百三十三話 ディアミル
広めの店内、丁寧な接客、静かすぎず賑やかすぎない、程よい騒がしさで繁盛しているお店。
この店の唯一の欠点は飯の不味さ。
もう二度と行かないと思っていたはずの店。
「やぁやぁ、来てくれると信じてたよライラス君!」
俺の正面には通りすがった女性の何人かは振り向く程に整った顔つきに、綺麗な白髪で優しい目をしたイケメンが座っている。
コイツの唯一の欠点は自分で作った自分を崇める宗教に勧誘してくる事。
もう二度と会わないと思っていたはずの人物。
どうしてこの最悪の組み合わせを二日連続で味わっているかと言うと……
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時間は遡る事、数十分前。
俺は一人で、それなりに綺麗な町の中を周囲を凝視しながら歩き回る。
こんな事をしている理由はギルドで請け負った依頼のペット探しだ。
今の俺のランクは最低のF級で、受けれる仕事は雑務雑用と家事代行ぐらい。
一人でクエスト請け負っている理由は可愛げのない相棒が自堕落に眠っているからだ。
主人公といつも一緒にいる相棒マスコット枠って空飛べたり、強かったり、ガイドをしてくれたりするもんだろ普通。
うちの子はたくさん食べてよく眠って棘のある言葉を吐いてきてちょくちょく小馬鹿にしてくるだけで戦闘面も金銭面もメンタル面もどれもマイナスな気がする。
これは言っても仕方ない事なので黙々と依頼をこなす為に足を動かす。
人生初めて受けたクエストはF級が受けれる依頼の中で複数を同時に進行出来るペット探しを受けた。
取り合えず依頼文に書かれている特徴をある程度覚えたら街中で見つけた猫とか犬の中から似ている奴を連れて行けば良いとか思っていたけど。
「一匹もそれっぽいのが居ない……」
もしかしてもうこの町に居ないのか。
この町に居ないんじゃ俺が見つける術が無くなる。
ギリギリペット探しで使えそうなペコの鼻も今は居ないから頼れない。
どうして肝心な時に居ないんだアイツは。
村を出た時、母さんは俺が一人で一カ月過ごせるだけのお金をくれた。
つまりはペコの生活費までを考慮に入れていない。
そしてお金が一番減る理由は俺より食い意地が張って沢山食べるペコの食費だ。
宿代は安宿で二人一部屋で泊っているから金額は上がりはしないけど、一日三食+おやつを考慮すると
かなりの出費がかかる。
ひたすら減り続けるお金を見ていると胃が痛くなる。
コツコツクリアしようしている依頼ですら一つもクリア出来そうに無い。
どこかで大金を稼いで早めにこの町を抜け出してフィオラの情報を探しに行かないといけないのに。
焦燥感にかられて走って探そうとした時に綺麗な声の人に呼び止められた。
「失礼いたします、人を探しているのですけれど伺ってもよろしいでしょうか? 見つけて頂いたら報酬もお渡し致します」
その声の正体は身長が少し高くて深い薄紫色の髪を腰あたりまで伸ばしている女性だった。
賢そうな大人の女性って感じがする。
「はい、良いですよ。僕この町歩き回っていたので力になれるかも知れません!」
凛としていて礼儀正しい彼女は秘書とかやっていそうな雰囲気を醸し出している。
こんな綺麗な人を助けない理由は無い。
報酬が欲しいとかでは決して無い……決して無い。
「お姉さんはどんな人を探しているんですか? 何か特徴とかありますか?」
「そうですね、特徴と言えば……いけ好かない顔にふざけた態度、良く回る口とかでしょうか」
まさかこんな毒舌が飛んでくるとは想像もしていなかったので少し呆気に取られた。
天然+毒舌お姉さんか?
