百二十二八話 父から母に、母から子に
(ライラス目線)
クロット村 銀狼の森 ペコが仲間になった直後
【銀狼の森 出口】
銀狼の森から見張りにバレない様にこっそりと抜け出す。
太陽がまだしっかりと出ているのをみる限り、正確には分からないけど俺が眠っていたのは多分数分ぐらいで何時間も眠ってはいないと思う。
「ペコ……勝手に人型にはなるなよ」
俺は小声で話しかける。
今は小さなペコの状態で俺の肩に乗っている。
気分はまさにマサ◯タウンのサ◯シとピカチ⚪︎ウだ。
出来るだけ俺の事を良く知っている人には会いたく無いので、素早く隣町に続く道に向かう為に中央区から東に向けて歩みを進める。
この村に帰って来れるかは分からないし、フィオラと父さんを見つけれるかも分からない。
こんな危険で終わるかも分からない旅に村のみんなに迷惑は掛けれない。
「ねぇ、ペコって強いの?」
ペコに話しかけても反応が返って来ない。
もしかしてこの状態のペコって話せないのか?
考えてみると声帯とか体の構造上変わっちゃうから話せないのも当然か。
それとも俺、ペコに無視されてる?
もう少しで村を出れると思った矢先に隣町に続く道に一人の女性と小さな小さな子供が一緒に立っていた。
「あら、何処に行くのかしら」
聞き馴染みのある声が聞こえ、悪戯をして怒られる子供みたいに気まずくなる。
「母さん……ルシェネ……これは、その……」
「はぁ……流石は私とラウドの、冒険者の子供ね。行くなら声をかけてから行きなさい」
「なんで俺が……僕が行くって分かったんですか」
何も勘付かれない様にこっそりと抜け出してきたし、特に長期間準備をしていた訳でも無かったはずなのに。
「だってライラス、この一ヶ月間で一番いい顔をしてたんだもん。きっと何か吹っ切れたんだろうなって」
「そんなに分かりやすかったですか……」
「分かりやすいかは分からないけど……私の大切な息子なんだもん。分かりますよそれぐらい。本当なら10歳までは家にいて欲しかったけど……行くんでしょう? フィオラちゃんとお父さんを助けに」
「はい」
母さんは強いな……俺が行くと母さん一人でルシェネを育てないといけないのに。
いや、きっとルシェネが居るから大丈夫なんだ。
ルシェネは俺との約束を守って母さんを守ってくれるはずだ。
ルシェネだけじゃない。
「私は一緒には行ってあげられないけど……これを持って行きなさい」
母さんは自分の指に付けている一つの指輪を手渡してきた。
「これは?」
「すっごく過保護なラウドが私に持たせていた慈愛の加護が付いた指輪よ。きっとピンチな時に守ってくれるわ」
父さんから母さんに、母さんから俺に引き継がれた訳か。
「ありがとうございます、必ず大切にします!」
「にぃに、頑張って」
「ありがとなルシェネ。お兄ちゃん頑張ってくるよ」
母さんに隠して行こうとしてたのが馬鹿みたいに今は清々しい気持ちだ。
本当なら他のみんなにも挨拶してから行きたかったけど、今の俺にはそんな事をしている暇は無い。
出来る限り早くフィオラを連れ去った風魔帝ヒュブイ、又はその仲間を見つけなくては。
「ペコ、ライラスをよろしくね」
「ペポ、よしよし」
ルシェネにはペコの発音が難しかったらしく、ずっとペポと呼ばれている。
呼ばれたペコは俺の肩から飛び降りてルシェネの所まで歩いて行った。
ペコは時折ルシェネの面倒を見てくれていて、ルシェネのお姉ちゃんみたいだ。
わしゃわしゃと撫でるルシェネペロペロ舐めるペコはかなり微笑ましい……もしかしてペコ、食べようとしてないか?
