りずりら_5話~6話
暑い夏にやって来る、学生の楽しみと言えば、やはり夏休み。
そして、この時期に行われるのは、やっぱ夏祭り。
男も女も、暑さで脳内がバカになってる時期だからさ、まあ右も左もカップルだらけ。
はあ。ほんと……リア充なんて最近は使わないかもだけど、今だけリア充どもが、昼夜問わず私の視界に入って来るわけ。
別に羨ましいとは思っていないわよ?私には夏の祭典。同人誌イベントが待っているし。
そっちの方が、私にとってはすごく幸せを感じる場所だし。
でも。
私だって。彼氏……欲しいかも───。
部屋のパソコンに映し出される、彼女の汚れた姿を描きながら、ふと現実に戻って来る私。
リラ……男いたりするのかな?
天然のお子様系ハーフ美女なんて、もの凄い逸材だと思うし。そっち系どストライクな男もいるしな。
ああ見えて、キスも知らないとか言っておいてさ。実は、先に経験済みなんて、ありえなくもない話しだ。(※同人誌知識)
…………私なんて……ま……あああバカバカ。妄想も、ここまで来ると被害が付くな。
「聞いてみよっか……な」
作業を中断した私は、スマホを取り出し、彼女の所へ連絡しようとすると、部屋のドアが強引に開き、大きな声で名前を呼ばれる声がした。
「は、母上。ど、どうしたのですか?」
「また大事な友達をこんな姿にして……罪悪感はもう感じないの?莉樹」
「ち、違いますって。彼女には理解してもらった上での……すみません」
「謝る所が違うでしょ?悪いと思っているのなら、今夜誘ってあげて、彼女を楽しませてあげなさい」
今夜?私はスマホを机の上に置き、パソコンでカレンダーを確認すると、母上の言葉の意味を理解し、うなずく。
「ちょうど今から連絡する所でした。誘ってみます」
「ええ。可愛い彼女に宜しく伝えといて」
そう言って、母は部屋を後にした。
私はスマホを持ち直し、改めて彼女に連絡を試みる。
「あ、リラリラ?今夜って時間ある?」
「ウン。もう休み入ったし、リズリズの誘いを断りたくないしね」
☆★☆★☆★☆
夏休み前半。夏の祭典までは、家から絶対出ない私だけど、今日は彼女のために特別だ。
と、言うか。彼女には用があったしな。でも、聞いてどうしたいんだ?
『ウン、いるよ。あれ?リズリズは彼氏いないんだあ。私をあれだけ汚しておいて、まさか自分はまだとかだったり?』
ってな事になったらどう答えれば。
改めて思うと、自分の事をネタにされて責められると、私はなんて弱い人間なんだと思って情けなくなる。
「ああ。私はどうせ男もいないし、真っ新な女だよ」
自分で勝手に妄想して、勝手に突っ込んでしまった。しかも商店街の中心で。
あ、言い忘れてたが、ここは近所の商店街。その中心にある時計台の下で、私は彼女と待ち合わせ中だ。
今夜は、この近所で花火大会が開催されるんだ。母上が言ってた誘いってのはこの事さ。
あいつに釣り合うために、慣れない浴衣を着て彼女を待ってる最中、いつもの妄想からの現実だ。
あ~恥ずかしい。誰にも聞こえてないだろうな?
私はとりあえず辺りを見渡し、痛い視線がないか確認したが、世間は優しいもんだ。誰も私のカミングアウトには興味ないみたいだ。
はは。とりあえず、何もないならこの場はよしとしよう……
「リズリズって、まっさらなの?」
「わあ~。い、い、今のは聞かなかった事に……って。なんだ、リラか」
「ン?どしたの?」
首をかしげて口にする、彼女の言葉を無視して、細く白く、それでいて滑らかな彼女の手首を、私は強引に掴み、この場から歩き始める。
理由は簡単。こんな所で、私の恥ずかしい話しをしたくないし、答えたくもねえ。
「ちょ、なんか機嫌悪いの?慣れない浴衣で時間かかったから怒ってるの?ねえ?りーずー」
「いいから、後で話そう。とりあえず花火の見える所まで行くよ」
2人の浴衣美少女が町外れへと消えて行く。
その背を見つめる黒い影。
これから始まる夏の定番。それはとても美しく。とても綺麗で。
───忘れる事が出来ないくらい。刺激的な出来事が待っていた───
~ BBQ sequel_5 色彩の空に舞う白き姫 ~
商店街から少し離れると、ちょっとした高台が見えまして、その高台の上には境内がある。
その場所は、少しだけ空に近く、花火を見るには絶景のスポット。
となれば、誰もがその場所へと足を運ぶのは当然。ですが。この場所は誰も来ない。
それは何故か?答えは簡単。この高台は立ち入り禁止区域。花火大会の日は、いつもそうなっているようで。
「ネ?本当にいいの?ここは入っちゃダメなんだよね?」
「一般人はな。私は特別。それにリラリラもだ。許可はもう取ってるぜ」
水色ベースに金魚柄、黄色の帯を締め、夜会巻きでイメチェン感を出したアペリラと。紺色ベースに花火柄、紅色の帯を締め、今宵はお団子を低めに作り、例の飴を刺している莉樹。
彼女達は互いに並んで、境内にある階段に座り、色鮮やかに光る空を眺めながら話す。
「ここはな、私の父上が神主をやっているんだ。ホントはダメだが、神主特権を利用させてもらった。だから、今日は2人だけの貸切だ」
「そっか。後でパパさんにお礼言わなきゃ」
「ま、提案したのは母上だがな。リラはお礼を言わなくていい。迷惑を掛けているお詫びと言う裏事情もあるしな」
莉樹は今朝の事を説明し、彼女のために、今宵この場所を提供させてもらった事を伝える。
「ボクは別に嫌ではないけどね。ま、汚されたかいがあったってモンだよ」
「お。なかなか返しが上手くなって来たな。お腹空いただろ?リラの初めての味だ。遠慮せず味わえ」
悪戯な笑顔を魅せ、彼女にたこ焼きを差し出す莉樹。
少し頬を赤らめ、大きく口を開ける彼女。
夏の日限定の彼女を独り占めし、満足しつつも、次回作の構図を脳内で組み立てている莉樹。
リラ……男いたりするのかな?
