからね。……行くよ」
両足に魔方陣を展開させ、飛び出すみあ。構えるアキトとヒロ。
「女独りを盾に使うか?」
「悪いけど、私の足について来れるメンバーなんていないの。でもね、戦ってるのは1人じゃないっての」
ナイフの持つ手を背中に持って行き、合図を送るみあ。
「お前なら出来る」「そりゃどうも」
2人は同時に矢を放つ。みるみる彼女に近づくが、決して避ける事はしない。
そして、彼女の左右から矢が抜けて行くのを確認し、ナイフを構えるみあ。
「何?飛び道具か?」
「残念。大魔法よ!きっと」
「だと思ったよ。言っとくが大魔法ではないからな」
ヒロが奇跡を発動させると、姿なき者の見えない視線が彼に注がれるのです。
「ン?上位クラスか?アイツとなら愉しめそうだな」
「それは無理だよ。君は巨人の言った通り、ここから去るんだ」
姿なき者の背後から、見知らぬ声と共に振り下ろされる一太刀。
異様な力を感じ、姿なき者は、かわさずとも受け止められた太刀を、避けたのでございます。
「オマエ、その力をどこで?」
「聞こえなかったのかい?ここから去れと言ったんだ」
見知らぬ者が刀を構え、鋭い視線で姿なき者を威圧する。
・・・
・・
・
覚悟はしていた。いつか出会うって、いや、出会いたいと望んでいた。
でもそれは、あの人まで辿り着かないと会えないと思っていたのに。
願いは叶ったけど、あの力を失った。それは私の希望の力。みんなを救うとっておきだったのに。
おまけに今度は巨人と戦闘する始末。しのちゃんの作戦なんやろな?せやけど、今の作戦は得策やないんや。だってあの子は、まだどこかで見ている。このままここで戦ってたら、今度こそあの子に。
打つ手が見つからない。情けない自分に腹を立て、拳に力を込め震え出していた。
「らしくないですね?姉御はみんなの先輩なんでしょ?もっと堂々としてくれなくちゃ」
「ハクトはん……うちはな、そんなに強い女やあらへんのよ。かんにんな。こうなる前に話しておくべきやった」
「んじゃま、この一件が済んだら話して下さいよ。とりあえず先に、彼女の話しを聞いてやって下さい」
「妹、気がついたんか?」
「もっちゃんさん、あなたなら……この力で……あの子を止められますか?」
動かない右手をどうにか差し出そうとしている妹。彼女の言葉の意味を理解し、直ぐに右手を握りしめると、少しだけ力が流れて来るのを感じた。
「おおきにな……つりは返してもろたから、安心して休んどき」
その言葉が答えだと知り、彼女は微笑み、眠りに入る。
「俺にはさっぱりですが、話しはまとまったようですな」
「ええ。ハクトはん、ここじゃみんなの戦いの邪魔になるから、場所を変えるで」
彼を導き林へ駆け出す。林の入り口付近まで辿り着くと、私は右手を強く握り目蓋を閉じる。足は止めずに林の中へ入って行き、目蓋を開くと当時に金色の光が身体に現れる。
「な。姉御?そんなスキルありましたっけ?」
彼が驚き足を止め、若干変化した姿を凝視する。まあ無理もないんよね。この力は借り物の力。本当の使い方なんて実は理解していない。
「でもな。この瞳ならあの子を見つけ出せる」
彼の質問には答えず、意味不明な言葉を口にし、思考が追いつかない様子だったけども、いつもの事だと安心してくれたようや。
「とにかく俺は姉御に付いて行きますよ。"金色の瞳"に賭けて」
「おおきにな。でもうちらは戦うんやない。交渉や。遊び人と賭博師のやり方でな」
・・・
・・
・
アイツは一体誰だ?まったく気配がなかった。それにワカラナイのはその力。アイツではなく刀に感じられる。そんな物、この世界には存在しないはずだ。
「考え事かい?無理も無い、君はまだ若いし知らない事も多い。だから悩む」
「ダマレ。オマエ、本気で消すぞ」
「見つけたわ。え?何で戦士がおるん?」
クソ。まだ力が残ってたのか。でも消えかかった力に恐れる事はない。
まずはあの生意気なヤツ……を?
