2話_またボケですか?
それは、いつもと変わらない朝の事。
小鳥のさえずりで気持ちよく目覚め、若干かたいベットから起き上がり、部屋にあるタンスをおもむろに開ける。
なんと!大きなメダルを手に入れた!(♪謎のSE)
レアアイテムをゲットした感じ。それを道具袋に納めた。
が、重くて袋が破れてしまったようだ。
おかげで、持っていたアイテム数個を強制的に捨てるという事態になってしまったが、とりあえず新しい袋を求めて部屋を後にした。。。
て。
「なんなのよぉぉぉここはぁぁぁ!」
気がつけば謎の宿屋にいる私。
いえ、私だけじゃないわ。1階にある食事処の長テーブルには、私が誘った面々。
アキト、ヒロ、ハクト、しの、さわ。
私を含めて合計6人が座っているわけなのよ。ちなみに前3人は男、後2人は女。
ちょうど割合的には3対3。端から見れば軽い合コンよね。
もしテーブルにボタンが付いているのであれば、よくあるフィーリングカップル成立みたいな遊びも可能よ。
「じゃない。そんな事はどうでもいいのよ」
「みあちゃん。脳内でボケて、ツッコミだけ口に出すんはやめてくれへん?」
「あー。ごめんしの。でもみんなはよく落ち着いていられるわね」
「いや。それは違うと思うけどな。まーでも、こんな状況を作り出せる人物を、知らない仲でもないやろ?」
この状況を作り出せる人物?
ま、確かに。ここは、私らが暮らしている時間帯ではないって事は理解してるつもりよ。
みんなが同じ時間と場所に飛ばせる事が出来るとすれば、、、あの子しかいないわ。
「もしかして、アペリラの事を言ってる?」
みんなは黙ってうなずいたけれど、もしそうだとしたら、彼女は何の目的で私らを飛ばしたのかしら?
でも彼女はそんな悪戯はしない。近くで見て来た私が胸を張って言えるわ。だから。
「アペリラはそんな事しないわ。私が言っても信用してくれないかもだけど、彼女だけは信じてあげてほしい」
そうよ。ここに飛ばされる元凶を作ったのは私。
確かあの時。みんなと始めようとしたゲーム画面で、眩しい光に包まれて……私らは、こんな変な格好までさせられてたんだわ。
「そうだな。アペリラには、服装まで変えてしまう能力はない。だからこれは一体どうなってる?解るか?ヒロ」
今の発言はアキト。ヒロとは幼馴染。
実はアペリラは、アキトと共に暮らしていたわ。でも今は、私の家に居候の身だったのだけど、最近は自分でアパートを借りて一人暮らし中よ。
「う~ん。それはこっちが聞きたいくらいだよ。もしかしてお前の仕業か?ハクト」
私のライバルでありハクトの親友。
彼の事を説明すると結構長くなるわ。だから簡単にまとめると、みんなとの繋がりを保てるのはコイツのおかげってとこよ。
ま、色々とあったからこうなったって所よね。
「俺がそんな事するかって。でも面白くなりそうだな」
ヒロの親友であり、私の……彼氏候補よ。
彼はアペリラの一件で知り合った人。現在は、たまにではあるけれど、で、デートはしているわ。
って、こんな話しはつまらないでしょ?さ、次行くわよ。
「まーとりあえず先輩に聞くしかないやろな」
彼女はしの。私の親友よ。
このメンバーの中では、1番頼り甲斐がある人ね。合気道の達人であり、関西弁と地元言葉を使い分けるのが特徴の彼女。
彼女の他に、忘れてはいけないのが『しよ』。彼女は私の、、、ってあれ?