ふと今朝の事を思い出す。
(キスの相手は弟様と言ってたな。でも本当にそうか?もし、私を騙してたとしたら?いや、そうなるとリラには男がいる事になる)
「やっぱ変だよ?今日のリズは。ボクでよければ相談に乗るよ?」
「リラ…………あのさ。今、付き合ってる男とか……いるのか?」
「それって、カレシって事で合ってる?」
大きく咲いた花と、鳴り響く音に合わせ、莉樹はうなずく。
その質問に、彼女は素直に否定する。そして、少々会話が噛み合ない事を口にする。
「大丈夫。ボクはまだ知らない事が多すぎる。人としての恋愛なんてのは、まだ早いかな」
「あ、あんた何を言ってるの?」
「エ?あ、えーと。今のはね、ボクはまだ帰国子女だから、世間知らずなんだ。って事だよ」
私も思わず焦る程の告白を、彼女はしてしまうのかと思いましたが、どうやら事は、花火の音と火薬の匂いを織り交ぜて、空の彼方へと流れて消えた模様。
「そっか。ならさ、いつかお互い、いい男を捕まえて、一緒にデートしようぜ」
「ウン。ボクも、早くリズに追いつくように頑張るね」
「ああ。(いや、ぶっちゃけキスも経験ないんだよ私。だから、追いつかなきゃいけないのは私の方だ)」
「いい男ならここにいるぜ?」
莉樹の背後から、男の声と手が伸びて来て、彼女の首に、力強い腕が巻き付く。
慌てて抵抗しようと体を動かすも、女の力ではもはや不可能。
親友の危機を救おうと、男に向かって左手を突き出そうとした瞬間。莉樹の頬に押当てられた鋭い凶器。
驚き恐怖する彼女を見て、彼女は動きを止める。
「いい子だ。でもいけない子たちだね。ここは立ち入り禁止だぜ?おかげで人の気配はゼロだ。叫んでも助けは来ない」
「その子を離せ。ボクが本気にならないうちに」
左手の拳を強く握り、怒りをこらえる彼女。
「何言ってるの?お願い、早く逃げてよ」
「その子は、大事なお友達を捨てて逃げる子なのかい?」
「ボクは逃げない。キミ。その子を傷つけたら容赦しないぞ?」
睨む彼女と、余裕の笑みを浮かべる男。
アペリラ独りなら、正直この状況はすぐに解決出来る。
しかし。現状、護身の術を知らない彼女が、拘束されたこの最悪に、無闇に手を出す事が出来ない彼女。
彼は彼女を拘束したまま、場所を変えるため歩き出す。
『いい?これから人間らしく生きて行くんだから、人前では絶対に力は使っちゃダメ。約束だからね』
頭の中で、母との約束を思い出し、悩むアペリラ。
(ママ……ボクはどうすればいいのさ?)
男が2人を連れて来た場所は、境内の入口に大きく作られた鳥居。
左の柱に、莉樹の背を押当て、男が彼女の顔を眺めながら、握っている凶器を突き立て、抵抗力を削ぐ。
右の柱の付近では、立たされているアペリラの目の前に、隠れていた4人の男が現れる。
「さて、改めて。いい男ならここにいるぜ?ただし、5人だがな」
獣が更に増加し、今度は彼女にも、危険が迫って来てると感じた莉樹。
彼女を楽しませようと誘ったのに……どうしてこんな事に?と、罪悪感で涙ぐむ。
その表情から察したアペリラが、彼女に微笑み、口を開く。
「最初のキミ。お願いだから、彼女には危害を加えないで。大切な友達なんだ」
「ほう。なら、俺達の言う事を、何でも聞いてくれると約束すれば、考えてもいいぜ?綺麗なお嬢さん」
「バカ。そんなの絶対にダメ。ダメなんだから」
莉樹の叫びに近い言葉も虚しく、彼女は首を左右に振って微笑むだけ。
心の中で彼女の名を呼びながら、涙をこらえて、男を睨む莉樹。
「約束するよ。ボクはどうすればいい?」
「何もせず、ただ立ってればいい。何をされても抵抗はするなよ」
最初の男が合図を送ると、2人の男が彼女の両隣に立ち、浴衣の共襟と袖を掴み、強引に引き下ろす。
色彩に輝く夜空の下で、汚れのない真っ白な上半身が、獣たちと女性の瞳に映し出される。
「おい、こいつ着けてないぞ」
「それに、こっちも綺麗な色だぜ。ハーフなんてレアだもんな」
彼女の美貌に、獣の理性は崩壊寸前。両隣の男達は、そのまま彼女の両手を拘束し、残り2人の男達は、彼女の前後に立ち、四方を取り囲む陣形が出来上がる。
「この状況でもうろたえないとは。まさか、自分から望んでいるのか?」
最初の男が、笑いながら彼女に問うと、静かに零す彼女の本音。
「キミたちは、最低だな」
その言葉で、更に加速する獣達。前と後ろから片方ずつ手が伸び、弾力がありながらも柔らかい部分を掴み、弄ぶ。
初めて伝わる感覚が体を支配し、表情が軽く歪む彼女。その姿を、遠くから眺めている男女。
「何だお前?泣かずに愉しんでいるのか?」
「ち、違う。ふざけた事を言わない……え?ちょっと、いやぁ」
鳥居の柱から強引に倒され、地面に背中を押し当てながら、馬乗り状態で莉樹を見下ろす男。
「こっちも愉しもうぜ?なあ?」
「い、嫌よ。あんたなんかに、あんたなんかと」
「いいぞ、もっと抵抗しな。なんたって真っ新だもんな?お前」
その言葉を聞き、全ての元凶を理解した彼女。
(ああ。バカな事を考えなきゃよかったな。私もみんなと同じ。暑さでイカれてたわ)
もはや抵抗もせず、彼女を眺め、ごめんなさいと呟く。
浴衣ごしに、男の片手が膨らみに触れ、雑な感覚で体が跳ねる。
「最初の……キミ。や……約束が違うじゃないか」
感覚に抗いながらも、莉樹を押し倒した男に言葉を投げる。
「ああ?ちゃんと聞いて無かったのか?俺は初めから約束するなんて、口にはしてないぜ?」
「そんなの……ズルい……よ」
「てかさ。約束なんてしても、俺達は破るに決まってるだろ?お嬢さんが世間知らずなんだよ」
