百三十一話 夢の冒険者ギルド
「……え? これが冒険者ギルド?」
「そう、書いてるね」
俺の前にはちょっとボロくて大きめな家程度の建物があり、扉の上にはしっかりと冒険者ギルドの看板が寂しげに飾られている。
「あの、すみません。これって冒険者ギルドで合ってますよね?」
俺は片手用の戦棍を装備している通行人に聞いてみた、きっとこの人も冒険者だと思ったからだ。
「ん? あぁ、これも冒険者ギルドで合ってるよ」
「そう……ですか。ありがとうございます」
こ、この建物が俺の望んでいた冒険者ギルドなのか。
俺の知っている冒険者ギルドは綺麗で広くて酒場があっていつも賑わってて綺麗なお姉さん達が受付をしてくれる、そんな冒険心をくすぐられる夢の冒険者ギルドは現実のは存在しないのか。
「そんな馬鹿な……」
俺はその場で膝から崩れ落ちた。
いや、きっとギルドに入って直ぐにちょっと強めのゴロツキ達が『おいおい、ここは迷子センターじゃねぇぞ!』『ガキは帰ってママのおっぱいでも吸ってな!』『イッヒッヒッヒ』みたいな奴らに絡まれて、徐々に仲良くなっていつか背中を預けれるアツい仲間になる冒険が待っているはずだ。
俺は両開きの扉を盛大に開けて中に入った。
「あ痛ッ! 痛い。お前、扉はゆっくり開けろ」
盛大に開いた扉はその勢いのまま閉まってしまい、俺の後ろを歩いていたペコのおでこを強打した。
おでこを両手で押さえたモンスターに正論で怒られていてどっちがモンスターなのか分からなくなりそうだ。
「ごめんなさい」
「それでいい、許す」
完全に立場は親と子、悪戯をして怒られている状態だ。
反省しつつギルドの中に進んでいった。
外見通りボロくてツギハギだらけの室内で酒場は無くて小さなベンチが一つ置いてあるだけ、カウンターに座っている受付嬢はかなり根暗そうで少しばかり不安になって来た。
「すみません、冒険者になりたいんですけど……」
「え、あ、はい。分かりました……因みに年齢は幾つですか?」
待て待て、常識的に考えてギルドの登録には年齢設定はあるよな、何歳からだ……十歳か? 十五歳か?
ここで解答をミスったら仕事が無くなる、それだとフィオラを助けに行けなくなってしまう。
年齢詐称するしか無い。
「な、何歳から冒険者になれるんですか?」
死ぬほど怪しいけど上手い言い回しとか言い訳が言えるタチでは無いのでもう先に聞いてから後出しする。
これしか方法は無い。
「目安は十歳以上ですね」
「はい、僕十歳です!」
受付嬢の人の目を凝視しながら嘘を付く、露骨でも証拠が無いなら疑いだけで済む。
俺は十歳、あと五年で成人する健気な男の子、俺は十歳、俺は十歳。
「い、一応、本人の希望なら何歳でも自己責任ですので可能となってますけど……ほ、本当に十歳ですか?」
「はい、僕七歳です!」
目線を逸らして堂々と嘘を曝け出す。
嘘ついてごめんなさい受付の人、心の中で謝っておくよ。
「そ、そうですか……それではこちらにどうぞ」
これはあれだ、なんか七つの玉を集める奴のス◯ウターとか魔道具とかが出て来て戦闘力を測ったらいきなりS級になったり戦闘力五十三万とかになったりする奴だろう。
俺は調子に乗って死んだ時に天狗になって過信しすぎないと誓ったから現実的に考えてD級かC級ぐらいからスタート出来たら良いなぐらいに考えている。
かなり卑怯で運が良かったけどたぶんB級ぐらいのトロールのでっかい奴倒したんだしそれぐらいの評価は貰えるだろう……いや貰いたい。
「……あれ、これは何ですか?」
「え、冒険者ギルドに登録するんですよね?」
「はい、そうですけど……」
むむむ、おかしい。
俺の想像している強さを数値化するインフレ測定器的なのが出て来ない。
