五十六話 無法都市ミルウェー
とある大きな街に金髪の少女と黒髪の女性の二人並んで歩いていた。
「師匠、なんか周りの人が凄い見てる気がするんですけど……」
「そりゃあここは無法地帯だからね」
エーデンス王国を立ってから馬車に揺られて数日、私たちは新しい街に来ていた。
この街の名前は【無法都市ミルウェー】盗賊やら暗殺者やらが跋扈する裏社会に住む人間なら必ず最後には行きつく街。
ここにはお国の騎士様達はおろか自警団すら居なければ裁く人間も法律も存在しない。
強い物が正義で弱い物が悪、そんな薄汚い街だ。
「師匠はこの街に来たことが?」
「昔、武者修行していた時代にね、ホントに忘れたい嫌な思い出だよ」
ここはエーデンス王国からクロット村に向かう進路から少し外れていて、中間ぐらいにある街から徒歩で約半日でつく街だ。
私一人なら問題は無いけど、普通に考えてシャルが居るのにこんな腐った街には来たりはしない。
今回、この街に寄ったのにはしっかりとした理由がある。
エーデンス王国で起こったクーデターでは主犯格であるカイロウ・ダウアスが雇った二人の内一人が
この街の傭兵という事が分かった。
あの大柄な男が自白したとは考えにくいがどうやって聞いたかはあえて追及はしなかった。
今頃は独房で死体で見つかっているかも知れない。
そして大柄な男が気がかりな事を話していたらしい。
魔王軍幹部の一人、闇魔帝シャミル襲撃に乗じて行方を晦ました暗殺者の少年がここ、無法都市ミルウェーに逃げた可能性があると話しているらしい。
私がエーデンス王国を出る前に頼まれた任務は暗殺者の少年の正体又はこの街に潜んでいるかどうかを調べ、分かり次第に手紙を出してほしいとのことだ。
問題は私の横で常に警戒しながら腰に差している剣の柄に手を置いて歩いている少女の事だ。
冗談抜きで死ぬほど危険だからと徒歩半日の距離にある騎士達が見回りしている安全な町で待機するようにお願いしたんだけど……
「はぁー」
大きなため息を零す。
「どうしたんですか? 師匠?」
ため息の原因がこの少女、シャルリアだ。
「とある弟子が師匠の言う事を全然聞いてくれないからだよ」
「えぇ! そんな人がいるんですか⁉ 私とは正反対ですね!」
とまぁ、こんな具合で全然聞いてくれない。
しかも素でこれだからシャルは心配だ。
ちょっと頭痛が痛い、いやほんと頭痛が痛いって表現したくなるぐらいは頭が痛い。
この街は犯罪者のたまり場、お国を守る国家騎士達ですら怖て近づかないやばい所。
腕っぷしに自信のある馬鹿はほっといて常識ある普通の人なら絶対に近づかない。
何も知らない人が一度入れば最後、金品や服を全て掻っ攫われる。
その後男なら殺されるか奴隷にされて一生働かされ続ける。
女性なら殺された方がまだ幸せだ、一生犯され続けるか、奴隷にされてもっとやばい奴の所に連れていかれる。
何度も説明したのにシャルは留守番する気が微塵も無いみたいだ。
そして街に入ってから舐めまわす様な視線を浴びている理由は明白だ。
女性二人の冒険者、普通に考えてこの街を知っている人なら絶対に近づかない、つまりはこの街を知らないと思われている。
人差し指をシャルの顔の前に突き立てて口酸っぱく注意事項を言う。
「絶対に、絶対に私から離れないでね! これが守れないなら今すぐ師匠やめてカンナの所まで連れていくよ。それと私に何かあっても絶対に助けに来ないこと! 直ぐにここを出てカンナの居るエーデンス王国に逃げる事! 分かった⁉」
「分かりました。でも――」
「でもじゃない! ぜっっったいにダメ!」
「はい……」
シャルにきつく忠告しておいてからさらに足を運び、とある小さなお店の前で足を止める。
「ここは?」
「この街唯一私が頼りにしてる場所、良いって言うまで私の後ろから顔出したらダメだよ」
「え? どう言う意味ですか――」
エルトリスが堂々と扉を開ける。
部屋中に普通以上に大きな鈴の音が響き渡る。
その後が悲惨だった。
いきなり矢が飛び交い、槍が飛んできては天井から棘の付いた鉄球が落ちってきた。
正面からナイフが飛んできた。
