五十五話 やっぱり平和なライラス家
可愛らしい産声が家中に響く。
母さんが悲鳴を上げてからかれこれ数時間が立った。
ようやくひと段落したと一安心する。
母さんに陣痛が起こって直ぐに父さんが村に一人しかいない医者のおばあちゃんを呼びに行ってその間に前世では弟の生まれる時にも少し手伝いをしていた時の記憶を思い返しながら、桶といくつかのタオルなどを慌てながらも準備した。
父さんはパニックになって邪魔になるから医者のおばあちゃんに手を握ってて上げなさいと言われてずっと母さんの手を握りしめながら「がんばれ! がんばれ!」と言っていた。
母さんが脱力しながらも自分の娘を抱えている。
最後まで手伝ってくれた医者のおばあちゃんが「元気な女の子ですよ」と笑顔で言って母さんの肩に手を置いている。
「よく頑張ったな! ありがとうエレカ!」
「元気に……生まれてきて……くれて、よかったわ」
「あぁ、あぁ。本当にありがとう!」
フィオラも初めての経験で慌てていたので終わった今では胸に手を当てて小さく深呼吸をしていた。
「ライラス、これから忙しくなるけど手伝ってくれるな」
「はい! 任せてください!」
これからはいつも以上に大変だし疲れるだろうけどその分得られる幸せの方が多いのは確かだ。
「ぼ、僕も手伝うよ! 」
「ありがとうな、フィオラちゃん」
「それよりも……名前を付けてあげましょう、可愛い名前がいいわね」
「「う~ん……」」
考えては居たんだけどいざ決めるとなるとなかなか良い名前が浮かばない。
多分父さんも同じで二人で顎に手を当てて考える。
少しの沈黙の間にフィオラが手を上げた。
「どうしたフィオラ?」
「ぼ、僕も提案していいかな?」
そう言われて母さんと父さんの方を見る。
父さんも母さんも首を縦に振ってくれた。
「どんな名前なんだ?」
「ルシェネって言うのはどうかな?」
ルシェネ……どこかで聞いた事ある気がする。
「ルシェネ、とっても良い名前ねぇ」
「たしか『魔勇者と邪竜』に出てくるお姫様の名前だな!」
思い出した、前にフィオラと一緒に村の本屋に寄った時に店長のワイドさんが気前よく貸してくれた絵本にルシェネって名前のお姫様が出てきたはずだ。
内容は確か王道系のお話で昔この世界に居た魔族の勇者と世界中で悪さを働く邪竜の何とかって名前の竜と戦う話で人間のお姫様は竜が住んでる塔に連れ去られてそれを魔族の勇者が助けに行く定番の話だ。
「この子は今日からルシェネ、たくさん呼んであげましょう。 ありがとうねフィオラちゃん」
「えへへ、ルシェネちゃんか。なんか自分の妹が出来たみたいだね」
と言いながらルシェネの頬っぺたを人差し指でツンツンしていたフィオラが可愛かった。
ラウドがルシェネの手のひらに自分の人差し指を置いて「ルシェネにはお兄ちゃんとお姉ちゃんがていてるから安心だぞ~」と言っていた。
ルシェネが手のひらに置かれていた父さんの指を握った。
「い、今俺の手を握ったぞ! もう俺がお父さんだって分かってるぞ! この子はライラスと同じで賢い子になるぞ!」
それを聞いて【モロー反射】が頭を過ったのは無粋だから言わないでおこうと心に誓ったライラスだった。
「もう、ラウドったらライラスの時もそんな事言ってたわよ」
「そ、そうだったっけ?」
二人で仲睦まじく笑っているとルシェネが笑い、またラウドが大はしゃぎをするのは明白でした。
俺もパパになるとこんな感じかななんて思うと少し恥ずかしいような楽しみなような気がした。
そんな会話をはたから見ていた医者のおばあちゃんが席を立った。
「ここらで私は帰ろうかのぅ。ラウドや、エレカさんに負担ばっかり掛けるんじゃないよ」
「ほんとにエシャばあちゃんは厳しいなぁ、エレカに負担なんてかけさせないよ!」
「ほんとかぅ」と疑いの目を向けると共に母さんがクスクスと笑いながら「ほんとですかねぇ」とからかっていた。
「ありがとうな、エシャばあちゃん。また次あった時は頼むわ!」
「ありがとうございました、エシャさん」
「二人とも、あんまりハッスルするんじゃないよ、おいぼれの体が持たんわい」と軽くからかわれ父さんと母さんが少し顔を赤くして、フィオラは首を傾げた。
かく言う俺は、次は弟かなぁ? なんて考える。
平和だなぁ、と思いとても幸せだと実感できる。
俺たちもそろそろ行こうかフィオラの手を握る。
「うん」と二つ返事で返してきた親友と庭に一緒に歩いていく。
後ろに軽く振り向くと二人で仲睦まじく会話をしている父さんと母さんを見てほんとに仲いいなと思う。
「そうだ、フィオラ。さっき庭で何を言いかけたんだ?」
「え? そそそ、そんなに大事な事じゃないからまた今度でいいかな!」
「そうなのか? 結構大事そうな気が――」
「本当に何でもないのぉ! 早く行こ!」
手を引かれるままに庭に足を運ぶ。
フィオラが言おうとしたことが気になるがまた今度教えて貰おう。
その時、頭の中に黒くてモフモフで俺とだけ中の悪い奴が頭の中を過った。
「そういえば、ペコって庭で放置したまんまなんじゃ……」
「「あー!」」
急いで庭に出るとさっきまでのんきに寝ていたらしいペコがあくびをしながら俺の方をみて
「あ? 何俺様を放置してんだ、あぁん?」
みたいな顔してたので知らんぷりしといた。
コイツその内絶対人化できるだろとか思いながら二人でペコの頭を撫でる。
「ごめんねーペコ。今度は置いてったりしないから安心してね」
なんて笑顔で言うフィオラの方を見ると目が合ってすぐに反らされた。
たまにフィオラが分からないな、と思いながらも二人でペコを撫でまわす。
そんな二人を見ていたペコが「やれやれだぜ」見たいな顔で首を横に振りながらため息をついた気がしたが、多分気のせい……なわけはなく軽く頭をチョップしておいた。
ホントにコイツは人間とコミュニケーション取ってるみたいで少し違和感があるがきっとその内分かるだろうと思ってまたペコの頭を撫でておいた。
読んで頂きありがとうございます!
村唯一の医者 彼女の名前はエシャ。
村の全ての人を診察してるエシャばあちゃん……強すぎる。
次話の投稿、楽しみにしていてください!




