五十一話 少女の心、少年知らず
正午、この時間いつもならフィオラと二人で仲睦まじく魔術の練習をしている……はずだった。
黒い悪魔とでも呼ぼうか、はたまた黒彗星とでも言うべきか。
いきなり現れては人気をかっさらって行った奴の名前は――
「おいで~! ペコ~!」
自分の名前を呼ばれると嬉しそうにフリスビー代わりの木の枝を咥えて翡翠色の髪と瞳のエルフの少女の元に走っていく。
「よしよし、ペコはホントに可愛いなぁ~」
エルフの少女……もといフィオラはしゃがみ込んでペコから枝を取り俺の方によって来る。
かく言う俺は心の中で、別にフィオラがペコばっかりで俺に構ってくれなくて挙句の果てにペコすらも俺を嫌っているから拗ねてる訳じゃないと否定しつつ一人で魔術の練習をしていた。
いやほんとに拗ねてないから。
「もー! ライラスも一緒に遊ぼうよ!」
「どうせペコは俺の言う事なんて聞かないよ」
「そんなことないってー! ライラスももう一度やってみようよ!」
と言われて半ば無理やりフィオラに枝を渡される。
ペコ本人は仕方が無いなぁと言う顔でこちらを見てくる。
内心もしかしてほんとに言う事聞いてくれるのでは⁉ と思いつつ高らかに枝を投げる。
俺が投げた瞬間、ペコが動いた。
さっきは投げても馬鹿にする様な顔で睨んできたのに。
「俺が間違てたよ! やっぱりペコは可愛い――ふぎゃッ‼」
さっき見ていた分だとフィオラが投げた枝をペコは落下してから拾って持ってきていた。
だが俺が投げた場合、ペコがいきなり凄い高さまでジャンプして空中で枝を口でキャッチした後、俺の顔面目掛けて枝を投げてきやがった。
「ペコすごーい! ってライラス大丈夫⁉ あわわ、えーっと【治癒】!」
フィオラがペコの身体能力に驚いて、次に俺に枝が飛んできて驚いて、最後に最近教えたばかりの治癒魔術
を掛けてくれた。
「やりやがったなペコのヤツ!」
ドヤ顔のペコに向かって手のひらを向ける。
頭の中で中級水魔術を思い浮かべる。
全身の魔力を右手の平に集中させて穿つ。
杖を使うと魔力の調節が出来るようになるが最近気づいたのだが魔術の威力を上げるのには杖の補正が無いと出来ないが魔術のクオリティーを下げるには杖の補正が無くても出来ることが分かった。
もしかしたら杖が無くても魔術の威力が上げれるのかも知れないが今はまだ分からない、その辺ももう少し調べないと分からないかも知れない。
そんな事を思いながら魔力の調整をする。
「水弾!」
中級魔術の水弾といっても最大限威力と勢いを小さくした悪戯レベルの一撃だ。
ゆらゆらと拳サイズまで小さくなった水の塊がペコの顔に命中する。
ペコは顔が濡れるや否や、目をパチパチさせた後に体をブルブルと震えさせて体の水を全て弾き飛ばした。
そのせいで近くに居た俺とフィオラが濡れたのは言うまでもない。
「へクチュ」
フィオラの可愛らしいくしゃみが聞こえて来てフィオラの方を見る。
フィオラと目が会ってフィオラが少し恥ずかしかったのか少し赤面して目を反らす。
「ふふっ、あははは!」
「むぅー! どうして笑うのさ! もぅ、ライラスなんて知らない!」
「ごめん、ごめんって、俺が悪かったからさ怒んないで……っあははは!」
俺も笑わないように努力はしているがやっぱりおかしくて笑いが止まらない。
フィオラは「もう! もう!」と言いながらポコポコという音が鳴りそうな程度に軽く胸板を叩いてくる。
「こうなったら! 悪いライラスにはこうだよ!」
「ちょっ……まっ――!」
フィオラがこちらに右手の平を向けてくる。
