六十二話 水竜の港町 シャナート
黒髪の女性が冒険者ギルドの工房を借り、そこで剣を磨く。
その手際はプロのソレでは無く、かと言って出鱈目に磨くわけでは無い。
長年磨いてきた経験と、少し雑に磨くその腕はひとえに冒険者ならではの使い方なのだと弟子は理解する。
目を輝かせながら師の行動を追っている少女は右に左に顔を動かす、砥石の上の刀に連動している。
エルトリスは弟子に凝視されながら、この世にはもう居ない友に教わったやり方で鉄を磨く。
「よし、出来たかな」
「師匠は何でも出来るんですね! 何処でそんなに覚えるんですか?」
何故か嬉しそうに聞いてくる弟子の返答に少し困る。
出来る事と言えば戦闘と軽い野営、それと亡き友に教わった付け焼刃程度の武器の研磨ぐらいだ。
「剣術は実家で少し、後は師匠に教えて貰ったぐらいだよ」
「じゃあ! じゃあ! その刀と石を擦るのは何処で教えて貰ったんですか!」
シャルは普段は頑張って背伸びしているけどたまにこうやって年相応の反応をするから可愛い。
しかし自分も背伸びしていた時の事を思い出して顔が赤くなるのを実感する。
「これは……カルガーに教えて貰ったんだ」
「そうだったんですか! 確かにカルガーさんもしてましたね」
「これは研磨って言って武器が刃こぼれしたら治すために研いでるんだよ」
「私の武器も研いだ方が良いんですか!?」
シャルが嬉しそうに聞いてくる。
普通研磨は武器屋に任せるか、出来る人もめんどくさくて自分ではやらないのがほとんどだ。
「んーシャルのは大丈夫かな? シャルの剣はまだまだ綺麗だからね」
「そう……ですか……」
もしかしてシャルは自分の剣を研いで欲しかったのかな。
少し悩んで聞いてみる。
「やっぱりシャルのも研いだ方が良い……かも?」
「ほ、ほんとですか! ぜひお願いします!」
と、いう事でシャルの剣も研ぐ事になった。
今現在、街の工房を借りて武器を研いでいるのには訳がある。
無法都市ミルウェーを出てもう一週間が立つ。
あれからシャミルには何もされていない。
私達を見失ったか、諦めたかのどちらかだろう。
警戒態勢の状態で旅は続けつつもしっかりと目的地のクロット村に着々と近づいている。
今居る街の名前は【水竜の港街 シャナート】
昔、この港町とその付近の海には水竜が居たと言う。
モンスターや悪天候、海人族と人間族の交友関係も悪く、海を渡る事=死を意味していた。
そんな最中、どこからともなく現れた水竜が特定の場所にだけどの種族も不可侵の海路を築いた。
そこでは全ての種族が争う事が許されず、モンスターも水竜の気配に恐れほとんどが近づかない場所となった。
水竜のおかげでこの街には他の大陸に安全に移る事が可能とされた。
その海路の行先の一つがクロット村だ。
しかし今は船が故障してしまい数日は渡れないらしい。
その為、エルトリス達はこの街に一週間滞在しているが、未だに修理の目途が立っていないらしい。
その間は宿に泊まり減る一方だったお金を取り戻すべく、毎日冒険者ギルドに足を運んでいた。
エーデンス王国でたくさんのクエストをクリアしていた事もあり、冒険者ギルドに認められ、エルトリスとシャルリアは二人とも晴れてD級冒険者にランクアップした。
これで一つ上のC級クエストも受けれるようになりモンスターの討伐クエスト依頼を受けれるようになった。
そしてたくさんのモンスターと戦う事も増えて武器がどんどん刃こぼれしていった。
そんな感じの流れだ。
「よし、これでシャルのも綺麗になったよ」
シャルは自分の武器が綺麗に研磨されたことで感動していた。
正直、元々綺麗だったのであんまり変わっては無いんだけど……
「ありがとうございます! この武器、大事にします!」
シャルが使っている剣は私の師匠が使っていた剣、つまり代々弟子に引き継がれていると言う事だ。
師匠が使っていた剣は切れ味が高く、軽い為私も魔装神具の軍霊刀を手に入れても尚、劣らず使っていた武器だ。
師匠曰く、幻の金属が使われている一品らしい。
シャルが正式に弟子になった時にプレゼントした。
いつかシャルが私を超えて、シャルが誰かの師匠になる時に弟子に渡してくれたら良いなと思う。
「師匠、ホムラは壊れないんですよね? どうして磨く必要があるんですか?」
「壊れないと傷つかないは違うからね、私みたいに無茶な使い方をするとすぐに傷がつくよ」
「魔装神具? は壊れないんですよね? 本当に壊れないんですか?」
「うーん、私も本当の事は知らないんだよね。 なんせダンジョンの最奥で手に入れた代物だからさ。今まで壊せた人がいないってだけかも知れないし、ただ硬いってだけかも知れない、本当に壊れないにしても何故かは分かってないんだ」
「壊れないって凄く便利ですね! 他の人も皆使ってるって事ですか?」
「魔装神具は強くて便利だけど、分かっていない事が多い武器なんだ。私が知ってるのは壊れない事、特殊な力がある事だけ。ホムラはダンジョンにあったけど他の魔装神具がどんな力が合って何処で手に入るかも知らないし、もちろん誰が何を持ってるかも不明だねー」
「私も持てる日が来ますか!?」
「シャルは強くなるから可能性はあるけど……オススメはしないよ」
どうして? と言う顔で首を傾げているシャルに軽く釘を刺しておく。
「昔、武者修行してた時に成り行きでとあるクエストを受けて深い深いダンジョンに潜ったんだ。その時出会ったのがこの子。何回死んだと思った事か……仲間と離れ離れになったり、モンスターの大群に囲まれたりトラップに落ちそうになったり、食料と水分が底を尽きたりしてさ、ダンジョンはモンスターの巣窟だからまともに寝ることも出来ないんだよ。ホムラが合った場所がこんな過酷な環境だったって事は他の魔装神具もたぶん同じかそれ以上に危険なんだと思うよ」
シャルが目をパチパチとさせて離さなくなった。
ちょっと驚かせすぎたのかもしれないと思い少し焦っているといきなり笑顔になった。
「師匠の冒険の話もっと聞きたいです! そういうのは絵本の中だけだと思ってました! もしかしてドラゴンとか! ドラゴンとかとも戦った事もあるんですか!」
一瞬、虚を突かれるがギリギリで反応する。
「一応……あるよ」
私が倒したことあるドラゴンは火を吹く大型犬サイズのトカゲの【ドラゴンフィード】って言う事は悪気があるわけでは無いが伏せておこう。
それからトカゲの話をたくさん聞かれるので必死に誤魔化した。
読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていてください!!!




