7.3話_私情事情のウェイジャー
戦いが終わり、一夜明けた頃の事でございます。
先の戦いの疲れを癒しながら、最終課題である"元の世界へ帰る方法"を探すべく、一行はとある街にやって来ました。
そこに聳えるなんとも派手な建造物。しかし何処か見覚えのあるこの施設。
「かじの?」
この世界で初めて街を経験する彼女が、真っ先に見つけた遊び場。
しかし、時刻は昼間でございます。こちらの営業は夜。興味はあっても中には入れない状態。
「なんや?しよちゃんも興味があるんかいな?」
「私も?ま、まあ入った事ないですし、多少は興味あります」
「この街にも心躍る戦場を用意して来るとは、運営グッジョブ」
右手を突き出し、"いいね"ポーズで誰かに言葉を投げているハクト。
「な、なあみんな。早く帰る方法を見つけに行かへん?ここはまだ営業時間外やし」
何かにうろたえて、言葉がぎこちない彼女。
無理もございません。彼女にとってカジノという所は、正にトラウマ。
「ほんなら、先に手掛かり探しをして、"夜になったら"ここに来ようや」
「いいんですか?嬉しいです」
喜ぶしよの頭を撫でて、しのに悪魔の様な笑顔を魅せる先輩。
しのは口元が震え、瞳を潤ませながら首を左右に振り続ける。
お気づきですね?
今回のお話は、好評につき(自称ですが)、"カジノのお話"でございます。とは言え、同じ内容をなぞるだけではやらない方が吉。
カジノ内で始まる私情の争い。かつて見せた事がない仲間同士の痴話喧嘩。どうか軽い気持ちでお読みいただければと思います。と、その前に。
~ Battle Bet Quest 7.3ミシシッピ_私情事情のウェイジャー ~
一行が滞在している街を中心に、各々が各地へと足を運び、元の世界へ戻る手掛かりを探る。
とは言え、ここはオンラインゲームの世界。リアルな人が住む設定なぞしているはずもなく。。。
散らばった仲間達は、情報を手にする事なく、そのまま帰ると言う結果になるのです。
そんな中。最も希望が少なく、可能性がある人物を訪ね向かう、1人の女性がおりました。
柱の塔の前。門番を勤めるクリエの姿が目に映る。
彼も彼女の姿を目視し、何も言わず塔の扉を開けると、無言で中へと歩き出す彼女。
彼と彼女がすれ違い、互いに一言口にする。
「研究室だ」 「ありがとう」
研究室。支配する力もなくなり、生きる術までなくしたような顔で、彼女を出迎える彼。
「もう私に構う事はないだろう?それとも、とどめをさしに来たのか?」
「シュ……あなた。教えてもらいたい、いいえ。これは、お願いなのかもしれないわ」
彼は妻の言葉を聞くが、聞き入れはしなかった。
当然の結果と覚悟はしていた彼女の元に、姿を現す精霊アペリラ。
「科学者って言うんだっけ?おじさんの本職は。すごいと思うよ。サクラの花びらからボクを作るなんて」
「所詮は失敗作だ」
シュラフの言葉に反応し、彼の目の前に立つ先輩。そして、右手で平手打ちを浴びせながら、瞳を潤ませ叫ぶ。
「クリエは失敗作じゃない!私の…………あなたの…………立派な家族なの」
先輩を少し彼から引き離し、落ち着かせるアペリラ。鋭く冷めた目になり、彼に口を開く。
「おじさんは精霊を誕生させて、何をしたかったの?世界征服だなんて事言ったら笑えないから」
冷ややかでありながらも、決して逸らす事が出来ないくらい綺麗な瞳。年甲斐もなく火照る体。
そう。彼は、精霊と言う存在に"恋"や"愛"と言った感情を抱いていたのであります。
「アペリラ。大体はわかったから。それ以上見つめていると、ある意味昇天するからやめな」
「ン?意味がわからないよ。みあおねーちゃん」
全魔断刀を片手に持ち、ゆっくりと研究室の中に入って来た彼女。
武装はあくまでも護身かつ護衛用であり、決してこちらからは危害を加える事はしない。
『おい、アレって人だよな?』
「あの日、あの夜、あの場所で、一輪のサクラの花びらを手に入れた。全てはそこから始まった」
