第五話
自分がたとえ生前、ものすごい戦士だったとして。
自分が現在世界で一番強い人間として。
そんな責任を感じることは、多い。
だからだろうか、今自分がしたいことをしようとしていることに、驚いている。
こんなにも俺は感情が動く人間だっただろうか。
こんなにも俺は世界を面白く思えていただろうか。
「・・ははっ、なるほど。」
俺もまた、望んでいるのだ。
生前よりも強い敵に会うことを。
俺もまた、一人の男子なんだ。
屋根の上を駆けて、目立たないように夜の広大な線路の上に飛び出す。
着いた先は、都市伝説の発祥源となった人身事故のあった場所。
この現代において、妖怪やらの魑魅魍魎が跋扈している中で。都市伝説は多大な力を持つようになった。実在しないはずのモノですら、存在できる。人に知られること則ち人に観測されること。
人に観測されること則ち存在していること。
そういうことらしい。
着地してからすぐだった。
何かが、猛スピードで俺に突っ込んでくる。
ここには電車は来ることはない。線路上に結界を張ると電車が通れなくなったり、術の媒体の風化でコストがかかりすぎるためだ。どのみち、夜中はあまり人が長距離移動しないため、夜間電車はなくなった。
だからあり得ないのだ。
電車が俺に向かってくるのは。
「キッーッッーーィッッッ」
奇怪な高音を発するな。
「雑魚が、もっと大物が来ると思っていたのに━━」
━━その電車の中には、
この間一蹴した
鬼が乗っていた。
「よお、殺しに来たぜ。」
今度は、金棒をもって。
取り合えず『流水』で電車を吹っ飛ばす。地面にぶつかるとともにテロ対策強化ガラスを突き破り、前回俺にカウンターへ飛ばされた時と同じくらいのスピードで襲い掛かってくる。
「おらっ!」
片手で受け止めた金棒は、流水を使ってなお砕けない。
仕方なく鬼の顔面を本気で殴ってみるも、
「効く、な。」
少しのけぞるくらいで、ダメージもそこそこ。
なるほど。鬼に金棒とは、与えてはいけないほどに鬼のフィジカルが上がるようだ。
「まずまずの強さだ。」
「おう、相棒を連れてきたからな。前みたいに行くと思うなよ。」
もちろん、前みたいでは困る。
「死ね、『イカサマ』」
そういって、俺に同じように金棒を殴りつけてくる。
今度は、俺が吹き飛ぶ番だった。
電車の残骸に突っ込んだ俺の顔。左の頬から出血をしていた。
「・・・」
かなり久しぶりにダメージを受けた気がする。
歯は幸いなことに無事だが、頭が少しくらくらする。電車に突っ込んだ時のダメージもなかなかに堪える。
「その技、どういう原理かは知らない。が、」
「ああ、防御できないぜ。」
同じように金棒を左から俺を殴りつけてくる。
「・・・」
今度は右の脇腹に直撃した。
喰らってなお反射的に『流水』を使っていくが、すべての威力を無くすことはできなかったが、足はかろうじて地面にとどまった。
「どうやら、強くなったらしいな。」
十分ほど戦っていたが、俺はすでにイカサマを見破ることができていた。
イカサマということは、俺を何かだましていること。
さっきこいつは相棒と言っていた。
つまり単純な話、こいつは二人いた。外見が全く一緒の。
それを知ってからはもう俺に攻撃が一切入らなくなった。イカサマの効果は内容が見破られると効果を発動できなくなるのか、二人とも目視できるようになり、攻撃が防げるようになった。
しかしながら、俺の攻撃は金棒で防がれ、流水を使ってなお膂力で上回られて。
そろそろ、飽きてきた。
「ヤワディ、解放。」
腰から抜いた剣は、たった一瞬の遠くの車の光だけで強く輝いた。
「あ?」
横に一閃、金棒を切り払う。
豆腐のように、とまではいかなくとも真っ二つに分かれた金棒は地面に沈んだ。
間髪入れずに一閃。さすがにもう一方の鬼はかわしていく。
「ど、どうなってやがる。」
「鉄より硬い素材だって言ってたはずなのに、それをあっさり断ちやがった」
言ってた、ね。
「さて、そろそろ夜も深い。俺もいろいろあって今日は疲れたんだ。終わらさせてもらうぞ━━
━━『学問』」