「君は僕から目を逸らした。次は確実に仕留める事が出来る」
見知らぬヤツは、一瞬の隙を逃す事無く刃をオレに突き立てる。
確実に胸を貫かれたが、そんな事はどうでもいい。ナゼナラ、オレの手の届く場所に入って来たからだ。
「あ~もう。あの戦士ったら世話が焼けちゃう」
見知らぬヤツに拳を浴びせる手前。女の掌から放たれた紫色の波動が、戦士に命中し姿が消えた。
検討はつくが、力の無駄遣いだな。これで本当に底をついただろう。入神状態が解けて行くのがわかる。さて、先にあの奇襲野郎を消す予定だったが、アイツが飛ばして行方不明だし、残ってるのは男1匹と女が2匹。さっきオレの攻撃を受け止めた女は無力のようだな。ん?コイツの顔、見覚えがあるような? あ。
「ナゼここに全魔導士がいる?アイツは今も……」
『そこまでだ。余計なおしゃべりはやめて、戻って来い』
言葉の途中、頭の中で響く声。ったく、嫌なタイミングだ。色々と半端だしな。ま、楽しみは最後まで取っておくのも悪くないか。
「今も?じゃあ、しよちゃんは"あの人"といるのね?」
「フ。遊んでやる気になったが、命令だからな。続きはまただ」
「ちょっと待ちなさいって言いたい所だけど、今は帰ってくれた方がこちらも助かるわ」
無言で見つめ合うオレと女。
……そんな目で見るな。オレを捨てたくせに……
見つめ合った瞳を先に逸らして、オレはこの地を後にした。
「どうやら交渉する時間も貰えなかったようですな」
「いや、これでええんや。さて、次は向こうを止めに行かなくちゃ。ハクトはんは妹と後でゆっくり来な」
「そうですね。今の彼女に、これ以上の負荷は毒ですしね。姉御、みんなをお願いします」
・・・
・・
・
さて。時は少々遡りまして、巨人戦の行方はと言いますと、ヒロが奇跡を発動した数秒後の所から物語は再開します。
一行の武器が七色の光に包まれ、武器の状態を変化させた彼。して、このスキルの名はいかに?
「とりあえず"僕たちの武器が、お前の弱点になる"奇跡だ」
「センスなさすぎね」
走りながらツッコミを入れるみあにヒロが「ほっとけ」と叫ぶ。
しかしそんなやり取りも、シリアスに受け止め口を開く巨人。
「そんな都合のいい事があるはずがない」
「あるんだよ。これが」
巨人は矢から逃れるために飛び上がるも、軌道を先読みしたみあが、巨人の足にナイフを突き立てる。
「ごめん、後で回復してあげるから」
強烈な痛みに顔がゆがむ巨人。彼女の攻撃を耐えながら強気に声を上げるのです。
「ぐ!こんな一撃で私が」
「ちゃうな。二撃や!」
巨人の背後から振り下ろされる赤い拳。彼女達は同時に着地し、勝利の言葉をハモるのでした。
「「ま。こう言う事ね」」
意識を失った巨人が地面に崩れて行く。大きな地響きと砂誇りが一面に広がり、一行は武装を解除する。
「ヒロ。早く白になって」
「あ、ああ。ちょっとまっ」
「その必要はないよ。僕がすぐに楽にしてあげる」
突然、姿を現した謎の戦士。あいや、実はもう登場していたのですが、一行には初対面。
その者が、巨人目掛けて駆け出し居合い抜き。予測不能の出来事に悲鳴を上げたしの。
「ヒロ!白はいいから奇跡を早く。お願い!巨人が死んじゃう」
慌てて彼が巨人に奇跡をかける。しかし何も変化しない。
「何で?巨人に魔力が効かない?」
「とりあえず落ち着いてよ。巨人をよく見て。血も出てなけりゃ傷口も塞がってるでしょ?」
確かに。彼に切り裂かれたであろう巨人の体には、何事もなかったかのように傷口もございません。
戦士の言葉で冷静さを取り戻す一行。ひと呼吸おき、戦士に対して戦闘態勢に入ります。
刀を納め、敵意はないとアピールする戦士。その姿を確認し、弓を構えたアキトが彼に質問する。
「巨人に何をした?仲間のスキルが通じないなんて事は、正直信じられない」
「そうだね。とりあえず説明するつもりだけど、どうせなら彼女が来てからにしないかい?」
戦士が林を指差した先に、こちらに走ってくる女性が見える。