記憶を辿り、シュラフが静かに語り出す。
好奇心で何気に研究所へと持ち帰った花びら。しかし、後の大発見へと繋がり、実験のくり返しの末、精霊の力を手にする彼。もうお解りですな。そこから生命にこだわり、常識の歯車が狂って行きました。
「ほんと、運命ってやつよね。あの時の3日前。私としよが出会った精霊に、3日後。あんたに目撃されていたなんて」
そして時が流れ、人間でありながら精霊の子を身篭る先輩。
「妻がクリエを産み、精霊力が体内で安定している事を、私は成功とし胸を弾ませた。しかし、あの子は精霊の遺伝子を受け継ぐ事を引き換えに、侵害受容器を失った。結果、どんな負荷にも耐えられる身体となってしまった。この研究は成功してはいなかった………次こそはと願うが、もはや叶わぬ夢だ………今は罪の意識の方が大きい」
生命と精霊の神秘に、少々深入りが過ぎましたな。
一行が彼を止めたおかげで、少しは冷静な判断が出来るようになって来ている彼。
そんな彼の前にアぺリラが立ち、以外な言葉を口にする。
「あの子は間違いなくボクの力を受け継いでいた。人としては不完全かもだけれど、精霊としては合格なんじゃないかな?だからさ、次は自分の家庭が幸せになれる研究をすればいいよ」
「アペリラちゃん」
暖かい言葉が先輩の胸を熱くさせ、彼の心も動かそうとしている。
みあは、アペリラの頭をそっと撫でながら「生意気よ」と笑い飛ばす。その行動に、少し頬を膨らませ、機嫌を損ねるアペリラ。
「君達が私を止めてくれて、本当によかったよ…………帰りに研究室に来るようにと、クリエに伝えてはもらえないだろうか?早速やるべき事が出来たのでな」
妻の顔を見て、黙ってうなずく彼の意味を察して、深く頭を下げる先輩。
そして一行は、研究室を後にする。
クリエに用件を伝え、街へと向かう途中。アペリラが差し出す左右の手を、片方ずつ繋いで歩く、みあと先輩。
時は夕暮れ、帰ればちょうど夜になるといった所でしょうか。オレンジの光を浴びながら、アペリラが先輩にこんな事を尋ねました。
「パイセンのおねーちゃん。元の世界へ帰ったらさ、時々クリエに会いに行っていいかな?」
「もちろんや。あの子が世の中に溶け込むには、誰かの支えが必要や。アぺリラちゃんならちょうどええ。ほんでええかな?みあちゃん」
「私に断りを入れなくてもいいですよ。アペリラの好きなようにすればいい。それがこの子の成長にも繋がると思ってますし」
「ウン。ボク、頑張って"お姉ちゃん"する」
その言葉に、2人は驚き彼女を見下ろすと、あの夕日に負けないくらいの、純粋な笑顔が輝いていたのでございます。
・・・
・・
・
ネオンが彩る夜の街。一際輝きが強い建物の中に、一行は歩を進めて行く。
集まる視線、それは博打王を打ち負かした女王の存在がここにあったから。
皆が女王の姿を一目見ようと群がって来る。特に男性の視線が目立ちますな。
「ねえ?しの。これはマズかったんじゃない?」
「いや、うちはこれくらいせなアカンと思う。不本意やけど連れて来られたんやし。仕方ないと諦めとるわ」
「で、でもね。私はそこまでする必要はないと思うの。前回何があったか知らないけれど、これはある意味……晒し物よ?私なら耐えられない視線だわ」
一体何を話しているかと申しますと。
女王ことしの様の両手首には、しっかり、きっちり、それでいて優しい素材で出来た縄が結ばれている。しかも背中の腰辺りに両手が来るように。まさに拘束状態、ストレートに言えばソフトSM。
今宵の男共が彼女に送っていた視線は、女王の姿を拝見する為ではなく、ただ欲望を満たす為の物。歩く度に揺れ動く、美しくて控えめな女性の……
「そこは説明せんといて。うちは小さい事を気にしてんのは知っとるやろ?」
「これはまた、随分と注目を集められているようで。おや?女王にそのようなご趣味がございましたか」