男のあざ笑う声が、花火の音と混ざり、彼女の耳に届くと、彼女もまた"不気味に笑い"、男達に宣言する。
「ソウ。約束は破っていいんだ」
言葉を言い終わると同時に、両手を回転させ、左右の男達を、前後にいる男達にぶつけ、自由を確保するアペリラ。
「な、何だ?この力は」
「いてて。ただ油断してただけじゃね?」
直ぐに起き上がり、彼女を囲む4人の男。見れば皆、凶器を取り出している。
一瞬にして事態が急変しつつあるこの状況に、少しだけ冷静さを取り戻す莉樹。
「フフフ。安心していいよ。手加減してあげるから」
「何を……ぐっ」
目の前にいる、男の発言は却下され、左手の掌底を腹の真ん中に浴び、地面に倒れ意識を失った。
「やるねえ彼女。恥じらいもなく毅然としていて美しい。ま、お前のそこは、更に大きくて上品なんだろうな」
「残念ながら、私の自慢の部分はね、あんたには勿体ないっての」
男が持つ、冷たく尖った凶器が、浴衣の帯を切り裂き、浴衣が開けるも、彼女は彼女を見習い、最後まで抗う事を胸に誓って、身を護ろうとする。
「待ってて、今助ける」
残りの男を一撃で沈め、彼女の方角へ体を向けるアペリラ。
しかし。既に浴衣の中に着ている、白い和装用のワンピースが破かれ、薄いピンクの下着が見えていた。
それでも彼女は必死で暴れ、男の好きにはさせない。
苛立つ男が凶器を振り被り、最後の脅しに入る。
「動くな。マジで刺るぞ?」
「…………どの道、諦めたらヤラれるしな」
一瞬。互いの動きが止まった事を合図とし、全速力で走り出すアペリラ。
が、直ぐに何かにつまずき、地面へとダイブする。
(なんで?こんな時にドジっ子トラップなの???って。さっきの男か)
どうやら彼女は、最初に打ちのめした男につまずいたようで。危うくドジキャラ確定になる所を回避。
ついでに地面へ激突するのも回避する彼女。片手で地面を弾き、空へと舞う白く美しい女。
和風洋風入り交じり、男女問わず魅了する彼女の姿。
男の隙をチャンスと思い、力の限り両手で突き飛ばそうとする莉樹。ですが、片手であしらわれ、持っている凶器を振り下ろす。
(計算が狂った。このままじゃリズに届かないよ)
「ごめんね。ママ」
彼女の両瞳が金色に変化し、空中で左の掌を男に定める。
もはや諦め、両目を閉じかけていた莉樹の瞳の先に、彼女の姿がコマ送りのように降って来る。
(な、なに?コレ)
「なんだ?手が、う、動かない」
「当たり前だ。ボクに出会った事を後悔するんだね」
1尺玉の花火が空に咲く頃。白き身体に数秒だけ色を着け、空から降って来る精霊。
大きな音が街中に轟くと共に、男は数メートル先まで飛ばされる。
そして、持っていた凶器も手放し、完全に沈黙した。
気がつくと、温かい温もりが莉樹の体を包む。
少し気持ちを落ち着かせ、状況を判断した彼女は、静かに彼女を抱き締め返す。
自然と涙が流れ、彼女の耳元で何度も謝罪する莉樹。
「ごめんな。ごめんなさい。すみません。私のせいで、貴女が汚されて」
「なんで謝るのさ?悪いのはアイツらだよ?それより、ケガはないよね?」
彼女が心配そうに莉樹を見つめる虹彩の色は、いつの間にか元の色に戻っていた。
「ケガはないが、浴衣の帯とインナーがダメかな」
「ボクの貸そうか?」
「それじゃ~あんたが困るでしょ?ってか、何で下着つけてないのよ?」
「だって、浴衣には下着つけないってママが言ってたし」
「それは昔の話しでしょ?今の世にそんな決まりなんてないし」
しばらく説教をする莉樹。それを笑って受け流すアペリラ。
気づけば、いつものリズリラコンビのリズム感。やはり彼女達は、この方がお似合いですな。
そんな楽しい時間も束の間。男の1人が意識を取り戻し、落ちていた凶器を手に持ち、背後から彼女達に襲いかかる。
「邪魔だ。どけ」
彼女達の背後から襲って来る男に、割り込むように蹴りを入れ、男は再び再起不能。
「酷い格好だが、友達は無事なのか?"姉ちゃん"」
彼女達が声の方へ振り向くと。そこに立っていたのは、同じ学校の男子生徒。
条件反射的に体が反応し、生徒に抱き着き、お礼を言うアペリラ。
「おい、離れろ。てか下着つけろよ」
「元からつけて来てないもん。あ、友達は無事だよ。浴衣がアレだけど」
彼が心配そうに莉樹に視線を向けると、浴衣が開けないように、手でおさえながら、恥ずかしそうに会釈をする彼女。
「あっれ?亜咲花じゃね?って、どうしたんだ?その格好」
「げ?その声は高野。こっち来んな、てか見んなバカ」
鳥居の入り口から近づいて来る男子生徒が、慣れた口調で彼女に声を掛け、彼女もまた、親しげな口ぶりをする。
それに気づいた精霊コンビ。アペリラの胸元を隠す為、自分の背中にくっつかせるクリエ。その背中から顔をちょこんと出し、莉樹に向かって2人がハモる。
「「知り合いなの?」」
☆★☆★☆★☆
はあ。疲れた。
今日の事は、一生忘れないだろうな……
私が家に帰り、ベットに入る頃には、既に日付が変わっていて、家までは彼が送って行ってくれた。
ああ、彼とはリラの弟様。名はクリエさん。
同学年の女子の間では、知らない名前ではない人物。だって、彼は女子の憧れの王子様。
「それが何でリラの弟なのよ?」
深夜に関わらず、また大声で独り突っ込みを入れる私。
そりゃ声も出ますよ。だって…………彼と彼女は…………唇を…………
じゃなくて。姉、弟じゃないって事を言いたかったんだけど、認めたら、2人は付き合ってるって事に……
『大丈夫。ボクはまだ知らない事が多すぎる。人としての恋愛なんてのは、まだ早いかな』
わからない、わからない。どう言う事なの?