「あはは、えっと……もう少し見た目の特徴を聞いても良いですか?」
「あぁ、すみません。つい頭に顔を浮かべていると腹が立ってきたのでつい。見た目ですか……性別は男で背格好は少し低めです、服装は程良く綺麗ですけどだらしないので乱れている時が殆どですね」
この辺は冒険者ギルドがあるからそんな格好の人ばかりだし、思い当たる人は結構いた気がするけどいまいちピンとこないな。
身長は俺より上って情報が手に入っても今の俺の身長よりは殆どの人が高いからこっちも何とも言えないな。
「他には何かありませんか?」
「そう言えば忘れていました一番特徴的なのは髪の色です」
「何色なんですか?」
この世界は色々種族が多いから髪色や肌の色、目の色も結構色々あるから髪の色が分かれば見つけやすいかも知れない。
クロット村で出会った人達だけでもかなり色々な髪色の人が居た。
フィオラは綺麗な緑色でシャルは金色、父さんと母さんは茶色でエルトリスさんは黒色だった。
「サラサラな白い髪色です。髪質は何故かいつも綺麗なんですよね」
ほぉ、白髪で男性でいけ好かない見た目か、何処かで見たことがある気がしてきた。
ホストみたいな変人が頭の中に浮かんでは俺に手を振ってきている姿が想像できた。
あって数分しか話していないのに俺の頭の中にべったりと張り付いている奴を脳裏からかき消す。
きっと気のせいだろう。
「その男性って何かの宗教に入ってたりしますか?」
「そうですけど……どうしてそう思ったんですか?」
「その宗教ってティル教って名前だったりしませんか?」
「そうですそうです! もしかして会った事ありますか?」
最悪だ、美人なお姉さんを助けようとしたらまさか二度と会いたくないイケメンを探していたとは。
「昨日ご飯を食べていたら話しかけらまして……」
「はぁ、あの人まだ懲りてなかったんですね。すみません私の連れがご迷惑をかけたみたいで……今どの辺りにいるか分かりますか?」
お姉さんは申し訳なさそうに謝罪してきた。
この人も相方に苦労されているんだなと同情する。
「流石に昨日会って少し話しただけですし何処にいるかは……」
「そうですよね」
「いや、ちょっと待ってください。どこにいるか思い出しました。確か冒険者ギルド付近の酒場にいます、理由はちょっと言いたくないですけどまず間違いないです」
流石に嘘の会う約束して放置してるなんて言えない。
お仲間が来てくれたなら俺が合う理由も無くなるだろうからお姉さんに後はどうにかして貰おう。
「あの……お恥ずかしいのですがこの町に来てからまだ日が浅いのでその場所まで案内して貰う事は可能でしょうか?」
「……分かりました。僕が案内します!」
お店の前で解散したらアイツと会わなくて済むだろう。
計画は完璧だ、酒場前で報酬貰って早々に引き上げよう……
ーーーー
そして現在に戻る。
「やぁやぁ、来てくれると信じてたよライラス君!」
「どうしてこうなった……」
最悪だ、危ない人には関わっちゃ駄目だって前世でも今世でも散々言われて来たのに。
それにどうして2日も連続で会わなきゃ行けないんだ。
報酬を貰う前にティルに見つかってお姉さんの手前逃げる事も邪険にする事も出来ずに成り行きで同じテーブルに座っている。
因みにティルはニコニコ笑顔だけど両側の頬をお姉さんに引っ張られている。
「いひゃい、いひゃいよミル」
「貴方と言う人はどうしていつもいつも急に居なくなるんですか!? 私が心配するの分かってますよね!?」
「ほ、ほんの数日じゃ無いか」
「三週間の何処がほんの数日何ですか! せめてメモ書きぐらい──」
「ミル、ライラス君も居るんだし取り敢えず……ね?」
まぁ、俗に言う惚気だな。
妬ましいが美形と美形がイチャイチャしてるのは目の保養になるからよしとしよう。
「あ! すみません私とした事が……まずは自己紹介から。私はミル、貴方は恩人ですから是非とも気軽にミルとお呼び下さい」
「ミルさんでお願いします」
呼び捨ては馴れ馴れしく感じて少し抵抗がある。
凄く仲が良く無い限りは敬語の方が気が楽で良い。
「うーん、少し壁を感じますけど恩人が言うなら仕方ありません。こっちの腑抜けた人がただのティルです」
「ちょっとちょっと説明が酷いんじゃ無いかい?」
流石のティルも腑抜けたと枕詞に付けられて頬を膨らましてムスッとしている。
「僕の名前はディアミル・ティルナノーグだよ!」
そっちかい。”腑抜けた“は嫌じゃ無いのかよ。
「ちょっと! その恥ずかしい名前を名乗るのやめて下さいって何度も言いましたよね!? 貴方の名前にディアミルなんて無かったでしょ!?」
最初に聞いた時はめんどくさいから流して聞いてたけどディアミルってそう言うことか。
「えー良いじゃん素敵な名前だろ?」
「本当に貴方と言う人は……ティルは良くても私が恥ずかしいんですよ! この歳で外でそんな事されたら軽く公開処刑ですよ!?」
「外でって事は二人の時なら良いって事!?」
「…………ほんとに怒りますよ」
「はい……ごめんなさい」
さっきまで赤らめてぷんぷん怒っていたミルさんはティルが調子に乗ると凍りつく程に澄ました顔で最後の警告を飛ばした。フィオラと一緒で怒らせるとほんとに怖いタイプの人だ。これ以上調子に乗るときっと殺される。
俺まで怖くなって縮こまった。
「はぁ……取り乱してすみません。貴方の名前を伺っても良いですか?」
「僕はライラス・クリウスです」
「ライラス・クリウスさんですね。ライラスさんには凄く親切にしていただいたのでお礼をしたいのですが……金貨十枚で良いですか?」
は? 金貨十枚!? 日本円でいくらだよ。
俺がどれだけ働いても稼げない額だぞ。いったい何日遊んで暮らせるんだ。
この人達、実は凄い人なんじゃ無いか……?