「また出たのね?イカサマ王」
「ほへ?誰?」
一行の前に見覚えのある人物が姿を現すと、呆れた顔で挨拶するみあ。初対面のしよは、当然の反応で質問すると、隣りにいたさわが簡単に説明する。
彼の名は"クロバ"。博打王の職を持つ男であり、ギャンブル関連に関しては負け知らず。
ま、そんな彼を敗北に導いたのが、しのでございました。
「く、クロバはん。違うんや。これは趣味やのうて……なんや視線が痛いな……はうぅ……」
ようやく自分のしでかした事を悔やむ彼女でございますが、過ぎ去りし時は戻る事はなく、彼女は拘束を解いてもらおうと、ハクトに向かって静かに背中を向ける。
「相変わらずの口だな肉女。自慢の勝負で負けた事が余程悔しかったのか?最も、その重い肉はタダでさえハンデであろう」
「あんたねー。もっとましな例えはないの?うちの変態でも、まだましな表現してくれるわよ?スイートブール。とかね」
みあは清々しい笑みを作りつつ、一瞬鋭い目付きに変わり彼を見る。そして、怒り混じりのウインク攻撃。
あの時の事故を思い出し、彼女に視線を合わせず何も答えない彼。
「肉がお気に召さなかったのであれば、とっておきの言葉を差し上げよう。"脂肪女"」
「よし、表に出ろクソ野郎」
クロバの軽い挑発に、真顔とノーマルトーンで答えつつ、全魔断刀改を取り出そうとしているみあ。
が。2人の前に、バニーガールの衣装で仲裁に入る、お色気抜群の美女が参上。
「はぁ~い、そこまで。ここは大人の社交場であり遊び場なのよ~。少しの無礼は無礼講にしましょう」
「姉御!おお、何とも大胆なその容姿。正に神が舞い降りたぞ。さあ皆の衆、崇めよ」
先程まで感じていた女王の視線よりも遥かに多く、この場にいる男共のリビドーを上昇させる先輩。
羞恥心を無くした女性の恐ろしさを目の当たりにし、何も言葉が出て来なくなった女性陣。
先輩は、周りの視線に答えるように悩殺ポーズ。やれやれ、話しが進むのは数分先の事でございました。
・・・
・・
・
ようやく事が落ち着き、博打王が賭博師を指差し挑戦を申し込む。
「私と一勝負お付き合い願おう。勿論、勝者には褒美があると言う条件でだ」
「ほう。具体的には何だ?お前さんの狙いは、ただの復習じゃないわな?」
ハクトの質問に答えるようにして、クロバがある女性の姿を眺める。
「え?え?うち???」
博打王の視線の先にいる人物。それは女王しの。
彼の真意が掴めず、ただうろたえる彼女。
「勝者は"意中の者と一夜を共にする"。私が勝ったら、彼女と一夜を過させていただく」
「ばっかじゃないの?そんなのダメに決まってるでしょうに。あんた女を物扱いしてない?」
「私はそちらの賭博師に問うている。女性に対して無礼とは承知の上だが、意中の人を独占したい気持ちは誰しもおありの筈。阻止したければ、私に勝てばよいだけの話。そして、勝者は願いを叶えればよいだけの事」
当然のように彼女を守ろうとするみあ。その言葉に耳もかさず、事を進めて行く博打王。
「ちょっと待って下さい。うちの命運を、なんで彼が背負わなダメなんですか?」
冷静になってほしくて、自分も頭に血が昇らないように言葉を置きに行くしの。
「では貴女も参加すればいい。私は2人で勝負しようとは言ってはいません」
「え?そ、それは」
「わかったわ。なら私も参加する。こんなふざけた勝負なんて、私が潰してやるんだから」
「その心意気はよし。してお前の意中の者は誰だ?」
「………………え?」
一瞬、近くにいたバニーガールの口角が上がったようでございます。
が、そんな事は誰も気づく事はなく、救いの手を差し出した女が、今度は救いを求める立場へと追い込まれているのですから。
「さ、さあね。てか何で申告しなきゃダメなのよ?」
「あ~わかったわかった。この勝負、受けるからさ、そいつには答えを黙秘させてやってくれ」
「ハクト。ありがとう」
ハクトの承諾により、この理不尽な勝負は確定される。
