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Battle Bet Quest (ばーべきゅう)  作者: 五流工房
お約束(イベント)編
13/18

7.3話_私情事情のウェイジャー

戦いが終わり、一夜明けた頃の事でございます。


先の戦いの疲れを癒しながら、最終課題である"元の世界へ帰る方法"を探すべく、一行はとある街にやって来ました。

そこに聳えるなんとも派手な建造物。しかし何処か見覚えのあるこの施設。


「かじの?」


この世界で初めて街を経験する彼女(しよ)が、真っ先に見つけた遊び場。

しかし、時刻は昼間でございます。こちらの営業は夜。興味はあっても中には入れない状態。


「なんや?しよちゃんも興味があるんかいな?」

「私も?ま、まあ入った事ないですし、多少は興味あります」

「この街にも心躍る戦場を用意して来るとは、運営グッジョブ」


右手を突き出し、"いいね"ポーズで誰かに言葉を投げているハクト。


「な、なあみんな。早く帰る方法を見つけに行かへん?ここはまだ営業時間外やし」


何かにうろたえて、言葉がぎこちない彼女(しの)

無理もございません。彼女にとってカジノという所は、正にトラウマ。


「ほんなら、先に手掛かり探しをして、"夜になったら"ここに来ようや」

「いいんですか?嬉しいです」


喜ぶしよの頭を撫でて、しのに悪魔の様な笑顔を魅せる先輩。

しのは口元が震え、瞳を潤ませながら首を左右に振り続ける。


お気づきですね?

今回のお話は、好評につき(自称ですが)、"カジノのお話"でございます。とは言え、同じ内容をなぞるだけではやらない方が吉。

カジノ内で始まる私情の争い。かつて見せた事がない仲間同士の痴話喧嘩(ラブフェイク)。どうか軽い気持ちでお読みいただければと思います。と、その前に。




Battle(ばー) Bet() Quest(きゅう) 7.3ミシシッピ_私情事情のウェイジャー ~




一行が滞在している街を中心に、各々が各地へと足を運び、元の世界へ戻る手掛かりを探る。

とは言え、ここはオンラインゲームの世界。リアルな人が住む設定なぞしているはずもなく。。。

散らばった仲間達は、情報を手にする事なく、そのまま帰ると言う結果になるのです。


そんな中。最も希望が少なく、可能性がある人物を訪ね向かう、1人の女性がおりました。


柱の塔の前。門番を勤めるクリエの姿が目に映る。

彼も彼女の姿を目視し、何も言わず塔の扉を開けると、無言で中へと歩き出す彼女。

彼と彼女がすれ違い、互いに一言口にする。


「研究室だ」 「ありがとう」


研究室。支配する力もなくなり、生きる術までなくしたような顔で、彼女を出迎える彼。


「もう私に構う事はないだろう?それとも、とどめをさしに来たのか?」

「シュ……あなた。教えてもらいたい、いいえ。これは、お願いなのかもしれないわ」


彼は妻の言葉を聞くが、聞き入れはしなかった。

当然の結果と覚悟はしていた彼女の元に、姿を現す精霊アペリラ。


「科学者って言うんだっけ?おじさんの本職は。すごいと思うよ。サクラの花びらからボクを作るなんて」


「所詮は失敗作だ」


シュラフの言葉に反応し、彼の目の前に立つ先輩。そして、右手で平手打ちを浴びせながら、瞳を潤ませ叫ぶ。


「クリエは失敗作(もの)じゃない!私の…………あなたの…………立派な家族なの」


先輩を少し彼から引き離し、落ち着かせるアペリラ。鋭く冷めた目になり、彼に口を開く。


「おじさんは精霊を誕生させて、何をしたかったの?世界征服だなんて事言ったら笑えないから」


冷ややかでありながらも、決して逸らす事が出来ないくらい綺麗な瞳。年甲斐もなく火照る体。

そう。彼は、精霊と言う存在に"恋"や"愛"と言った感情を抱いていたのであります。


「アペリラ。大体はわかったから。それ以上見つめていると、ある意味昇天するからやめな」

「ン?意味がわからないよ。みあおねーちゃん」


全魔断刀を片手に持ち、ゆっくりと研究室の中に入って来た彼女(みあ)