金貨十枚もあればフィオラを探すのにいちいち一つの街で滞在して働かなくても良くなる、フィオラを探す絶好のチャンスだ。
でも、もしここで報酬を受け取ったらこの人達との繋がりが消えてしまう。
俺一人が大金を手に入れてもできる事が限られてくる。
ここは恩を残しておいて協力して貰うしか無い。
「すみません、それは受け取れません」
「こちらこそすみません、十枚じゃ足らなかったですよね……二十枚ではどうですか?」
ぐっっっっっ金貨二十枚は欲しすぎる。
俺の父さんの何ヶ月分の給料だよ。
「違います、お金はいらないんですよ。その代わりにお願いがあります」
「分かりました、何なりと言ってください。恩人に報いるのがティル教の教えですから。ですよねティル」
「そうだよそうだよ、ティル教は崇高な組織だからね」
組織って言っても聞いた感じだとこの二人しかいないだろ。
「僕は人を探して旅をしています。僕の幼馴染のエルフの女の子です。その子を探す協力をして欲しいんです」
「ライラスさんも人探しをしていたんですね、分かりました。是非協力させてください、まずはお話しを聞かせてもらっても良いですか?」
それから俺はフィオラ達の事、魔王の手先に誘拐された事を話した。
この世界で魔王がどんな存在でどんな扱いなのかはよく分かっていない。
それでも藁に縋る思いで二人に話した。
「それはお辛かったですね。すみません、現状では私にはその魔王もフィオラちゃんにも覚えが無いですね。ティルはどうですか?」
「……僕も無いかな、ごめんね?今すぐ力に慣れなくて」
「いえ、大丈夫です。嘘だと言わずに話を聞いて貰えただけで気が少し楽になりました、ありがとうございます」
「今後どちらかの近しい情報が入れば必ず協力すると誓います」
「そうして頂けるなら助かります。仲間がそろそろ起きてくるので僕は帰ります」
軽く去り際に挨拶を済ませて俺はペコの眠ってる宿に向かって歩いた。
多分だけどあの二人は凄い人だろうけどやっぱり魔王の存在は知ってても魔王個人の名前や素性については知らないみたいだ。
でも今回でフィオラ達の捜索方針がある程度決まった。
強い人や有名な人に協力して貰おうと考えててたけど個人に頼っても効率が良く無い。
俺が色々なところで有名になってフィオラ達の話をしていった方が情報が耳に入りやすいだろうし、もしフィオラが逃げ出せたり外に出る機会があった時に俺の名前が耳に入れば向こうから探してくれるだろう。
今の目標はフィオラと父さんを助ける事。
その為にしないといけない事が三つ。
一つ.旅路に必要な情報やお金集め
二つ.戦力増強の為のに仲間や協力者を増やす事と俺が強くなる事
三つ.ペコの本来の力を取り戻す事
実際に見た訳じゃ無いがガチガチに封印されてる所を見るとペコは一部の人からかなり危険視されているみたいだ。
化け物だろうが神獣だろうが悪魔だろうが協力してフィオラを助ける。
俺はペコは信頼しているから最悪の結末にはならないだろう。
その為のペコとの対等な主従契約だ。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!