2.5話_お賭けあそばせ
広い荒野をただひたすらに走り続けるロケバス。
走り続けたその先に、大きな街が見えて来ます。
一行は、今夜の宿をここに決め、しばし街並みを見学しておりました。
その街はとても栄えている模様で、中でも一際目立つ建物はと申しますと。
「カジノ?」
みあがやや疑問混じりの言葉で呟き、興味無さそうに立ち去ろうとしておりました。
ですが。その言葉、その建物を前に、黙って見過ごせない男女が。
「ついにこの時が来たようね。この戦い、負けられへんな」
「ああ。俺達の本気、見せてやりましょう」
2人は互いの顔を見て頷き、入り口を睨みつける。
「行くわよハクトはん」
「おうさ。もっちゃん姉御」
さて、ここからは特別企画。
遊び人もっちゃん先輩と、賭博師ハクトの異種格闘技。
いざ、尋常に勝負と行きますかな。
「ちょい待ちーな。全財産持って行くなやボケ」
~ Battle Bet Quest 2.5ミシシッピ_お賭けあそばせ ~
「お洒落~。パチンコ屋とは大違い」
「さわさんも賭け事をする口なん?」
「私ですか?少しだけ経験ありますけど、滅多には行きませんよ?しのさんは行かないの?」
「うちは賭け事は嫌いや」
「知ってます?こんな場所って、初心者ほど勝つ確率が高いんですよ?」
「でもうちは絶対にせーへん。てか宿代無くなしてしもーたらどうすんねん?」
どうやらしのは、今日の宿代の支払いを心配しているようですな。
一方。彼女達から少し離れたこちらでは、何やらこんなお話が。
「な~アキト。景品交換所にある景品ってさ、本当に価値がある物なのかな?」
「少なくとも、普通の町で売っている品よりは特別な物だと思うけどな。ヒロはなぜそう思ったんだ?」
「いや、あそこに堂々と飾っている衣装ってさ、どう見てもアレだよね?」
「どうしたの?珍しく幼なじみらしい会話をしてたわけ?」
「みあ。いや、ヒロがあそこに見える衣装が気になったみたいでな」
「景品?何か高価な物があったりするの?」
「みあはアノ衣装を見て、価値があるように見えるかい?」
「……あんたってそんな趣味あったの?マジ引くんですけど?」
「ちが~う。僕はただ気になったから聞いただけで」
「ほら認めたわよ。気になったって自分から言ったし。はぁー。この歳で変態度が増すなんて、お縄になるのも時間の問題よね」
「ほぉ~。なら僕が景品をゲットしたらお前に意地でも着させるからな。アキトが」
「おい。俺を巻き込むな」
「安心しなさいアキト。要は私が先に景品をゲットしたら着なくていいのよ」
「いや、話しがズレて来てないか?」
「面白い事を言う。なら、どっちが先に手に入れるか、勝負と行こうじゃないか」
「いいわよ。久々のあんたとの勝負、受けて立とうじゃない」
「やれやれ。どっちが勝っても必要の無いアイテムが増えるだけだな」
かくして。ヒロとみあによる、カジノ景品争奪戦の幕が上がったのであります。
果たして、『ギリセーフな布』を手に入れる勝者はどちらでありましょうか?
