七十五話 出港開始
「シャル! そっちに2匹!」
「分かりました師匠!」
黒髪の女剣士エルトリスと金髪少女剣士のシャルリアは大量に湧いてくるモンスターの群れを蹴散らす。
エルトリスが斬れば紅蓮の焔が燃え盛り、シャルリアが斬れば金色の魔力が迸る。
2人の剣士は短い間にモンスターをどんどん倒していく。
今は水竜の港町シャナートの町外れにある洞窟でモンスターが原因不明の大量発生中だ。
2人は冒険者ギルドの要請で至急モンスター退治に駆り出された。
「何で私達がいきなりモンスター退治に連れ出されてるの! 船の修理までのんびりしたかったのにー!」
「仕方ないですよ師匠。モンスターが大量発生してる以上、放置する訳にも行けないですし」
「わかってるけどー」
2人はライラスが居るクロット村に向かう途中に、船が故障してクロット村に行けない間、冒険者ギルドのクエストで路銀を稼いでいた。
船の修理は今日中には終わるらしいのでそれまでのんびりする予定だった所にギルドからの要請が入った。
話をしている間もモンスターの群れが襲ってくる。
エルトリスは魔装神具の軍霊刀 ホムラを巧みに使いこなす。
シャルリアは師匠から代々受け継がれた剣を使い荒々しくもしっかりと扱えている。
この少しの間にまた2人の討伐数が増える。
エルトリスが10匹、シャルリアが4匹。
洞窟からはまだまだモンスターが湧いてでる。
「もうっ!何匹いるんだよー!!!」
ーーーー
ようやくモンスター討伐が終わって宿屋に辿り着いた。
「疲れた!疲れた!汗かいた!」
「私も疲れました」
2人は宿に戻ると直ぐに服を脱ぎ下着姿になって木で出来た桶に水を汲み、布を濡らして体を拭く。
汗や土で汚れた体を濡れた布で拭いていく。
船の出港までまだまだ時間があるからその間、シャルリアは何をしようか考えながら服を着る。
エルトリスは先の疲れで下着の上に大きめのシャツを着てそのままベッドでスヤスヤと寝ている。
シャルリアは疲れてはいるが眠気より子供特有の探究心にくすぐられていた。
この町には1~2週間ほど滞在しているが行ったところと言えば今泊まっている宿と仕事で行く冒険者ギルド、町外れの洞窟付近、雑貨屋ぐらいだ。
シャルリアは師匠から貰った短剣を左手で持って薄手のフード付きコートを着て宿を出た。
師匠には1人で出歩くなとは言われたが師匠が寝ている間なら少しくらいなら良いだろうという発想だ。
最初は市場に向かった。
辺りを見渡せば美味しそうな串焼きを売ってる店に武器や防具を売ってる店怪しい占い師や薬草を売ってる店、他にも色々な店が並んでいた。
師匠から聞いた話ではここは港町なので色々な物が色々な大陸から運ばれている。
最初は武器屋を見に行った。
店主が歩いている人に売り物を声を高らかに宣伝している。
安くて脆そうな短剣やピカピカに光っている高い剣、凄く長い槍に大人でも持てるか分からない大きい斧、全部強そうだったり高かったりするけど……
師匠から貰った短剣を鞘から引き抜いて刀身を見てみる。
他の武器とは比べ物にならない程輝いていてカッコイイ。
シャルリアはそこで少しドヤ顔をして満足げだ。
師匠から貰った短剣は他のどの武器よりもいっそう増してかっこいい。
この時、シャルリアは自分が持っている短剣が想像の数百倍の値段がするのは知る由もない。
シャルリアが次に見に行ったのは防具屋だ。
置いているのはどれも重そうな甲冑や鉄仮面、鎖帷子に少し汚いフードなど冒険者達が着ている様な装備品ばかりだ。
色々物色していると店主と目が合った。
「よう!嬢ちゃん! 迷子かい? それとも俺の商品を見に来たのかい?」
シャルリアは話しかけられると思ってなく少し慌てながら返事をする。
「ま、迷子じゃありません! 私も装備品を見に来ました」
「へぇー、て事は嬢ちゃんは冒険者かい? 小さいのに頑張るなぁ! ほれどれか気に入ったの合ったら試しに着てみると良い」
試しに着てもいいと言われ置いている商品をいくつか見ると昔、死んだ母さんに読み聞かせてもらっていた冒険者が出てくる絵本を思い出した。
その時の冒険者が被っていた騎士が被るような兜を手に取り恐る恐る被ってみる。
被って離した時に想像以上に重くて少しぐらついた。
「お、重いッ!」
「ガハハ! そうとう重いだろ! それは嬢ちゃん向きじゃねーな! 嬢ちゃんにはこれが良いだろ!」
店主のおじさんに兜を外してもらい、代わりに軽鉄の胸当てを渡される。
持ってすぐ分かったのはとても軽い事、さっきの兜よりとても実用的だ。
試しに手で叩いてみると素人でも分かるぐらいにはかなり硬い。
「それなりに良い品だ、値段ももちろんいい値段だ! どうだ? 買ってくか?」
欲しい……とても冒険者っぽくてカッコイイ!