一行は戦士から警戒心も解き、彼女が到着するまで、静かに待つ事となりました。
・・・
・・
・
パイセンの呼吸も整った所で、戦士なのに怪しげな刀を装備した男が、私らの目の前で再度抜刀し、切先を地面に向けると、握っている柄を回転させて刀を持ち替え、物打まで埋まるくらいに刀を地面に突き刺したわ。当然、意味不明な行動だと思うわよね?そう私は思ったの。だから、ちゃんと説明してよって目で男を睨んだわけよ。
「すべての答えはこの刀。僕は巨人を斬ろうとしたんじゃない。巨人の"魔力"だけを斬ったのさ」
「魔力を斬ったですって?そんなスキルなんてあんの?」
思わず大声で叫んでしまったけれど、彼が微笑みながら首を振って否定した。
どうやら戦士には、そんなスキルは持ち合わせていないみたい。
「じゃーあんたは戦士じゃないとか?実は上位クラスの職業なの?」
「待って、みあちゃん。この人がさっき言った言葉を信じるとすれば、その刀に能力があるのかも?」
「お。さっきは驚かせて悪かったね。そしていい判断力、さすが仲間の頭脳」
戦士の褒め言葉に無表情で返すしの。あの子がこんなリアクションをするなんてね。ま、無理もないか。ヒロの奇跡をも上回る力を持ってるしね。だから私があの子の不安要素を代弁して聞く事にするわ。
「ね、刀に能力があるのは理解したけど、肝心な事を聞いていいかしら?」
「僕が答えられる範囲であれば何でも構わないよ」
「そ。なら遠慮せず言うわ。結局あんたは私らの敵?」
仲間に緊張が走り静まり返る空気。そんな中。戦士は、みんなの顔を一通り眺めた後に片膝をつき、意外な言葉を口にしたわ。
「やっと見つけました。"全魔導士を救出する御一行様"。私は、皆様を手助けする者です」
戦士が巨人を斬った理由。それは、あのデタラメな力を持った存在の監視を断ち切るためだと説明されたわ。正直、何がなんだかわからないけれど、巨人の魔力が、あいつとなんらかの繋がりをもたらせていたみたいなのよ。だからそれを阻止するために、あの刀で魔力だけを斬ったってわけ。今はそうしてもらった方が都合がいいわ。だって、私らは巨人を倒したくなかったから。
「おおきにな、あんたのおかげでどうにかなったわ」
「いえ、あなたが僕を飛ばしてくれなければ、この方法は思いつかなかったんです。あの子は?」
「…………帰ってもうた」
「そうですか。でも再戦する日も遠くない。あの子は倒すべき……いや。止めるべき存在なのでしょ?」
「言い直してくれておおきに。戦士はん、このまま話してもええけど、まずはあの子達に伝えてええかな?」
パイセンの問いかけに無言でうなずき、巨人の方へ歩き出す戦士。
「ほんまはこうなる前に話すべきやった。全部話すから…………聞いて下さい……」
後輩の前で深々と頭を下げ、決して頭を上げようとはせず、彼女は静かに語り始めたわ。
彼女が語ってくれた内容。それは、私らをゲームに誘った真の目的。全魔導士救出、魔王打倒、ここまでは目的の修正はなかった。でも、パイセンには他にするべき事があったわ。その内容は私らには無関係な内容だと思っていたのだけど、決してそうでもなかった。その内容は、あのデタラメな子をどうにかしなければ、この世界からは帰れない。しかもその子の存在が、私らを集めたきっかけだったの。
「わかってくれたと思うけど、あの子とまともに勝負しても、勝ち目なんてないの。でも、ある力を使えばなんとかなる……はずだった」
「みなさんもよく知ってる力です……あの子を止めるには魔力じゃなく"精霊力"。私に注いでくれたあの力は、精霊の力だったんですよね?」
話しの途中でハクトとさわっちが戻って来て、パイセンの話しに割り込んだわ。
パイセンは一瞬さわっちに視線を送り、軽くうなずく。そして話しを続けた。
「あの子の名は"クリエ"。妹が言う通り、魔力では太刀打ち出来ない存在」
クリエ……。
私は先輩の寝言を思い出し、顔を背けうつむいた。
「そして、"私の子"」
……え?今なんておっしゃりました?