それに……あの時見えた彼女の瞳の色……と、あの変な現象。
「ねえ?アペリラ……あなたは……一体……」
◇◆◇◆◇◆◇
商店街の方角より、花火大会終了のアナウンスが聞こえる頃。
若さ溢れる男女4人が、境内で出会う。
察しの通り、物語は少々遡ってお届けしている事を、ご理解していただきまして、進めて参ります。
「「知り合いなの?」」
莉樹に問い掛ける2人の問いに、互いに顔を見合わせ、どちらが口を開くか伺う2人。
その間、クリエがアペリラに「早く隠せ」と命令し、彼に見えないよう、静かに浴衣を元に戻す。
「とりあえず、皆で先に自己紹介しとかね?それから説明した方が自然だと思うぜ?」
「そうね。でも、ごめん。先に場所を変えてほしいんだ。ここには1秒もいたくないし。それも後で説明するから」
彼女の言葉を察した男子2人が、女子2人を安全かつ、人目がつかない場所まで連れて行く。
「わー。高台の下に、こんな空洞あったんだ」
「小さい頃、よくコイツと一緒に遊びに来てた場所だ」
「今はもう来なくなった場所だけどね」
「ここなら確かに人目はつかないな」
月明かりが届く範囲の場所で皆は座り、口火を切って、彼から自己紹介が始まる。
「俺は高野春馬。そこにいるクリエと同じクラス。んで、そこにいる亜咲花莉樹の幼馴染で、その親友のアペリラさんとは、1度でいいから、ゆっくりお話したかったんだよね」
「…………もう自己紹介いいんじゃね?」
莉樹の突っ込みで、可愛く笑うアペリラ。声には出さないが口元がニヤけるクリエ。
「そ、そうだな。まあ、亜咲花とは昔からの友達だ。さっきお前、アペリラさんもか。あの薄汚い連中に、なんだ……とにかく察した。だから助けに行くつもりだったんだが。事は終わってた」
「高野。それどう言う事?何で何も伝えてないのにわかるのよ?」
「姉ちゃんに、友達を助けてと連絡があった。だから、一緒にいた春馬を捨てて、あの場所に駆けつけた」
「おい。その言い方はないだろ?」
彼女は「そんなのしてないよ?」と、心で彼に伝えると、彼は「いいから合わせてくれ」と、心で返す。
「そ、そうだね。クリエに隙を見て連絡したかな」
「ま。オレがいなくても、姉ちゃんが全て片付けたみたいだけどな」
「アペリラさんて運動神経いいって評判だぜ。相方は最悪だけどな」
当然のように突っ込んで来ると期待していた春馬でしたが、莉樹はうつむき小さく答える。
「………高野の言う通りね。今回の事は、全部………私のせい」
「うぅ。そうじゃないだろ亜咲花。俺は冗談で場を和ませようとだな。。。すまない。とにかく、お前が無事でよかったよ」
「春………ま………」
幼馴染の邪魔をせず、そっと空洞から出る2人の精霊。
「ネ?どう言う事?私とクリエの意識が繋がってるの?」
「そうじゃない。姉ちゃんはさっき、"精霊力"を使ったろ?」
「あ……。お願いクリエ。この事はママには内緒にして」
「わかってるよ。でも、あの子は気づいてないのか?」
彼の言葉が彼女の表情を曇らせ、月を見上げて弱く答えた。
「ウン……多分……自信はないけどね」
~ BBQ sequel_6 突き進め!恋のスクランブル ~
花火大会の人だかりも落ち着いた時。
莉樹の気持ちも落ち着き、それぞれ、家路へ向かおうとしておりました。
「さあ、遠慮せず乗ってくれ」
「あ、え~と。重いかもですよ?」
クリエの背中に、帯を失った浴衣少女が乗っかる。要は、おんぶですな。
彼の背中で浴衣を密着させ、家まで送る事を提案したアペリラ。
姉ちゃんの命令となれば、逆らえない彼。責任を持って、彼女を家まで届ける事に。
「じゃ、行って来る。そっちは任せたぜ?姉ちゃん」
「いや、そこは俺だろ?」
彼の突っ込みに、くすっと笑うアペリラ。
「ホントに送ってもらっても、いいのかな?」
「当たり前です。ささ、俺の背中に遠慮なく」
「おい高野。リラに触れたら分かってるんだろうな?」
彼の背から怒号が聞こえ、彼女に伸ばした手を、引っ込めながら後ずさりする彼。
その手をそっと握り、「これくらいならいいよね?」と彼女に問うアペリラ。
「お、おお。彼女の手から伝わって来る優しさが、俺の黒ずんだ心を、真っ白に浄化させて行く」
「うるせえよ。リラに感謝しとけよ?こいつなりのお礼だから」
「わかった、わかった。んじゃ、クリエ。亜咲花を頼むわ」
「ああ。安心しろ。彼女はオレが守ってみせる」
ベタな言葉でありながらも、何故か頬が赤くなり、体の体温が上がる莉樹。
突然しおらしくなる様を、見逃さない幼馴染。しかし何も言わず、アペリラを連れて歩き出す。
☆★☆★☆★☆
祭りの後ってのは、何故か虚しいと言うか、静かに感じる。
楽しい時間が終わった寂しさが、そうさせているのかもしれない。
ま、私の心の中は大荒れで、楽しいなんて言葉は出ない。
そう、楽しいなんて状況じゃない。
「…………」
「…………」
なに?何でこんなに無口なの?もしかして、私の体重がアレだから?