武装はあくまでも護身かつ護衛用であり、決してこちらからは危害を加える事はしない。


『おい、アレって人だよな?』


「あの日、あの夜、あの場所で、一輪のサクラの花びらを手に入れた。全てはそこから始まった」


記憶を辿り、シュラフが静かに語り出す。

好奇心で何気に研究所へと持ち帰った花びら。しかし、(のち)の大発見へと繋がり、実験のくり返しの末、精霊の力を手にする彼。もうお解りですな。そこから生命にこだわり、常識の歯車が狂って行きました。


「ほんと、運命ってやつよね。あの()の3日前。私としよが出会った精霊(かのじょ)に、3日後。あんたに目撃されていたなんて」


そして時が流れ、人間でありながら精霊の子を身篭る先輩。


「妻がクリエを産み、精霊力(ちから)が体内で安定している事を、私は成功とし胸を弾ませた。しかし、あの子は精霊の遺伝子を受け継ぐ事を引き換えに、侵害受容器を失った。結果、どんな負荷にも耐えられる身体となってしまった。この研究は成功してはいなかった………次こそはと願うが、もはや叶わぬ夢だ………今は罪の意識の方が大きい」


生命と精霊の神秘に、少々深入りが過ぎましたな。

一行が彼を止めたおかげで、少しは冷静な判断が出来るようになって来ている彼。


そんな彼の前にアぺリラが立ち、以外な言葉を口にする。


「あの子は間違いなくボクの力を受け継いでいた。人としては不完全かもだけれど、精霊としては合格なんじゃないかな?だからさ、次は自分の家庭が幸せになれる研究をすればいいよ」


「アペリラちゃん」


暖かい言葉が先輩の胸を熱くさせ、彼の心も動かそうとしている。

みあは、アペリラの頭をそっと撫でながら「生意気よ」と笑い飛ばす。その行動に、少し頬を膨らませ、機嫌を損ねるアペリラ。


「君達が私を止めてくれて、本当によかったよ…………帰りに研究室に来るようにと、クリエに伝えてはもらえないだろうか?早速やるべき事が出来たのでな」


妻の顔を見て、黙ってうなずく彼の意味(すがた)を察して、深く頭を下げる先輩。

そして一行は、研究室を後にする。


クリエに用件を伝え、街へと向かう途中。アペリラが差し出す左右の手を、片方ずつ繋いで歩く、みあと先輩。

時は夕暮れ、帰ればちょうど夜になるといった所でしょうか。オレンジの光を浴びながら、アペリラが先輩にこんな事を尋ねました。


「パイセンのおねーちゃん。元の世界へ帰ったらさ、時々クリエに会いに行っていいかな?」

「もちろんや。あの子が世の中に溶け込むには、誰かの支えが必要や。アぺリラちゃんならちょうどええ。ほんでええかな?みあちゃん」

「私に断りを入れなくてもいいですよ。アペリラの好きなようにすればいい。それがこの子の成長にも繋がると思ってますし」


「ウン。ボク、頑張って"お姉ちゃん"する」


その言葉に、2人は驚き彼女を見下ろすと、あの夕日に負けないくらいの、純粋な笑顔が輝いていたのでございます。


・・・

・・


ネオンが彩る夜の街。一際輝きが強い建物の中に、一行は歩を進めて行く。

集まる視線、それは博打王を打ち負かした女王の存在がここにあったから。

皆が女王の姿を一目見ようと群がって来る。特に男性の視線が目立ちますな。


「ねえ?しの。これはマズかったんじゃない?」

「いや、うちはこれくらいせなアカンと思う。不本意やけど連れて来られたんやし。仕方ないと諦めとるわ」

「で、でもね。私はそこまでする必要はないと思うの。前回何があったか知らないけれど、これはある意味……晒し物よ?私なら耐えられない視線だわ」


一体何を話しているかと申しますと。

女王ことしの様の両手首には、しっかり、きっちり、それでいて優しい素材で出来た縄が結ばれている。しかも背中の腰辺りに両手が来るように。まさに拘束状態、ストレートに言えばソフトSM。