だがこの勝負を平等に行う為には、少々役不足でございます。では平等とは何か?その答えはと申しますと。
「アキト。お前も参加するよな?俺らもここいらで本気の勝負してみないか?ま、手加減は出来ないがな」
「そう言うと思ってた。遠慮したい所だが、たまにはお前とぶつかるのも悪くない自分もいるんでな」
「ほう。して、貴方達は誰を望む?」
その問いに、2人の男が迷わず指差す女性。そして、声を重ねてその人の名を叫ぶ。
「「みあ」」
まるで、愛の告白をされたような感覚になり、その場にしゃがみ込み、顔を赤らめ下を向く純粋な女。
彼女の数少ない弱点の1つでございます。
「わ~お。見てよしよ姉。みあさん可愛いよ」
「いいな~。私も参加してみようかな~。さわさんはどうする?」
「私はいいですよ。(参加だけならいいけど、もし勝ったら色々ヤバいでしょ?)」
「おや?貴女は見かけない顔ですな?皆とはどう言うご関係で?」
しよは彼に仲間との関係を伝え、ついでに参加の意思も伝えると、彼は承諾し、答えを保留にしていた女王に、皆に聞こえないように再度問うのでございます。
「いかがです?自分の身は自分で守ると言う手もありますが」
「…………わかりました」
渋々納得し、参加を決意したしの。寂しそうな表情が胸に刺さり、博打王は皆の状況を伺って、そっと彼女に耳打ちをする。
『すみません。後で事情はご説明いたしますので』と。
参加者は6名。
博打王、ハクト、アキト、みあ、しよ、しの。
ルールはいたってシンプル。制限時間内に、どれだけチップを多く持っているかで勝者が決まります。
各自が最初に手にしているチップは100枚。途中でチップが尽きればその時点で失格。
もちろんイカサマは無し。監視役として、ヒロ、さわ、先輩が付くと言った所でしょうか。
「ね~、どうせなら勝ち抜き勝負にしない?最初は1対1で予選して、勝ち残った3人が決勝で戦うのよ。監視役もちょうど3人いるし」
先輩の何気ない提案に対して、反論する者もございませんでした。何故なら、どの道勝者は1人。
予選で負けても誰も文句は言わないと思ったから。ですが、この提案はとんでもない裏が隠されていたと言う事は、当然知る由もなく。
さて、遂に始まるギャンブル対決。
予選の組み合わせは以下の通りでございます。
1組目。ハクトvsアキト。監視役、さわの"恋のライバル対決"。
2組目。しよvsみあ。監視役、ヒロの"愛の本音探り合い対決"。
3組目。博打王vsしの。監視役、先輩の"一夜の賭け引き対決"。
果たして、勝負の行方はいかに?
●○●○●○
みなさんこんばんは。いよいよ始まりましたギャンブル対決~。
ここの実況かつ監視を勤めるのは私、さわがお送りするよ~。
ハクトさんとアキトさんが選んだ勝負は"シックボー"。サイコロを3つ使ったゲームらしいの。
ルールは至ってシンプルで、サイコロの出た目が4~10までなら小。11~17までなら大。どちらか選んで、当たれば勝ちと言う勝負。本当はまだ色々とルールがありそうだけど、そこらは気にせず選ぶのみ。ちなみにサイコロは機械制御で振られるみたい。
これなら分かりやすくて、勝敗も早く着く理由でこれになりました。
「勝負は3回、チップの多い方が勝ちだ。ちなみに俺はお前の選んだ方の逆しか賭けない」
「それは俺に対するハンデなのか?それとも勝てる秘策なのか?」
ん~。互いが違う方に賭けるなら、チップの変動は確実に起るよね?しかも3回勝負なのは、引き分けは考えにくい。
「別に秘策とかはないさ。アキトの勝てる要素はいくらでもあるぜ。互いに賭け合うのは3回まで。んでもって互いのチップは100枚。別に1枚ずつを3回でもいいんだぜ?」
「なるほど。仮に全て負けても手元には97枚残る。しかし、お前が賭けたチップによっては確実に負けると言う意味か。意外と心理を揺さぶる事もするんだな」