あいや、どちらも敗者となり、無効試合と言う展開も否めませんな。
「ほれ、これでボーナス確定や」
「うっし、これで5連続ダブルアップ成功だな」
さて、遊びと賭け事に関しては、右に出る者はいない彼と彼女様。
先輩はスロットマシンを攻略し、ハクトはテーブルゲームを制しているご様子。
互いが座っている場所は違えど、確実に資金を増やしているのは確かでございます。
「この調子なら、あと5回くらいはボーナス入るわね。おや?あそこにいるんは、ヒロくんとみあちゃんかいな。ほんまあの子らは仲がええな~」
「ですよねぇ。しよ姉やしのさんはよく嫉妬しなかったものですよ」
「な、ななんでうちの名前が出て来るんよ?」
「お。可愛い所の2人。仲間外れにされて彷徨ってたんかいな?」
「ちゃいます。先輩がさっき持って行ったお金を、宿代だけでいいから返してもらおうと思って探してたんです」
「それよりしのちゃん、みあちゃんの恋愛は進んどるんかいな?」
「あ~それ私も聞きたいなぁ~。しのさんてみあさんの親友なんでしょ?だったら深い所まで話してるんじゃないですか?」
「え?そんな事は本人に聞いた方がええと、いいと思います。私の口から彼女の事なんて話せませんよ」
「その口ぶりなら、よう知ってますって、言ってるようなもんやで」
先輩の所にしのとさわが合流し、宿代の請求の話と思いきや、先輩のいつものノリで、話しは女子の好物、恋話に現在進行形で発展中でございます。
「いえ、詳しくは私も知りませんよ。だって……そうよね?」
後半、独り言のように呟いた彼女の顔をじっと見つめて、先輩は何も言わず口元だけ笑う。
対照的に、何が言いたかったのかが理解出来ずに、首をかしげるさわ。
「しのちゃんは、あの子が彼氏だったら安心出来た?」
「そんな未来もありだったのかもって考えはありますね。でも、そうなったとしても、彼女を不幸にする事には変わりないんです」
「なるほどな。彼を中心に繋がりを保っているけども、それは幸も不幸も繋がってるっちゅーわけやな」
「まーそうです、ね。でもそれは、彼の責任じゃないですよ?誤解はしないで、、、って。何の話しですか」
「結局みあさんは前に進んでるの~?」
「安心しな妹。みあちゃんの答えはそう遠くないと思うで。今はしっかり見守ってあげような」
「ちゅーか、宿代だけでも返してーな」
どうやら彼女達の間には、色々と整理する事が多いようで。だがその話しは、またの機会にいたしましょう。
さてさて、カジノ景品争奪戦は、現在どうなっているかと申しますと。
「そうよ。このまま逃げ切りなさい。しずくc」
「まだだ。お前の力はこんなもんじゃないぞ。しずくf」
モンスターレースで勝敗を争う事となったヒロとみあ。スロットの目押しが得意でもなければ、テーブルゲームでディーラーと向き合って勝負する度胸もない2人は、どのモンスターが早いか?と言う単純なゲームを選んだようですな。
ここまでの戦績は、若干みあの方がリードしている模様。しかしこのレースに、お互い全てのチップを賭けているようで。どちらにしてもこの勝負、ここで決着が着くようですな。さて、結果はいかに。
『勝者、しずくb。"博打王クロバ様"このレースで10連勝達成しました。おめでとうございます』
「「負けたぁ」」
「引き分けだ。ま、これでよかったと思うぞ」
「よう、恋敵。楽しんでるか?」
「ハクトか。こっちは別の意味で楽しんでた所だ。そっちはどうだ?美味い酒でも飲めそうか?」
「まぁな。たまには一緒に飲むか?」
「そうだな。だが先に、アイツらをどうにかしてやってくれないか?」
「ん?どう言う事だ?」
諸々の事情をハクトに話したアキト。それを聞いた後に景品交換所の方へ視線を向ける。
「ほっほぉぉぉう。マニアックな品を選んだな。俺でもドン引きしそうだ」
「まぁ、互いにそう言った趣味は無い事だけは言わせてくれ。あえて言うなら、成行きだ」