今宵の男共が彼女に送っていた視線は、女王の姿を拝見する為ではなく、ただ欲望を満たす為の物。歩く度に揺れ動く、美しくて控えめな女性の……


「そこは説明せんといて。うちは小さい事を気にしてんのは知っとるやろ?」


「これはまた、随分と注目を集められているようで。おや?女王にそのようなご趣味がございましたか」


「また出たのね?イカサマ王」

「ほへ?誰?」


一行の前に見覚えのある人物が姿を現すと、呆れた顔で挨拶するみあ。初対面のしよは、当然の反応で質問すると、隣りにいたさわが簡単に説明する。


彼の名は"クロバ"。博打王の職を持つ男であり、ギャンブル関連に関しては負け知らず。

ま、そんな彼を敗北に導いたのが、しのでございました。


「く、クロバはん。違うんや。これは趣味やのうて……なんや視線が痛いな……はうぅ……」


ようやく自分のしでかした事を悔やむ彼女でございますが、過ぎ去りし時は戻る事はなく、彼女は拘束を解いてもらおうと、ハクトに向かって静かに背中を向ける。


「相変わらずの口だな肉女。自慢の勝負で負けた事が余程悔しかったのか?最も、その重い肉はタダでさえハンデであろう」

「あんたねー。もっとましな例えはないの?うちの変態でも、まだましな表現してくれるわよ?スイートブール。とかね」


みあは清々しい笑みを作りつつ、一瞬鋭い目付きに変わり彼を見る。そして、怒り混じりのウインク攻撃。

あの時の事故を思い出し、彼女に視線を合わせず何も答えない(ヒロ)


「肉がお気に召さなかったのであれば、とっておきの言葉を差し上げよう。"脂肪女"」

「よし、表に出ろクソ野郎」


クロバの軽い挑発に、真顔とノーマルトーンで答えつつ、全魔断刀改を取り出そうとしているみあ。

が。2人の前に、バニーガールの衣装で仲裁に入る、お色気抜群の美女が参上。


「はぁ~い、そこまで。ここは大人の社交場であり遊び場なのよ~。少しの無礼は無礼講にしましょう」


「姉御!おお、何とも大胆なその容姿。正に神が舞い降りたぞ。さあ皆の衆、崇めよ」


先程まで感じていた女王の視線よりも遥かに多く、この場にいる男共のリビドーを上昇させる先輩。

羞恥心を無くした女性の恐ろしさを目の当たりにし、何も言葉が出て来なくなった女性陣。

先輩は、周りの視線に答えるように悩殺ポーズ。やれやれ、話しが進むのは数分先の事でございました。


・・・

・・


ようやく事が落ち着き、博打王が賭博師(ギャンブラー)を指差し挑戦を申し込む。


「私と一勝負お付き合い願おう。勿論、勝者には褒美があると言う条件でだ」

「ほう。具体的には何だ?お前さんの狙いは、ただの復習(リベンジ)じゃないわな?」


ハクトの質問に答えるようにして、クロバがある女性の姿を眺める。


「え?え?うち???」


博打王の視線の先にいる人物。それは女王しの。

彼の真意が掴めず、ただうろたえる彼女。


「勝者は"意中の者と一夜を共にする"。私が勝ったら、彼女と一夜を過させていただく」

「ばっかじゃないの?そんなのダメに決まってるでしょうに。あんた女を物扱いしてない?」

「私はそちらの賭博師に問うている。女性に対して無礼とは承知の上だが、意中の人を独占したい気持ちは誰しもおありの筈。阻止したければ、私に勝てばよいだけの話。そして、勝者は願いを叶えればよいだけの事」


