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Battle Bet Quest (ばーべきゅう)  作者: 五流工房
お約束(イベント)編
12/18

4.7話_君と僕の物語

もし、流れ星に願いを込めて、それが本当に叶うのなら────()は同じ事を願うだろう。


星が舞い散る夜空を見上げ、静かに握り合う互いの手。


心地よい体温(ぬくもり)を感じ、自然と見つめ合った瞳の中に、互いの姿が映る……


それは鏡を見ているようで。

それは自分を見ているよう。


やがて2人の影が重なり…………草の絨毯に背を委ねる。


「ねえ?もし、このまま帰れなくて、私達の関係もこのままだったら」

「その時は、僕も覚悟を決めるよ。さわちゃんは僕が……」



これは、()()を知る物語────




Battle(ばー) Bet() Quest(きゅう) 4.7ミシシッピ_君と僕の物語 ~




日差しが和らぐ程の森林の中を、ひたすら歩き続ける僕とさわちゃん。

さっきまで一緒だった、みあさんとアキトさんに合流するために歩いてるの。

でも。正直、今の状況では会いたくないかもしれない。

た、確かに。でも戻らなきゃ心配するしね。戻らなきゃ……もどりたいよぉ。


戻りたい。この言葉の本当の意味。それは────


・・・

・・


────30分前。


「このメンバーで歩いていたらさ、なんだか若返った気分になるわね」

「それは、さわくんから若さを分けてもらってるって事か?」

「違うわよ。今日のさわっちって、一段としよに似てない?」

「な、何で僕の顔を見て聞くのさ?」

「そんなに似てます?実は今日ノーメイクなんですよ。髪も急いでたので、少し上めのサイドテールになっちゃいましたけど」


口には出さなかったけど、確かに似てるんだ。さっきみあが言ってた言葉の意味も僕には理解出来た。いや、アキトも実は気づいているのだろうけど、さわちゃんに気を遣って、話しの流れを自然に持って行きたかったんだな。

みあの言う若返ったと言う意味は、学生時代の頃って意味。

青過ぎた春の思い出は、今でも心の中に閉まってある。それは元カップルであるアキトとみあ(あいつら)も同じ。


「さわっち、いい事教えてあげる。アイツはその髪型をしている時にね、あの子に」

「見るんだ、みあ。あそこの木の根元に宝箱が」

「お宝ですって?」


お宝と聞いて体が反応する所はさすが職業体質。おかげで話しをキャンセル出来…


「さわくんと同じ髪型を、彼女がしている時、ヒロが彼女に誓いを述べたんだ」

「って、お前が言うのかよ」

「あらあら素敵じゃない。じゃあ、私に言ってみて」

「言わないって」

「お願い……ヒロ」

「声を似せるなって。てか彼女はそんな事は……言わない」

「「言うんだ」」


「ね?コレ何だと思う?」


宝箱から持ち帰り、みあが手に持っていた物は、"透明な腕輪"のような物だった。が、少しだけ白く濁っているようにも見える。


「見た目は腕輪だな。アクセサリーとして装備出来るんじゃないか?」

「アキトもそう思う?でもあまり綺麗って感じじゃないわね。さわっち着けてみる?」

「わ、私ですか?正直あまり着けたくありません」

「だよね?って事で、とりゃ」

「わ。何するのさ?」


おもむろに、みあが僕の右腕に抱きつき、上目遣いで僕を見つめている。


「あの時しよは、傍にいつつ彼の顔をじっと見つめてね、『僕は君を忘れない。そして君を精一杯大切にするから』ってヒロが言った後に、嬉し泣きしたのよ」


「ちょっと待て。変に話しを盛るなって、彼女が聞いたら怒るぞ」

「はーい。親友(もとかの)トークはあんたの弱点。似合ってるわよ、ヒロ」

「え?あぁ!やりやがったな」


みあが抱きついて来た緊張と、お宝の事ですっかり忘れていると思っていた、僕の醜体話(彼女の行動は全部ウソ)によって気持ちが動揺してしまい、気づけば僕の右腕には、正体不明かつ使用方法謎のアクセサリー[仮]が装備されていたんだ。


「ヒロ、何か変化あるか?」

「全然。そもそもアクセサリーなのかもわからないんだろ?」


僕が腕輪に視線を向けた時。今度は左腕を、優しい手つきで引っ張られる感触が脳に伝わる。

その方向へと振り向くと、「大丈夫。今も大切にしてもらってるよ」と言う言葉とともに、"ひまわりの笑顔"が咲いていたんだ。


無意識に、心の中で彼女の名を呼んだ時。腕輪が突然輝き出す。


「な。何なの?ヒロどうやったの?」

「わ、わからない。とにかく僕から離れて……ってあれ?消えた」


時間にして数秒も経たないまま輝きを失う腕輪。

その光景を見て僕から当然のように後ずさりする仲間。


「わかった。とりあえず外そう」

「懸命な判断だな」

「「だね」」


僕は腕輪を右手から外そうとした時。謎のSEが鳴り響き、2秒程の沈黙。そして……


| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  

| しかし呪いで外せない! |

|_____________| 


「なんだよ?この手の込んだボケ」

「いや、ヒロさん。実際に外れてないよね?それ」

「まさか呪いのアクセサリーだったとはな。しかし呪われた物には特殊効果があり、色々と役立つ事もあるとハクトが言ってた気がするな」

「役立つなら別にこのままでもいいじゃない」

「あのな~。誰のせいでこうなったとおもっ」


突然、木の枝から光の玉が飛んで来るのを察知した僕たちは、すぐにその場から散開し戦闘態勢に入る。

不意打ちの主は魔導士系の魔物だった。まぁ、あんだけ騒いでいたら敵も気づくだろう。

再び光の玉を放つ魔物。だが、同じ光の玉で攻撃を無効化させた。


「あの魔物の攻撃、便利だよね。マネしちゃった」


彼女の右の掌に、小さな魔方陣が浮かび桃色に光っている。あれが彼女の能力(とくぎ)、ものまねの力。彼女のおかげで避ける手間も省け、みあは既に攻撃に向かっていたんだ。


「アキト、アイツを落として」

「わかった」


アキトの武器が水色に光り出し、矢を放つ。矢は拡散し、木の枝では回避不能と考えた魔物は、地上へと逃げる。

それを予測していたみあが、ナイフを構えて一閃。しかし、空を斬ったような感覚で全く手応えがない。


「あ、あれ?確かに斬ったはずなんだけどな」

「もしかして幻影なんじゃ?」

「だとしたら、敵はまだどこかにいるな」

「そだね。だってまだ魔導士さんの力が生きている」


意識を集中し、魔方陣から魔物の力が使える事を確認するさわちゃん。


「ヤハリオマエハヤッカイダ」


不気味な声と眩しい光が、さわちゃんの背後に現れる。


「ダメ、ここからじゃ間に合わない」

「見事に散けているのが仇になったか」


散開して仲間との距離が離れ、各々の場所に辿り着くには時間がかかる。ましてみあは、敵の目の前まで走って行ったから、仲間との距離は一番遠い。見事に敵の策にはめられた感じだ。