「いいね。どちらにしても面白い。んじゃま、泣きのもう一勝負と行こうか。気になるヤツもいるしな」
「すまんな。俺はこう言った類いは専門外なんでな」
アキトの肩を軽く叩き、背中を見せ、右手を振るハクト。
どうやら2人の元へ向かったようですな。
「悔しいけど、仕方ないわね。でも、あのクロバとか言うヤツ、相当やるわね」
「博打王とか言ってたな。賭博師とは職が違うのかな?」
「基本はほぼ同じだ。だが、あちらさんの職はちとエグイな。何せ勝負事には"ほぼ負けなし"ってのが売りだ」
「「ハクちゃん」」
「おやおや、何やら聞捨てなりませんね。私のどこがエグイと言うのです?」
ハクトの会話を耳にし、博打王が3人の元に近づいて来ます。
黒のタキシードに黒いラウンド型のメガネを着用した姿。いちいち癇に障る口調。
「正直、嫌われるタイプの人間よね」と心の中で呟いたみあ。
そんな彼の前にハクトが近づき口を開くのであります。
「言い方が悪かったようだな。エグイじゃなくズルいでいいか?」
「無礼な。私は、運も実力も持ち合わせているだけの事。負け惜しみの発言はみっともないですね」
「負けたのはアイツらだけどな。んじゃ次のレース。アンタと、うちの足自慢の彼女と、いっちょ勝負してみないか?」
「はぁ?このレースはモンスターが走るやつじゃないの?」
「そうだ。だが、次のレースはモンスターじゃなく、ここに来ている参加者を集めて走る特別枠だ」
『モンスターレースよりお知らせ致します。次のレースはお客様参加によるレースです。参加者には特別に、100チップを贈呈いたします。ふるってご参加下さいませ』
「フフフ。いいでしょ。そんな重い肉をぶら下げた女に、負けるはずがありませんよ」
「言ってくれるわね。誰が相手でも、走りに関しては誰にも負けないんだから」
「なら決まりだ。俺は彼女に賭ける。アンタは自分に賭ける。これでいいか?」
いやはや、事態は急変いたしましたな。
レースのエントリーに向かったみあと博打王。その姿を見つめながら、ハクトに向かって口を開くヒロ。
「まさかハクちゃんも、あの景品が欲しいのかい?」
「アホぬかせ。俺はクロバの実力が本物かどうか確かめたいだけだ」
「さっきハクちゃんは、ズルいと言ってたね。それって」
「ま。それもレースが始まれば、何かしら見えてくるだろう……多分」
「要するに、クロバの動きを注意して見ていればいいんだな?その役目は俺が引き受けよう」
2人の元に合流したアキトが、博打王の監視役を勤めると提案し、それを承諾するハクト。
そして彼は、一足先にレース会場に向かったのであります。
「さてと。エントリー受付も終了したようだし、俺達も向かうとするか」
・・・
・・
・
なんだか私、陸上選手になったみたい。まあ格好は盗賊だけど。
でも、白いラインで区切られたトラック。1周400メートルの構造は、陸上競技場と同じ。
そのレーンに、私は立っているのね。
勝負は2周の800メートル。最初の100メートルはセパレートコースで、その後はオープンコース。
ちなみに参加者は6名。私と博打王の他に、あと4人参加したわ。
その中に盗賊が1人、武道家が2人、黒魔導士が1人。同じ職はアルファベットで割り振られるようで、武道家a、bみたいな感じね。
レーンはインから武道家b、黒魔導士、博打王、盗賊a、盗賊b、武道家a。あ、言い忘れてたけれど、私は盗賊aなのよ。そして隣りにいる彼女が盗賊b。その他の連中は男性ね。
「同じ職の女の子に出会えるなんて嬉しい。お互い頑張ろうね」
短髪の髪でスレンダーな身体。まさに陸上向けの彼女が、私に話しかけてくれたわ。
見るからに、彼女も足には自信がありそうね。私よりは若いし体力もありそう。
「ええ。あなたには先に謝っておくわ。このレース……私がいただく」
「あらら。見た感じレベルはよく似てると思うんだけどなぁ。素早さの数値は、あなたが高いって事?」
素早さの数値?ナニ?このレースにレベルなんて関係あったの?