フィオラの魔術適正は水と風、両方の魔術の威力が俺の倍以上に違う。
「流水!」
初級水魔術、空中で軽い水を流すだけの魔術だが今のフィオラが使えば俺の中級魔術以上の威力だ。
デカいホースで水をぶっかけられたみたいに顔が水に持ってかれる。
さっきの水弾とは非じゃないレベルでびしょ濡れになる。
「ライラスが悪いんだからね! ら、ライラス?」
「よくもやったなぁー! くらえ! 最大限威力を落とした水流!」
「あはは、くすぐったいよぉー!」
そこから少しの間、水魔術を掛け合った。
もちろん威力は全然違ったけど。
二人でびしょ濡れになってから風邪を引かないように二人と一匹でライラス家に戻ってお風呂に入った。
フィオラを先に入らせて俺は火と風の複合魔術で軽いドライヤーを使って体を温めていた。
母さんが一緒に風呂に入れようとしたが断固拒否しておいた。
父さんが俺の複合魔術温風を興味深そうに見てきた。
「それ便利だな、俺が冒険者時代は服が傷んだが急いで乾かす時に上級魔術の突風を自分の足元に打って乾かしてたぞ体は冷えたが水分は完全に落とせる、ライラスにもかけてやろうか?」
「絶対に嫌ですよ‼ ちょっと父さん、それって人死にませんか⁉ 中級の魔術でも結構威力ありますよね⁉」
「俺は結構丈夫だからな……」
何故か遠い目をしている父さんのビックリ話を聞いていると風呂場の方からフィオラと母さんがやってきた。
「ライラスの服だと少し大きいけどフィオラちゃんの服が乾くまで我慢してね」
なんて言いつつも母さんは何故か嬉しそうだ。
肝心のフィオラが居ない。
と思っていると母さんの後ろから少しだけ大きめの服を着ている女の子が出てきた。
「一緒ぐらいだと思ってたの……ライラスの方が大きかった」
俺とフィオラは同い年だがいっぱい食べて鍛えてる分俺の方が体格は上だ。
そのせいだ、フィオラがシャツの袖を掴んでいる。
そう、萌え袖だ! 可愛さに拍車がかかっている。
フィオラが俺の服を着て上目遣いで俺を見つめてくる。
なんでだろう自分の服を他人が着ていると何故だか気恥ずかしい。
「ほら! 女の子が服を着替えたんだから何か言ってい上げなさいよ!」
母さんがフィオラの肩に手を置いてそんな事を言ってきた。
何か言ってみろって言われてもぱっとしない俺の服だし、それに……
「か、可愛いんじゃないかな……」
「きゃー! ライラスが目を反らしたわよー! この色男! このこのー!」
「や、やめろよ母さん、そんなんじゃないってば!」
母さんは直ぐに色恋沙汰に話を持っていく。
フィオラは確かに可愛いけど……妹みたいにしか思えない。
それにフィオラはまだ五歳、そんなの分かる年齢じゃない。
「あ、ありがとう」
フィオラはそう言って目線を下に向ける。
その時、フィオラが小さく「か、可愛いって言われちゃった」と言い、フィオラの耳元で「よかったわね!」と話したのを二人の乙女以外は知らない。
「二人はまた遊びに行くの?」
「どうする、フィオラ?」
「ライラスとならどこでもいいよ」
「な、ならまた庭に行くか、教えていない魔術も沢山あるしな。それに俺もフィオラと遊びたいし……」
父さんの「ヒュー」と言う口笛と、母さんの「あらあら」と言う野次を飛ばしてくる二人を尻目にフィオラ
の方を見る。
「うん! 僕もライラスと遊びたい! 」
はたして、満面の笑顔で頷いた少女の心情を少年が理解する日は来るのだろうか……。
読んで頂きありがとうございます!
はたして、ライラスとフィオラの関係性はどう進むのでしょうか!
乞うご期待!
次話の投稿、楽しみにしていてください。




