六十四話 モンスターを倒すという事は……
「それなら僕も一緒に行くよ!」
嬉しそうについてくる宣言をしたフィオラとは裏腹に内心どう断ればいいかを必死に探す。
隣町に行くまでモンスターいるらしいし、フィオラはよほどの事が無い限り付いてくるに違いない。
「フィオラ、隣町に行くまでにモンスターだっているんだ。何か合ったらいけないから今回は俺一人で行こうと思ってるんだ」
「何か合ったらその時は僕がライラスを守るよ!」
「「……」」
どうしよう。
たぶんだけど言いたいことが伝わっていない気がする。
いっその事ストレートに言おう、それならフィオラだって分かってくれるはずだ。
「フィオラ、危険だから俺一人で行く」
「危険なら僕も付いて行きたい!」
「「……」」
あれ? 俺の言い方が悪いのか?
それともフィオラは危険な所が好きなのか?
「とにかくダメったらダメだ! 今回は俺一人で行く」
「むぅー」
時折フィオラが分からない。
子供の頃、お同い年の女の子とどんな感じで接してきただろうか。
フィオラが納得するまで説明をしてようやく解放された。
フィオラと分かれてから村の中央区を抜けて【白狼の森】とは反対の方向に位置している道を進んでいく。
軽く舗装された道なので歩くのが楽で助かった。
道の端には木が生い茂っていて、木漏れ日が顔を照らして暖かく、程よい冷たさのそよ風が気持ちがいい。
天気が良くてよかった。
「?」
時折、自分の後ろから視線を感じるが振り向いても誰もいない。
考えすぎだろうと割り切って地図を片手に道を進んでいく。
「思ってた以上にモンスターが居ないな」
歩いて数分ぐらいは立っているが全くと言っていいほどいない。
なんて思っていた直後だ。
「なんだあれ?」
背中を見せているがペコくらいのサイズの白くてモコモコした生き物が二匹、目の前の道を塞いでいた。
昔の俺なら無警戒で近づいていたが今の俺は違う!
「絶対あれモンスターだろ、序盤でモンスターとの戦闘はお約束だ。トロール戦の時はしくじったけど……こう言うのは先手必勝!」
腰に差している杖を引き抜いて右手に持っている杖に魔力を込めるイメージで使う魔術を想像する。
使う魔術は中級土魔術の【土槍】。
鋭利に尖った土の槍を飛ばす魔術だ、先端を細くして威力を上げよう。
父さん曰く無詠唱の人はイメージを強くすれば魔術を自在に操れるって言っていた。
弾丸の様な槍を目の前のモンスターに当てる姿を思い浮かべる。
土槍が飛んでいきモンスターを貫通し、血が飛び散り目の前の生き物が絶命する姿を想像した。
「ッ!」
急に寒気が全身を駆け巡り吐きそうになる。
何故か分からないが頭が嫌悪感でいっぱいだ。
生き物……そうか、モンスターも俺からすればただの動物、生き物だ。
俺は今動物を殺そうとしたのか。
これじゃあテレビドラマやニュースで見る快楽殺人鬼と同じだ。
昔、猫にエアガンを撃って殺して捕まった人をニュースで見た。
俺はその時「最低だ」「酷い」「可哀そう」と思った。
今思えば歩いている時に野良猫を見た人はどうするだろうか。
可愛いと見る人も居れば近寄って撫でる人もいるかも知れない。
でも俺は今殺そうとした。
それが嫌悪感の正体だ。
ネイルウルフを追いかけた、その結果父さんが焼き殺した。
トロールに襲われた、その時死に物狂いで戦った。
どうして両方とも吐きそうにならなかったんだ?
自問して考える。
両方とも俺より大きかった、俺が死にそうだった、俺の感覚がマヒしていた。
異世界にきて感覚がマヒしていたのかも知れない、こっちに来ても現実だ。
いくら相手がモンスターだろうと、俺が魔術を使おうと、包丁持って悪戯ばっかりする野良猫を殺すような物だ。
そんな事、日本の温室育ちの俺が簡単に出来るわけがない。
俺は構えていた杖を腰のベルトに戻した。
と、とりあえず本当にモンスターかどうか見よう。
ただの子犬とかだったら大丈夫だ。
それと殺傷能力のある魔術は使わ無いようにしよう。いや、怖くて使えない。
なぜか忍び足になりながら近づいてみる。
目の前の生き物二匹がこちらに気づいて振り向く。
目が赤くて、白くて、毛がモコモコで、耳が長い。
「なんだただのウサギか……よかっ――!?」
「「キュキュ?」」
そのウサギがいきなり立ち上がり、手にはナイフの様な石を片手に持っていた。
そのままゆっくりとこちらに歩いてくる。
「おいおい、嘘だろ! なんでそんな物騒な物持ってるんだよ!」
「「キュキュ―‼」」
二匹の石のナイフを持ったウサギのようなモンスターが飛びかかってきた。
頭に過るのは【死】……殺らなきゃ殺られる。
「くるなぁー‼」
とっさに右手で払いながら風魔術のハイウィンドで吹き飛ばす。
飛ばされて驚いたのかそのままウサギの様なモンスター達は逃げて行った。
「はぁ……はぁ……はぁ。助かったぁー」
最後まで命を奪う決心がつかずに殺傷能力の少ない風魔術を使った。
モンスターを倒すという事は……命を奪うという事だ。
異世界に来たからっていきなりモンスターなんか倒せるかよ。
くそ、モンスターと戦う度にこんな事考えないといけないのか……とりあえず前に進もう。
そして次にモンスターと会ったら必ずすぐに逃げよう。
戦ってもこっちは殺さない様にしていたらいつか俺が殺される。
そんなライラスの心境を知らずに少し後ろの木では一人の女の子が目を輝かせていた。
「ライラス、凄い! 片手でビュンって! 僕も出来るかな?」
少女の声はライラスには届いていない。
その場でライラスのマネをしながら手でビュンビュン素振りをする。
ライラスのマネをして遊んでいるとライラスが歩き出した。
「あ、ライラスが行っちゃう‼ 僕が来てるって知ったらライラスビックリするかな? はやく追いかけよっと!」
少年は警戒心を、少女は好奇心を持って歩みだす。
この先、小さな陰謀に巻き込まれることを二人はまだ知らない。
読んで頂きありがとうございます!
人の本質ってそんなに変わらないですよね。
それが例え異世界に行ってもです。
次話の投稿、楽しみにしていてください!!!