「あの、魔術の道具で戦闘力を測ったりはしないんですか?」
「はい? 何ですかそれ? た、例えそんな便利な物があったとしてもこんなギルドに置いてるわけ無いじゃ無いですか」
それもそっか……そっか……
「こ、こちらの資料に名前と年齢を記入してください」
俺は手渡された一枚の粗い紙に羽ペンを渡され、言われるがままに名前と年齢を記入した。
そのまま少し待つように言われて受付嬢はギルドの裏に入っていった。
「ペコ、ギルドってこう言うものなのかな」
「知らない、それよりお腹減った」
コイツは燃費が悪すぎやしないか。
財布の中身を思い出しては頭に手を当ててため息を溢す。
早く働いて裕福にならなければ。
あ、帰ってきた。
「そ、それではこちらが冒険者証明書になります。手続きは以上となります、あちらにあるのが依頼の掲示板ですね、あちらから受けたい依頼書を取って来ていただいたらこちらで対応します。な、何か分からない事はありますか?」
俺の偉大なる第一歩は何ランクからスタートかなー
あ、あった……えっと……ランクF級。
一番下からだー……書類審査なんだし当たり前かー……
「僕はどんなクエストが受けれるんですか?」
「Fランクだと買い物や掃除、子育てといった家事代行、ペットや落とし物探しから色々な雑務雑用ですね。命の掛からない簡単な奴……ってどうされましたか?」
「……大丈夫です、ありがとうございます。行こうペコ」
「そ、そちらの方は登録されないのですか?」
「ペコ要らない」
「そうですか……」
テトテト、トボトボとペコを連れてベンチに戻ってどっしりと座り込む。
つまりはF級の冒険者は便利屋って事か……ただのアルバイトか。
まぁ、取り敢えず登録は出来た、あとは路銀を稼ぎながら六魔帝の情報を掴んで行こう。
ペコをベンチで待たせて依頼掲示板を見にいく。
木で出来た掲示板には粗く加工されたボロい紙に依頼内容、報酬金、場所、条件が記載されていた。
こう言うのって最初は人里荒らしてるゴブリン退治とかじゃ無いのか……
猫探し三件、犬探し二件、人探し一件、落とし物探し二件、家事代行合わせて八件、報酬はどれも銅貨数枚、良くて銀貨一枚。
これじゃあ、一日過ごすのに何件達成しないと行けないんだ。
報酬が高くて出来そうなラインのクエストは大体E級かD級、今の俺じゃ受けれない奴ばかり。
効率は諦めて数で勝負するしか無さそうだ。
千里眼だの写◯眼だの超人的な五感とかが俺にあれば何かとやれそうな気はするけど特にこれといった異能力も無いし、ペット探しの経験も無いし、どれをすれば良いんだか。
ペット探しは取り敢えずクエストは受けずにペットの顔を適当に覚えておいて、見つけたら捕獲してから依頼を受けるのが良さそうだ。
家事代行は俺でも行けそうだけど家の中でしか出来ないからペット探しとは並行できないし、人探しはもう聞き込みとか終わった後に依頼出してるだろうから望み薄、落とし物はたぶん盗まれてるとかだろうしどれも難しそうだ。
「お前お前」
頭を悩ませていると後ろからペコが服の端を摘んでクイクイと引っ張って来た。
何だこの可愛い仕草は。
「何遊んでるもう限界、ペコお腹すいた」
何だこの可愛く無い奴は。
でも、確かに俺もさっきから腹の虫がうるさい。
まだお金にも一応の余裕はあるし今直ぐじゃなくても大丈夫か。
「はぁ、クエストは後にして飯食いに行こう。俺もそろそろお腹すいて来た」
「ペコ、今日は肉が食べたい」
「それはいつもの事だろ」
「うるさい下僕」
「それで行くとお前も下僕だろ」
俺達はギリギリと威嚇し合いながら受付嬢に聞いた一番近くにある酒場に向かって行った。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!