「え?このレースってプレイヤーが自力で走るんじゃないの?」
「走るのは走るけど、それはゲームのキャラだよね?私らは育てたキャラを信じて、サポートするんでしょ?」
忘れてた。ここはゲームの世界なのよね。
でも、おかげで少しだけ安心したかも。こっちに連れて来られた人間は、ゲームをやっているプレイヤー全員ではなさそうね。
「おやおや、レースが終わった後の言いわけでも、先に用意したのですか?」
隣りの彼女と会話中、博打王が、私に向かって呆れ顔を見せながら、話しかけて来たわ。
「そうよね。私もこのキャラを信じて勝ってみせるわ」
「無視ですか。ま、どうでもいいですがね。勝つのは私に決まってますし」
レース開始前のBGMが流れて来る。
各々がスタートに合わせ準備に入る。私は軽く深呼吸をし、真剣な眼差しで前を見る。
『さー。いよいよレースが始まります。果たして勝つのはこの6名の誰なのか?』
気合いが入る選手一同。そんな中、博打王だけが不適な笑みを見せている。
『それでは、On your mark』
スタートからセパレートを抜けるまで全力で跳ばし。
『get set』
オープンでインを取りに行くわ。
『GO!!』
『各選手、一斉にスタート。おおっと、いきなり飛び出したのは盗賊a。ものすごい勢いで走り抜けて行きます。続いて盗賊b、武道家a、b。博打王、黒魔導士の順だあ』
出だしは好調ね。このままインを狙って走り、追いつかれない程度に、1周目は軽く流して体力を温存しなきゃ……って、思ってたんだけどなぁ。
「あの人すっごーい。同じ盗賊なのに、あんなスピードが出せるなんて」
「とか言いながら、しっかり追いついて来てるじゃない。声、聞こえてるわよ?」
「あはは。あなたとはいいお友達になれそうね」
「と、友達ですって?やめときなさい。リアルではおばさんよ?」
『100メートルを通過した時点で盗賊aがインに入る。続いて盗賊bも少し遅れてインへ流れて行く』
「ええ?私は別に気にしないよ?ゲームでは、歳の差なんて関係ないでしょ?だって、同じ楽しさを共有出来る場なんだし」
「ふふ。そんな発想出来るってのは、今時の子だわね。んじゃ、私に勝ったら友達に……」
「勝つのは俺だ」
『あーっと。ここでトップが入れ代わった。盗賊たちを抜き去ったのは黒魔導士だ』
「ちょ。アイツあんな早かったの?」
「違うよ。早いのは装備品のおかげだよ」
「装備品?さっきの数値がコレなわけ?」
「そうだよ。でもね、あの靴の効果はそんなに長くは続かない」
「そ。なら安心したわ」
「それは黒魔導士に敵わないと知り、私に負けても構わないと諦めたからですか?」
はぁ。そろそろ来る頃だと思ってたのよね。散々ほざいといて、後方軍団の仲間入りしているようじゃ、とんだ笑い者だしね。
『黒魔導士が第3コーナーを通過。遅れて盗賊a、bが第3コーナーに、おおーっと、後方より博打王が迫って来た』
「そうね。安心した事は……この程度じゃ、誰も私には敵わないって事よ」
「な。加速した?」
「わーお。これじゃ追いつけなくなるよ。私も早めに全力を出そうっと」
『第3コーナーを抜けた直後、盗賊aのスピードが上がった。遅れて盗賊bも加速。追いついた博打王が再び引き離される展開となった。そして第4コーナー。盗賊a、トップの黒魔導士の背を捕えている』
「まさかお前も俺と同じ……」
「んなもん持ってるわけないわよ。ほら、アンタはもう限界なの?」
「……負けるわけには」
このコーナーを曲がりきったら直線で抜いて、残りの1周。このまま逃げ切れば私の勝ちね。
「黒魔導士さんは時間及び体力切れ、そしてあなたには悪いけどコーナーでは私には勝てないよ」
『第4コーナーを通過した時点で、黒魔導士、盗賊a、bに抜かれ3位に。そしてトップが盗賊b。コーナーを凄まじい体制で走り抜ける。それは正に、バイクがコーナーを曲るかのようだ』
「ウソでしょ?彼女にこんな特技があったなんて」
「たっのしいね。ほら残り1周だよ?どうやら勝負は私らの争いになりそうね」
確かに、黒魔導士は後退して、武道家a、bは、体力はあるけど、足は遅いから論外。後は博打王なのだけど……あの距離ならまだ追いつかないか。