「ちょ、ちょっと待って下さい先輩。いくらなんでも、その内容はうちでも思考が追いつかへんよ」
「そ、そうですよ。しかも、さっき精霊の力って言いましたよね?それってつまり」
こう言う時にこそ冷静に判断出来そうな2人が取り乱す。当たり前よ。そんなの誰だって混乱するわ。しのもヒロも口には出してないけれど、言いたい事は私でもわかる。クリエがパイセンの子で、精霊の力を持っている……って事はつまり。
「パイセンは人間じゃないの?」
「んんや、そいつは違うだろう。精霊なら力を使い果たしても回復すれば元に戻るはず。どうやら姉御の精霊力はもう無しに等しいようだぜ」
「なら答えは簡単だな。先輩は、クリエの母親を買って出てると言うわけだな」
私の質問にハクトとアキトが意見する中、パイセンが理解出来るように説明してくれたわ。まず、パイセンは精霊ではなく人間。そしてクリエの母親って件なんだけど、これは本当らしいの。人工授精で子を授かり、クリエを産んだらしいわ。何でそんな必要があったのかが疑問だけど。
「御一行様。続きは宿でゆっくり聞きませんか?これ以上ここに留まっていては、新手が来るかもしれませんし。巨人も意識が戻りましたので、僕達も同行させて下さい」
「しばし厄介になるぞ」
「気がついたんだ巨、、、あんた誰?」
・・・
・・
・
今宵の一行のテーブル席は、少々賑やかでございます。
ただでさえ賑やかな面々に、男が2人追加されましたゆえ。その内の1人は巨人の魔物でございます。おっと、説明が不足でしたな。今の巨人のお姿は、人間と同じ背丈まで小さくなりました。それはなぜか?答えは、戦士が持っていたアイテム。魔力を失った代わりに、力のコントロールが自在に出来る首輪を装備したから。その効果により、最小限まで力を抑える事で、人と同じくらいの身長へと変身したと言うわけです。
「改めて礼を言うぞ、人間。ヤツから我を解放してくれた事、感謝する」
「お礼なんていいです。巨人さんが、私の作戦に乗ってくれたから上手く行ったんですよ。だからお礼を言うのはこちらの方です。ありがとうございました」
「さっきは驚いたわよ。巨人のあんたがこんな姿になってるなんてね」
「あのサイズではかなり目立ちますからね。僕が事情を説明して、アイテムを受け取って貰ったんです」
巨人の安否を誰よりも気遣っていた、親友同士のみあとしの。2人の意思を尊重し、魔物をあえてこちら側に引き込んだ戦士の企み。敬意と恩義に応えるべく忠誠を誓った巨人。
それぞれの思惑は違いますが、結果としてまとまった感じですな。
しばしこのメンバーの会話は続きますが、その近くに座っているハクトが、アキトにこんな問い掛けをするのです。
「正直、どんな気持ちでいる?お前はあの子の兄なんだろ?」
「……クリエは先輩が産んだ子だ。本当の種族とは限らない。でも、精霊の生き残りが存在するのなら……」
「んだな。でも人間が精霊を産めるのか?姉御は望んで産んだのか?」
「気になる?男の子やしな~。女の子の神秘には興味あるわな~」
「「先輩」」
「実際な、うちはあの子を産んだ。精霊の子とは知らんかったけどな。話しの続きをしよか。みんな、大事な話しの続きや。よう聞いといて」
先輩が一旦みんなを黙らせて語り始める。
ここから語られる事。これすなわち、物語の最終目的でございます。
「この世界ですべき事は大きく分けて3つ。1つ目は、しよちゃんの救出。2つ目は、この世界から脱出する方法を見つける。3つ目は、クリエとシュラフを止める事や。まず最優先はしよちゃん。2つ目の件は最後に考えるとして、問題なのは3つ目や。多分しよちゃんはシュラフに利用されている。そうよね?巨人はん?」