静かな帰り道に無口な彼。
まるで、この世界に2人しかいない錯覚を起こしそうなくらい静か。
こんな時どうすればいい?ねえ?リラ。あんたならどうするの?
『クリエ。助けてくれてありがと』
『おい、離れろ。てか下着つけろよ』
ダメ無理。てか、もう密着させてもらってるし。
は。密着……って。私ってば、押し当ててる?
「ご、ごめんなさい。わ、私、そんなつもりじゃ」
「なぜ謝る?まあ、疲れてるのかもな。色々あったようだし、体調は平気なのか?」
はあ…………アペリラ。これが本当の私なのよ。
あんたより前向きでもなければ、異性にも臆病で、全て妄想が常識と勘違いしているバカな女。
ん?今、答えてくれた?
もしかして、私が話すのを待っててくれていたの?
「え、ええ。大きなケガはないですが、少し暴れたせいで、軽い擦り傷くらいは」
「……そうか。治してやりたい所だけど、禁じられているからな。すまん」
「それって、どう言う?」
「いや。忘れてくれ。あと、姉ちゃんの事も、嫌いにならないでほしい」
この時。彼が言った言葉の意味は、今の私では理解出来る筈も無く。
違うわね。この言葉がきっかけで、私は、少し彼女の事が気になり始めていたわ。
☆★☆★☆★☆
偶然って言うのかな?
クリエの友達が、まさかリズの幼馴染だったなんて。しかも面白い人。
彼も彼女も、そんな事、ボクには伝えてくれてなかったし。
「ねえアペリラさん?なんか少し機嫌が悪い?」
「エ?あーごめん。顔に出てた?」
「もしかして、俺が悪かったり?手、離そうか?」
離れて行く手を、慌ててボクは捕まえて、誤解だよと説明する。
ボクの行動に驚き、少し照れた顔になり、少し視線を逸らす彼。
「どうしたの?少し近くに寄り過ぎた?」
「いや、それはとてもありがたいんだが。アペリラさん……もしかして……ノーブラだったり?」
あ。そういや着けてなかったね。
彼の手を捕まえた時。ボクと彼の距離はほとんどなく、正直、彼の体にボクの体が当たっていたんだ。
「あはは……見えた?」
「いや、そうじゃないが。自然な感触が伝わったから……って。ごめん、この事はアイツらには黙ってて」
「いいよ。それに、悪いのはボクだしね。どっちかと言えば、そのセリフはボクが言う事なのかも」
笑って彼から少し距離を置き、繋いだ手は離さず歩き出す。
なんだろう?彼といると、楽しい気分になる。
元からそう言う性格だから?クリエとは全く逆のタイプだよね?
「ネ?キミはリズと付き合ってるの?」
「ば、バカな。亜咲花とはそんなんじゃないって」
そう否定され、幼い頃の彼と彼女の事を、色々と聞かせてもらったボク。
友達と言えばそれ以上だし、恋人としてはお互い見ていない。そんな関係だって。
「なんか勿体ないなー。絶対似合ってると思うんだけど」
「お互い。近場で済ませようなんて事は、したくないんだって。あ。お似合いって言えば、アペリラさんとアイツも似合ってるぜ?」
「ボク?と誰?」
「またまた。照れなくてもいいぜ?なんたって、帰国子女同士のカップルだもんな」
帰国子女どうし?
この学校で、ボク以外に帰国子女っていたのかな?