残り1周。正直、コーナーではあの子には敵わない。悔しいけどね。でも直線なら……なんとか。
幸いにもコーナーの後は直線が来るし。だから私が勝つためには、絶対にあの子から離れない事。
ふふ。何でだろう。追い込まれて笑えるなんてね。好きな事に張り合える相手が出来たから?ならあの子が言った言葉は間違いじゃない。
『さあ、レースは2周目に突入。直線で両盗賊が並んだ』
「楽しいのは認めるわ。だからお礼に、私の本気を魅せてあげる」
「ええぇ。まだ先があるの?」
「それはお互い様じゃないの?」
私とあの子の口元が軽くニヤける。ここからはお互い本気の戦い。
直線で私が抜き、コーナーであの子が抜く。
それを3回繰り返し、そして最終コーナーに差し掛かった時。私の後方30メートルに博打王の姿を確認出来たわ。
『さあ、盗賊同士の争い。後は最終コーナーと直線のみ。しかし博打王が信じられないスピードで追いつこうとしており、勝負の行方はまだまだわかりません』
「私はどうしても勝たなければなりません。特に貴方に負ける事は許されない」
「後から指を指すな。てか勝負の邪魔しないで」
「隙あり。このまま逃げ切れば私の勝っち」
『盗賊b、得意のコーナー攻めで再びトップになった』
まだよ。最後の直線が残ってる。あの子との距離がどれだけ離れたかによるけれど、ここまで来て負けたくない。
「勝負は最後までわからないわよ」
『おおお。盗賊aがラストスパート。盗賊bと並んだ』
捕えた。あと少し、このまま前へ出るだけよ。
「だから。勝つのは私なのですよ」
な、何?地面が突然揺れて……
「うわぁぁ倒れるよぉ。ごめん避けて」「無理よ。てか何なの?これは」
お互いバランスを崩し、地面に倒れ込んだ真上を、博打王が飛び越えて行く姿が見えたわ。
・・・
・・
・
盗賊同士のアツい走りに、観客席も大いに盛り上がりを見せましたが、最後。謎の転倒によって1位を逃したみあ。
勝負を終えて、お互いを称え合う彼女達。あの人懐っこい盗賊さんは、みあを友達にする事を諦めたようですな。しかしながら、最後まで明るい笑顔を絶やさず、接する彼女の性格に、みあも心打たれましたが、今は自分達の問題もあり、巻き込みたくない気持ちがありましたゆえ。今回は見送らせてもらったようです。
さて、みあがハクト達の元へ戻るまでの間。観客席ではこんな会話がありました。
「みあが転んだ?いや、盗賊に押された?」
「ん~や、どちらかと言えば転んだ。正式には転ばされただな」
レースが終わり、ヒロとハクトの元にアキトが静かに帰って来た。
「ゴール手間、クロバの手元から、一瞬だが何か宝石のような物が見えた」
「よ。ご苦労様。さすがお前さんは目がいいな。おかげで色々とわかった」
「宝石?クロバの装備品って事?」
「あれは博打王の得意技、絶対勝利さ」
「「イカサマ?」」
「おう。博打王ってのは賭博師と違って、ゲームを楽しむ存在じゃあなく、ゲームに勝利する事が目的の存在。ただ、クロバの実力が本物であれば、イカサマなんて使わないだろうとも考えてたんだがな」
「なるほど。ハクちゃんはそれも見極めたかったんだ」
「おかげでこちらのチップはほぼ無くなったがな」
「んだな」と呟きながらも、フラフラとこちらに向かって歩いて来ている2人の女性を確認し、博打王とみあも、こちらに向かって来ている事も見定めた上で、彼が自信満々に2人に伝えます。
「だから、これから最後の大勝負に出ようと思う。次は正々堂々の勝負でクロバに勝とうぜ」
彼にはまだ策があるのか?それともこの状況を楽しんでいるだけなのか?どちらにしても、このまま負けっぱなしではいたくないようですな。
そして、ハクト達の所にみあが合流し、納得いかない顔付きで100チップをハクトに手渡しました。
「ごめん。これはお詫び」
「ま~気にするな。みあはアイツに勝ってたぜ。今回はちょっとしたアクシデントがあっただけさ」
ハクトの言葉にアキトとヒロもうなずき、誰もが彼女を称える。
その光景を見ている博打王が鼻で笑い、敗者をののしるのであります。