「い、いったいいくらですか……」
「嬢ちゃん今いくら持ってる?」
そのおじさんがそう言うと近くを通りすがった他の冒険者達がクスクスと笑いが起きる。
値段を聞いたのにいくら持ってるか聞かれた。
少し違和感が合ったが正直に答える。
「金貨1枚と銀貨7枚と銅貨5枚です!」
シャルリアは買えるかどうか少しドキドキしながら返答を待っていた。
金貨は今日のクエストの報酬で貰った。
普段は銅貨と銀貨ぐらいしか貰えないのだが今日は緊急の呼び出しとモンスターの数が情報以上に多かったのとそれを全部討伐したから大金の金貨を3枚も貰えた。
そして、お小遣いとして金貨1枚を師匠から貰った。
金貨が1枚あれば買えるだろうか。
それとももっと高いのかもしれない。
その時は諦めよう。
「この軽鉄の胸当ては、なんと銀貨3枚! 買うか?」
「銀貨3枚……」
銀貨3枚はそれなりに高い、安宿を泊まったり飯を食うのも基本的に銅貨で事足りる。
その銀貨3枚となると少女に取ってはとても高い値段だ。
少し悩む……頭を捻らせて考える。
師匠ならどう考える。
考えて考えて決心する。
「か、買います! この胸当て買います!」
「よっ!毎度あり! この胸当ては今から嬢ちゃんのもんだ! ついでにこれもやろう! あとこれも! これも!」
防具屋のおじさんは嬉しそうに小さな砥石やら串焼きやらをオマケで沢山くれた。
よく分からないけど貰える物は貰っておこう。
胸当てを付けてクルクルとその場で回りながら胸当てを付けた姿を見てみる。
「こーらー! 1人で出かけたらダメだって言ったでしょ!」
聞き慣れて落ち着いた声と共に頭をワシャワシャと撫でられる。
「師匠! 見てください! この胸当て!」
「はいはい、可愛い可愛い。いくらで買ったの?」
エルトリスは店主の顔を少し睨みながら値段を聞いた。
「えへへ、ありがとうございます! 銀貨3枚です!」
シャルリアは気に入った胸当てを買えたのと師匠に可愛いと言って貰ってとても上機嫌だ。
エルトリスは値段を聞くと少し怖かった顔つきがキョトンとした顔つきに変わった。
「そろそろ船が出港するから宿に戻って準備してきな、私も後で追いかけるから」
「はい!分かりました師匠!」
シャルリアが小走りで宿の方向に向かった。
その後ろ姿を見ながらエルトリスがお店のカウンターにもたれ掛かりながら話しはじめた。
「おっさん、どうしてあの値段で胸当てを売ったの? 定価の値段じゃないよ?」
エルトリスが詰め寄る。
「俺は将来、世界一の鍛冶師として世界で名を馳せる男だ。売る相手も値段も俺が決める」
「へぇー、なるほどね。あんた正解だよ、あの子は将来世界最強の剣士になさすがは知る人ぞ知る天才鍛冶師のダイダロ、見る目は本物だね」
「そりゃ、あの有名な剣豪のエルトリスに言われちゃ光栄ってもんよ」
両者、相手の素性を知っている様に話が進む。
片方は剣を極めた者、片方は鍛冶を極めた者。
世界は広いようで狭いみたいだ。
「いい投資したね、あんたが今日投資したセシリア金貨10枚は必ずそれ以上の価値になる、私が保証するよ」
「へっ、期待しとくぜ」
話が終わるとエルトリスはシャルリアの後を追って歩き始めた。
今日は数週間待った船がようやく出発する。
目的は可愛い愛弟子のシャルリアに自分より年下に負けるという屈辱的敗北を教える事、きっとラウドの息子なら二歳年下でもシャルリアに勝ってくれるだろう。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていてください!!!




