プロローグ
摩耗した武器を捨て、進む。
未だ兵たちの士気は衰えを見せず、その力と心を、魅せる。
地球上で行われた戦争の、神話として語られるべき戦いは、誰もが知っているわけで。
その中にいる異質な人間は、いや普通の人間は、
「隊長、よばれてますよ!」
「今行く。」
一つの隊の隊長だった。
「お、来たか。…この国も、もう支配できる。最後だと言うのに、あっけないもんだなぁ。」
「いや、呆気ないと言う事もない。ただ、今までが長すぎただけだろ?」
「虚しいな…」
この軍は、地球上で唯一の国となった。
それは、戦続きの日々が終幕、平穏の始まり。
「俺を呼び出す必要が?」
「…お前宛に、皇帝直々、帰って来るよう旨がきた。理由は国家機密、なんだとさ。」
「便利だよねー、国家機密。嫌なことぜーんぶヒ、ミ、ツ!」
皇帝もまた、この国を唯一無二にする程の賢王であり、武勇もまた天下に轟いてる。最初の国を滅ぼすとき、敵国の騎士団長との一騎討ちは有名であり、吟遊詩人が語り継ぐ。
「お前さんには馬車を一台くれてやるから、何名か好きな奴、自分の隊からつれてきな。」
「お土産よろしくねー!」
「…行ってくる。」
「「いってらっしゃい!」」
笑顔で友を送り出す。
何故呼ばれたのか、全員が勘付きながらも、全員が素知らぬ顔で、全員が気遣わずに。
男は往く。
隊から抜き出し連れて行くのは、
「お腹空いた〜。」
赤髪のアーシャと、
「我慢、とは言わないけど、もう少し頑張りましょう。後15分程でご飯にしますから。」
メイドで銀髪のローゼンと、
「おいおい、騒がしいなぁ、もうちょっと静かにしてくれ、眠れねえじゃねえか。」
茶髪のレヴ。女子。口調が悪い。
それぞれ弓兵、近衛兵、魔法兵。
「もう少しで街につく。我慢してくれ。レブ、お前は場所取りがひどいぞ。俺の座る分ぐらい残してくれ。」
「女子には優しくって、教わんなかったのか隊長。それと、ブ違う、ヴ!舌唇を上の歯に当てろ!」
道中、もちろん敵はいないので、焦る必要もなく、警戒する必要も無く。
ゆっくりと一行は移動する。
ご飯時。
料理が出来るのはローゼンだが、何分食料がないので、狩りに行かなければいけない。
当然、周りには森や川や湖がある。もちろん道の横に広がる草原にだって獲物はいる。
しかし隊長はこんな事を言う。
「鶏肉食いてぇ。」
「いやいやいやいや、この民家も無い場所に、鶏がいるわけ無いでしょ?」
「じゃ、鳥を撃ち落そう。と言う訳でアーシャ頼む。」
「…」
無言の、パワハラに対する圧力を送りながら、ひいふっと弓を引き、一撃で鳥(種類不明)を仕留め、落ちたところに駆けつける。
そのまま羽など毟り取り、お湯で消毒。殺菌。内臓も取り出しメイドに渡す。
「魚も食べたいな。」
「弓じゃむりだよぉ!」
「ま、魔法はこんな事に使わねぇ、ぞ?」
「…」
さてさて、困ったものだ。
「…じゃあ潜って取ってくるから、引き上げて。」
そう言って服を脱ぎ(パンツはある)体にロープを結び付け、湖に飛び込む。
しかし隊長は肝心な事を忘れていた。ロープの長さである。
人の胴回りは1メートルも行かないほど。だが、このロープ、十メートル程しかない。
長く見えても、隊長が泳いでいくうちにロープが伸びていき、遂にはピンッと張って隊長を締め着けた。
「ぐぇ!」
本気と書いてマジと読む。マジヤバイ。
「待って、ロープ!」
見ると、ロープは木に括り付けたわけではなかったので、レヴが引っ張っている状態。アーシャは手に怪我するわけにはいかないし、ローゼンは料理中。だが、当然レヴ一人では力不足なので、ロープは手から離れて、湖のなかに。
十メートル程の、水を吸ったロープは重い。
「げ、隊長死んじまう?」
「うん、隊長死んじまう!」
自分でもわかるくらい混乱して、自分の事を隊長と言って返事をしてしまった。
壷だったのか、レヴは笑い転げて助けてくれない。