当然のように彼女を守ろうとするみあ。その言葉に耳もかさず、事を進めて行く博打王。


「ちょっと待って下さい。うちの命運を、なんで彼が背負わなダメなんですか?」


冷静になってほしくて、自分も頭に血が昇らないように言葉を置きに行くしの。


「では貴女も参加すればいい。私は2人で勝負しようとは言ってはいません」

「え?そ、それは」

「わかったわ。なら私も参加する。こんなふざけた勝負なんて、私が潰してやるんだから」

「その心意気はよし。してお前の意中の者は誰だ?」

「………………え?」


一瞬、近くにいたバニーガールの口角が上がったようでございます。

が、そんな事は誰も気づく事はなく、救いの手を差し出した女が、今度は救いを求める立場へと追い込まれているのですから。


「さ、さあね。てか何で申告しなきゃダメなのよ?」

「あ~わかったわかった。この勝負、受けるからさ、そいつには答えを黙秘させてやってくれ」

「ハクト。ありがとう」


ハクトの承諾により、この理不尽な勝負は確定される。

だがこの勝負を平等に行う為には、少々役不足でございます。では平等とは何か?その答えはと申しますと。


「アキト。お前も参加するよな?俺らもここいらで本気の勝負してみないか?ま、手加減は出来ないがな」

「そう言うと思ってた。遠慮したい所だが、たまにはお前とぶつかるのも悪くない自分もいるんでな」


「ほう。して、貴方達は誰を望む?」


その問いに、2人の男が迷わず指差す女性。そして、声を重ねてその人の名を叫ぶ。


「「みあ」」


まるで、愛の告白をされたような感覚になり、その場にしゃがみ込み、顔を赤らめ下を向く純粋な女。

彼女の数少ない弱点の1つでございます。


「わ~お。見てよしよ姉。みあさん可愛いよ」

「いいな~。私も参加してみようかな~。さわさんはどうする?」

「私はいいですよ。(参加だけならいいけど、もし勝ったら色々ヤバいでしょ?)」


「おや?貴女は見かけない顔ですな?皆とはどう言うご関係で?」


しよは彼に仲間との関係を伝え、ついでに参加の意思も伝えると、彼は承諾し、答えを保留にしていた女王に、皆に聞こえないように再度問うのでございます。


「いかがです?自分の身は自分で守ると言う手もありますが」

「…………わかりました」


渋々納得し、参加を決意したしの。寂しそうな表情が胸に刺さり、博打王は皆の状況を伺って、そっと彼女に耳打ちをする。


『すみません。後で事情はご説明いたしますので』と。



参加者(エントリー)は6名。

博打王、ハクト、アキト、みあ、しよ、しの。

ルールはいたってシンプル。制限時間内に、どれだけチップを多く持っているかで勝者が決まります。

各自が最初に手にしているチップは100枚。途中でチップが尽きればその時点で失格。

もちろんイカサマは無し。監視役として、ヒロ、さわ、先輩が付くと言った所でしょうか。


「ね~、どうせなら勝ち抜き勝負にしない?最初は1対1で予選して、勝ち残った3人が決勝で戦うのよ。監視役もちょうど3人いるし」


先輩の何気ない提案に対して、反論する者もございませんでした。何故なら、どの道勝者は1人。

予選(どこ)で負けても誰も文句は言わないと思ったから。ですが、この提案はとんでもない裏が隠されていたと言う事は、当然知る由もなく。


さて、遂に始まるギャンブル対決。

予選の組み合わせは以下の通りでございます。


1組目。ハクトvsアキト。監視役、さわの"恋のライバル対決"。

2組目。しよvsみあ。監視役、ヒロの"愛の本音探り合い対決"。

3組目。博打王vsしの。監視役、先輩の"一夜の賭け引き対決"。


果たして、勝負の行方はいかに?


●○●○●○


みなさんこんばんは。いよいよ始まりましたギャンブル対決~。

ここの実況かつ監視を勤めるのは私、さわがお送りするよ~。

ハクトさんとアキトさんが選んだ勝負は"シックボー"。サイコロを3つ使ったゲームらしいの。

ルールは至ってシンプルで、サイコロの出た目が4~10までなら小。11~17までなら大。どちらか選んで、当たれば勝ちと言う勝負。本当はまだ色々とルールがありそうだけど、そこらは気にせず選ぶのみ。ちなみにサイコロは機械制御で振られるみたい。