「ね~みんな。しよ姉は来てないの?」
私が正に言ようとしていた言葉を言ってくれたのがさわっち。もとい、さわ。
彼女もまた、アペリラの一件で知り合った仲間。顔がしよにそっくりで、最近は仕草や声色までもマスターしているらしいのよ。
でもね。性格はまったく別人なのよね。
とりあえず。何気にサラッとメンバー紹介が終了した所で、本題へと移るわね。
「そうよ、しよは?私は彼女も誘ったはずよ?」
その言葉を聞いて、「誰か宿屋で見かけたかい?」とヒロは問うけど、見かけてはいないらしいのよ。
「もしかして、彼女だけゲームを始めてないんとちゃう?」って言う、しのの意見も否定は出来ないわ。
どうにか連絡手段はないものか?あるよね。文明の力。スマホ。
これで彼女に電話をかければいいわけじゃない。私って冴えてるわ。
「じゃーかけるわよ」
私は彼女の電話番号を開き、通話ボタンを押した。
数秒待たずして、耳元から聴こえて来たアナウンス。
「おかけになった電話番号は、この世界ではお使いになれません。ちゅーか、そんな電波は届いておりません」
ま。そう言う事ね。
連絡手段は途絶え、彼女を探そうにもどこに行けばいいのかわからない。
いないとなんか心配で落ち着かない。
しばらく賑やかだったテーブルが、いつの間にか静まり返っていたわ。
「なんや?朝からしけた面して。フィーリングカップル成立せえへんかったから落ち込んどるんかいな?」
~ Battle Bet Quest 2ミシシッピ_またボケですか? ~
さて、一行は声の方向へ顔を向けると、そこに立っていたのは、このゲームの誘い主。もっちゃん先輩であります。
その姿を見て懐かしむ者3名。この人は一体誰?と思う者2名。
そして、顔を見るや否や。席から飛び出すように立ち上がり、先輩へと駆け寄る彼女の姿がありました。
「パイセン!これはどう言う事なんです!?ただのゲームじゃなかったんですか?」
怒り混じりの声にも動じず、先輩は大人の笑みを魅せつけているその姿。
まるで「これがこのゲームの醍醐味よ」などと言わんばかり。
一行は、先輩の沈着冷静、体貌閑雅なその姿を目の当たりにし、もしかして、こちらが彼女に愚問を投げかけたのかと思い始めていたその時。
彼女が皆に向かって口を開いたのであります。
「知らへん。うちもこのゲーム初めてやったし」
数秒の沈黙が食事処に流れ、某●本新喜劇なみの倒れ方で椅子から転げ落ちる5名。
当然、彼女も勢い良く床に倒れた事も付け加えておきましょう。
・・・
・・
・
「コホン。では改めて。やっと揃ったかいな、ほな説明するからちゃんと聴いときや」
もはや誰1人として、先輩の言動にツッコミもしなくなった一同。
その姿を見て、満足感を胸の内に秘め、今度は真面目に語り始める先輩。
一体どこまでが本当でどこまでが偽りなのか?
みんなは若干混乱気味ではあるけれど、とりあえず、ここは先輩を信じてみようと意見が一致した僕たち。
「と。ここまで簡単にまとめたけどな、ゲームの世界に入り込んだ理由だけは……」
少し表情が曇り、視線を地面に落とす先輩。
数秒の沈黙の後、すぐさま表情を和らげてこう宣言する。
「ま、旅をして行けばその理由も解ると思うから、今は"全魔導士"さまを助けに行くで~」
「全魔導士?それは誰なん?」と尋ねるしの。当然、他の仲間も同じ疑問はあったんだ。
すると先輩は、右手の人差し指を自分の胸付近へ近づけ、自然なトーンでこう言った。
「うち"遊び人"。みんなは何?」
先輩の発言は、大半が「あ~やっぱ変な人だな」と解釈されてしまったけども、僕は先輩が何を言いたいのか理解したんだ。
「またボケですか?と言いたい所だけど、意味はわかりました。みんなの職業を教えて」
僕の一言で、みんなは納得し、答えて行く。
「俺は弓使い」
「私は盗賊ね」
「自分は賭博師だな」
「私、ものまね師~」
「うちは武道家や」
「そして僕は奇跡師」
一通りの宣言が終了したのだけれど、みあは、何やら気になる点があるみたいだ。
「まーアキトの弓使いと、しのの武道家は妥当な選択だと思うけれどね。何?ヒロの奇跡師ってのは?どんな能力なのよ?」
あ~やっぱそこを攻めて来たんだな。ん~。ここは正直に答えておこうか。
「さ~どうだろうな。自分でもなれると思ってなかったんで驚いてるよ」
「どう言う事なん?そもそも職業選択に、そんなもの"無かった"とうちは把握しとるんやけどな?」
おそらく、このゲームのマニュアルを"完璧に丸暗記している"しのも、納得が行かない模様。
納得が行かない。そう。正にその通りなんだ。だって僕の選んだ職業は"村人"。
でもこの世界に入って奇跡師になれた。その理由はこう。
「確かにね。僕の職業は普通のやり方では選べないんだ。でも条件を満たせばこの職になれる」
「「条件?」」