(あ、まずい、本気と書いてまずい)
意識は暗くなっていく。
なんとかレヴが魔法で引き上げ、蘇生。
魚は食卓に並ばなかったが、料理は美味しかったので可。
また一行は帝都を目指す。
「東部戦線担当、第一旅団第一隊隊長とその隊員だ。通してくれ。」
「だ、第一隊…ど、どうぞ!」
最前線で戦ううち、番号が若い程古参で、その分強い。旅団の番号も同じ。
よって、この隊長はこの国において暫定的最強。しかし、皇帝とその側近とは戦ったことがないので、わからないが。
とにかく、その隊が来るとは何事かと、杞憂する門兵をおいて、彼らはズカズカ入っていく。
長旅の汚れを落とし、着いた翌日に皇帝と会うのが慣例となっており、緊急時以外この慣例を破る事は許されない。
城の近くに宿を取り、温泉で旅の疲れを癒やす。
「ふ〜、落ち着くわ〜。」
「おやおや、これはこれは、軍人様がなぜここに?」
お爺さんが話しかけてくる。
「何やら知らんが、皇帝陛下に呼ばれてね。今、ちょうど東部戦線から帰ってきたところさ。」
「最前線から!まだずいぶんお若いのに、大したものだ。」
「ま、この国の進行速度が異常なのでね。」
「そうなのですか?」
「…10年間で、この進行は過去に一度たりとてない。そう考えると、俺たちってすげぇ皇帝に仕えてるんだぜ。」
「そうなのですか。」
自慢にもならない自慢をして、のぼせる前に湯船から出る。幸いにも、ここローマは湯船に浸かる習慣があるので、体の疲れを取るには最適である。
そんなこんなで、平穏は過ぎてゆく。
「さて、貴殿を呼び出したのは、ここ最近見つかった現象について、だ。」
「と、いいますと?」
「最近、この城の中庭に、奇妙な魔法陣が出来てな。その魔法陣、調べてみると、悪魔を呼び出す物と酷似しているそうな。悪魔を倒さねば魔法陣は消えぬし、しかし中庭に放置しておくわけにも…」
「わかりました、倒しましょう。」
「…すまんな。その魔法陣は、下手すると七つの大罪の悪魔が出てくる可能性もある。気を付けておくれ。」
「わかりました。」
この人は本当に、皇帝なのだろうか。そう思わせる程に優しく、そして若い。
三十代前半だろう。自分も、大戦が始まった最初の戦からずっと居るが、それでも自分と4つも変わらない。
いや意味わからん。なんでこんな若い癖して歴史にない大きさの国を作れるんだ。
まじまじとその顔を見ていると、
「…あ、あまりジロジロみるでないわ。照れくさい。」
ほんっと意味わからん。
装備も整え、全員で挑むことにした。
「皇帝陛下も、さ、参戦なされるので?」
カッチカチのアーシャが尋ねる。その質問、俺も思っていた。
「なに、久しく強敵と戦っておらんのでな。足は引っ張らんよ。」
なーにが足は引っ張らんよ、だ。下手すると俺より強いだろあんた。
「…だから、その舐めつけるような目線はやめんか。歯がゆい。」
「あ、すみません。」
「…始まるぜ、っ!魔法陣が!」
急に、周り始めた。
「なんだ?これは報告に無かったぞ?」
「なに?!ってことは!」
「ああ、この魔法陣、召喚型だが、召喚されんのは俺達だ!」
「え、ええ?」
「つまり、」
魔法陣は悪魔を召喚するのではなく、俺たちを何処かに召喚する。
これは不味い、不味すぎる!
「くそっ!図られた!この魔法陣、あんたを抹殺するための罠だったんだ!」
「くぅ!出られん、この魔法陣、結界まで作っておる。」
「ふぇぇええ!」
「落ち着いてください。何処に転送されようと、皆一緒です。なんとかなりますよ。」
「すまね、この魔法陣、ここから解読するのは不可能だ。」
「「「…しょうがない。ちょっと散歩に行きますか。」」」
「ふぇええぇぇぶっ!」
「お、落ち着いてください、結界がありますから…」
その後、俺たちの姿を見たものは居ない。
コメントよろしくお願い申し上げます!
今日の一言
〜なんで点Pって動くの?〜