「だから言ったでしょ?私は運も実力も持ち合わせているのだと。貴方がたが私に勝とうだなんて、所詮は夢物語なのですよ」
実力で負けたと思っている彼女は、もはや何も言わず、ただ黙って目を逸らす。そんな彼女を見たハクトが、少し声を低くして、力強く口を開く。
「だったら夢物語ってのを俺達がお前さんに魅せてやるよ」
「やれやれ、まだ私と勝負したがるのですか?残念ですが私もそんなに暇ではないのでね」
「ま~ま~そう言わず、あと少しだけ私達に付き合ってもらえへんやろか?イカしたお兄さん」
「そんな事より宿代だけでも返して下さいって言うてるやん」
ハクトが一瞬笑い顔になり、先輩に「ナイスタイミングです」とうなずいたのを確認し、先輩は博打王の背後まで足を運びまして、おもむろに抱き締めたのであります。
「な、なんですか貴女は?と言うか、このゲームはこんな機能なんてあったのですか?」
その質問に答えるとすれば、NOです。だって彼女達はキャラでありながら人なのですから。
ま、そんな事をいちいち気にしてましたら、先程までの事も含めお話になりませんので、ここは無視して話しを進めるといたしましょう。
「貴方お強いんでしょ~?だったらカジノの女王と呼ばれるルーレットでも負けないのかしら?」
先輩が左手で彼の顎を軽く撫で、右手でルーレット会場を指差します。
背後に当たる柔らかい誘惑と彼女の大人の香りに翻弄され、彼はドヤ顔で断言するのです。
「当然です。私にかかれば女王も跪くでしょう」
「ま~素敵ね。なら私達の勝負、受けてくれへん?お礼は先にしてあげるから」
博打王の頬に、彼女の唇が触れる。
その行動を見ている一行が、驚き唖然とするのです。
「わ、わかりました。勝負して差し上げます」
「ふふふっ。おおきにな」
・・・
・・
・
「で。何でうちなんです?」
「だって~。しのちゃん宿代欲しいって言うてたし」
「だから何でそれと賭け事を一緒にするんよ?うちは、こんなん嫌いやからやりとうない」
博打王とリベンジ勝負に選んだ物、それはルーレットゲーム。
勝負は1回のみで行い。賭けるチップは、現時点で持っているチップ全て。
この勝負はチップの多い少ないに限らず、どちらかが当たれば勝利というルールにし、博打王も承諾。
そして、一行の代表はと言いますと、賭け事が嫌いな"しの"。
彼女は全くのギャンブル未経験者でございます。とは言え、ルーレットのベット方法には、アウトサイドベットと言う、初心者にも理解しやすい賭け方もありまして、実は今回の勝負、こちらで賭ける方が有利なのです。
しかしなぜ、彼女が代表に選ばれたかと言うと、実はハクトの作戦でもあったのです。
「すまないしのさん。この勝負。君じゃなきゃダメなんだ」
「ハクトはん。何言うてるん?うちなんて、ほんま賭け事なんかした事ないし、もし負けてしもーたら、どう責任とったらええか」
「あ~そこんとこは心配しなさんな。しのさんを責める事は俺がさせないし、責任も俺がとる。だから、自分を信じて"好きな所に賭けるんだ"」
「そんな事言うても……」
緊張と責任感で、身体が震えている彼女。それを見た博打王が、小馬鹿にした表情で、彼女に向かって罵るのです。
「怖じけづいて震えているのですか?貴女のお仲間も人が悪いですね。こんな素人を私の相手にするなんて、あ。他の皆さんは、私に勝ち目がないと悟ったのでしょう。だから貴女を私の相手にしたのですよ。素人の貴女なら負けても納得が行くとね」
「…………はぅ」
「夢物語。あんたが言った言葉だな。さっきも言っただろ?今からそれを彼女が魅せてくれる。その力を彼女は持っているのだからな。俺はその可能性に"賭けた"んだ」
「ハクト……仕方ないですね。私は仲間を信じて貴方に勝ちます」
「そうですか。ですが、勝つのはこの私ですがね。先にベットして下さい。私はその後にしますので」
いつの間にか震えも消え、真剣な眼差しでベットするテーブルを見る彼女。
初心者の彼女が狙うのは、真ん中の端にある赤と黒の所。ここならば、確率は約5割であり、今回の勝負では、当然そこを狙うのがセオリーであります。
彼女が赤の部分にベットを決め、チップを置こうとした時、博打王を見てこんな質問を。