「そう。僕の本職は"村人"なんだ。ただし、仲間の中に"魔導士"系がいない場合。奇跡師へ転職する。要するに"裏技"さ」
「だからマニュアルには載ってなかったと言うわけやな?んで。ヒロくんも、まさかなれると思ってなかったんやね?」
「ああ。でもおかげで上位クラスの職にはついてると思うから、みんなの力にはなれると思うよ」
「なるほどね。ハクトの賭博師やパイセンの遊び人なんて、言っちゃ悪いけど"使えない"わね」
「おいおい。本人いるんだからあまり大きな声で言うなよ?」
とは言え、僕だって奇跡師になれてなかったら"使えない"一覧に並ぶんだろうけども。
「うわっ、厳しいなみあは」
「あら~別にうちは何を言われても構わないわよ。可愛い子の罵倒なんてそそるしな」
みあの意見に、使えない2人が口を開き、しばらく話しは脱線状態。
そんな中、一線を引いていた"さわちゃん"が、話しの軌道を元に戻してくれたんだ。
「ね~。もういいでしょ?私達の職業はわかったんだし、ここにいない"しよ姉"が"全魔導士"なんでしょ?だったら早く助けに行こうよ」
「そうだな。目的も見つかった事だし、さわくんの言う通り、しよを助けに行こう」
「アキトさん。私の事は、さわでいいですよ。あ、それか"しよ妹"って呼んでほしいかも」
「ほんなら先輩特権で、うちが妹って呼ぶわな。……さてと、そろそろ遊びはしまいや」
突然、真剣な顔つきになり、先輩が僕たちを見る。
そして各々に旅仕度をするよう指示を出し、数分後。宿屋の外で待ち合わせをする事になったんだ。
・・・
・・
・
さてさて、一行が旅仕度をしている最中、しばし時は戻りまして、場面も変わります。
辺り一帯。闇に覆われた不気味な空間の上空に、闇と同化している黒い建造物。
その中のとある場所に、全魔導士さまが捕われているのであります。
「ここ……は?」
意識朦朧の中、彼女は現状を把握すべく、脳に意識を集中する。
少しずつではあるが、鈍っていた感覚が戻って来ようとしていた時。
「な……に?あれ?身体に変な感触が」
「ようやく目覚めたか。ふっ。おかげで事が捗ったわ」
彼女の近くで声がする。しかし、目視は出来ずにいた。
「だ、誰なの?姿を現しなさい……んっ。な、なんなの?さっきからこの感触は」
姿なき者に彼女が声を荒げるも、人の気配がまったくない。
そして時々訪れる謎の感触。しばし深呼吸をし、彼女は冷静に状況を確認する。
「辺りは真っ暗。そして人の気配はない。おまけに身体の自由がきかない……?。自由がきかない?ま、まさか」
「どうやら理解出来たか?だがもう手遅れだ。さぁ、我の奇跡になってもらうぞ」
姿なき者の陰謀に、利用されつつある全魔導士こと"しよ"
果たして一行は、無事に彼女を救い出す事が出来るのでありましょうか?
『…………だれか……お……がい』
・・・
・・
・
時は戻り、現在。ここからは俺と、
珍しい組み合わせだね。私、さわがお届けするからね。
しかし、ナレーションが2人はややこしくないか?
う~ん。ま、過去作も何回かこんな事してたんだし、なんとなく理解してもらえばいいでしょ。
だな。では、話しを進めるとしようか。
宿屋の外。各自装備を整えて、集まった一同。目に入る風景は、現実世界と似てはいる、似てはいるんだが。
流れている雲や空の色、現実世界と似てるんだけどね、ちょっとだけ違和感がある色をしてるの。
改めて、ここが異世界だと思い知らされるな。
でもでも、アキトさんだったら見慣れた風景じゃない?
ん?まぁ、そうかもしれないな。だが、ここはゲームその物の世界なんだろ?現実世界の複製じゃない。
あ。そっか。おっと、話しが傾いてしまいましたな。では改めて、みんな集まった所で、みあ姉がこんな質問をしたの。
「ね?出発するのはいいんだけど、まさかずっと徒歩で行くの?」
確かに。このまま大勢で歩いて行くと、新手のオリエンテーリングだな。
あは。アキトさんも面白い事言えるんだ。さすがヒロさんの友達だね。
……。今、気づいたんだが。これってナレーションじゃなく、コメンタリーだな。
あ~確かにそだね。じゃ~これから、この方向も使って行きましょう。
「仲間が多数いる場合。ゲームなら普通、"馬車"に乗ったりするんだがな」
ハクトさんが言ってた馬車、私も乗ってみたいな~。でも乗り心地っていいのかな?
さーな。俺は、乗るならもっと現実的なのを求めるが。
「ほんなら現実的な乗り物やったら、アキトくんは乗るんやね?」
「な。突然どうしたんですか先輩。俺は何も言ってないですよ?」
「あれ?さっき"妹"と話してたやろうに」
「あー。コメンタリーの言葉を拾うのはやめましょ?読者が混乱しますし」
「ええやん別に。ま~とにかく。乗り物ならちゃんと用意しといたから、うちに付いてきな」
もっちゃんさんて、ほんと掴めない人ですよね?昔からこんな性格なんですか?