「ま~女が絡んで来てるんでな。俺も少しは頭も使うし、負けるなんて考えてもない」
おうおう、いつになく真剣なハクトさんだわ。
「それじゃ~そろそろ始めていい?」
「「ああ」」
私の問い掛けから始まった1回戦。ハクトさんは宣言どうり、アキトさんが選ぶまで動かない。だけど、チップは30枚くらい既に賭けるつもりで用意している。
それを見たアキトさんは、同じく30枚を用意し、小の方へ賭ける。
ハクトさんは大へと賭け、サイコロの出目を待つ2人。
「ねえ?みあさんは一体誰を選ぶんだろうね?」
「さあな。あの子は少々複雑だからな。お前も苦労してたんだろ?」
「まーな。もしかすると、今回の答えがアイツって事もある」
なんだか自分を選んでもらえるとは思ってない言い方をする2人。
あ、だから今回の勝負に勝って、強引に彼女に近づこうとしているのかも。
なら私は彼らを応援してあげなくちゃね。
「だったら優勝して、俺だけの女にしてやりなさいよ」
私らしくないと言うか、素の言葉遣いに彼らは驚き、私を凝視する。
それに気づき、体温が上昇し体が熱くなった私。目を逸らしながらサイコロに指を指す。
2人の視線は指を辿り、サイコロの出目を確認する。
●○●○●○
みあとしよが選んだ舞台、それはモンスターレース。
以前、僕とみあが勝負した事もあったけれど、しよが見てて楽しいやつがいいと言う意見でこれを選択。
ルールは簡単。6体のモンスター(しずく)a~fを走らせ、1着を予想するだけ。勝負は1回、互いに予想する枠は3つ。しかも被らないよう、別々のモンスターに賭ける。そうすれば、どちらかが必ず当たると言うルールに僕がした。なので、チップの賭け数が多かろうが少なかろうが関係ないのだ。勿論、これはあくまで僕たちのルールであり、他の客には関係ない事も追加しておこう。
「まさか、あんたとこんな形で戦う時が来るなんてね」
「そうね。戦う前に、相手はもう決めたのかしら?」
「な……私はしのを助けたいからで……誰かなんて……」
どうやら、いや、間違いなくみあは、後先を考えずに口を挟んだようだ。
しかし、まだ結論を出せないのか、出さないのか。ま、彼女なりに悩んではいると思う。もしかすると、答えは決まっていて、僕たちの前では、恥ずかしくて言えないのかもしれない。そう、彼女は純恋愛に関しては不器用なんだ。
「はいはい、可愛い可愛い。でも、みあには似合わないわよ?キャラ崩壊ってやつ?」
「ちょ。何よその言い方。大体あんたが優勝したとして、誰と、その、、一夜を過ごそうとしてんのよ?」
みあに作り笑いを見せながら、ゆっくりと僕の顔を見る彼女。
やはりそう来るんですね?でも、今回は選択肢がそれしかないのかもしれ……
「ハクト」
そう、ハクト。それしか選択肢は……って。え?しよ。お前、本気か?
両手を腰に当て、大きな胸を突き出しながら、どや顔で答えた彼女。
意外過ぎた答えに、僕とみあが、声を重ねて再度問うも答えは変わらず。
明らかに動揺しているみあ。いや、僕もだけど。
「あ、あんた……何を言ってるのか分かってるのよね?」
「あ~れ?何でそんな心配するのかな?私が言い間違ったとでも思ってるの?」
「そんな事は、り、理由はあんの?」
「ごめんしよ。僕も正直驚いてる。アキトと答えるならしっくり来るんだけど、どうして?」
僕らが彼女に質問すると、大きな胸を更に強調しながら、前のめりになり口を開く。
「そんなの簡単よ。どうせ一夜だけなら、新しい彼と一緒になりたい。それが本音よ。本当はあなたを選びたいけれど、既婚者にはもう手を出せないわ。ごめんね」
いや、謝らなくてもいいんだけど。
「しよ。今日のあんたは変よ?もしかして、シュラフさんに捕まっていた時の後遺症が残ってるんじゃ?」
「何で?昔のあなたに比べたら可愛いモノでしょ?この歳にもなって、自分の大切な人もろくに選べないなんて、恥ずかしくないの?ま~この状況を楽しんで選ばないのなら、私に片方譲ってもらっても文句は言え……」