「え?やだ。助け……」


彼女は振り返り、涙を滲ませながら痛みを覚悟した時。

彼女の身体に着弾するのを待たずして、玉は爆発した。


「不意打ちするのは構わないが、この子にだけは許さない。やるならあっちの盗賊にしとけ」

「おい」


「……ヒロ……さん」


さわちゃんに当たる筈の光の玉は、僕が身代わりになる形で防がれ、入れ違いで、アキトの攻撃が魔物に命中し、数メートル先の木に激突した。


「助かったよ、アキト」

「気にするな、お前は大丈夫か?」

「ハクちゃんの自爆技に比べたら、まだましかな」

「ありがとうヒロさん。あと、ごめんなさい」

「なーに謝ってんのよ?アイツはそんくらいじゃ死にはしないわよ。でも。もう少し考えて奇跡のスキルを使えなかったの?」

「あの短時間で考る事が出来るのは、多分しのくらいだって」


確かにみあの言う通りだとは思ったけど、考えて発動させるとなると時間がかかる。だから、とっさに思いつく事にスキルを使ったんだ。どんな奇跡かって?それはほんと単純で、"彼女の傍へ飛べ"って。要するに瞬間移動さ。ま、おかげで助ける事が出来たし、、、ん?腕輪がまた。


視線を腕輪に落とした隙に、魔物が宙を飛びながら僕に体当たりし、そのまま空へと昇って行く。


「ソノエモノワレニヨコセ」

「お前?コレを知っているのか?」


・・・

・・


戦線からヒロさんと魔物が遥か彼方へと離脱して行く。しかも私の目の前で。

さっき助けてもらわなければ、こんな事には……


「アキト狙える?」

「残念だが射程範囲外だ」

「そ。ほんと、アイツは世話が焼けるわね。追うわよ」


「…………私が助けに行く」


私は両足に、魔方陣を浮かび上がらせ、魔物の飛行能力をコピーする。

それに気づいたみあさんが、私の所に駆け寄り、ナイフを手渡してくれた。


「さすがに空までは付いて行けないわ。後は任せるわよ」


彼女が私のサイドテールを優しく撫で、耳元で「待ってるから」って囁かれたの。


「はい。必ず2人で帰って来ます」


彼方を見つめ舞い上がる体。2人に軽く会釈をし彼の元へと急ぐ。

待ってて、すぐに追いつくからね。今度は私が助けるんだ。


「マドウシデモナイオマエニオシエテモムダダ」

「聞いても無駄って事か。生憎と渡したくても外れないからな。諦めろ」

「デハソノウデゴトイタダクマデ」

「ば、バカ。そんな事したら痛いだろうに。ただでさえ今も全身痛のに」


「させないよ!」


私は魔物の背中に向けて玉を撃ち込み、ヒロさんの腕から魔物を引き離す事に成功した。

え?てか捨てられた?

急いで彼の元へと飛んで行き、女では重く感じる彼の身体を、力の限り両手で支える私。


「だ、だいじょう、ぶ?」

「すまないさわちゃん。重いだろうからすぐ地上へ」

「うん」


森林の中。小さな湖が見える地面に足を着き、荒い呼吸を整える私。

空では怒りに満ちている魔物が攻撃魔法の準備をしているように見えたの。

あの調子じゃ降りて来ないわね。私がやるしかなさそう。


「ヒロさん。必ず一緒に帰ろうね」

「ああ。そうだな」


私は両手両足に魔法軸を展開し、桃色の光を身体中に纏わせて空へと飛立つ。

待ち構えてたかのように、魔物の攻撃魔法が降って来る。それに合わせて両手を広げ、同じ魔法で相殺する私。でもこれじゃダメ。相殺じゃアイツは倒せない。だから今度はこっちから撃つ。

魔物の攻撃より先に魔法を放ち、敵を怯ませる事に成功した。その隙を見逃さず、みあさんから預かったナイフを取り出し、魔物に突進して行く私。


「これで終わり……きゃぁ」


魔物にナイフが刺さるより先に、腕を掴まれ、そのまま羽交い締めの状態にさせられた。

そして私の目の前に、鋭く尖った光の矢が現れて、腕を狙っていたの。


「ニドトマネゴトガデキヌヨウニシテヤル」


・・・

・・


空では彼女が必死で戦っている。ヤツを倒すなら、きっと近距離戦に持ち込むだろう。だから、狙うなら2人が重なる瞬間。そう考えながら魔力を高め、奇跡(スキル)の準備に入る。

気がつけばまた腕輪が輝いている。しかも、よく見ると、形状も少しだけ変化している気がしたんだ。


『マドウシデモナイオマエニオシエテモムダダ』


アイツは確かにそう言ったな。もしかして、魔力と何か関係があるのか?

だとしたら……


「きゃぁ」


どうやら試してる暇なんてなさそうだ。今は彼女を救い、アイツを倒す。

彼女の近距離攻撃は無情にも失敗に終わり、敵に捕まっている。

条件的に今しかないと思い、スキルで魔法剣を造り出し、剣を風の属性に変化させ空へと翔る。すると腕輪が反応し、腕の周りを回転し始めた。

……やっぱ思った通りだ。せっかく呪われたんだ。その分ちゃんと役立ってくれよな?


彼女との距離は残り数十メートル。

ん?彼女の近くで鋭く尖った光の矢が現れ、腕を狙ってるのがわかる。

どうする?先に撃ち落とすか?このまま加速して敵を斬るか?その答えは簡単な事だったんだ。

剣を持つ両手に視線を落とし、右手に意識を集中し、願いながら矢の方へ手を伸ばす。


「両方に決まってる」


腕の周りを回転していた光が掌に集まり、合図とともに放たれる。

光は矢にぶつかり、粒子となって消え去った時。僕は彼女の(ところ)へ届いた。

剣を両手で握り締め、彼女もろとも魔物を斬る体勢に入った。


「ヒロさん」

「ナカマヲステルノカ?」

「さわちゃん、僕を信じてくれるか?」

「……うん」


恐怖の中。笑顔を咲かせた花に鋭い刃が入る。

が。その剣は、花を傷つける事無くすり抜けて行き、魔物の体を切り裂いた。


「バ……カナ……ナンダ?ソノブキハ」


羽交い締めから彼女が解放され、優しく僕の背後へ誘導する。


「この武器は"仲間を傷つけない魔法剣"。今度も急いでたからこんな物しか思いつかなかったが」


消え行く魔物が僕に問う。「オマエ。マドウシナノカ?」と。

僕は軽く頭を振って、こう答えたんだ。


「ただの村人さ」


「フッ。デハイマイチド、スクッテミセルガヨイ」


そう言い残して魔物は消滅した。

どう言う意味なんだ?ま、とりあえず彼女を救えたし、後はアキトたちの元へ…


「ヒロさん、何か降って来ている。ううん。落ちて来てるよ」


落ちて来ている?一体何が?……って隕石?


