百二十六話 特別な主従関係
眩しい。
目覚めた理由は複雑じゃなくて、そんな純粋で簡単なものだ。
体を起こして目を開けると眩しいまでの太陽の光と何処までも広がる草木が視界に入る。
俺が今いるここは、神殿の外だ。
目覚めた直後で回らない頭を使って思い出す。
俺の記憶は正しければ確か意識が遠くなったのは神殿の中だった気がする。
きっと誰かが運んでくれたんだろう。
もう一度、周りを確認すると俺の上に上着が布団代わりに掛かっていた。
それをめくると可愛いのか図々しいのか分からないペコが俺をクッション代わりに小さく丸まって眠っていた。
こいつ……人が死にかけたってのに気持ちよさそうに眠ってるな。
その報酬という名目で普段、全然触らせてくれないペコをこれでもかと堪能する。
猫か知らないけど初の試みである猫吸いもさせて貰った、これは幸せだ。
「ほんと、可愛いんだか可愛く無いんだか……」
ペコの無事は確認できたけど、上着を見てもう一つ忘れちゃいけない事を思い出した。
あの謎の少女だ。
周囲には謎の少女がいる気配が無い、そしてここに上着があるという事はこの周辺に全裸の変態が彷徨いている事になる。
あの子、どうして俺の上着を置いて行ったんだ……そんな事を考えて視界に入っている上着を触った。
俺の為に掛けてくれたのか……きっと優しい子なんだろうけど、かなりズレてる優しさだよこれ。
俺は事情を聞く目的とその変態を探すべく、俺の太ももをベッド代わりにしているペコを起こす。
「ペコ起きろ……ペコ起きなさーい。ペコ、美味しい干し肉があるぞー」
「!? お肉ぅ!?」
突如、お肉に釣られて何処からともなく現れたその謎の変態──ゴホンッ、謎の少女が現れた。
黒くて長い髪が特徴的なその子は俺よりも幾つか歳が上なのか身長は少し高い。
目が分かりやすいぐらいキラキラとしていてお腹が減っているのがよく分かる。
「へぁ!?」
びっくりしすぎて男の子にあるまじきとても情け無い声が出た。
コレ、何処から出て来たんだ。
何処からともなく現れた変態はキョロキョロと俺を見ている、干し肉を探しているのかも知れない。
助けてペコ……状況を説明してくれよ……
「ごめん……今は干し肉持ってないんだ。また後でね……」
「肉ぅ……」
凄く悲しそうな顔をされたけど俺、ペコに上げるって言っただけなんだけどな……
「とりあえず先に服着ようよ、ほら俺の上着をあげるからさ」
その子は俺の上着を受け取ると少しの間、首を傾げてから──
「いや、お前寒い」
「え?」
この子、実はヤンキーなのか!?
いきなり直接的に”お前は面白く無い”宣言をされて怒りを通り越して泣きそうになりながら困惑しているとその子は続けて話した。
「ペコ、暖かいからいらない」
なんだ、ただ優しいだけの可愛らしい子じゃないか。
自己犠牲を美徳だとは思わないがこういう優しい子は……ん?