しよの言葉の最中に、みあが鋭い目付きになり、右手の平手打ちが、彼女を捕えようとしていた。
「それだけはダメだ」と叫ぶ僕の声に反応し、しよの頬には、微かな風圧だけ届く結果となった。
「これが答えなの?……どっちも欲しいんだ」
低い声でいて、呆れた声色で言葉を零すしよ。
「今は……選べないだけよ」
まだ怒りは残っていながらも、彼女に触れるはずの右手は震えていた。
「この話はもうやめよう。君たちに今の顔は似合わない」
あんなに震えて……余程の覚悟だったんだな。
しよから離れ、右手首を左手で抑え、うつむくみあ。しよも体勢を立て直すと、片手で胸元の服を扇ぎ、肌に風を送りつつ、僕の方に顔を向ける。
どう見ても彼女は変だ。そう思いながらしよの姿を見ていると、今度はいつもの笑顔で軽くウインクする。
……こっちが本物だ。しかも僕だけに一瞬魅せたって事は……これは。
「ま、私に奪われたくないなら、勝つ事ね」
「……ヒロ。始めましょうか」
●○●○●○
私としのちゃんが来ている所。そこはカジノ内にあるBAR。
ん?ここでギャンブル対決をするのかですって?ノンノン。ここはお酒を楽しむ所。だから対決なんて事はしないわ。
「すごいわね~しよちゃん。演劇でもやってたのかしら?しかし、友達を虐めるのは心が痛むでしょうね。悪い事しちゃった」
「…………今回はほんまにやり過ぎです。友情が崩れたら、どう責任をとるつもりなんです?」
「あら?あなた達の信頼関係は、誰よりも強いとうちは思っとったんやけど?」
言いたい事を口に出さず、機嫌を損ねるしのちゃん。
余程、彼女達が心配なのね?でも誘い込まれたのはあなた達。私はただの傍観者なのよ。
あの時クロバはんの挑発に乗り、周りを巻き込んだ。その時からこうなる運命だったのよね~。
「しのさん、数々の無礼と失言、なんとお詫びすればよいのやら」
「いえいえ。クロバさんはむしろ先輩に使われたのですから、事情が分かった今は、何も気に病んでません」
深々と頭を下げる博打王に対して、頭を上げるように優しく対応するしのちゃん。
そもそも何が目的かって事を、説明しなくちゃいけないかしら。
簡潔に言うと、可愛い後輩の恋が、どこまで進展しているか知りたかったから。
ちょっと説明が足りてないかもだけど、要するに"みあちゃん"の本心が知りたかったの。
男2人を両天秤に掛けているこの状況。一体彼女はどちらに傾けようとしていたのか?みんなだって知りたいでしょ?だから~お姉さんが"クロバはん"や"しよちゃん"にお願いして、一芝居打ってもらったの。
「あの、しのさん。謝っておきながら矛盾した事を口にします。よろしいですか?」
「え?あ、はい」
「私と、一夜を過ごしてはいただけませんか?」
「ええ!?それは困ります」
驚きの余り。自分の両手を交差して、体を守る姿勢になったしのちゃん。
「あ、いや誤解です。私はここで貴女とお話が出来ればそれで満足。一夜とは今宵のこの時間の意味です」
ふふ。可愛いわね。でもしのちゃんて、ほんと綺麗な肌の色と、バランスのいい体格。そう言う娘って、意外と男からすれば人気なのよね。本人は気にしてるようだけども。しよちゃんやみあちゃんが異常なのよ。え?私もそうじゃないのかって?否定はしないけど、そう言った女には、下心丸出しの殿方しか集まらないと思わない?ああ、別に男性陣を馬鹿にしているんじゃないのよ?要はそこに愛があれば、女性は男性を自然に評価し受け入れる。あら、多く語り過ぎちゃった。
「そ、そうでしたか。先輩の件もありますし、私なんかで宜しければ喜んで。でも、私は貴方の物にはなりませんし、なれません。旦那がいますので」
「承知しました。では一杯飲みながら、貴女の事を聞かせて下さい」
あらあら。私がいるのに、すっかり2人の世界に浸って。
でも、こんな日があってもいいわよね?