「きっとアイツの魔法だよ。最初からこれを狙ってたんだよ……わぁっ…」


しまった。戦闘が終了したから彼女のスキルが解除されたんだ。って事は、僕も長くは飛んでいられない。だったら……

魔法剣の魔力を暴走させ、隕石に向かって投げる。飛行能力を失った僕は彼女を追うように落下して行く。

僕は腕輪に意識を集中し、形状を変化させる。そして、落下している彼女に向かって、力の限り投げた。


「さわちゃん。手を」


彼女に投げたのは"光の鎖で繋がれいる腕輪"。片方は僕の腕にあり、そこから鎖が伸びている。伸びた先端にまた腕輪があり、その腕輪を彼女に掴んでもらおうとしているんだ。

彼女が精一杯手を伸ばした時。腕輪が吸い込むように彼女の右手に飛んで行き、右腕に入った。その事を確認し、僕の元へと手繰り寄せ、彼女をしっかり抱き寄せた。


「どうするの?」


すべき事は2つ。

1つは地面への激突を防ぐ事。もう1つは、落下してくる隕石をどうにかしないとだけど、計算が狂ってしまった。さっき投げた剣で、隕石を破壊出来ると考えてたのに。


「剣を爆発させ隕石を破壊し、僕が安全な所へ飛ばす予定だったんだけど」


僕の視線の先に、隕石に刺さったままの剣を確認する彼女。


「要するに、アレを狙えばいいのね?」と言って、右掌に消えかけの魔法軸を展開する。

僕は無言でうなずき、最後の奇跡(スキル)の準備に入る。

互いに繋がれている腕輪が光り輝く。その右手に、互いの想いと希望を込めた。


守ってあげる。何があっても……

助けるよ、私の全てで……



「「()は、必ず(あなた)を」」



本当は、もっと遠くまで飛ぶはずだったんだ。だけど、移動中にタイムアウトした僕たち。

気がつけば、湖に浮いてた。右腕の腕輪も元に戻っていて、彼女と僕を繋いでいた鎖も無くなっていたんだ。


「どうやら助かったみたいだね。さわちゃん、ケガは……え?」


どういう事だ?確かに僕は彼女に問いかけた。なのに、僕の隣りに浮かんでいる人物は"僕"

そっか。さっきの戦闘で疲れてるんだな。僕が2人いるわけないじゃないか。

少し胸に手を当て深呼吸をしよう。あれ?なんか腫れているのかな?しかも妙に柔らかくなったな。


「お願い、それ以上は触らないで」


隣りから聞こえた自分の声に驚き、ゆっくりと顔を向ける。


「どうしようヒロさん。私達────。」


・・・

・・


────現在。


信じたくはないけれど、私と彼の身体が入れ替わってしまった。

何が原因なのかは解らない。あの時、私が隕石を壊した時。破片がいくつも飛んで来たのは知ってる。でも彼のおかげで、無傷で湖へと着水したの。2人は水中で意識を失ってしまって、気がついたらこうなってた。

もしかすると、新しい魔物の仕業なのかもしれない。でもそれなら、とどめをさす方が手っ取り早いでしょ?


そんなこんなで、随分と前振りが長くなってしまったけどね、"戻りたい"。この言葉の本当の意味は、、、って。もう解ったでしょ?


体全体が痛い。彼と入れ替わったおかげで理解した痛み。そう、これは私が受けるはずだった痛みなの。でも。彼は何も言わず、ずっと耐えて、最後まで私を守ってくれようとした。


そんな事、私には無理。


そりゃ~守りたいとか、助けたいって感情はあるよ。さっきの感情も本物。でもね。自分を大事にしてこそ他人を思いやれると思わない?でも彼は違うんだな。


「さわちゃん、さっきは本当にごめん。ほんと、わざとじゃないんだ」

「わ、わかってるよ。だからもう忘れてってば。自分の声でそんな情けない謝罪しないでよ」

「情けないのか?」

「だから~自分の胸を自分で触るのは普通でしょ?でも中身はヒロさんだから……なんて言うか……その……ああややこしい。とにかく許可無く触ったらダメだかんね。見るのもよ?」

「…………はい」

「あ~。こっそり見る気なのね?触る気……痛い…」

「さわゃん。もしかして、僕の受けたダメージがまだあるのか?」


やっちゃった。隠しておこうと思ってたのにな。


「平気へいき、気にしないで。それより触んないでね?」

「うん。早く元に戻る方法を見つけなきゃだ……ん?」

「どうしたの?」


彼が視線を落とした時に気づいた違和感。それは、2人の右手に腕輪が着いていた事だったの。

本来なら彼の右手、今は私にだけ着いているはずなのに。

じゃ、じゃあ、私も呪われたって事?入れ替わりの原因ってコレしかないんじゃない?自然に考えるとその答えが最も有力だと思った2人。


なんだ。それならこの腕輪の呪い解いて、さっさと外してしまえばいいんじゃん。


希望の光が見えて来た。早く仲間と合流して、町の教会へ行こう。

2人は足早に仲間の元へ急ぐ。当然、入れ替わった事は内緒にしてね。


こうして。彼と私の入れ替わり体験も、無事に解決したのですよ。



「無理です」



え?今なんて?

私は聞き間違いかと思い、再度問う。


「ですから無理です」

「なんだと?てめ~それでよく教会の仕事が勤まるな。ここはセーブするだけの場所じゃね~だろ?」

「どうしたのヒロ?なんかあんたらしくない発言ね?」

「無理もないだろ。呪われたアイテムなんて、長く着けていたくないしな」

「あ、はは。あの、何で無理なんです?」


教会の人が言うには、この腕輪は特別な力を持っていて、普通の呪いではないんだって。でもね、決して外せないって事もないみたいで。


「「「「全魔断刀?」」」」


「はい。全ての魔力を断ち切る刀、全魔断刀。腕輪の原動力が魔力であるのなら、その武器をもって斬り捨てる事は可能かと」

「その武器はどこにあるの?……あ。あるんです?」

「すみませんが、今日はお引き取り下さい。特別なお客様がこの後いらっしゃる予定でして」


何?この身勝手な神父(おやじ)は。こっちは大変な事になってんだから。

でも、解決策が見つかったからよかったのかも?


教会の出口へと足を運んでいる時、神父が私とヒロさんを引き止め、こんな事を口にしたの。


「その腕輪の効果は計り知れない。時間が経つに連れ、効果も大きくなって行くでしょう。ですから今宵、2人だけでここに来なさい」


「ちょっと、おじさん気づいてたの?」

「なるほど。お気遣い感謝します。って事でさわちゃん、出直そう」


・・・

・・


夜。僕たちは再び教会へと足を運んだ。もちろん仲間には内緒にして。


「お待ちしておりました。特別なお客様。どうぞこちらに」


神父に案内された場所は、協会の地下。そこにある小さいな書庫に通され、古びた椅子に座らされた。


「早速ですがこれをご覧ください」


神父が僕たちに見せた一冊の書物。そこに記されていたのは、あの腕輪。正式にはあれは腕輪ではなくて、"全魔の鍵(マスターキー)"。全魔導士専用の武器であり、補助アイテム。


「意味がわからないよ。だってヒロさんは全魔導士じゃないよね?」

「貴方の職業、奇跡師と言いましたな。本職は村人であり、魔力なぞ無縁。そんな貴方が条件を満たした事により今の状態を保っている。貴方は奇跡師だから魔力が使えると思っていませんか?」

「ええ。そう思ってます。奇跡師は上級クラス。ですから魔力だって……」

「どうやら気づきましたね。貴方が腕輪と思っていたその鍵。その扉を開く事が出来たのは、全魔導士の力を持つ貴方だからこそなしえた力。ですが、どうやら予期せぬ出来事が起ったようですね」