「クロバさん。私は赤に賭ければ、貴方は黒に賭けますよね?まさか緑の0になんて事はないでしょ?」
「今回のルールでは、どちらかが当たればいいのですから、貴女が赤を選ぶと言うのなら、私は黒ですね」
「わかりました。では貴方は黒で。私は赤の"16"に賭けます」
「インサイドベット?どうしてそんなリスクを背負うのです?仲間に迷惑を掛けるだけですよ?」
「大丈夫。だって自分を信じてるし、それに『好きな所に賭けるんだ』彼の言葉を信じる」
「いいでしょう。あなたは所詮、負ける運命なのですから」
2人がベットを終え、運命を乗せたルーレットが廻り出す。そして、その回転と逆方向に、玉を走らせるディーラー。
祈るみあに、アキトとハクトの片腕が両肩に乗っかり、安心しろと笑顔を見せる。
それを隣りで見て安心するヒロ。先輩は博打王を眺め、右手の薬指をそっと唇に触れて、静かに微笑むのであります。
徐々に玉が落下していく。ポケットに近づいて来ている事を確認した博打王が、右手を握り怪しく微笑む。その姿を確認したアキトがハクトに呟く。
「ヤツは絶対勝利をまた使う気だぞ?どうするんだ?」
「安心しな。今回の勝負は正真正銘の真っ向勝負。運と運のぶつけ合いだ」
「ねぇ?2人とも何を言ってるの?」
「後でハクちゃんがちゃんと説明するから、今はしのを応援しようぜ」
「ば、馬鹿な。なぜ発動しない?」
得意の絶対勝利で、またも勝利を掴もうとした博打王。しかしその効果は発揮されず、ルーレットはただ廻り続ける。やがて玉がポケットに当たり、弾かれ、入ったのであります。
「Red 16」
一瞬辺が静まり返り、今一度、玉の落ちた場所を確認するしの。
予想を見事に的中させた事を確信し、少し瞳を潤ませ、喜びを爆発させようとした矢先。
「やったわ~」と言う言葉とともに、視界を大きなメロン様に包み込まれる彼女。
「ちょ、先輩。やめて、やめーな。うちにとってそれは嫌がらせや」
遅れて一行も彼女の元へと駆け寄り、喜びをわかち合います。
やがて彼女の目の前に、大量のチップが流れて来まして、興奮のあまり両手が震えているご様子。
この勝負。文句無しに、しのの勝ちでございます。しかし納得が行っていない博打王。
そんな彼の元にハクトが歩み寄り、その種明かしをするのです。
「お前さんはカジノをどんな場所だと思ってる?俺は大人の遊び場だと思うのだが、アンタはただ稼ぐための施設か何かと勘違いしてないか?別にその職にある能力だから使用する事には文句は言わない。だからあえて俺はチップを捨てた。ま、おかげで最後は、おつりが来る程取り戻させてもらったがな」
「あ、貴方の仲間にも博打王がいたと言う事ですか?」
「ん~や。うちにはいないが、イカサマを封じる遊びのプロがいるんだな」
「それが私ってコト。貴方のイカサマは私が隠密系常時発動技で、強制的に無効にしたってわけや。おかげで、したくもないキスを、ハクトはんにヤラされたんだけど~」
「すんません姉御。後で何でもしますゆえ、今だけはご勘弁を」
「だ、だが、彼女が勝ったのも、何か特別な事をしたのでは?」
「聞いた事ないか?素人的幸運。彼女にしか出来ない唯一の武器」
「馬鹿な。確実な勝利も期待出来ない事に、全てを賭けたと言うのですか?」
「あんな~クロバさん。ギャンブルっちゅ~んは、勝つ事が全てやないんや。楽しむ事を前提にしての娯楽なんや。遊びに絶対勝利なんていらへんのよ」
「だから、しのさんが勝っても負けても、俺達はこの勝負を楽しめたって事で、笑って去ればいいだけだったのさ」
「…………そうですか。確かに私は、勝利にこだわり過ぎていたのかもしれませんね」
その言葉を残して、カジノを後にする博打王。
こうして一行は、無事にリベンジを果たす事が出来き、そろそろ宿に帰ろうと……
「なぁみんな。もう一勝負していかへん?」
どうやら遊び人の先輩は、まだ遊び足りないようですな。一行は笑いながら先輩に向かって、「もう十分でしょ?」とツッコミを入れたのですが。
「今の発言は私じゃあらへんよ?」
先輩の否定を耳にした一行は、彼女を2度見しまして、みあが戸惑い気味の言葉で確認するのであります。