だって。やっと手に入れた"心のゆとり"なのだから。
・・・
・・
・
あいや、良いセリフで締めようとされたのですが、このままでは終わる事が出来ません。
先輩の企みで始まったギャンブル勝負。事の発端組は、事実上の試合棄権。
ですが、事情を知らない男達の戦いと、仕掛人は事情を知りつつも、決着は着けたい女達の戦いは、まだ続く。
「最後まで諦めるなよ。愛する人を何度も見捨てない為にな」
「……言われなくても」
ハクトとアキトのサイコロ勝負は、2回戦まで終了し、2勝2敗でアキトが追い詰められるという展開。
しかし、最後までアキトを見下さず、むしろ励ましているようにも見えるハクト。アキトの手持ちのチップは40枚。ハクトの方はそれ以上。明らかに勝敗は決しているかのようでしたが、最後の1回に、全てのチップを賭けると宣言するハクト。勝つ条件はまだ残してあると言わんばかりの行動に、アキトは戸惑う。
「そんなに悩むな。お前さんは自分の戦い方で挑めばいい」
「ハクト……お前は最後まで見捨てないんだな……なら小に30チップ。これで決着が着く」
ハクトは迷わず全てのチップを大に賭ける。
サイコロが回転し、出目を待つ2人と、2人を応援する1人の女性。
サイコロが出した答え。それは『6、6、6』
「お前の勝ちだ、ハクト」
「ん~や、よく見てみ。サイコロは"ゾロ目"だ」
言い忘れておりましたが、シックボーのルールには、両者が大、小に賭けていて、ゾロ目が出てしまった場合。その時点でチップは没収。すなわち、両者負けになると言うシステムでございます。
「てことは~チップが残ってるアキトさんが勝ったぁ。おめでとう」
喜びに満ちた彼女の声で、勝利を確信したアキト。彼の肩に軽く手を置き、無言でうなずきこの場を去るハクト。
見送る彼の大きな背を見て感じた事、それは。
「体格もそうだが、何より器が大き過ぎだよ」
そして、そして。モンスターレースの勝負の方は、互いの賭ける枠が決まったようです。
しよが、しずくb、d、e。
みあが、しずくa、c、f。
「みあは私に勝てないわよ?だって、私には先輩が教えてくれた無敵の力があるみたいだからね」
無敵の力。それは、しのが博打王に勝利した時に発動した夢の大技、素人的幸運。
「そんなの関係ないわ。この勝負だけは負けられない、いいえ、負けたくない。親友でも譲りたくないんだもの」
(それでいいんだよ。お前はいつも真っ直ぐでいて奥手だ。たぶん彼女も、本心が聞きたかったんだと思う)
わざわざセリフを心の中で呟いたヒロ。彼はもう悟っているみたいですが、あえて最後まで見届けるようですな。
まもなくレースが開始。
2人は互いに睨み合い、レース会場へと姿を消す。
果たして、勝利の栄冠に輝くのは、どちらでしょうか?
「親友が喧嘩している所を、生で見れた感想はどや?」
残された彼の背中から、近づいて来る先輩の声。
「正直、今回は許さないと言う気持ちもありましたが、しよのおかげで考えを改めました。進展するにはまだ時間が必要ですが、みあは必ず答えを見つけますよ」
振り返りながら答える彼の言葉を聞き、「流石やね~」と、うさぎさんの耳で頭を撫でる先輩。
「その答えがヒロくんやったりして」
「ないですよ。誰かが願っても叶いはしません。僕とあの子たちは特にね」
彼の以外な言葉に、満足した笑みを浮かべ、大きな谷間に顔を埋める先輩。
「あら~ヒロくんにしては正直な答え。ご褒美あげる~」
「ちょ、先輩、あんた人妻でしょ?」
「うちはな、愛は平等なモノやと解釈しとるけどな~」
いつもの先輩の強引さには、後輩も為す術がありません。
先輩は自慢の凶器で、彼の理性を揺さぶり楽しんだ上で、残りの仲間の所へと立ち去りました。
数分後。
「うわ~ん。負けちゃったよ。どうせなら勝って、ヒロと過ごしたかったのにぃ~」
いくらギャンブル未経験者であろうとも、夢の大技は必ず発動するとは限りません。彼女もその1人。ま、彼女の場合。今までの人生を振り返ると、不運の方が多く、素人的幸運なんて、正に夢の大技なのです。
「ちょ。今になって相手をすり変えないでよ。これじゃーいつものあんた、、、って。ヒロ、どう言う事?」
「何だよ?まるで僕が何かしたみたいな言い方して、ま。事情は解ったから説明するよ」
彼が先輩の企みを推測で説明。そして不足の部分はしよから説明され、今回の当事者が自分だったと理解したみあ。
怒りに満ちた表情になり、叱られる覚悟を決めながらも、彼の後ろに身を隠すしよ。
「そっか。なら安心したわ。だって」
彼女が、彼の後ろにいる彼女の手を取り抱き締める。