「なんか勘違いしてるようだから言っとくけど、ボクは誰とも付き合ってないよ?」
「ウソ?クリエといつも仲良しさんじゃないの?」
ああ、もう1人はクリエだったんだ。帰国子女って言うから、女の子かと思ったよ。
「ボクとクリエはね、姉弟なんだよ」
「……噂は聞いてる。でも……君達は"違う家で暮らしてる"よね?親も違うんじゃない?」
「あ、あの。それはね。色々と事情があるのさ。そう、ある。なんたって帰国子女だし」
明らかに動揺しながら、言葉を繋いで行くボク。握った手が、みるみる湿って来ているのがわかる。
最近わかったんだけど、どうやらボクは"汗っかき体質"らしい。それは暑さだけじゃなくて、緊張した時でも自然と汗が出るみたい。
彼の事だから、この汗でウソだと認識されたんだろうな。
「ああ、ごめん。手を汚しちゃって。俺、結構緊張するんだわ。美人さんなら特にね」
「春馬クン…………キミって、優しいね」
「春馬でいいって。アペリラさん」
「ボクもアペリラでいいよ。なんならリラでも大歓迎さ」
真実は明かす事無く、自然と会話を逸らして行く彼の行動が、ボクの心をくすぐる。
別に隠す事ではないけれど、ここは、彼の優しさに甘える事にしとこう。
「じゃあリラ……これも何かの縁だ。俺と友達になってくれないか?ってね。無理かなあ」
「いいよ?てかもう友達でしょ?違った?」
「マジで?これは夢か?夢だなきっと。て事はだな。今の俺は夢を支配している。ならば、リラの胸元を見ても嫌われないだろう」
あまりにも直球な言葉と、視線をボクに向けられ、少し胸が弾けた気がした。
ボクは少し頬を赤くして、片手が胸元へと動く。
「そ、それはちょっと恥ずかしいから…………やめて……ね?」
いつかの時と同じ。身体が誤作動を起こし、頭の中が変な感じになる。
どうしたんだボク?最近やっぱヘンだよ。
「ああ、ごめんなさい。調子に乗り過ぎました。嫌いにならないでえ」
ただ彼を見つめ、フリーズしているボクの姿に耐え切れず、現実を直視し、謝罪する彼。
夏休み前半。汗ばむ季節に出会った、ボクの新しい友達。
名は高野春馬。ボクの大切な友達の幼馴染。
みんなにとって、楽しい夏が始まるよ。
って、思ってたんだけどね…………
☆★☆★☆★☆
あれから1週間が過ぎ。2度目の外出時がやって来た。
私の夏の最大イベントと言えば、同人誌即売会。通称コミ会。
年に2回のこのイベントは、私にとっては生き甲斐と言っても過言ではない。てかこの為に生きている。
とは言え、私が本を売りに出すわけではない。私は買う専門なのだ。
ん?ならどうして描いているかって?
あ~それはな。年齢的に私の描いているジャンルは、販売するのは困難。てか無理。
だが、あと2年。来るべき記念の日に、まとめて出店してやろうと言う密かな思いで、ずっと描き溜めている。
「ほんと。お前は黙ってたらイケてるのに、中身は発情してるヤロー並みだもんな」
「うっさいわね。勝手に割り込んで来んな。。。って、何であんたがここにいるのよ?」
「おうおう、すっかり元気になったな。でもな、まだ心配なんだよ。"俺らは"」
玄関のドアを開けると、待ち伏せていたであろう幼馴染が目の前に現れ、足止めを喰らってしまう。
ウザいと言う視線を送りながら話していると、彼が右手の親指を動かして、「よく見ろ」と合図する。
「え?何で?……クリエさん?」
「ボクもいるってば」
どう言う事なの?
私は誰も誘っていないし、こんなイベントに誘えるわけがね~よ。
リラはまあいい。問題はクリエさん。どうして彼までここに?
自然と目線が彼に流れると、彼も気づいて目を合わせてくれた。
お、落ち着きなさい。そもそも何で動揺してんのよ?
彼とは何もないし、そんな関係でもないのよ?ん?そんな関係?
やだやだやだ~私、何をまた○※◇×etc.
「おおい、いい加減戻って来いよ。趣味よか先に、その妄想癖をどうにかしろ」
「だから心を読むな。てか帰れ」
「なら春馬は帰らせて、代わりにオレが同行する。ダメか?」
「え、え~と。お気持ちは大変嬉しいんですけど~今から行く所だけは……」
で。
結局、みんなで来てしまったよ…………コミ会。
毎年、毎回行われるこの夏の祭典は、プロ、アマ問わず、同人誌の即売や、自作のゲームやグッズの販売を主とする。
そして、コスプレ会場もあり、この季節のコスプレイヤーは、露出度の高い衣装を着る輩が多発している。
まあ私が言ってるのは、女のコスプレイヤーの話しなんだが。まれに、男もキワドい衣装で責めるヤツもいるな。
とは言え、私はそっち関係にはほぼ立ち寄らないんだ。あくまで目的は同人誌だからな。
……でもな~……どうしよう……。
「すごい人だねー。いっぱい荷物持ってる人もいるし」
「しかも男の比率が多いようだ。やはり来て正解だったな」
いや、私的には不正解なんですよ。
なんだろう。これほど自分の好きな事を、他人に自慢出来ないイベントって……
「まあ色々考えるな。お前はいつも通り自然でいろ」
「そうしたいけど、彼の事よく知らないし……嫌われたく……ないょ」
「ならここで選択肢だ。俺と一緒に行動するか、彼女と一緒に行動するか。リラなら平気だろ?」
「リラ?ですって?随分と馴れ馴れしく呼べるようになったわね?高野くん」
「え?あ、誤解するなよ?彼女には手を出してないし、お互い呼び捨てでと、彼女の了解もだな」
「いいわよ。私が文句言える事じゃないしな。でも、楽しいデートはさせてあげない」
私は、人間観察ではしゃいでいる、彼女の所まで近づき、腕を組む。
そして、時間と待ち合わせ場所を指定し、同人誌会場の方へと歩いて行く。
「2人ともー。また後でねー」と。左手を大きく振り、人混みに溶けて行くリラ。
「ちょ、リラ。私から絶対離れないでよ?」と。まるで親の気分になる私。
とにかく。これでようやく私の本気が出せるわ。リラがいるけど。
まあ~彼女には、いずれ私が本を売る立場になった時。売り子として参加してもらう予定だったし。
これも経験と思って、我慢してもらうわよ?