「ねぇ、しの。まだ賭けたいの?」
「せや。今のチップを更に増やしてうちらは大金持ちになるんや。要は勝てばええんやろ?簡単な事やん」
「さっきの興奮がまだ残ってるの?しのらしくないってば、もうやめとこ」
「何言うてんの?みあちゃん。今のうちは何とかラックなんやろ?絶対勝てるって」
「あの頭のいいしのが、ビギナーズラックもろくに理解出来ないなんて。どうすんのさ?ハクちゃん」
「あ~なんだ。まさか彼女が、テンションが上がり過ぎると豹変するタイプとは、思ってなかったんでな」
「そんな事、僕たちも知らないよ」
「まぁええんとちゃう?それだけ彼女にとってはスリルがあって興奮したんやろ。今なら抱けるかもよ?」
「先輩、今はしのを止めて下さいって」
────15分後。
紅色のお洒落な床にDOGEZAをし、通行人がいるのもお構いなしに、ただひたすら謝罪をする、愚かな女性の姿があったのです。
「あぅーごめんなさい。もう賭け事なんて今後やりませんので、堪忍して下さい」
「しの。もういいから、いい加減頭を上げなさい、上げて、お願いだから」
「別にチップが無くなっただけなんやし、誰も~しのちゃんを責めたりしないわ」
「先輩……でも今夜の宿代が……」
お察しの通りでございます。
彼女の暴走によりまして、手持ちのチップを全て賭けてしまい、見事に大外れしてしまったのです。
おかげさまで、今夜の宿代も支払えない状況に追い込まれておりまして。
「支払いなんて、いくらでも方法があるじゃない。しのちゃんは女なんやし」
「…………ぅぅ。わかりました」
「待ってしの。本当に冷静になってくれ。てか先輩も、虐めるのはそのくらいにして下さい」
「そうですパイセン。そんな事させたら、私らまで巻き沿いになるでしょうに」
「………………心配せんでええ。みあちゃんの分まで、うちが頑張ればええだけの事や」
「え?いや、今の言葉はそんなつもりで言ったんじゃないの。じゃなくて、なんで決定事項になってるのよ。もしそんな事になったら、アンタら一生恨むわよ」
そう言って、男性達を睨みつけるみあ。話しが次々と脱線して行く中、ゆっくりと笑顔で近づいて来る女性の姿が見えますな。
「あ。やっと見つけたよ。みなさ~ん、そろそろ帰りましょう」
「お。ご苦労さん。どないや?随分遅かったから結構イケたやろ?」
「はい。もっちゃんさんの代わりだったから、もう出ないのかと思ってたんだけど、あの後も大当たりが続いて……(以下略)」
一行もすっかり忘れかけていた"さわ"の登場で、先輩と何やら話しが盛り上がっております。そんな会話に割って入って来たしの。まだ頭の中は混乱状態で、彼女に謝罪の言葉を口にするのです。
「さわさん、うちのせいで宿代が支払えなくて、身体で……」
「ありますよ。宿代」
「…………へ?今何て?」
「だから~今日の宿代、って言うか。しばらくお金には不自由しませんよ?」
先輩がスロットマシンで、ボーナスを引き当てた事はご存知かと思います。
その後、先輩はモンスターレースの所にいる、ヒロとみあを見つけました。そして、そこで博打王クロバの一件を確認。さわにスロットマシンの続きを託しまして、席を離れた先輩に、くっつくようにして、しのが宿代の要求をし続け、先程の勝負となったわけでございます。
「さわさん。ほんまおおきにな」
「お礼なんていいですよ。そもそも、もっちゃんさんが当たりを引き当てた台でしたし」
「ほんと、姉御には敵わないですな。全部計算済みで?」
「遊びにそんなんいらん。ハクトはんも含め、みなそれぞれ楽しめたやろ?」
「ま、私は久々に、本気で走れて楽しかったかも。あんたとの勝負は引き分けだけどね」
「はは。あの景品か。ま、いいんじゃない。絶対手に入れなきゃダメな物でもないし」
「だな。俺は安心したが、そもそも、あんな景品を欲しがるやつなんているのか?」
「あ。そうそう。さっき景品交換所で面白い服を見つけたんですよ~。何かの罰ゲームに使えるかと思って手に入れたの。見て見て~ほら」
彼女が満面の笑みで、一行達に見せた服。
それは正に、彼と彼女が目指していたアイテム。
名を『ギリセーフな布』と申します。