これなら分かりやすくて、勝敗も早く着く理由でこれになりました。


「勝負は3回、チップの多い方が勝ちだ。ちなみに俺はお前の選んだ方の逆しか賭けない」

「それは俺に対するハンデなのか?それとも勝てる秘策なのか?」


ん~。互いが違う方に賭けるなら、チップの変動は確実に起るよね?しかも3回勝負なのは、引き分けは考えにくい。


「別に秘策とかはないさ。アキトの勝てる要素はいくらでもあるぜ。互いに賭け合うのは3回まで。んでもって互いのチップは100枚。別に1枚ずつを3回でもいいんだぜ?」

「なるほど。仮に全て負けても手元には97枚残る。しかし、お前が賭けたチップによっては確実に負けると言う意味か。意外と心理を揺さぶる事もするんだな」

「ま~女が絡んで来てるんでな。俺も少しは頭も使うし、負けるなんて考えてもない」


おうおう、いつになく真剣なハクトさんだわ。


「それじゃ~そろそろ始めていい?」

「「ああ」」


私の問い掛けから始まった1回戦。ハクトさんは宣言どうり、アキトさんが選ぶまで動かない。だけど、チップは30枚くらい既に賭けるつもりで用意している。

それを見たアキトさんは、同じく30枚を用意し、小の方へ賭ける。

ハクトさんは大へと賭け、サイコロの出目を待つ2人。


「ねえ?みあさんは一体誰を選ぶんだろうね?」

「さあな。あの子は少々複雑だからな。お前も苦労してたんだろ?」

「まーな。もしかすると、今回の答えがアイツって事もある」


なんだか自分を選んでもらえるとは思ってない言い方をする2人。

あ、だから今回の勝負に勝って、強引に彼女に近づこうとしているのかも。

なら私は彼らを応援してあげなくちゃね。


「だったら優勝して、俺だけの女にしてやりなさいよ」


私らしくないと言うか、素の言葉遣いに彼らは驚き、私を凝視する。

それに気づき、体温が上昇し体が熱くなった私。目を逸らしながらサイコロに指を指す。


2人の視線は指を辿り、サイコロの出目を確認する。


●○●○●○


みあとしよが選んだ舞台、それはモンスターレース。

以前、僕とみあが勝負した事もあったけれど、しよが見てて楽しいやつがいいと言う意見でこれを選択。

ルールは簡単。6体のモンスター(しずく)a~fを走らせ、1着を予想するだけ。勝負は1回、互いに予想する枠は3つ。しかも被らないよう、別々のモンスターに賭ける。そうすれば、どちらかが必ず当たると言うルールに僕がした。なので、チップの賭け数が多かろうが少なかろうが関係ないのだ。勿論、これはあくまで僕たちのルールであり、他の客には関係ない事も追加しておこう。


「まさか、あんたとこんな形で戦う時が来るなんてね」

「そうね。戦う前に、相手はもう決めたのかしら?」

「な……私はしのを助けたいからで……誰かなんて……」


どうやら、いや、間違いなくみあは、後先を考えずに口を挟んだようだ。

しかし、まだ結論を出せないのか、出さないのか。ま、彼女なりに悩んではいると思う。もしかすると、答えは決まっていて、僕たちの前では、恥ずかしくて言えないのかもしれない。そう、彼女は純恋愛(そっち)に関しては不器用なんだ。


「はいはい、可愛い可愛い。でも、みあには似合わないわよ?キャラ崩壊ってやつ?」

「ちょ。何よその言い方。大体あんたが優勝したとして、誰と、その、、一夜を過ごそうとしてんのよ?」


みあに作り笑いを見せながら、ゆっくりと僕の顔を見る彼女。

やはりそう来るんですね?でも、今回は選択肢がそれしかないのかもしれ……


「ハクト」


そう、ハクト。それしか選択肢は……って。え?しよ。お前、本気(まじ)か?


両手を腰に当て、大きな胸を突き出しながら、どや顔で答えた彼女。

意外過ぎた答えに、僕とみあが、声を重ねて再度問うも答えは変わらず。

明らかに動揺しているみあ。いや、僕もだけど。


「あ、あんた……何を言ってるのか分かってるのよね?」

「あ~れ?何でそんな心配するのかな?私が言い間違ったとでも思ってるの?」

「そんな事は、り、理由はあんの?」

「ごめんしよ。僕も正直驚いてる。アキトと答えるならしっくり来るんだけど、どうして?」


僕らが彼女に質問すると、大きな胸を更に強調しながら、前のめりになり口を開く。


「そんなの簡単よ。どうせ一夜だけなら、新しい(ひと)と一緒になりたい。それが本音よ。本当はあなたを選びたいけれど、既婚者にはもう手を出せないわ。ごめんね」


いや、謝らなくてもいいんだけど。


「しよ。今日のあんたは変よ?もしかして、シュラフさんに捕まっていた時の後遺症が残ってるんじゃ?」

「何で?昔のあなたに比べたら可愛いモノでしょ?この歳にもなって、自分の大切な人もろくに選べないなんて、恥ずかしくないの?ま~この状況を楽しんで選ばないのなら、私に片方譲ってもらっても文句は言え……」