何と言うか。昔より酷くなってると思う。きっと、いや確実にな。
私。上手くやって行ける自信がないかもです。
そのうち慣れると思うさ。すまんが耐えてくれ。
「ここや。これならみんなも文句は言わへんやろ」
一行の目の前に姿を現れた白い鉄の箱。
要するに1台の車、と言うか、"ロケバス"だね。
「現実的と言えば確かにそうやな」
「わ〜い。私、1番乗りね」
「ま、これなら文句はないわね」
先輩の用意された乗り物に満足し、乗り込んで行く女子メンバー
「これなら移動も楽だね」
「んだな。俺にとっちゃ有難い代物だな」
「では、俺達も乗るか」
続けて男子メンバーも乗り込もうとしていた時、もっちゃんさんが、アキトさんの肩に手を置いてこう言ったの。
「じゃ。運転頼むわな」
「な、なんで俺なんですか?」
「何言うてんの?アキトくんが現実的な乗り物を求めたんやから、責任もって運転してくれてもええやろうに」
「だからーあれは俺であって俺じゃないって」
「アキト。……諦めろ」
乾いた風がアキトさんだけにそそがれる……気がしたの。ヒロさんの一言で、強制的に運転手になった彼。
完全に沈黙した姿は、まるで屍のようだったのね。
「さ。尺も使ったし、そろそろ本当に出発よ」
突然仕切り出した彼女。かくして、一行は旅立つ。
目指すはしよ姉の居る所。。。って、ねぇ?行き先ってどこか知ってる?
「そんなの俺に聞くなっての」
・・・
・・
・
いやはや。なんとも賑やかな御一行様方でありますな。
さて、行き先不明のまま、走り出すロケバス。
街から飛び出すと、そこは一面荒野が現れます。
とりあえず、ただただ直進して行く御一行。
このゲームのジャンルはRPG。となれば、各々には"レベル"なるものが存在いたします。
まずはそのレベルを上げて行く必要もあるのです。
ではどのように上げるのでありましょうか?そう。戦闘でございますな。
各々は、戦闘で"経験値"を稼ぐ事により、レベルが増して行くわけでございます。
街の外には魔物が存在し、その者達と戦闘を行って、勝利を繰り返す。
それが経験値稼ぎの流れであります。
おや、どうやら一行の前に魔物が現れそうですぞ。
「ん?あれが魔物か?」
「せや。さ~このまま突っ込むんやアキトくん」
「ええ?そんな事したらバスが壊れますって」
「なんやの?どないしたんアキトくん、って。魔物?」
「え~私も見せてよ」
先輩とアキトの会話中に、しのとさわが入る。
残りのメンバーは、後部座席でのんびり会話をしていて、魔物には気づいていないご様子。
「いいから突っ込み~大丈夫やから」
「何言うてるんですか?そんなんダメに決まっとるでしょ」
「だよだよ。とりあえず止まろうよ」
「だな。じゃーブレーキに備え」
「いいや。このままや。うちを信じてくれへん?」
「さっきから何でそんなに自信があるんですか?」
「そうや。ぶつかって壊れたら徒歩決定やで?」
「え~。徒歩移動なんてしたくないよ~」
口論は続きますがスピードは以前変わらず。着実に、確実に、魔物に向かって突き進むロケバス。
「ほれ、よう見てみ。序盤の魔物は大体"柔らか系"がセオリーや」
「「「やわらかけい?」」」
「せや。アイツは間違いなくスライム種の魔物。うちに着いてるコレと同じで、柔らかいで~」
アキトの眼前まで膨らみを近づけて、おもむろに揉む先輩。
なんとも羨ましい限り。あいや、至福の光景。
「やめんか、この変態でか乳お化け」
「それに語り部さんも言葉が変だよ」
失礼を。とにかくですな。先輩の豊満な果実に視界を奪われてしまい、急いでブレーキをかけたのも束の間。
ロケバスは見事に魔物に激突。
時既に遅しとはこの事でしたが、魔物はロケバスに吹き飛ばされまして、見事、戦闘に勝利したのであります。
とは言え。これは戦闘と言うより不意打ちに近いですな。
「お。なんか解らないけど、経験値が入った気がしたんだが」
ハクトの一言で、各々にも経験値が入った事を確認出来た御一行。
「うそやろ?ほんまこんなんでええん?」
「でもでも、これってある意味使えるんじゃない?」
「せやろ?ほらアキトくん。いつまでもお姉さんの膨らみばかり見ないで運転してや」
「な。もう好きしてくれー」
こうして始まった、御一行様式の経験値稼ぎ。
走るだけでレベルが上がると言う、正に掟破りなレベル上げ。
さて。一体どこまでこれが通用するのでありましょうな。
「ねぇ?結局どこへ向かえばいいの?」