予期せぬ出来事、すなわち入れ替わり。

僕たちは神父に右腕を差し出し、全魔の鍵を詳しく調べてもらう事にしたんだ。


「どうやら貴方、いや、貴女に着いている鍵は呪われていないようです。複製(コピー)した鍵ですので。なぜこのような物を?プレゼントでもしようと考えたのですか?」

「あのね、私を救うためにそれを造ってくれたんです」

「そうですか……鍵を壊せば効果はなくなるのは事実ですが、複製の鍵が消滅すれば、おそらく元に戻れるでしょう」


「「本当ですか?」」


「ええ。問題はどうすれば消滅させられるか?ですけど。貴方と貴女なら大丈夫でしょう」

「それじゃ~答えになってないよ」

「何かヒントがあるのなら教えて下さい」


僕たちの言葉に、ただ微笑む神父。ヒントをくれるかと思いきや、的外れな言葉を口にしたんだ。


「そろそろお互い、本音で語り合ってみるのもよいかと。互いに分け合ったその温もりが、今の形を生み出したと思いますので」


教会からの帰り道。僕たちは、新たなる問題について話していた。

そう、やっぱあの件なのです。


「別にヒロさんを信用してないって言いたいんじゃないの。でもやっぱ心配だし怖い。だから」

「さわちゃんの意見は最もだと思う。だから着替えやトイレの時は、一緒にいる時にでいいよ。僕に目隠ししてくれれば見えないし、一緒なら安心だろ?」

「うん。私もそうするから。お互い助け合いましょう。ちょっと恥ずかしいけど」


こうして。僕と彼女の、入れ替わり生活が始まった。


・・・

・・


結局の所。元に戻る方法も、全魔断刀の在り処も、わからないまま時が流れて行っている。

私と彼が入れ替わった事は、仲間には内緒にしたままにしているけど、やっぱね。お互いを演じるなんて事は無理なの。


例えばね、あの時の戦闘中に──


「今度の敵さんも手強いな。すまんヒロ、回復を頼めるか?」

「え?う、うん。そりゃ!」

「ふごっ」


私は道具袋から薬草を取り出し、ハクトさんの口に押し込んだの。


「何やっとるか貴様~。いつものように白魔導士にならんか」

「ええ?(奇跡師のスキルなんて使えないし)いいじゃん。少しは回復できたよね?」

「しゃ~ね~な。てか草を口に入れるな」


とか。


いつぞやの食事の時だって──


ヒロさん、みあさんやしのさんと上手く馴染んでるなぁ。ま、元から仲いいもんね。なんて思いながら私を眺めていると。


「ってね、こらヒロ。ちゃんと聞いてんの?」

「き、聞いてます、、、聞いてるよ」

「ウソばっか。ずっとさわっちの事を見てたじゃない。さては彼女の胸を見て、発情してたのね?」

「何を言ってるのさ?自分のモノに発情するはずないし」


とかね。


さすがにあの時は、一同の時間が止まったわ。しのさんなんて、震えた声で「ひ、ヒロくん?今の発言は冗談やろ?な?まさかと思ってたけど、さわさんとはそんな関係やったん?」とか言って来るし。みんなも、凄い顔して私に向かって来てた所、彼が急いでフォローしてくれたし。


ほんと大変よ。だから早く元に戻りたいと願うのだけど、解決するには、やっぱコレを外さなきゃなんだよね。

ため息をつきながら腕輪を眺め、神父の言葉を思い出していた。


『そろそろお互い、本音で語り合ってみるのもよいかと。互いに分け合ったその温もりが、今の形を生み出したと思いますので』


何よそれ?彼と温もりなんて分け合った事ないよ?だって、それってアレでしょ?

変に想像して、勝手に体温を上げてしまった私。

や、やめよ。ありえないっしょ。しよ姉ならともかく……



……私って……彼にとってはどう映ってるのかな?



この日の夜から、私は、彼の夢を見るようになったの。いや、実際は夢じゃなくて……記憶。


『大丈夫。今も大切にしてもらってるよ』


これは……私がヒロさんに言った言葉。

何?すごくドキドキしている……私を見てそうなってくれてるの?


……!!……そうか……そうだよね……私なんて…………


そう。誰も本当の私を見てくれていないんだ。

だって私は、姉さんのマネをする事でしか……みんなと……だから演じ続けるんだ。

今までもそうして来たし。これからもそうするんだ。


『この子にだけは許さない』


違う。彼は私を見てくれている。誰よりもずっと近くで。でもそれは本当に私を見ているの?


『そうよね。ヒロがあの子に夢中になってくれたおかげよ』


これは、しよ姉?私の事を話しているの?