「おそらく。我の力では、もはや手の届かぬ程の強さを手にしている」
「それはきっと全魔導士の力を取り込んでいると考えた方がええ。厄介なんは、そいつに近づく前にクリエがいる事」
「僕がもう1度、奇襲を試みてもいいですが、無駄でしょうね。この"全魔断刀"の力では精霊力は斬れなかった」
戦士がさりげなく刀の名前を口走ると、一行は口を揃えて刀の名を聞き返す。その勢いに、若干引き気味でうなずく戦士。思わぬ所で探し求めている刀が見つかったのですが、今はその話しではございません。
「あの子は魔力を使わない。せやからその刀も通用せえへんかったんやろ。おまけに痛みも感じひん、さっきの戦いでようわかったやろ?」
「ええ。あの時あなたが飛ばしてくれなければ、確実に僕は消されていたでしょう」
「先輩。質問いいですか?なぜ先輩は……その、人工授精して子を産んだのですか?もっと他のやり方と言うか……」
「アキトくん……何か勘違いしとるみたいやから説明するけどな。うちは子が欲しくてそんな行動をとったわけやないで。ちゃんと愛する夫がおる。ただな……あの人はうちを愛してくれてへんかった」
しばらく語られる先輩の過去。
彼女の夫は生物学を主に学んでおり、生命にかける情熱はかなり高かった模様。しかし2人の間には、新しい命を授かる事なく月日が過ぎ、ある時、夫が人工授精の話しを彼女に持ち掛けます。そこまでして子は欲しくないと彼女は拒否。しかし夫はどうしてもと頼み込み、その熱意と、夫の愛情に負けた彼女は承諾し、子を宿します。それが後のクリエ。しかし彼女は知らなかった。その子が精霊である事に。
彼女が気づき始めたのは1年前。クリエの成長が異常な程に早く、人間じゃありえない成長ぶりに疑問を持ち、夫に問いただした所、遺伝子に精霊の力を混ぜたと告白された。彼女はそこで確信したのです。
彼女は夫の実験材料に利用されたって事に。
「要するに旦那に騙されたんよ。ほんで、事態はとんでもない方へ向かった」
夫はクリエの誕生で1つの答えを出した。それは、人間から精霊は産み出せる。
しかし、その答えは間違いだと気づくのです。なぜなら、実験に利用された女性は皆、失敗に終わっている。精霊を生み出した彼女に特別な力があったのか?それは未だ解明されてはいませんが、彼女になら精霊は産める。夫は彼女を研究材料として見るようになり、彼女を拘束しようと考えました。彼女もまた、危機が迫って来ている事に気づいており、夫の研究資料を盗み、身を潜めました。どこに?実は夫の部屋の屋根裏部分。彼女は知りたかった。彼が次に出る行動と目的を。そしてあるキーワードを耳にするのです。
「やはり"真の精霊"を探すしかないか。クリエを上手く利用すれば、そう時間はかからんだろう」
真の精霊。この世界に本物の精霊が存在する?夫が手に入れた精霊の力とは、本物の精霊から奪った力なのか?彼女は色々と考えました。しかし考えた所でどうする事も出来ない。手掛かりとなる物が何一つないのだから。
それでも彼女は諦めたりしませんでした。自分が出来る事を探し、見つけ、辿り着いた先に自ら手にした精霊の力。そして…………今に至るのです。
「話しがかなり逸れてしも~たけど、結論から言うわ。うちは夫であるシュラフから、しよちゃんを取り戻し、彼の計画を阻止したい。そして、クリエを彼から解放してあげたい。それがうちがすべき事……だから……」
