八十五話 シャルリアという少女
パーティーのあった翌日の朝、エルトリスさんが俺に稽古をつけてくれた。
稽古の後に教えて貰ったがエルトリスさんは魔力が全くないらしい。
この世界の剣士に大切なのは剣を巧みに扱う技術と経験、それに魔力だ。
この世界にとって魔力は必要不可欠で、持っている人と持っていない人では戦闘力という面では決定的に差がある。
魔術士は主に体内にある魔力を魔術に変化して戦う。
剣士は主に体内の魔力を使い身体強化して戦う。
魔力はとても便利でフィオラや俺のような子供でも体格差のある大人を倒す事も出来るし、シャルリアちゃんの様な小柄な女の子でも魔力の扱いに長けていると殆どの人を倒せるようになる。
それが無いのは致命的だ、威力も速度も魔力を持っている人に勝てない。
なのにこの強さだ、技術と経験で全て捩じ伏せてくる。
少しの間だけでも対峙して分かる、やっぱり凄い人だ。
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「そうだ、ライラス君! たぶんシャルはまだ寝ているから起こしてきてあげてよ」
「え?俺がですか?」
「うん、そろそろ朝ご飯だからさ」
エルトリスさんと弟子のシャルリアちゃんは母さんの提案で俺の家に泊まっている。
二人は二階の空き部屋で俺の部屋の隣で寝泊まりしている。
「いや、俺は大丈夫――」
「シャルはね、普段はぐーたらな私よりも先に起きて朝ご飯作ってくれるんだ。 普段から危ない所で寝てるから体に疲れが残る事も多くてね。だからこの村みたいに安全な所だとぐっすり寝て中々起きないんだよ……」
「それ聞かされたら凄く断りずらいじゃないですか」
「ご名答。ほら、行った行った」
エルトリスさんにシャルリアちゃんの話を聞いて断るタイミングを失った。
俺は渋々階段を上りながらどうしたら何も問題なく起こせるかを考えた。
ラッキースケベなんてしたら最後、俺に変態のレッテルが張られこの村中に広まってしまう。
そうなるとフィオラと絶交された挙句フツーウ達に一生のネタにされてしまう未来が見える。
いや! 失礼な! 誰が変態だ誰が! 俺は子供を見て興奮するような変態じゃない!
と心の中で一人でボケツッコミを始める。
それにただでさえ嫌われてるのにそんな奴が朝起こしに来たら殺されかねない。
色々な策を練りながら部屋の前まで来てしまった。
「シャルリアちゃ……シャルリアさん? 起きてますか?」
ノックをしながら返事を待つも返ってこない。
「し、失礼しまーす」
扉の軋む音が鳴りゆっくり扉を開ける。
空き部屋と言えど母さんが完璧に掃除をしているのでゴミや埃は無く俺の部屋から家具を少し減らした感じの部屋だ。
シャルリアちゃんは薄い布団を肩まで掛けて軽い寝息をしてスヤスヤ寝ている。
いくら相手が七歳であっても女子の部屋に本人の許可なく侵入している訳だから罪悪感が沸いて来た。
早く起こして撤退したい。
「起きてください、朝ですよ」
俺は寝起きドッキリをしている人の様に小声で起こそうとする。
「シャルリアさん、起きてください」
今度は罪悪感に襲われながら肩を軽く揺らしてみる。
「んっ」
シャルリアちゃんはこちら側に寝返りをうった。
起こしに来ているのに声が聞こえた瞬間すぐに離れて両手を上に挙げた。
「す、すみません! エルトリスさんに言われて来ただけで……あれ? 寝言?」
シャルリアちゃんはスヤスヤと寝ているが何か小さく寝言を言っている。
またゆっくりと近づいて起こそうとするといきなり手を握られた。
驚いて話そうとするとシャルリアちゃんの手は震えている事に気が付いた。
「お、起きてる?」
「……さん」
ん?何て言ってるんだ?
悪いと思いつつも軽く聞き耳を立てて聞いてみる。
「お母さん……」
そう呟いたシャルリアちゃんの目から一滴の涙を流していた。
その時に小さな事を色々考えてた自分が馬鹿らしくなってきた。
理由は知らなが七歳で親元を離れて旅と修行をしている。
きっと何か深い事情があるんだろう。
ホームシックになるのも当然だ。
震えていたシャルリアちゃんの頭を撫でて上げると手の震えが収まった。
良かった、きっと色々抱えていたんだと思う。
あれ? 俺、結局何しに来たんだっけ。
エルトリスさんに言われてシャルリアちゃん起こしに来て……
「ん-あれ? ししょー? 私、どれくらい寝てました――」
「あっ」
「え?」
「「・・・」」
お互い目が合って目をパチパチしている。
シャルリアちゃんは寝起きもあって状況が飲み込めずフリーズしていて、俺は最悪のタイミングで起きてしまった事で頭が真っ白になった。
シャルリアちゃんは起き上がってから握っている手と自分の頭の上にある手を見て眠たそうな目で少しボーっと考えてから目と口が大きく開いた。
「なっ何してるんですかー!?」
「ご、ごめん! エルトリスさんに起こしてくるように言われて来ただけで」
「じゃ、じゃあどうして私の手を握って頭を撫でてるんですか!!!」
「これはシャルリアちゃんが震えて泣いてたから元気づけようと思って、それで……ごめんなさい!」
「え? 私が泣いてる?」
シャルリアちゃんが自分の頬を触って涙で濡れている事に気付いたみたいだ。
「ねぇ、私何か寝言とか言ってなかった?」
「お母さんって言ってたよ」
それを聞くとシャルリアちゃんは「そっかぁ」とだけ呟いた。
やっぱり色々悩みがあるんだな。
「ごめんね、変なとこ見せちゃって。 あと、ありがと寝てる時に慰めてくれて」
「いや、感謝されることは何も……」
「ううん、ありがと。私が寝言言ってたことは皆には、特に師匠には黙っててね! 私もライラス君が寝込みを襲おうとしたこと誰にも言わないから」
「ち、ちがっ!」
「あはは、分かってるよ! あとちゃんはつけなくていいよシャルリアかシャルって呼んでよ」
「じゃ、じゃあシャルリア」
「うーん、私はシャルがいいかな? 師匠もシャルって呼んでるし」
「分かったよシャル、じゃあ俺もライラスって呼んでくれそっちの方が呼びやすいだろ?」
「分かったよ、でライラスはいつになったら私の手を離してくれるの?」
「あっごめん!」
「いいよいいよ、それよりもそろそろ着替えたいからさ、先に下に降りててよ」
「は、はい! 失礼しました!」
「ライラス! さっきの話、二人だけの秘密だよ」
シャルリアことシャルは唇の前に人差し指を当ててニカッと笑った。
「うん」とだけ返事をして俺は部屋を後にした。
部屋を出て直ぐ状況を理解するのに時間が掛かった。
え?俺嫌われてたんじゃないの!? いきなり名前で呼ぶくらい仲良くなっちゃたんだけど。
決闘前はあんなに睨まれてたのに。
もしかしてエルトリスさんはこの事を予想して俺に起こさせに行ったのか!?
実は怖い人じゃないよって事を教えてくれたのか、あの人凄いな。
俺は色々考えながら一階の食卓に向かった。
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その頃シャルは耳を赤くして枕に顔を埋めていた。
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