しよの言葉の最中に、みあが鋭い目付きになり、右手の平手打ちが、彼女を捕えようとしていた。

「それだけはダメだ」と叫ぶ僕の声に反応し、しよの頬には、微かな風圧だけ届く結果となった。


「これが答えなの?……どっちも欲しいんだ」


低い声でいて、呆れた声色で言葉を零すしよ。


「今は……選べないだけよ」


まだ怒りは残っていながらも、彼女に触れるはずの右手は震えていた。


「この話はもうやめよう。君たちに今の顔は似合わない」


あんなに震えて……余程の覚悟だったんだな。

しよから離れ、右手首を左手で抑え、うつむくみあ。しよも体勢を立て直すと、片手で胸元の服を扇ぎ、肌に風を送りつつ、僕の方に顔を向ける。

どう見ても彼女は変だ。そう思いながらしよの姿を見ていると、今度はいつもの笑顔で軽くウインクする。

……こっちが本物だ。しかも僕だけに一瞬魅せたって事は……これは。


「ま、私に奪われたくないなら、勝つ事ね」

「……ヒロ。始めましょうか」


●○●○●○


私としのちゃんが来ている所。そこはカジノ内にあるBAR。

ん?ここでギャンブル対決をするのかですって?ノンノン。ここはお酒を楽しむ所。だから対決なんて事はしないわ。


「すごいわね~しよちゃん。演劇でもやってたのかしら?しかし、友達を虐めるのは心が痛むでしょうね。悪い事しちゃった」


「…………今回はほんまにやり過ぎです。友情が崩れたら、どう責任をとるつもりなんです?」

「あら?あなた達の信頼関係は、誰よりも強いとうちは思っとったんやけど?」


言いたい事を口に出さず、機嫌を損ねるしのちゃん。

余程、彼女達が心配なのね?でも誘い込まれたのはあなた達。私はただの傍観者なのよ。

あの時クロバはんの挑発に乗り、周りを巻き込んだ。その時からこうなる運命だったのよね~。


「しのさん、数々の無礼と失言、なんとお詫びすればよいのやら」

「いえいえ。クロバさんはむしろ先輩に使われたのですから、事情が分かった今は、何も気に病んでません」


深々と頭を下げる博打王に対して、頭を上げるように優しく対応するしのちゃん。


そもそも何が目的かって事を、説明しなくちゃいけないかしら。

簡潔に言うと、可愛い後輩の恋が、どこまで進展しているか知りたかったから。

ちょっと説明が足りてないかもだけど、要するに"みあちゃん"の本心が知りたかったの。

男2人を両天秤に掛けているこの状況。一体彼女はどちらに傾けようとしていたのか?みんなだって知りたいでしょ?だから~お姉さんが"クロバはん"や"しよちゃん"にお願いして、一芝居打ってもらったの。


「あの、しのさん。謝っておきながら矛盾した事を口にします。よろしいですか?」

「え?あ、はい」

「私と、一夜を過ごしてはいただけませんか?」

「ええ!?それは困ります」


驚きの余り。自分の両手を交差して、体を守る姿勢になったしのちゃん。


「あ、いや誤解です。私はここで貴女とお話が出来ればそれで満足。一夜とは今宵のこの時間の意味です」


ふふ。可愛いわね。でもしのちゃんて、ほんと綺麗な肌の色と、バランスのいい体格。そう言う()って、意外と男からすれば人気なのよね。本人は気にしてるようだけども。しよちゃんやみあちゃんが異常なのよ。え?私もそうじゃないのかって?否定はしないけど、そう言った女には、下心丸出しの殿方しか集まらないと思わない?ああ、別に男性陣(あのこたち)を馬鹿にしているんじゃないのよ?要はそこに愛があれば、女性は男性を自然に評価し受け入れる。あら、多く語り過ぎちゃった。


「そ、そうでしたか。先輩の件もありますし、私なんかで宜しければ喜んで。でも、私は貴方の物にはなりませんし、なれません。旦那がいますので」

「承知しました。では一杯飲みながら、貴女の事を聞かせて下さい」


あらあら。私がいるのに、すっかり2人の世界に浸って。

でも、こんな日があってもいいわよね?



だって。やっと手に入れた"心のゆとり"なのだから。


・・・

・・


あいや、良いセリフで締めようとされたのですが、このままでは終わる事が出来ません。

先輩の企みで始まったギャンブル勝負。事の発端組は、事実上の試合棄権。

ですが、事情を知らない男達の戦いと、仕掛人は事情を知りつつも、決着は着けたい女達の戦いは、まだ続く。


「最後まで諦めるなよ。愛する人を何度も見捨てない為にな」

「……言われなくても」


ハクトとアキトのサイコロ勝負は、2回戦まで終了し、2勝2敗でアキトが追い詰められるという展開。

しかし、最後までアキトを見下さず、むしろ励ましているようにも見えるハクト。アキトの手持ちのチップは40枚。ハクトの方はそれ以上。明らかに勝敗は決しているかのようでしたが、最後の1回に、全てのチップを賭けると宣言するハクト。勝つ条件はまだ残してあると言わんばかりの行動に、アキトは戸惑う。