彼女は席から離れ、両膝を地に着け土下座をしながら一行に訴える。
「お願いです…………みんなを巻き込んだ責任は必ず取ります。命を差し出す意外なら何でもしますので…………どうかうちに力を……」
「そんな願いは聞き入れませんよ?もっちゃんさん」
「……妹……」
「確かにあなたの勝手で巻き込まれたのは事実です。でも、今は同じ目的を達成する仲間でしょ?だから、多少の無茶ぶりでも、みんなで乗り越えて行きましょう。それに、帰るためには避けては通れない道ですしね」
「んだな。魅力のある提案だったけど、今回は聞かなかった事にしますか」
「ハクちゃんの考えなんてお見通しだよ。先輩にエッチな事をさせたかったんだろ?」
「ナニを言うかヒロ。お前だってそうだろう?男は常にその願望はあるよな?アキト」
「お前な、よく女性の前で堂々と言えるな。しかも先輩の目の前で」
「ったく、男ってそんな生き物よね?しの」
「え?えーと、うちはしよちゃんやないから、その件には突っ込まれへん」
「どうですか?いい人ばかりでしょ?僕も、もっと早く知り合えていたら……おっと、この話しはあなただけの胸に閉まっておいて下さい」
「戦士はん?……せやな。うちは幸せ者なんやね。ほんまおおきにな……みんな」
話しが終わる頃には、すっかり夜も更けまして、それぞれ寝床に着く時間帯。
みあは先輩を呼び出し、宿から少し離れた所にある酒場で、話しをしておりました。
「こうやって2人きりで話すんは、再開して以来やね。こんな所に来ると、お互い、お酒が似合ういい女性になったって気がするわ」
「……パイセン。もう知ってるかもしれませんが、どうしても自分の口から話したくて。聞いてくれますか?」
先輩の語り始めとみあの問い掛けの間には、シュラフがゲームの世界に人々を吸い込んでいる理由の話しがございましたが、話しの尺の都合により手短かに語りますと、この世界へ誘われている条件は、精霊に関係のある、または、精霊の力を使った事のある者。ゲームの世界をその者の保管庫として利用し、真の精霊の手掛かりを探す事が狙いだとか。
しかし。シュラフは大きなミスをしている事に、気づいておりませんでした。
「ちょい待ち。どこかで聞き耳立てとるやからがおるかもしれん」
「その心配ならご安心を、僕達が事前に調べておきましたので、あとは小声で話してもらえると万全かと」
「ここで我らが監視している。遠慮は無用だ」
「戦士に巨人。あんたらまだ寝てなかったの?」
「こんな夜更けにゲームの世界とは言え、悪い虫が寄って来ないとも限りませんし」
「我はお前達に忠誠を誓ったのでな、これくらいはさせてもらう」
「それは頼もしい事やな。今は正直助かるわ。お礼に一杯おごるから、好きなの頼んでや~」
先輩の計らいで、グラス片手に周囲を監視する2人。
その姿がなんだか滑稽に見えて、笑いをこらえるみあと先輩。それはさておき、気を取り直して話しを進めて行きますと。
「パイセンは既婚者で精霊の子がいますが、未婚の私にも精霊の家族がいます。名はアペリラ……ご存知ですよね?」
「……スマホの画像に写っとった子やね?可愛い髪の色をしてたな。うちの子と同じ色やったから、すぐに理解したで」
その時みあは確信しました。先輩はアペリラが精霊だと気づいていた。でも、今まで何も聞いて来なかった。それは聞けなかったとかじゃなく、彼女を関わらせたくなかったからだと。
「あの子は旦那さんが探している真の精霊です。彼女なら、クリエを止められるかもしれません」