『ねぇ。さわさんの事、好きになってたでしょ?』


やだ、続きが気になるじゃない。早く聞きたいかも。

でも、残念ながらその答えは聞けなかった。そして、少しずつ異変に気づく私。


『……忘れようとしてたんだ』


え?どう言う事なの?彼の記憶が私の中に流れ込んで来る……


『……ヒロくんはそれでほんとに納得してるの?いや納得できる?』


しのさんだ。しよ姉の事で相談に乗ってくれているのね。何?眩しい。

頭の中がまっ白になり、違う記憶が流れて来る。


『本当は辛いんだよね?本心を言えば自分に嘘をついてる事を確信するから』


みあさん。彼と真剣に話している……こんな姿なんて見せた事ないかも。


『……確かにみあの言ってる事は当たってる』

『私は2人を離したくないの……だからお願い……』


きゃっ。また違う記憶が。もういいよ。ヒロさんに悪いから。


『違うよ。誤魔化すしかなかったんだ』

『誤魔化す?何のために?』

『それは……』


『彼女はお前に任せた。必ず幸せにしてやってくれ』


『ねぇ、私がこんな事言うのは間違ってるかもしれないけど……その生き方って……辛いでしょ?』


思考が止まり、夢も途切れ、私は静かに眠りに入る。。。


・・・

・・


朝、湿らせた頬を洗い流すため洗面所へ向かう。

昨夜の夢は僕には重かった。なぜなら、彼女の心の本音を知ってしまったから。


『あなたが優しくしてくれるのは、あの人と重ねてるから?』

『あなたが助けてくれるのは、やっぱり彼女と似てるから?』


……こんな事は話さなくてもいいと思ってた。

だって、あの子は僕じゃなく、彼女に関心があったのだと思っていたし、演じる事で楽しみながら仲間と上手くやって行けている。でも、それが重荷になっていただなんて。


「妹。うちやけど、少しだけ時間ある?」


宿屋の外、そこから数十メートル歩いた先に、噴水の見える公園がある。

僕と先輩はそこのベンチで腰を下ろし、しばらく噴水を眺めていたんだ。


「学生の頃。少しの間やったけど、こうやって座って、可愛い後輩の恋を応援しとったな」

「い、一体何の事です?私に昔話をして下さるんですか?」

「ここにはうちらしかおらへん。ヒロくんなんやろ?結構前から気づいてたで」

「あはは、、、やっぱバレますよね?すみません」

「覚えとらん?うちがヒロくんを応援しとった事」

「そうですか?からかってたの間違いでしょ?」

「連れんな。でも、よう彼女にそっくりな()を見つけたもんやな。正直関心したわ」

「……いや、探してたんじゃないんですよ。さわちゃんとは、ほんと偶然だったんです」


僕は彼女との出会いを簡単に説明し、ついでに入れ替わりの出来事も説明した。


「なるほど。入れ替わりの事なら、解決策っちゅうか、妥協策はあるで」

「ほんとですか?何をすればいいんです?」

「簡単やん。それよりどや?念願の妹の身体に入った感想は?」

「だから、からかわないで下さいって。願ってもないですし、こんな入れ替わり、その気になれば奇跡でどうにでも……あ。なるほど」

「とりあえず問題が解決するまでの間、これで手を打って、ついでに妹に告白して来な」

「告白って、お互いもう相方はいますって」

「だからこそ、ちゃんと伝えて新たな関係で始めたらええやんか。不要な悩みなんてもんは、いっそ無くしてしまうのがええで」


何もかも見通されてるって事なんだな。ほんと、先輩らしい。

僕は軽く頭を下げると同時に、先輩は立ち上がり歩き出していた。


「先輩。次は僕があなたの力になりたいです。何か出来る事はないですか?」


生意気な言葉を口にし、先輩の歩みを止める。そしてゆっくり振り返り、彼女は優しく言葉をこぼす。


「うちはもう十分過ぎるくらい、力になってもらってる。みんなには感謝しきれんくらいにな」


とても暖かくてどこか寂しい表情。でも、彼女の本音がそこにあるのだとすれば、この世界で何かを成し遂げる事こそが彼女の目的。今はまだその理由がわからないけれど、時が来れば先輩も話してくれるだろう。


どうか、その時になったら……頼って下さいね、先輩。


「あ、先輩。さわくん。朝食の時間だ。みんなが腹を空かせて待っているから、行きましょう」


どうやらアキトが僕たちを呼びに来てくれたようだ。


「アキトさん。はい、今すぐ行きます」


アキトさんと言った時、先輩と視線が合った。彼女は「いっその事、バラそうか?」なんて事を言っている目だったけれど、無言で頷き、僕の手を取り食堂へと歩き出した。


「なあ妹。そんな身体で生活しとったら頭が変になって来るやろ?男の子やしな」

「ば、バカな事を言わないで下さいよ。聞こえたらどうするんですか?」

「あはは、ほんまかわええな。ま、それは置いといてや。妹、いや。さわちゃんをいつまでも困らせたらあかんで?」

「わかってますよ。まったく。本気なんだか、からかいたいんだか」

「そんなん両方に決まっとるやん」



それから数日が過ぎた時の事。


「「全魔断刀の在り処がわかった?」」


「見事に(ハモ)ったな2人とも。せや、アキトくんが情報を掴んでくれたんよ」


食事時、しのが僕とさわちゃんに伝えてくれた朗報。どうやらアキトがケバスを使って街を巡り、ここから、3つ先の街に住んでいる老人から獲た情報らしい。その話しが本当か否か、不安はあったけれど、仲間たちは、少しでも可能性があるならそこに向かった方がいいと言ってくれたので、僕たちは向かう事にしたんだ。


「で、何で私とヒロさんだけ?」

「それはな、この草原地帯(ばしょ)は最大2人までしか入れないみたいなんよ。だから~妹とヒロくんで行って来なさい。そもそもあなたたちの問題なんだから、文句は聞かへんで」

「別に僕は構いませんが、僕だけじゃ不安かい?さわちゃん」

「そ、そんなんじゃないけど」


なぜだろう?ここ最近、まともに顔を見てくれないさわちゃん。奇跡のスキルを使って、お互い元の体に戻っているし、そっち面でのトラブルはないと思うんだけど。


「ええか?しっかり妹を守ってやって、腕輪の問題もスッキリ解決させて来な」


そう言って、先輩に背中を押される僕。

その瞬間、「ここなら誰も邪魔されんから」と耳元で囁かれた。


『ちゃんと伝えて新たな関係で始めたらええやんか』


あの言葉が蘇り、先輩の言葉の意味も伝わったんだ。

僕は心の奥で覚悟を決め、彼女にそっと手を差し伸べる。


「じゃあ行こう」


・・・

・・


歩いても歩いても、見えて来るのは同じ景色。こんな場所に全魔断刀があるのか?半日は探し続けたけれど、手掛かりは見つからない。僕は彼女の事も気にしつつ、ひとまず休憩する事を提案する。

私は彼の意見に賛成し、見晴らしのいい草原のどこかに座ったの。何気に空を眺めてみると、自由気ままに飛んでいる、かわいい鳥の姿が見えた。


「いっその事、空から探してみる?上から見た方が何か見つかるかもしれないし」

「それはいいけど、あの鳥の飛行能力をマネ出来る?」

「フィールドでは無理なの。ごめんなさい」

「じゃあ僕の出番だな。さわちゃんの提案はいいと思うし、少し休憩したら一緒に飛ぼうか」


僕は奇跡のスキルを使い、2人の体に飛行能力を備えた。これにより視野も広がり探索も楽になる。

ただ、フィールドでのスキル効果は日没までなの。だから、それまでに見つけたいってのが本音だったりするんだ。


「わぁ。こんなにここって広かったんだね。しかもあそこだよね?」

「ああ。草原地帯(エリア)の中心に不自然に生えている大木。きっとあそこだろうな」


まっすぐ飛ばず、上昇する事により、草原地帯の地形を把握出来たの。おかげで怪しい場所を見分けられたってわけ。

僕たちは、大木に向かって下降して行くと、木の根っこから150センチの部分に宝箱を発見した。宝箱は、木の中に見事に納まっており、遠目からでは絶対に見つからない。それで確信した。この宝箱には絶対に全魔断刀(レアアイテム)が入っていると。


「ようやく見つけたな」

「そだね。でもさ、なんか鍵穴付いてるよ?」


「「…………」」


こんな時、盗賊(あいつ)がいたらと思ってしまった。まったく、肝心な時にいないとはな。

(うっさいわね。私がいてもレアアイテムの宝箱なんて開けられないわよ)

ん?今、みあさんの声が聞こえたような気がしたけど?気のせいか。はぁ。鍵なんてどこにあるのよ?私は、大木の枝と葉の隙間から入り込んで来る日差しを眺め、ため息をついた時。黒い影が空から降って来て、木の枝に止まったの。


「そこのお前。剣の使い手か?」

「え?遠過ぎて声が聞き取りにくいんだけど?」


そうなのだ。この大木は大き過ぎて、枝に降りて来た者の姿は、ここからは把握出来なかった。おまけに声も聞こえづらい。まあ、そいつが僕に問いかけているのは理解したけれど、何を言っているかまではわからなかったんだ。


「剣の使い手かと聞いているのだ」


「ね?剣と言ってない?剣を手とかって聞こえたよ」

「よくわからんな。でも、剣を見せればいいのかな?」


僕は右手の全魔の鍵(腕輪)を解放し、剣を造り出した。それを確認したと同時に、僕に向かって急降下。そして「ゆるさんぞ剣士」と言う大声とともに、鋭い爪で僕を攻撃して来たんだ。