「そんなに悩むな。お前さんは自分の戦い方で挑めばいい」

「ハクト……お前は最後まで見捨てないんだな……なら小に30チップ。これで決着が着く」


ハクトは迷わず全てのチップを大に賭ける。

サイコロが回転し、出目を待つ2人と、2人を応援する1人の女性。


サイコロが出した答え。それは『6、6、6』


「お前の勝ちだ、ハクト」

「ん~や、よく見てみ。サイコロは"ゾロ目"だ」


言い忘れておりましたが、シックボーのルールには、両者が大、小に賭けていて、ゾロ目が出てしまった場合。その時点でチップは没収。すなわち、両者負けになると言うシステムでございます。


「てことは~チップが残ってるアキトさんが勝ったぁ。おめでとう」


喜びに満ちた彼女(さわ)の声で、勝利を確信したアキト。彼の肩に軽く手を置き、無言でうなずきこの場を去るハクト。

見送る彼の大きな背を見て感じた事、それは。


「体格もそうだが、何より器が大き過ぎだよ」



そして、そして。モンスターレースの勝負の方は、互いの賭ける枠が決まったようです。


しよが、しずくb、d、e。

みあが、しずくa、c、f。


「みあは私に勝てないわよ?だって、私には先輩が教えてくれた無敵の(うん)があるみたいだからね」


無敵の力。それは、しのが博打王に勝利した時に発動した夢の大技、素人的幸運(ビギナーズラック)


「そんなの関係ないわ。この勝負だけは負けられない、いいえ、負けたくない。親友でも譲りたくないんだもの」


(それでいいんだよ。お前はいつも真っ直ぐでいて奥手だ。たぶん彼女も、本心(それ)が聞きたかったんだと思う)


わざわざセリフを心の中で呟いたヒロ。彼はもう悟っているみたいですが、あえて最後まで見届けるようですな。


まもなくレースが開始。

2人は互いに睨み合い、レース会場へと姿を消す。

果たして、勝利の栄冠に輝くのは、どちらでしょうか?


「親友が喧嘩している所を、生で見れた感想はどや?」


残された彼の背中から、近づいて来る先輩の声。


「正直、今回は許さないと言う気持ちもありましたが、しよのおかげで考えを改めました。進展するにはまだ時間が必要ですが、みあは必ず答えを見つけますよ」


振り返りながら答える彼の言葉を聞き、「流石やね~」と、うさぎさんの耳で頭を撫でる先輩。


「その答えがヒロくんやったりして」

「ないですよ。誰かが願っても叶いはしません。僕とあの子たちは特にね」


彼の以外な言葉に、満足した笑みを浮かべ、大きな谷間に(かれ)を埋める先輩。


「あら~ヒロくんにしては正直な答え。ご褒美あげる~」

「ちょ、先輩、あんた人妻でしょ?」

「うちはな、愛は平等なモノやと解釈しとるけどな~」


いつもの先輩の強引さには、後輩も為す術がありません。

先輩は自慢の凶器で、彼の理性を揺さぶり楽しんだ上で、残りの仲間の所へと立ち去りました。


数分後。


「うわ~ん。負けちゃったよ。どうせなら勝って、ヒロと過ごしたかったのにぃ~」


いくらギャンブル未経験者であろうとも、夢の大技は必ず発動するとは限りません。彼女もその1人。ま、彼女の場合。今までの人生を振り返ると、不運の方が多く、素人的幸運(ビギナーズラック)なんて、正に夢の大技なのです。


