四十九 お前絶対オスだろ!
《クロット村 ライラス視点》
遠い異国のエーデンス王国でクーデターが起こってから数日後の出来事。
今、ライラスは目の前で走っている女の子を必死に追いかけている。
分かりやすく言うと鬼ごっこをしている。
「あはは! 走るのって楽しいね! ライラス!」
「何で……そんなに……体力が……あるんだよ!」
俺はしっかりと体力作りの為に筋トレとランニングを毎日こなしている。
にも関わらずフィオラに足の速さと体力の両方で負けている。
あの体のどこにそんなに体力があるんだ。
今はどのくらいの時間走ってるんだろうか、体感的には一時間ぐらいは走ってる気がする。
流石にもう限界だ。
走りながら辺りを見回してみると走っていて気が付かなかったが村から離れていて今どこにいるかが分からない。
一つ分かる事は目の前に丘があって一本の木があるという事だけだ。
「フィオラ……ちょっと……待ってくれー!」
声が聞こえたのか一本の木が生えている所で止まった。
少し遅れて俺もフィオラの後ろに追いつく、フィオラが気の根本あたりを見ているので後ろから覗き込んでみる。
するとそこに一匹の黒くて小さな犬?みたいなのが横たわっていた。
「ライラス、この子どうしたのかな?」
「初めて見るな、何だろう?魔物……なのかな?」
フィオラがもう少し近づいて触れようとした時だった。
「グルゥゥゥ!!」
「うぁあ!」
突然目が覚めて敵だと思ったのかその場で起き上がり威嚇し始める。
フィオラを手で静止させ一人と一匹の間に割って入る。
動物を痛めつける趣味は無いがもしも襲ってきたら土魔術で少し動けなくさせるぐらいはする。
それでも襲ってくるならその時は……
そう思って腰に差している杖を引き抜こうとすると……。
「まってライラス! この子怪我してるよ!」
フィオラの声を聞いてもう一度よく見てみる。
さっきは警戒していてあまり見ていなかっが至る所に擦り傷や切り傷があってかなり衰弱していた。
それに足が小刻みに震えている、立っているのがやっとなのかも知れない。
そう思った矢先黒いモンスターが倒れた。
俺はネイル・ウルフの一件以来動物系統のモンスターには特に警戒している。
今回はフィオラが居るから余計に警戒していてどうするか悩んでいたのだが、頭より先に体が動くタイプのフィオラは直ぐにモンスターに駆け寄る。
「ライラス。この子悪い子じゃないと思うんだ……だから……その……ダメかな?」
黒い小さなモンスターを抱き抱えながら上目遣いで聞いてくる。
そんな事言い方されると断りずらい。
「はぁー。分かったよ……この子を助けよう」
「ありがとう! ライラス!」
俺も動物は好きだから出来れば助けたい気持ちはある。
けどフィオラに言ったけど小さい奴でも危険な奴は多いと父さんから聞いてるから本当に危険なら……俺がやるしかない。
子犬を抱えているフィオラに近付きモンスターの額にそっと手を添えて右手に魔力を込める。
中級の治癒魔術 【持続治癒】
同じ治癒量の件治癒魔術の治癒ではなく中級魔術の持続治癒を使ったのには訳がある。
両方とも単純な掠り傷程度の怪我を癒す魔術だ。
違う点は治癒する速度と消費魔力だ。
俺はずっと勘違いしていたが回復魔術では無く、あくまでも治癒魔術。
回復は元通り、治癒は傷を癒すだけ。
俺が日本にいた頃は腕が切り落とされてもピッ◯ロみたいに回復魔術を使えば生えてくると思っていた。
【治癒】は時間を戻すわけじゃなく新陳代謝を上げ細胞を活性化させて傷を癒す魔術だ。
どんなに最上級の治癒魔術を使っても取れた腕は生えて来ない。
あくまでも自然治癒で治る傷を先に早くに治す魔術。
もしかしたらこの世界に回復魔術があるのかも知れないがそれはまだ分からない。
そういのを調べるのも今後の楽しみの一つなのかもしれない。
中級の治癒魔術を受けただけでもかなりモンスターは楽そうに寝ている。
俺が使える治癒魔術は初級の【治癒】中級の【中級治癒】に同じく中級の【持続治癒】
ヒール系統は少なめの魔力を使って直ぐに治せる魔術。
ヒーリング系統は多めの魔力でゆっくり治せる魔術。
ヒール系の魔術は治癒する速度が速いため小さい体に衰弱していたモンスターには負担が大きいと思ったからだ。
「その子が起きるまでそこで少し休もうか」
そう言って一本の木を指さす。
「うん!」
フィオラは嬉しそうにはにかんで笑い木陰に腰を下ろした。
そえれに続けてライラスも腰を下ろすとフィオラが肩を並べに来た。
木漏れ日とそよ風を浴びながら二人でたわいもない会話をしているとモンスターがピクリと動いた。
「……」
「目が覚めたみたいだね」
自分が抱き上げられて居たのにビックリしたのか直ぐに暴れて飛び降りる。
すると傷の痛みが無い事に気づいてクルクルと回りだす。
その動作が子犬のワルツを連想させて少し笑うとフィオラも「えへへ、可愛いね」と言いながらニコニコと笑った。
怪我が治ったことに気づいたのか二人の方を交互に見た後に寄り添ってきた。
感謝と言わんばかりに足に頬でスリスリしてくる。
それをされた本人は少しくすぐったいのかくすくすと笑いながら。
「あははっ! ライラス! この子すっごく可愛いよ!」
そう寄り添って来たのはフィオラの方で俺にはほっぺすりすりをしてこない。
まぁ、威力20で殴られてその上、麻痺しなくて済むから別に気にしてないし。
「ほら、傷を治してくれたライラスだよー」
と言って持ち上げながら近づけてくるも俺を見るなりプイっとそっぽ向いてくる。
このくそ犬! と内心思いつつも諦めずに手を伸ばすと「ガルルッ!」と牙を向けてくる。
「ライラスは悪い人じゃないよ?」
何故かフィオラには甘えて俺にだけ牙を向ける。
ここは普通俺に懐く所だろ! 少し残念がりながらフィオラに甘える子犬を見て考える。
「こいつ、絶対オスだな」
「えー、この子はたぶん女の子だよ」
「いーや、オスだ! 俺の感がそう言っている!」
そうしてモンスターのオス疑惑を尻目にこの子についてどうするかを話し合う。
「この子どうする?」
「普通は森に帰した方がいいと思う。コイツの家族も心配してるだろうし」
フィオラは残念そうに「そっかぁー」と言いながらモンスターを撫でる。
「やっぱりお父さんお母さんが居ないと寂しいよね」
と言って森の近くまで歩いて離してあげる。
別れ際に二人で手を振って。
「もう怪我するなよ!」「元気でね!」
と言って村が有るであろう方向に歩きだした。
黒くて小さなモンスターは終始二人の背中を見送った。
俺はフィオラに付いて行ってるけどフィオラは道が分かってるのだろうか。
「フィオラ、帰りの道分かってる?」
「ギクッ!」
ライラスはやっぱりか、と思いながら笑った。
幸い、太陽はまだまだ昇っているから問題は無いか。
そうして走ってる時の記憶を頼りに歩いて帰った。
二人が帰って来れたのは夕方になってからだった。
読んで頂きありがとうございます!
これからまたライラス&フィオラを書いていきます!
次話の投稿楽しみにしていて下さい!!!