いきなり戦闘?狙いは彼。そうはさせない。私は両手に魔方陣を展開させて相手と同じ攻撃で相殺に入ったわ。


「ヒロさん大丈夫?って、鳥の足?やだやだキモい」

「貴様ぁ、邪魔をするな。しかも俺様のマネごとなんぞしおって」

「てかあんた何者だよ?僕は鳥類種の魔物に、知り合いなんていないんだがな」


僕は剣を降り下ろして、彼女と魔物を引き離し、彼女を僕の後に下がらせながら剣を腕輪に戻し、戦う意思はないと伝えたんだ。


「もうだまされんぞ。どうせお前も奪いに来たんだろう?空からずっと見ていたからな」

「バカ言わないで。私達が空で見たのは、かわいい鳥さんだったよ。いつから見てたのよ?」

「お前達が空に浮かぶ前からだ。ずっと俺様を見ていただろ?いいわけなんぞ聞かんぞ」


え?じゃ~あの時私が見た鳥って、コイツだったの?マジ引くわ。


「言ってる事がいまいちよく解らんが、その首元にかかっているモノ。そこにある宝箱と関係があるのか?」

「あ、鍵だ。何であんたがそんなの持ってるのよ?鳥だから開けれないでしょうに」

「やかましわ。1つでは飽き足りず、まだ狙うと言うのか?もはや生かしては帰さんぞ」


どうもコイツとの会話が成立しないのが引っかかるんだけど、魔物の怒りが怒髪点に達している。

実際に毛が針みたいになってるしね。どうするの?とりあえず倒してしまうのが手っ取り早いわよ?


「しゃ~なしだな。でも死なない程度でどうにかしよう」

「あっちは殺す気まんまんなのに?でもその意見には私も賛成」


僕は再び腕輪を解放し、戦闘の準備に入る頃には、魔物が再び距離を詰めて来ていた。さっきと同じ爪攻撃か?いや、口を大きく開いた?ならまずは盾だ。

彼が腕輪を盾に変化させ私の前に立つ。魔物が口から炎を飛ばして来たのを確認し、直ぐに魔方陣を展開させて同じ攻撃を打ち返す私。


「また貴様か、俺様のマネばかりしやがって、このパクリ野郎が」

「野郎じゃないし。でも、パクリだけは悔しいけど認めてあげるわ」


言葉が終わると同時に、魔物に向かって連続で炎を打ち込む彼女。

しかし魔物は回避せず、翼を大きく広げたの。って事で、今回も出番あってよかったね、語り部さん。


・・・

・・


あいや、誠にありがたき幸せ。それではここからは、私も語りに参加いたします。


魔物が翼を羽ばたかせて風を生み出し、さわが放った炎を吹き消す魔物。

その勢いは衰えず、ヒロとさわを上空数十メートルへと吹き飛ばす。

幸い、飛行能力のおかげで、地面に落ちる事は免れた2人でありましたが……


「まずいな。もうすぐ日没だ。早めに終わらせないと」

「そうね。空も飛べなくなるし、私とヒロさんも入れ替わっちゃう」


沈み始めた夕日を眺め、焦り出す2人。どうやら、スキルのタイムリミットが近づいているようですな。


「何をごちゃごちゃ話している?」


2人の背後に魔物の姿が現れ、急いで振り返りながら盾で攻撃するヒロ。しかし、軽やかに攻撃を避ける魔物。それもそのはず。ここは空中、敵に最も有利な戦場(エリア)(やつ)は最初から空中戦を狙っていたんだと理解したヒロでしたが、時既に遅しでございます。


「さっきのお返しよ」


魔物に向かって風攻撃を仕掛けましたが、「無駄だ、俺様に風はきかん」と言いながら突っ込んで来る魔物。大きく口を開き、炎を飛ばそうとしていた時。魔物の側面から、盾を構えながらヒロが突進して来る。


「おい鳥、こっちに飛ばさないと痛いぞ」


一瞬、魔物の視線が彼に向けられたのですが、そんな事はお構いなしと、照準を彼女に向け直した時。彼女の姿は消えていたのであります。いや、見失うと言った方がいいのでしょうな。その隙を見逃さず、彼は魔物に向かってシールドアタック。ダメージは少なめではありますが、見事に魔物にヒットしたのであります。


「時間がない。とりあえず動きを封じる。さわちゃん、後は頼む」


彼は腕輪を、一辺が5メートルくらいあるキューブ型の鉄格子に変化させ、魔物と自分を閉じ込める事に成功したのです。


「どういうつもりだ貴様。鳥カゴみたいなモノを作りやがって」


「…………なによ?あんた鳥じゃない。大人しくこの中で、私に飼われてなさいよ」


「ああん?なんだその喋り方は?まるであのパクリ野郎ではないか」


あいや、正にその通り。日没により入れ替わりとなった2人。彼は先に地上に戻った彼女の中へ。彼女は魔物と一緒に鉄格子に入っている彼の中へ。当然、飛行能力も失ったわけでございますが、彼女はまだ浮いている。その答えは簡単。彼女が魔物の飛行能力をまねているから。しかし魔物には事情が全く解らずじまいでありまして。説明しても伝わらないと思った彼女は、大きくため息を吐き、右手の人差し指で鉄格子を指差し、宣言するのであります。


「……ったく。説明すると色々ややこしいから、これだけは教えといてあげるわ。その鉄格子に触れると、あんたも私も黒焦げになるかんね。だから下手に攻撃なんて仕掛けない事ね」

