九十六話 エルトリス、隣町に向かう
時間は少し遡って子供達がお泊まり会に向かった直後の事だ。
クリウス家ではエルトリスが身支度を済ませていた。
「師匠……いやエルトリス。また弟子を置いていくのですか」
エルトリスに問いかけたのはシャルの兄弟子でありライラスの父親であるラウドだ。
その問いには疑問と糾弾が混じっていた。
「あはは、そんな事無いって。大丈夫だよ」
エルトリスは軽くあしらうように笑って誤魔化して準備を済ませた。
「俺達の時も同じ事言ってましたよね、そして師匠は戻って来なかった」
「あの時はもう私が教える事が無かったからだよ。それにシャルもこの村で暮らした方がきっと幸せになれるよ」
エルトリスは、一度二人の弟子を置いて行った過去がある。
「それは師匠のエゴだ、置いて行かれた人がどんな思いか知ってますか。あの子の気持ちはどうするんですか!」
ラウドも次第に口調が強くなってくる、今のシャルリアと昔の自分を重ねているのだ。
置いて行かれた側の気持ちが良く分かるから。
「あの時は……ごめん。でも信じて欲しい! 私は二度と弟子を置いて行ったりはしない!」
「……分かりました。師匠を信じます」
「三日以内には戻るよ、隣町に用があるんだ」
「隣町ならあの子も連れて行って上げたらどうなんですか?」
ラウドの口調が元に戻り、次は純粋な質問をした。
先程の問いかけとは違い、糾弾している訳では無い。
「この件はとても危険だからシャルはあんまり関わらせたく無いんだ」
「師匠が危険を感じるって……いったい何があるんですか」
ラウドの人生において出会った人の中で最強と言えばエルトリスは必ず上位に入る。
自分の師匠が世界最強だと自惚れて過大評価をする訳では無いがそのぐらいラウドの中ではエルトリスという存在が大きい。
「ラウドも気をつけて、1人の魔王が動き出してる。特に魔王に使える六人の臣下【六魔帝】には気をつけて」
「魔王か……良い思い出は無いですね。師匠はその魔王と対立しているんですか?」
一般人からしたら魔王や勇者などはおとぎ話の存在だ。
元Aランク冒険者のラウドと世界的に有名な大剣豪のエルトリスの2人ですら関わりが殆どない。
「六魔帝の1人【闇魔帝】のシャミルって奴に友人が……カルガーが殺された、対立するには十分。あいにく魔王本人が動いている情報は入っていない。各地で動きを見せているのは【闇魔帝】【炎魔帝】【風魔帝】の三人だけ、目的は分からない」
「カルガーさんが……今の俺は家族がいます、悔しいですが師匠を直接助ける事が出来ません。でも、情報があれば連絡します」
「ありがとう、ラウドは家族優先にしなさい。それに今回隣町には情報収集に行くだけだから心配しないで。アイツらもこんなに首都や王都から離れた場所には来ないでしょう」
この村は大きな街からはかなり遠く、片側は海、片側は森に囲まれていて他所から人が寄りづらい村だ。
魔王やその幹部が来るのは考えづらい。
「それじゃあそろそろ行くよ、シャル達の事、数日頼んだよ」
「はい、師匠!」
ーーーー
クロット村から半日の距離にある隣町
エルトリスがクロット村に向かう時にこの街に付いてすぐに出発した為、あまりこの街の情報は持ち合わせて居なかった。
街を一見すると船による商業が盛んで王都程では無いにしろかなり大きな街だ。
だが、それは表向きの姿であり華やかな街の裏には貧民層が住む暗い街があった。
危ない情報は綺麗で煌びやかな表の街よりも汚くて暗い裏の街の方が多く得られる。
エルトリスは現在、貧民層が住む裏の街でボロく錆びれた宿屋に来ていた。
「おじさん、とりあえず一泊いいかな?」
エルトリスはカウンターにもたれ掛かって堂々と銀貨を2枚店主の前に置いた。
店主の顔を見ながらとても悪い顔で笑いかける。
「はぁ……足りないな、銀貨二枚と銅貨三枚。あんた余所者だろ?大人しく払っといた方がお得だぜ?」
店主も顔を少し見た後に溜息を零して銀貨二枚を手で押し退けた。
それを見たエルトリスはムスッとした表情に成りつつもすかさず交渉を続ける。
「だーめ、銀貨二枚。他の宿だと銀貨一枚近くでしょ? 銀貨二枚なら三日は泊まっていくよ?」
財布から追加で四枚の銀貨をカウンターに置いて
「……ちっ足元見て来やがって。良いぜ、泊まっていきな」
少しの間、沈黙と軽い睨み合いが続いた後に先に折れたのは店主の方だ。
エルトリスは交渉が成功してニヤリと笑みを零した。
「やったね! 交渉成立だ!」
「あぁ、勿論交渉成立だ。因みに飯代は入って無いからそこんところよろしくな、お嬢ちゃん」
つい先程まで無愛想な顔をしていた店主がカウンターの上にあった銀貨六枚を手繰り寄せて悪い顔をしてニヤけていた。
「あぁー! 忘れてた、おじさん分かってて黙ってたでしょ! 一日銀貨一枚!」
「ダメだダメだ、一食銀貨一枚。嫌なら三日分の宿代だけ置いてよそに行って来な。まぁ、この貧民層でまともな飯にありつけるのはここぐらいだがな」
店主はここぞとばかりに高額を吹っ掛ける。
まるで最初から宿代と食事代が別々になっている事を隠していたかの様に。
「ぐぬぬ……わ、分かった。 払うよ、明後日までの食事代の銀貨六枚」
エルトリスは不本意ながらも財布を取り出して中に残り数枚しか無い銀貨を数える様に六枚取り出してカウンターに置いた。
「毎度あり、ほら二階の一番奥の部屋だ。一応ちゃんとした鍵も付いてるし俺も変な客は入れない様にするが何かあった時、最後は自分で自分の身は守ってくれよ」
「へぇ、おじさん親切だね」
エルトリスは少し感心した様に驚いていた、無秩序な街では他人に心配出来るほど余裕のある人はなかなか居ない。
「羽振りの良い客に死なれると稼ぎが少なくなるからな」
「どうして男の人は素直な人が少ないんだろうね。そうだ、おじさんは親切だから食事代を安くしてくれたりとか……」
「寝言を言うぐらいなら早く部屋に行って寝るんだな、今日は冷え込むから朝食はあったかいスープにしておいてやるよ」
「ありがとね、それじゃあおやすみー」
部屋に入ると綺麗とまでは言えないが汚い訳でも無いいわゆる普通な部屋だった。
貧民街で普通な宿に泊まれるだけ良い方だ。
扉の鍵も丈夫なやつで安全性も他の宿より高そうだ。
エルトリスは荷物を机に置いて財布を取り出した。
「はぁ……三日分の宿泊代が銀貨六枚、明後日までの朝昼晩の食事代が銀貨六枚、全部で十二枚。またお金貯めないとダメだなぁー」
疲れ切った声を出した後に財布を鞄にしまってからベットに倒れ込んだ。
「カルガー、またあんたの軽口が聞きたいよ……仇は取るからね。ーー明日も頑張ろう」
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次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!