「ほへ~、どうした?みあ」
驚き警戒するも、抵抗はしないしよ。
みあは、抱き締めたしよの耳元に顔を近づけ、そっと囁く。
「私は、大切な親友を、嫌いにならずに済んだもの」
「ごめんね。嫌な想いをさせちゃった」
長年の付き合いであれど、譲れない想いは必ずあります。まして、将来を誓う程の大きな愛であれば尚のこと。
騙されたとは言え、彼女にとっては大きな一歩。
「よう。そっちも決着ついたようだな」
親友同士のハグを見て、両者の健闘を讃えていると思っているハクト。
「ハクちゃん、先輩に会わなかった?」
「んんや、しのさんの方も終わったのか?」
抱き合う2人の女性から、小さく笑う声が聞こえ、何か違和感を覚える彼。
「姉御か。ほんと毎回楽しませてくれる。しかしだ。そっちは誰が勝者だ?」
「私よ?決勝はあんたなの?」
ハクトの問い掛けに、ハグを解いて答えるみあ。そして、彼女の答えに首を軽く振って否定をし、もう必要ないと思われる"決勝戦"を進めようとする彼。
「アキトの所へ行ってやれ。勝ちとか負けとかはどうでもいい。ただ2人の時間を大切に過せ。今宵はアイツに譲ってやりたい気分なんでな」
理解が出来ず、首をかしげる彼女でしたが、彼女のお尻を左右から同時に叩く”しよ”と”ヒロ”。
振り返ったその瞳には、若き日の笑顔と、彼女が願った理想の姿がそこにある。
「「いってらっしゃい」」
その言葉に後押しされ、足が自然と動き出す。
「しよ。あんたも今日くらいは甘えさせてもらえ。それとヒロ。私のお尻は高くつくからね?このセクハラ野郎」
いつものやり取りでこの場から立ち去るみあ。
「相変わらずの言われようだな。後で助けてくれよ?」
「あは。実は嬉しいんだって、ヒロには素直になれないだけだよ」
会話の途中で、自然と交わる互いの手。その光景を、遠くで見つめて満足する男。
野暮な事はせず、静かにその場を後にする。
「さてと、もう一勝負と行きますか」
「そこの紳士くん。勝利の女神はいかが?今なら両手に花状態だよ」
「でも~残念な事に〜どちらも人妻なのよね~」
ハクトの前に、さわと先輩が現れるや否や、彼の両腕にしがみ付き、甘く囁く。
(バニーガールとあいつのお気に入りか…………たまにはこう言うのも悪くないか)
「んじゃま、みんなで楽しみますか」
「「お~」」
かくして、大人の遊び場で各々が過す特別な時間。
それは、しばらく忘れかけていた、日常を思い出すかのように、はたまた、友情を再認識するかのように、あるいは、思い出を振り返るように。思う所は様々であります。
そして、もう1人。
特別な時間を作ろうと、はじめの一歩を踏み出した少女がおりました。
「ねえ?ボクとお話しない?」
柱の近くで仁王立ちしている彼に向かって問い掛けるも、返事は返って来ない。
それでも彼女は諦めず、勝手に言葉を続ける。
「パパとママの事、好き?」
「…………」
「これからママが戻って来てくれて、一緒に暮らせるんだよね?嬉しい?」
「…………」
「…………あ、えっと…………ボクはね……」
「…………精霊。用件を言え」
言葉を探している彼女にしびれを切らせ、さっさと本題を伝えるよう、彼女を誘導する彼。
彼女は見透かされた事よりも、彼が喋ってくれた事が嬉しくて、無邪気に微笑む。すると、彼が少し照れて顔を背けるのです。
本人も、理解不能な行動と知っていながらも、体が反射的に反応する彼に対し、顎に左手の人差し指を添えて頭を傾ける彼女。
「どうしたの?」
「いいから早く言えよ?」
その言葉を聞いた彼女が、今度は自分が仁王立ちになり、左手を彼に向けて差し出しながら、思いを言葉にする。
「改めて、ボクの名前はアペリラ。キミとお友達になりたくて、ここに来たんだ」
「はあ?」
「……ダメ……かな?」
自信満々で伸ばした手が、少しずつ下がって行き、表情も曇って行くのを感じた彼。
あまりにも選択肢が無い行動に、もはや躊躇なんて言葉は皆無。
「わかった。勝手にしろ」
下がって行く手を握り、真っ直ぐ彼女を見る彼。嬉しさのあまり、彼に飛び着く柔らかい身体。
「やめろ精霊。どうも柔いのは苦手だ」
「ボクはアペリラだって言ったじゃん」
幼さ残る行動は、決して計算している訳ではございませんが、それが彼女の長所でもあり短所でもある。
おっと、今ここでこの事を説明するには、少々早過ぎたのかもしれませんな。
こうして彼女は、精霊の遺伝子を持つ自分の分身、クリエと友達になる事が出来た。
ここから刻まれて行く新たな時間。
果たして、彼女達の未来はどのような展開になるのでしょうか?
「とにかく離れろ、アペリラ」