「バカめ。空では俺様が有利なんだぞ?こんなカゴごときで」


彼女の忠告を無視し、距離を詰めようとして来た時。

彼女は両手両足に魔方陣を展開させ、魔物に向かって挑発的な笑みを浮かべたのであります。

すると突然、魔物の目の前に新たな鉄格子が現れる。進路を塞がれた魔物は、慌てて遠ざかり彼女を睨む。


「おのれ。卑怯者めが」

「は?勘違いしてない?今は私が、主導権を握ってるの」


彼女は右手の魔方陣を魔物に向け強く光らせると、先程現れた鉄格子が魔物に向かって移動して行く。

強制的に後退させられ、もはや身動きが取れない状態まで追い込まれる魔物。


「貴様、剣士なら堂々と勝負しろ」

「剣士?意味わかんない。とりあえず下がるからね?ついて来てよ」


左手の魔方陣を光らせると、鉄格子が地上に向けて降下し始める。

大木が見える高度まで下がって来ますと、鉄格子を見上げる女性(じぶん)の姿を発見。彼女は軽く手を振り無事を伝えるのであります。


「ね?少しだけ話しを聞いてくれない?」


鉄格子の動作を止めて、彼女は魔物と交渉する事を試みますが、怒りで暴言を吐く始末。

次第にイライラ感が高まっている彼女を見て、彼が口を開くのであります。


「なぁ鳥。お前はここの守り神みたいなものなんだよな?」

「ああん?だったら何だ?」

「僕たちは、宝の中身を一瞬だけでいいから使わせて欲しいだけなんだよ。使ったらお前にちゃんと返すから。お願いだ、その鍵を使わせてくれないか?」

「くどいぞ。もう俺様はだまされんからな。剣士がいる時点で貴様らは俺様の敵だ」


「あ~もう。私と彼は剣士じゃないんだってば。いい加減気づきなさいよ」

「だまれ野郎。卑怯者でありながらパクリ野郎の口調。そんな者の頼み事なんぞ、俺様は死んでも断る」


度重なる野郎発言と意味不明な貶されに、もはや我慢の限界を超えたさわ。

両手の魔方陣が急速に輝き始め、小さく呟く。


「…………リミット解除」


桃色の光が身体全体に広がり、両手を真横に伸ばすと、大量の魔方陣が鉄格子の外に現れる。そして狙いを大木に向けると、魔方陣が一斉に大木へと集まり始めたのであります。


「お、おい。何をする気だ?」


彼女は答えず、無言でトリガーを引くと、一瞬にして辺一面が炎に包まれたのでございます。


「キレた自分の姿を見るのは複雑だな。じゃなく、おい鳥。早く火を消さないと大木に引火するぞ?」

「馬鹿野郎。既に燃えてるだろ?しかも俺様はここから動けないんだぞ?どうしろって言うんだ?」


目の前で炎を放ち続ける男に顔を向けるも返事は来ない。

燃えている地上に視線を向けるも八方塞がりで動けない。

鉄格子さえなければどうとでもなるはずなのに。今になって、自分勝手な怒りで喧嘩を売った事を後悔する始末。悔しさで、もはや戦意さえも喪失してしまった魔物。


「やれやれ、やっと聞く耳を持ってくれそうだな」


ヒロは奇跡のスキルを使い、さわの頭を冷やすのも兼ねまして、大量の雨で大木とその一帯の炎を沈下させ、止まっていた鉄格子も地上へと下ろしたのでございます。


彼が鉄格子を地上へ下ろす。察しのいい方はここで気づきましたかな?

実はこの鉄格子、触れると黒焦げになると言う事はございません。まして彼女が自由自在に操る事は不可能。なぜならこれは腕輪の力。彼女は魔方陣の光で位置を彼に伝え、彼がその位置を頼りに、鉄格子を変化させたり動かしたりしていたのです。もし魔物が鉄格子に触れてしまい、何も起らない事に気づいてしまえば、この作戦は失敗。しかしこの作戦は、見事にはまったのです。


・・・

・・


鉄格子を元の腕輪に戻し、ようやく地に足を着けたさわちゃん。

魔物は、いや。守り神は、大木を眺め異常がないか確かめる。ま、異常はないと思うけどね。あの雨は特別な雨で、炎で焼けたり焦げたりした部分は、全て元の姿になるようになっていたし。要は回復魔法の応用って事なんだけど、守り神に説明するのはやめておこう。


「なぜ燃やし尽くさなかった?しかも、それほどの力があるのなら、俺様なんて一撃で倒せただろうに」


「だから、僕たちはあんたを倒しに来たわけでも、ここを侵略しに来たわけでもないんだ」

「そうそう。その宝箱の中身を使わせてくれるだけでいいの。でも燃やした事は反省してるから。ごめんなさい」


「……何故にこの宝を欲しがる?力のためか?」


僕と彼女はお互いの顔を見合わせ、うなずき告げる。


「「それは……」」


ようやくだけど、ここに来た理由を説明し、誤解を解く事が出来たのだけど。


「ははは。入れ替わりってか。どうりで途中から喋り方が可笑しかったわけだな」

「もう。笑わないでよ。こっちは困ってるんだからね」

「僕たちは一刻も早く元に戻りたい。だからその宝を使わせてくれないか?」


宝箱に視線を送る僕を見て、守り神は表情を曇らせつつも「……使え。さっきの詫びだ」と言いながら鍵を差し出した。


喜ぶ彼女と頭を下げる僕。そして大木へと歩み寄り、宝箱を開けてみる……


「これが、全魔断刀」

「う~ん、刀と言うより短剣じゃない?」


その名の通りなら、刀のイメージが頭の中にあったのだけど、実際には、短剣サイズの持ち運びに便利そうな武器だった。彼女は早速、その短剣を両手で握った時。更なる真実を知る事になる。


「きゃっ。何よこれ?硬くないし」


「素材はスライムのかけらから生成したからな、無理もないだろう」

「守り神、これが本当に全魔断刀なのか?」


しばらくの沈黙の後。守り神は、最近この場所で起った出来事を話してくれたんだ。

それは、剣士を恨む理由でもあるのだけれど、その話しは本編(ごじつ)に語るとして、結論から言ってしまうと。


「全魔断刀を持って行かれた?」

「ああ。さっき説明した剣士が持っているはずだ」

「じゃ、じゃあこのグミみたいな短剣は何?」

「そいつは全魔断刀改。全魔断刀を元に俺様が造った力作だ。だが、効果は違ってしまったがな」


守り神が説明するに、全魔断刀改ことグミ短剣は、次元を切り開く短剣。全ての魔力を断ち切る事の出来る全魔断刀とは全く別物だった。


「はぁ。ようやく元に戻れると思ったのにな~」

「でも、全魔断刀は存在するみたいだ。しかも、そいつはどこかの剣士が持っている。まだ希望はあるさ」

「…………そだね。ありがとう鳥さん。グミ短剣はこのまま閉まっておくね」


「持って行け。どうやら貴様らにはその資格がありそうだ。いずれ何かの役には立つだろう」


「え~。こんなグミが?どうするヒロさん?」

「ま、いいんじゃない?守り神がくれるって言うのなら」

「おう。これからどうするんだ?剣士を探すのか?」

「とりあえず仲間に相談してからだけど、探すと思う」

「では、1つ望みを聞き入れて欲しいのだが?」


・・・

・・


夜。守り神のはからいで、今晩はこの大木の下で休ませてもらう事にした2人。

全魔断刀の件は残念な結果で幕引きですが、彼には別件がございました。


「さわちゃん。ちょっとだけ散歩に付き合ってよ」


彼女は自分の顔を見るなり、ヘアゴムを道具袋から取り出しまして、彼の髪をサイドテールにまとめました。どうしたんだい?と言う顔を彼はしますが、「行きましょう」と言う返事で歩き出したのです。


そう。彼女もまた、この機会を待っていたのでございます。


程よく歩き出して5分くらいでしょうか。辺は相変わらずの草原地帯、背の方向には大木が見える状況下。ただ。今宵は、星が綺麗な夜でございました。


そんな中。彼が彼女に向かって深く頭を下げ、謝罪を述べるのです。


「ごめん。無意識に君の記憶を見てしまった」

「うん。多分そうなんだろうなと思ってた」


彼女が驚く事も、慌てる事もなく、ただ納得した笑顔で答えると、彼女も正直に、彼の記憶を見てしまった事を告げる。原因は入れ替わりの長さ。腕輪のいたずらと言った方がいいのでしょうな。