「ちょ。今になって相手をすり変えないでよ。これじゃーいつものあんた、、、って。ヒロ、どう言う事?」

「何だよ?まるで僕が何かしたみたいな言い方して、ま。事情は解ったから説明するよ」


彼が先輩の企みを推測で説明。そして不足の部分はしよから説明され、今回の当事者が自分だったと理解したみあ。

怒りに満ちた表情になり、叱られる覚悟を決めながらも、彼の後ろに身を隠すしよ。


「そっか。なら安心したわ。だって」


彼女が、彼の後ろにいる彼女の手を取り抱き締める。


「ほへ~、どうした?みあ」


驚き警戒するも、抵抗はしないしよ。

みあは、抱き締めたしよの耳元に顔を近づけ、そっと囁く。


「私は、大切な親友を、嫌いにならずに済んだもの」


「ごめんね。嫌な想いをさせちゃった」


長年の付き合いであれど、譲れない想いは必ずあります。まして、将来を誓う程の大きな(ひと)であれば尚のこと。

騙されたとは言え、彼女にとっては大きな一歩。


「よう。そっちも決着ついたようだな」


親友同士のハグを見て、両者の健闘を讃えていると思っているハクト。


「ハクちゃん、先輩に会わなかった?」

「んんや、しのさんの方も終わったのか?」


抱き合う2人の女性から、小さく笑う声が聞こえ、何か違和感を覚える彼。


「姉御か。ほんと毎回楽しませてくれる。しかしだ。そっちは誰が勝者だ?」

「私よ?決勝(そっち)はあんたなの?」


ハクトの問い掛けに、ハグを解いて答えるみあ。そして、彼女の答えに首を軽く振って否定をし、もう必要ないと思われる"決勝戦(ギャンブル)"を進めようとする彼。


「アキトの所へ行ってやれ。勝ちとか負けとかはどうでもいい。ただ2人の時間を大切に過せ。今宵はアイツに譲ってやりたい気分なんでな」


理解が出来ず、首をかしげる彼女でしたが、彼女のお尻を左右から同時に叩く”しよ”と”ヒロ”。


振り返ったその瞳には、若き日の笑顔と、彼女が願った理想の姿(かたち)がそこにある。


「「いってらっしゃい」」


その言葉に後押しされ、足が自然と動き出す。


「しよ。あんたも今日くらいは甘えさせてもらえ。それとヒロ。私のお尻は高くつくからね?このセクハラ野郎」


いつものやり取りでこの場から立ち去るみあ。


「相変わらずの言われようだな。後で助けてくれよ?」

「あは。実は嬉しいんだって、ヒロには素直になれないだけだよ」


会話の途中で、自然と交わる互いの手。その光景を、遠くで見つめて満足する男。

野暮な事はせず、静かにその場を後にする。


「さてと、もう一勝負と行きますか」

「そこの紳士くん。勝利の女神はいかが?今なら両手に花状態だよ」

「でも~残念な事に〜どちらも人妻なのよね~」


ハクトの前に、さわと先輩が現れるや否や、彼の両腕にしがみ付き、甘く囁く。

(バニーガールとあいつのお気に入りか…………たまにはこう言うのも悪くないか)


「んじゃま、みんなで楽しみますか」

「「お~」」



かくして、大人の遊び場で各々が過す特別な時間。

それは、しばらく忘れかけていた、日常を思い出すかのように、はたまた、友情を再認識するかのように、あるいは、思い出を振り返るように。思う所は様々であります。



そして、もう1人。

特別な時間を作ろうと、はじめの一歩を踏み出した少女がおりました。


「ねえ?ボクとお話しない?」


柱の近くで仁王立ちしている彼に向かって問い掛けるも、返事は返って来ない。

それでも彼女は諦めず、勝手に言葉を続ける。


「パパとママの事、好き?」

「…………」

「これからママが戻って来てくれて、一緒に暮らせるんだよね?嬉しい?」

「…………」

「…………あ、えっと…………ボクはね……」

「…………精霊。用件を言え」


言葉を探している彼女にしびれを切らせ、さっさと本題を伝えるよう、彼女を誘導する彼。

彼女は見透かされた事よりも、彼が喋ってくれた事が嬉しくて、無邪気に微笑む。すると、彼が少し照れて顔を背けるのです。

本人も、理解不能な行動と知っていながらも、体が反射的に反応する彼に対し、顎に左手の人差し指を添えて頭を傾ける彼女。


「どうしたの?」

「いいから早く言えよ?」


その言葉を聞いた彼女が、今度は自分が仁王立ちになり、左手を彼に向けて差し出しながら、思いを言葉にする。


「改めて、ボクの名前はアペリラ。キミとお友達になりたくて、ここに来たんだ」


「はあ?」


「……ダメ……かな?」


自信満々で伸ばした手が、少しずつ下がって行き、表情も曇って行くのを感じた彼。

あまりにも選択肢が無い行動に、もはや躊躇なんて言葉は皆無。


「わかった。勝手にしろ」


下がって行く手を握り、真っ直ぐ彼女を見る彼。嬉しさのあまり、彼に飛び着く柔らかい身体。


「やめろ精霊。どうも柔いのは苦手だ」

「ボクはアペリラだって言ったじゃん」



幼さ残る行動は、決して計算している訳ではございませんが、それが彼女の長所でもあり短所でもある。

おっと、今ここでこの事を説明するには、少々早過ぎたのかもしれませんな。


こうして彼女は、精霊の遺伝子を持つ自分の分身、クリエと友達になる事が出来た。

ここから刻まれて行く新たな時間。

果たして、彼女達の未来はどのような展開(すがた)になるのでしょうか?



「とにかく離れろ、アペリラ」

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