「そろそろ行くぞ、ペコ」
ルシェネと戯れ合っているペコを抱き抱えて半ば強引に引き剥がす。
ペコを信用していない訳では無いが俺の妹は渡さない。
「最初は隣町の先にある【フェルト領 東町リント】に行くといいわ」
領って事は領主が統治してる町か。
「そこはどういう場所なんですか?」
「この付近では一番広い領地が広がっていて冒険者ギルドもあるわ、まずはそこで仕事を見つけなさい。何をするかは父さんが良く話していたでしょ?」
「はい! だいたいはわかってます」
「細かい事はギルドの職員さんが教えてくれるわ。ギルドは荒くれ者が多いから最初は馬鹿にされるかも知れないけど必ず助けてくれる人がいるはずよ、あとは悪い人には騙されないようにね、無料やお得と思ったら警戒しなさい。次にライラスなら大丈夫だろうけど他の人には優しくするのよ、いつか巡り巡ってあなたを助けてくれるわ。それから──」
「母さん母さん、分かったよ。心配してくれてありがとう。俺には賢いペコがいるから大丈夫だよ」
「ごめんなさい、やっぱり心配で……」
母さんが話しながら涙を溢していた。
当たり前だ、普通に考えて七歳の子が旅に行くなんて心配に決まってる。
俺は日本の頃の十七歳に今の七歳を足したらもう精神年齢は24歳になる。
どれだけしっかりしてる様に見せてはいても今はまだまだ子供の七歳。
いくら異世界の成人年齢が十五歳で大人に見られるのが早いからって子供であることに変わりは無い。
七歳は日本なら小学一年生、一人旅をさせるなんてあり得ない。
「大丈夫だよ母さん。父さんと母さん二人の子供だよ、安心してよ」
これが最後になるかもしれない、泣いている母さんにハグをする。
ルシェネも心配みたいで一緒にハグしてきた。
「まま、大丈夫?」
「えぇ、ごめんなさい。もう、大丈夫よ」
「それでは……行ってきます! 母さん、ルシェネ」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
「ばいばい、にぃに」
俺とペコは二人に見送られて隣町に続く道を進んでいった。
二人は俺たちが見えなくなるまで手を振ってくれていた。
その後、すぐにペコが肩から飛び降りて器用にクルンと一回転して人型になった。
服装は前に着ていた俺とそっくりの服で最初の頃の変態スタイルから人間スタイルに変わってくれている。
ようやくペコから知性を感じられた。
「変身しちゃダメってのも逆に窮屈」
「因みに元はどっちの見た目なんだ? やっぱりちっこい時か?」
それを聞いたペコが不服そうに頬をぷっくりと膨らませた。
「お前失礼。元々は強くておっきくてカッコいい魔獣。今は力が分けて封印されてるから小さくなってるだけ。あと、この見た目はペコの精神性、凛としていて聡明な見た目」
おっきくてかっこいい魔獣……ネイルウルフみたいなサイズだろうか、あんまりかわいい要素が減るのは嫌だな。
あとこの見た目はがペコの精神性を現してるならちんちくりんなのは精神年齢が低いからかも知れない。
そう思ってくすくすと笑っているとペコに睨まれた。
「それでさっきの質問だけど、ペコって強いの?」
「めちゃ強い」
両腕を上向に曲げてマッスルポーズを取っていた。
「おぉ! ん? じゃあなんでトロールの時助けてくれなかったんだ?」
ペコの目を見て問いかけると露骨に目線を逸らされた。
「あの時はまだ目が覚めてなかった……のもあるけど、ちょこっと訂正する。本来のペコなら……めちゃ強い」
言い出しづらいのか話しながら段々と声が小さくなっていた。
ん? 待てよ本来の……って事は。
「じゃあ、今のペコは?」
「めちゃ弱い」
「うそーん」
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【ちょこっとおまけストーリー】
「人型の時はモフモフのケモ耳が見れないのが残念だな。話す時以外は基本は獣型でお願いします」
「やっぱりお前失礼、ペコは好きな時に変身する。……因みに人型でも耳は出せる」
「お願いします」
「いや」
「お願いします」
「だからいや。反省して私を敬えばいつか見せてやっても良い」
「おぉお! ありがとうございます!」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!