「情けない記憶ばかりだったんじゃない?」

「そんな事……ヒロさんて不器用すぎだね」

「はは。そうかもね。さわちゃんはそのまんまだったかな」

「それって、欲望のままに生きて来ているって言いたいんでしょ?」


互いにとって記憶を覗かれた事は、何の問題もなかったのです。そう、これは前座なのだと。それを知ってて会話を続ける2人。


やがて静寂がおとずれまして、今度は彼女が、先に行動に出るのでありました。


「ねえ?私ってさ、やっぱしよ姉の代わりだった?」


「…………正直、どうしても重なる時がある。でも、決してさわちゃんはしよの代わりじゃない」


「そう言うと思ってた。でもね、そんな答えを聞きたいわけじゃないの」

「ああ、知ってる。きっとその答えは、今から僕が君に伝えたかった事なんだ。だから」


彼女の方へと歩を進める彼。

手を伸ばせば触れられる距離まで辿り着くと、彼が言葉の続きを口にするのであります。


「僕にとって君は特別過ぎるんだ。その理由に彼女の存在がある事も事実だけど、お互いに持ってる事情があったからさ、このままの関係でいいと思っていたんだ」

「それは知ってる。私も同じだったの。でも、あなたの記憶に私の位置(ばしょ)が見当たらなかったの」

「いや、初めから君は僕の大切な所にいる。僕は……ずっとさわちゃんを好きでいたんだ」

「……それは、姉さんよりも?」


彼女は真剣な眼差しで彼を覗くと、彼が彼女を抱きしめた。

その行動に心が跳ねて、一瞬拒否するも、彼が強引に引き寄せる。


「僕にとっては君たちは同じなんだ。だって、どっちも最大の感情だったから」

「ず、ずるいよそんな言い方~」


彼は何も言わず、しばらく彼女を抱きしめ続けた。

さっきまで取り乱していた彼女も、落ち着きを取り戻し、彼に身を委ねまして、軽く背中に両手を回したのであります。


・・・

・・


星が舞い散る夜空を見上げ、静かに握り合う互いの手。


心地よい体温(ぬくもり)を感じ、自然と見つめ合った瞳の中に、互いの姿が映る……


それは鏡を見ているようで。

それは自分を見ているよう。


やがて2人の影が重なり…………草の絨毯に背を委ねる。


「ねえ?もし、このまま帰れなくて、私達の関係もこのままだったら」

「その時は、僕も覚悟を決めるよ。さわちゃんは僕が……」


「それはダ~メ。だって、お互い相手は見つかってるでしょ?…………でも」


彼女の導きで向かい合せになり、両手を握り合う2人。


「私はヒロさんを守ってあげる。何があっても……ね」

「僕もさわちゃんを助けるよ、僕の全てで……」



「「()は、必ず(あなた)を」」



突然、互いの腕輪が異様な光を帯び、眩しさのあまり強制的に目を閉じた時。何かが割れた音がしたのであります。


やがて光は消えて行き、ようやく閉じた目蓋を開き、腕輪に目をやる2人。


「あ、さわちゃんの腕輪が消えてるよ」

「ほんとだ。って、何でヒロさんの顔が見えるの?」


どうやら彼女の腕輪が消滅した事により、入れ替わりも戻った様子。

しかし2人は、入れ替わりに馴染んでしまっていて、気づくのが遅れたようですな。


「どうやら元に戻れたみたいだ。よかったな」

「そうだね。お帰り、まともな自分」


握り合っている両手の温もりが微妙に変化し、伝わる事を感じた2人は、戸惑いながら苦笑する。

それは照れ隠しでもあり、気まずさでもあるのだと。


そっと両手をほどき、2人は仰向けになった状態で星を眺める。


「さて、明日から改めて全魔断刀を探しに行かないとだね」

「ん?僕たちの件は解決したし、そんなに急いで探さなくても構わないさ。守り神だって、旅のついでで」


彼の言葉を最後まで聞かず、体を起こした彼女は、彼の右腕を両手で握り、わざと頬を膨らませて彼の顔を見下ろす。彼女のサイドテールがゆらりと流れ、彼の額を優しく撫でたのでございます。


「まだ問題は解決してないでしょ?呪い、解けてないよね?」

「ああ。でも重大な問題は解決したから、今はこれでよしとしよう。ご褒美ももらったしな」

「なぁに?ご褒美って?」

「知りたい?それは……」


彼は上半身を軽く起こして彼女の耳元で囁くと、膨れた頬がみるみるしぼみ、視線が泳ぎ出すと、両手を自分の髪の毛へと持って行ったのです。


「さわちゃんて、意外に想像力豊か過ぎ?」

「ば、ばかヒロ~」

「僕は素直な言葉を伝えたつもりだけど?」

「そう……なのね。この意外な言動や行動が、みんなをまとめている力なんだわ。私は直接的に被害を受けていなかったから、免疫がないだけなのかも」

「冗談はやめてくれ。僕はハーレム王でもラノベ主人公でもないし、さわちゃんが勝手に舞い上がってるだけだろ?」


かくして2人は、いささか時間はかかりましたが、無事に問題も解決し、いつもと変わらない生活に、、、いえ、少しばかり変化はあったのです。


・・・

・・


「さ、今日も張り切って全魔導士様の情報を探しに行くわよ~」

「うっす。お供します、姉御」


もっちゃん先輩が先陣を切ってケバスへと進み、その後、ハクトを先頭に仲間たちが着いて行く。

暖かな日差しを全身に受け、僕は無意識に、右手を頭の方に持って行った。


「結局、あんたの呪いは解けなかったのね?」

「ああ。でもこれは何かと役に立つから、しばらくはこのままでいいかな」

「そう。ならいいんだけど」


「そうじゃないだろ?ちゃんと言いたい事があったんじゃないのか?」


僕とみあの会話を聞いていたアキトが、さりげなく彼女に「素直になれ」と言う意味もこめて口を開く。


「わ、わかってるわよ。あのね、私のせいで呪われて、その、ごめん」


相変わらずだな。でも。少しは反省しているみたいだし、許そう。てか初めから気にしてないけどな。だって、この腕輪がなければ、あの子とあんなきっかけもなかっただろうし。


「で。どうやった?ヒロくんとの入れ替わり生活は?」

「ええ?しのさん気づいてたんですか?ですよね~。私って演技下手だし」


耳元で、誰にも聞こえないように、私に囁いて来たしのさん。どうやら彼女の他に、もっちゃんさんも気づいていたみたい。と言う事にしとこう。実際、全員知っていると思った方がいいのかもしれないけどね。


「今やから聞くけど。何でうちらに相談してくれへんかったん?」

「半分はしましたよね?腕輪の件。今だから言いますけど、こんな恥ずかしい事をみんなに伝えたら、絶対に話せないイベントが発生したりするんじゃないですか?」

「え?……せ、せやな。特に先輩はあかんな」

「でしょ?あ、もしかして。しのさん、羨ましいとか思ってました?」


不意をつかれたのか図星なのか、しのさんの小麦色の肌が若干赤みを増した気がしたの。

その後、全力で否定はしていたけれどね。う~ん。確かに色々とあったな。あの件で、みんなと彼との繋がりも詳しく知れたし。貴重な体験が出来たのかな?



「ねえ、さわっち。最近ずっとその髪型だけど、仕度にルーズになった?」



みあのささいな質問に、彼女は、満天の笑顔で振り返りながら、右手の人差し指を突き出した。


「これは私のお気に入りなんです」


嬉しそうに答えた彼女の視線と指先が、僕に向けている事に気づく。

綺麗なサイドテールが踊り、僕の心をくすぐる。



それは誰も知らない。誰にも教えない。私と彼だけの接触(コンタクト)

それは誰も気づかない。でもそれでいいんだ。だってこれは────君と僕の物語。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




小さな町から、ロケバスが西に向かって進んで行く。その姿を高台から眺めながら、怪しげな刀の鞘を左手に握り、右手で髪をかき上げる人物あり。

その者は、ロケバスが去るまで視線をそらさず、バスを観察していた模様。

さて。この者は、一行にとってどのような存在になるのでしょうか?続きは本編で語るといたしましょう。



「…………やっと見つけた」

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