エルトリスはそれを愛刀で弾いて、斬って、受け止めて、最後のナイフは人差し指と中指で受け止める、そのナイフからはやばそうな液体が滴っている。
「もういいよシャル。相変わらず用心には最適な音量と攻撃だね、カルガー」
シャルリアは自分の師匠の後ろから顔をひょこっと出して師匠が向いていいる方向を見た。
辺り一面に矢と槍などが刺さっているし荷物が多いせいで部屋が狭く見える。
人は……カウンターに座っている人しかいないようだ。
その男性は少し汚れた毛皮のベストを着ていて、何処かひょうきん者の様な印象を与えるその男性は師匠を見た途端険しい表情から一変して嬉しそうになった。
「誰かと思えばエルトリスじゃねーか! ひっさしぶりだなぁー! 今まで何処ほっつき歩いてたんだよ! マジで!」
「まぁ、いろんなところをね。それより全然変わってないね、その癖と用心深さは」
「そうだてめぇ! 喜んでる場合じゃねえよ! 何でお前は普通に入れないんだ! 毎回毎回、俺の装置全部起動しやがって! これ直すの高いし面倒なんだぞ!」
さっきまでは仲良し風だったのにここから言い合いが始まった。
「だって暗号長いんだもん、それにこの程度なら暗号思い出すよりこっちの方が早いし。 いつも言ってるけどこのトラップ甘々だよ?」
「っだっからー! いっつも言ってるだろ! これで死なないのお前ぐらいなんだって! 何回言えば分かるんだよ! いんや待てよ、今思えばお前の頭のおかしさは会った時からだったな!」
「よく人の事言えるよねぇー、今でこそ罠掛ける側だけど昔はポンポン罠に引っかかってた癖に」
「っな! あれはおめぇーが入り口のトラップ踏んだせいだって何回説明したら分かんだよ!」
「だーかーら! あんな所に罠を仕掛けてるダンジョンが悪いんだって! 絶対悪意あるよあのダンジョン! しかも私よりカルガーの方が多く罠にかかってましたー!」
「いいや! 俺は三十二回でお前は二十九回でお前の方が三回多かったぞ!」
「なんで明確に回数覚えてるのさ! そう言うねちっこい性格してるからカルガーはモテないんだよ!」
「お前にはい言われたかねぇーよ! 脳筋ゴリラ!」
「なんだとー!」
「なんだよー!」
「ふふっ、お二人とも仲がいいですね!」
「「仲良くない‼」」
少しの静寂が流れ、先に話したのはカルガーさんの方だった。
「それよりこの娘は何なんだ? もしかしてお前の娘か⁉ お前を選ぶとは相当頭のおかしい奴が居たもんだ! それにほとんど旦那に似たんだな、お前と違ってお淑やかそうだ」
「ほんとに一言二言余計だね、この子はシャルリア。 私の三人目の弟子だよ」
そう聞くと少しの間ポカーンと口を開けたままになってから。
「お前、もう弟子は取らないって……」
「気が変わったの、はい! この話はお終い!」
「それよりもう二度と来ないって言ってたお前が来たってことはまた厄介ごと抱えてやがるな」
「当たりだよ、勘の良い所は昔と変わらないね。今回は人探しに来ただけ、終わったらすぐ出てくよ」
「あぁ、その方が良い。その娘の為にもな」
「まぁ、のんびりして行ってくれ。ここに来るまでに相当神経すり減っただろ」
そう言って店の奥を指さして連れて行ってくれた。
店の奥はカウンターよりは広くて生活感のある部屋だ。
「あいっ変わらず汚い部屋だねぇー」
「男の一人暮らしはこんなもんだよ。ほれ、心の休まるハーブティーだ。これ飲んで心身共に休めとけ」
目の前の机に出された紅茶を一気に飲み干した。
いつもなら王宮で出された紅茶でも毒があるかばれないようにいチェックする師匠が確認をしないなんてよっぽど信頼してるんだなぁ。
「ぷはぁー! 数年ぶりに飲んだけどやっぱりカルガーの入れた紅茶は……おいし……い……」
ガタンッという音と共にエルトリスが床に倒れた。
エルトリスの残る僅かな意識の中でシャルリアが自分を呼ぶ声だけが響いた。
読んで頂きありがとうございます!
今回のエルトリス&シャルは少しだけ書いてまたクロット村に戻りたいと思ってます!
次話の投稿、楽しみにしていてください!!!