「そんな事したらアカン。こっちから呼びつけたら、それこそ相手の思う壷や」
「いいえ、"旦那さんは大きなミスをしている"。アペリラは、自らこの世界に入る事は出来ないと言っていたそうです」
「どう言う事なん?しかも間接的な言い方やね?」
「ええ。パイセンに話しをする前に、親友からこの話しをするようにと頼まれました。おそらくですが、帰るための最終手段にもなるかと」
「しのちゃんとヒロくんに?なるほど。向こうはそれなりに、答えを出してくれていたんやな。頼りになるわ。その話、詳しく聞かせてくれへん?」
みあはうなずき先輩に語り始める。
・・・
・・
・
みあおねーちゃんが先輩おねーちゃんとゲームの世界で話し始める少し前の事。
「じゃーね。バイトのおねーちゃん」
「ありがとう。また来てね」
左手に白いビニール袋を嬉しそうに持ち、ボクはまりの家へと向かっている。袋の中にはペットボトルのお茶とおにぎりが入ってるんだ。
時刻は正午。そろそろお腹が空く頃だろうと思って、目立つ髪を帽子で隠し、コンビニへお買物。みんなの行方を探してもらっている彼女のために、少しでも恩返ししなくちゃね。だからボクのおごりなのさ。
「まりおねーちゃんがいてほんと助かったよ。正直、ボクだけじゃどうする事も出来なかった」
思わず独り言を言葉にしてしまったけど、素直な気持ちが勝手に出たって証拠。
彼女の協力で、みんなの居場所を探す事が可能になったし、あっちからボクに連絡が届くようになった事で、彼女は、最短距離でみんなの元へと駆けつける事が可能になった。後は、どうやって元の世界へみんなを連れ戻すか?答えは簡単。こちらから繋がらないのなら、あちら側から通行許可を作ればいい。そう。誰かが1度だけ、ボクを引き込もうとした時みたいに。
ま、実際には引き込まれてないけどね。でもその事でわかったよ。あの時ボクを引き込む事に失敗してから、ボクからの侵入は完全にロックされた。それはつまり……
脳内にシグナルが響く。これはしのおねーちゃんからだ。近くにヒロおにーちゃんもいるみたいだね。あっちで何か動きがあったのかな?ボクは通信を繋ぎ、見えない相手に問いかける。
「ボクだよ。みんなは元気かい?」
「おかげさんで元気や。アペちゃん、早速で悪いけど、聞いてもらいたい事があるんよ」
────数分後。
「ただいまー。調子はどう?」
パソコンの画面に集中している彼女が、ボクの言葉に気づき振り返る。
「お帰りなさい」と言う言葉と引き換えに、コンビニの袋を手渡すと、笑顔でお礼を言ってくれた。
「あのね。アペリラちゃんが留守の間に、とても大きな動きがあったよ」
大きな動き?ボクは彼女ごしに見える、パソコンの画面に目を向ける。
…………そう言う事か。どうやら、さっきの話しと繋がるみたいだ。
「とりあえず少し休んでよ。話しはその後でも聞けるしね」
「うん。ならそうさせてもらおうかな」
彼女が一息つき、パソコンの前に座りゲームを再開する。
ボクはその隣りに座り一緒に画面を見ると、彼女は、静かだけど力強い言葉で話し始めたんだ。
物語は終盤。いよいよ双方が考え、答えを出した作戦が実行されようとしている。
それと同時に、新たな問題?真実と言った方がいいのかな?それも確かめたくなったんだ。
何かって?
それは、まりおねーちゃんが話してくれた事と、しのおねーちゃんが話していた事と重なる。
『どうやら、クリエっちゅー子は』
「あの時、私が出会ったあの子は」
『「あなたの家族になる存在かもしれない……」』