「リラ。これが私の生きている世界よ。しっかり目に焼き付けなさい」
「ウン。リズリズの事、もっと教えてね」
☆★☆★☆★☆
「姉ちゃんと一緒にさせたら、結局オレたちの意味はないだろ?」
「まあ待て。彼女って、運動神経いいし、亜咲花を守ってくれたんだろ?」
確かに。姉ちゃんは特別だ。
彼女を守る事は造作もない事。だけど、姉ちゃんだって女なんだ。
「だな。お前が心配するのはわかるぜ。でもな、正直ココは問題ない」
「なぜ断言出来る?」
「それはな。このイベントに参加している全ての人間は皆、ある意味、紳士淑女の集まりだからだ」
高らかに声を上げ、両手を天へ伸ばしながら力説した彼。
こいつの言葉に信用性はないが、信頼はしている。だから心配はしていないが。
「これからどうすんだ?」
「折角だから、お前に女の美しさを教えてやるぜ」
あまり興味はなかったが、春馬が興味あるなら仕方ない。オレたちは、コスプレ会場へと歩き出す。
もし何かあったら、姉ちゃんから連絡来ると思うし、大丈夫だろう。事件なんて早々起るもんじゃないしな。
そう。事件なんて。。。
「…………あんた……ナニしてる?」
「ぇ?…………クリエ……くん?」
偶然出会った小麦色の肌の女性。
見れば、例のゲームで女武道家が使用している衣装を着ていて、夏用に、露出部分が多めに改良されていた。
何も起きないと思っていた所に、舞い込んだ"大事件"。いや、大問題と言う所か。
どうやらオレは、見てはいけないモノを、見てしまったようだ。
「うおお。お姉さん、かなり似合ってますね。しかもクリエの知り合いさん?」
「あ、ぁはは。どうも。クリエくんのお友達?」
「関わらない方が身のためですよ?コイツ、女には見境無しですから」
「失礼な事を言うな。彼女をよく見ろ。夏で日焼けした小麦色の肌に、柔らかくて、実は筋肉を兼ね備えた肉体。それでいて、自分に合った衣装。とどめは、控えめに見えるが、大き過ぎないあのドリームライン。これが美だ」
いや、肌は元からああだ。しかも、色々と褒めてるつもりだろうが、周りに個人情報ならぬ、身体情報を曝けられた彼女は、絶賛うつむき、うずくまっているぞ?
「すみません"しの"さん。事が落ち着くまで、場所を変えますか?」
オレの提案に、ちょこんと頭を動かして、両手で顔を覆う彼女。
とりあえず。コスプレ会場から、少し離れた静かな場所まで、オレたちは歩き出した。
「しかし驚いたわ。まさか、こんな所に興味があったなんてな」
「それはこちらのセリフですよ。ま、天才の趣味は幅広いと言う事にしときますよ」
「うぅ。もはや言い訳なんてせーへんけど、これだけは言わせてもらうとな、うち、今回が初参加やねん」
だろうな。
これが毎回だったら、アイツのママが知らないわけがない。てか仲間内にもバレてるだろう。
となれば、今回は見なかった事にするのが得策だな。
「わかりました。ではお互い、この事は内密に」
「わかった。手を打つわ」
「あのう。さっきから俺は眼中に無いのですか?先程の件は、何度も謝罪しましたが?」
オレと彼女が彼を無視して、約束を交わしている最中に、控えめな言葉で、存在をアピールする彼。
察しのいい、元々色んな面で優秀な彼女は、自然と彼に歩み寄って、言葉を交わし始める。
彼女の名は"しの"さん。オレのママの後輩であり、アペリラのママの親友だ。
成績優秀、合気道の達人で、小麦色の肌をした、関西弁を喋る女性。
少しドジな所と、予想外の出来事には弱い。要は、男ウケするタイプの人間らしい。
このイベント参加のきっかけは、例のゲームBBQ。
彼女の職業であった武道家の衣装が、頭から離れなかった事により、自分で衣装を作ったとか。
「さっきは褒めてくれてありがとうな。恥ずかしかったけど、正直嬉しかったわ」
「正直タイプなんです」
「え?うち?」
「あ、ごめんなさい。失礼な事言うかもですが、俺。大きい子より、しのさんみたいな人がタイプで」
アホか。お前の親と同じくらいか、それ以上の女性に、とんだ性癖を堂々と喋るな。
しのさんだって返答に困るだろう。まあ、別に子供の戯言だと、受け流してくれるだろうけどな。
「春馬くん。あんたはなんてええ子なんや。せやろ?メロンみたいな化物級よりは、清楚で凛々しい方がええよな」
おい。何を意気投合しているんだ?
まあ、前作までは、何かと大きい人がヒロイン率高かったしな。って、オレも何を言っているんだ。
勝手に1人ボケ突っ込みをしていると、彼の口から気になる言葉を耳にする。
「ええ。実は俺の好きな子も、しのさんみたいな美しい人なんです。でも、片思いですし、相手は既にいるんですよね」
片思いか……オレも同じかもな…………って、何でオレの方を、アイツはずっと見ている?しかも指を指すな。
「もしかして……アペちゃんなの?」
「え?しのさん、彼女の事を知ってるんですか?やっぱ2人は付き合ってます?」
一瞬。オレの顔を伺った彼女。少し動揺している事を察してくれて、「それは、うちに聞く事やないんとちゃう?」と、正論かつオレが答えを見つける為の、時間稼ぎをしてくれる。彼女はこれが出来るから助かっているけれど、さあどう答えよう。無難に、いつものように返すか。
「オレとアイツはそんな関係じゃない。アイツはオレの姉ちゃんだ」
「だからな、お前の言ってる"姉ちゃん"って何だ?リラが、お前だけに呼んでもらいたい"愛言葉"なのか?いい加減はっきりしろよ」
いつもなら、笑って冗談ぶった口調で流してくれる彼が、初めて見せる本気の顔。
この時オレは理解した。
春馬は───本気で彼女を───
すぐにオレと彼の間に両手を出し、体ごと割り込んで来るコスプレイヤー。
ほのかに香る、汗の匂いは爽やかで、大人の魅力も兼ね備えている彼女。
そんな彼女も───こんな経験をして来たのだろうか?
なら、今度はオレに教えて欲しい。
素直に好きって───何人の人が伝えれるんだ?
☆★☆★☆★☆
コミ会も終わり、駅で別れた帰国子女組と幼馴染組。
毎度の事ながら、人目を気にせず、彼の腕にしがみつき、明るい言葉と共に消えて行く彼女の背中を、ずっと見つめる莉樹。
その表情はどこか寂しげで、彼女の幼き頃を思い出してしまった春馬。
(やっぱ、ほっとけないよな)
「どうした?頭の中を欲で満たされて、もう眠くなったのか?」
「はあ?あんたさ、私以外の女にも、そんな事言ってるんじゃないでしょうね?」
「おうおう、まだまだ元気あるじゃないか。ほれ、荷物持ってやるから、俺らも帰ろうぜ?」
いつものノリで、彼女の表情も元に戻り、こちらも駅を後にする。
道中。両手で握りしめて、やっと持っている同人誌の入った鞄を、片手で軽く持ち、ついでに彼女の肩にも手をかける彼。
当然の事ながら、殺意に満ちた眼光が、彼を襲うのですが、彼にとっては、それも計算の内でございます。
「こんなモンに、そんなに価値あるのか?リアルな人を見る方が、俺には価値あると思うんだがな」
「あんたにゃわかんないわよ。コスプレで発情出来るのは、男だけだっての」
「よく言うね。お前だって、リアルな男には興味あるだろ?」
「…………まあ、否定はしないわ。ねえ高野……」
「今日も暑いな。手持ち少ないんだろ?マックくらいならおごってやるぜ?話しは涼しい場所で、頭冷やしながらでも遅くはないよな?」
彼女の言葉を先読みし、自分から誘い返す幼馴染。
まあ、さりげなく出来る所が、彼の人柄なのかもしれませんな。
それを知ってる彼女もまた、彼に気づかれないように顔を隠し、静かに笑って誘いを受ける。
トレイの上に、コーヒーが2つと、ポテトのLサイズが1つ。
人が少ない所のテーブル席で、対面しながら座っている。
「最っ低」
「なんでさ?」
座ると開口一番に出た言葉。理由は簡単。ファミレスのノリで、ポテトを1つしか頼んでなかった事と、男女2人が、そのポテトをシェアするという、昭和のシチュエーション。
「店員さん、絶対勘違いしてる」
「いいじゃんか?長い付き合いなんだから、それくらい許せるだろ?」
「…………バカ」
不機嫌な顔でポテトに手を伸ばし、箱ごと傾け、口に流し込む彼女。
「あ。お前、それアリかよ?」
「ふん。ふやしかったは、もうひっこ、ふう。買って来なさいよ?」
彼女の大胆な食し方で、ポテトはほぼ全滅状態。残った数本も、彼女の口に触れている為、彼は打つ手がない。
と、思いきや。
「先に言っとくが、俺は謝らないし、怒るなよ?」
「え?やだ。やめて。ごめんなさい」
彼は何も気にせず、ポテトに手を伸ばし、おそらく、彼女が触れているであろう湿った部分をも気にせず、自然に口に運ぶ彼。
平然と食べている彼の顔を、まともに見れなくなり、自分がとった行動を後悔する彼女。
「お前さ。ホント可愛いよな」
「う、うるさい。責任とるんでしょうね?」
うつむきながら、右手で唇を触る彼女。
「はあ。。。なら本気で聞くぞ?お前は、俺でいいのか?」
「へ?」
驚き、彼の顔をまっすぐ見つめると。彼は、スマホの画面に、クリエと写っている画像を彼女に見せ、言葉を続ける。
「亜咲花が今、同人誌よりも興味を持とうとしているのは、彼じゃないのか?」
「え?あ、あの……待って高野。私の話しを先に聞いて」
「ここで肯定じゃなきゃ、俺は。責任もって亜咲花を、莉樹を幸せにしてやる。だからもう1度聞くぞ?」
「いや。そうじゃないの………お願い、さっきのは謝るから…………ちゃんと話し……聞いてよ」
店内に響く女性の涙声。
一瞬静まり返るも、痴話喧嘩だと思い、聞き流すお客と店員。
「ごめん。お前が泣いた事で理解出来たよ。アペリラさんだな?」
軽くうなずき、両手で涙を拭い、頭の中で思った事を、素直に言葉として並べて行く彼女。
「私は、確かにクリエさんが気になって来ている。でも彼にはリラが側にいて、あんなに仲良く接していて、2人は姉弟だって言うけど、絶対違うと思うし、でも姉弟じゃなかったら……恋人だし、そんな彼女の彼氏を好きになる私は、きっと彼女に嫌われる。そんなの嫌。私はリラも大事、花火の時だって……彼女には、私のせいで辛い思いをさせた。これ以上、あの子に嫌われたくないよ…………私……わけわかんない……」
「亜咲花…………所で、幼馴染フラグも立たないんだな俺」
「もしかして、私の事、好きなの?」
「まあ嫌いじゃないぜ?だから、俺がお前に協力してやる。上手く行けば、お前はクリエと付き合えるかもよ?」
おそらく彼も彼女も、解決すべき点をなぞった先に辿り着く線は、間違いなく同じ所。
「だから、私はリラを悲しませたり、困らせたりするのは嫌なの」
「それは、2人が恋人だったらって事だよな?だからさ、俺がそこいらをはっきりさせて来る」
偽りの姉弟を演じてる2人の間には、恋愛感情は存在しないのか?この部分さえ明確にすれば、一歩前に進む事が出来る。
「何でそこまで私の為にしてくれるの?」
「いや、これはお互いの為だからな。実はさ、俺も好きな人が出来たって言えば納得してくれるか?」
- つづく -