「ペコ……? ペコ? ……ペコぉ!?」
俺の脳が追いついていない、確かに人型になるんだろとか言葉を話すんだろとか言ってたけど半分冗談で……いやでも神殿の時はペコとこの子2人とも居たから……あぁもう分かんないや。
「君はほんとにペコ?」
「そう、ペコ。お前とフィオラと一緒に居たペコ」
「そ、そうか……」
悪い夢でも見てるみたいだ……ペコが人型になったと言う事はもうあの黒くてちっこくてモフモフのペコを堪能出来なくなってしまうなんて……
「暖かくても人の姿をしてる内は服を着てくれないか? じゃないと一緒に外歩けないからさ」
「お前、文句多い。はぁ……仕方ない」
そう言って空中に指で丸を描くようになぞるとペコの体を俺と同じ服が覆った。
一瞬にして服を装備した、そういう能力なのかそれとも別の何かなのか……しかも上着まで一緒だ。
「これで満足?」
「おっけい、その生意気さは確実にペコだな」
「噛むぞ」
「やれるもんならやってみ――――」
その瞬間、ニヤリと八重歯を見せながら笑った後に俺の首にかぶりついて来た。
「痛ったぁー!」
ペコは血をペロッと舐めて不服そうにそっぽ向いた。
生意気さと凶暴さはサイズが変わっても何も変わっていないらしい。
人型の見た目は長髪の黒髪でとても大人しそうで凛としているのにこのギャップは何だ。
見た目をトロールに変えた方が凶暴性が分かりやすくて良いかも知れない。
「ふぁー寝すぎて眠い。だからもう一休み……」
「まてまてまてまて、色々話さないと行けない事あるだろ絶対!」
「もうお前ほんとうるさい! 何、話す事って!」
「神殿に連れて来た事とか、封印されてた事とか人型になってる事とかトロールの事とかもうほんと色々だよ!」
「お前、私が人型になれるって知ってただろ! なのに今更なんだ! 、それより何処で知ったんだ! この事はルティとファシとレスクと後キモイ奴らしか知らないはずなのに!!!」
おぉおぉ、知らない人沢山出て来ちゃったよ。
誰ですかその人達は。
お友達っぽい人は何となく分かるけどキモイ奴らだけ凄く可哀想だなおい。
「あ、あれは希望と言うか予想と言うかほんの冗談で言っただけで……ほんとになれるとは……知らなかったんだよ……」
何だか隠してる秘密を暴露させちゃったみたいで申し訳無い気持ちで声が段々と小さくなっていった。
「はぁ?」
それを聞いたペコは余程ムカついたのか驚いたのかは知らないが開いた口が塞がらなくて片目だけピクピクと痙攣していた。
「ごめんなさい……」
「はぁ……もういいよそれで。で、後は何?」
ペコはやれやれだぜって感じで呆れ返るように頭に手を当てて首を左右に振った。
「どっちが本物のペコなんだ? 神殿には二人居ただろ?」
「どっちもペコ、封印される前にペコの半分を外に逃がしただけ」
「俺を神殿に連れてきた理由は何なんだ?」
「封印を解いて貰う為、ペコ一人じゃ無理」
「俺は封印を解く力は持ってないのにどうして封印が解けたんだ?」
「それはお前がペコと契約してるから。お前がペコの本体に触れれば半身のペコと本体のペコが繋がって内と外から力が使える」
「なるほど、契約してるから封印を解けた訳か……ん? 契約?」
「そ、契約。お前はペコの従者であり主人。半身とした仮契約だから立場は対等。それとも今契約し直す? 今度は力もある程度戻ってるから完全に主従関係になれるよ?」
「違う違う、そうじゃ、そうじゃない。いつ、俺とペコが契約なんかしたんだ!? 俺そんな怪しい契約した覚えないぞ!」
「血の契約って言うでしょ?」
そう言いながらペコは小さな少女の見た目と相反して唇に人差し指を当てて艶めかしくペロリと自分の唇を舐めた後に八重歯をチラッと見せてきた。
「あの時か……」
ここに来る前にペコが今までした事ない本気で噛んできた事があったけどそれは血を出させて契約する為だったのか……
俺の指が持っていかれそうになったのはその代償か。
「はぁ……悪知恵の働く奴だよほんとに。それで、その契約はどういうものなんだ? 何かあるだろ? 生贄だとか条件だとか」
「話が早いね。お前はフィオラを助ける、ペコはお前を手伝う。ペコは力を取り戻す、お前はペコを手伝う。以上」
つまりはお互いを助けるって事か。
「なんだ、それなら契約しなくても良かったじゃないか。友達を助けるのは当たり前だろ」
「はぁ……警戒心が高いのかお人好しなのかどっちかにして欲しいよ。契約したのは封印を解く為、だから他は適当な理由付けだよ。生贄はお前の血、これで分かった?」
「あぁ、これからもよろしくなペコ。二人でフィオラを助けよう!」
フィオラを助けると言うとペコは満更でも無さそうで少し笑顔になった。
ペコは俺の事はお前って呼ぶけどフィオラの事は名前で呼んでいる、それに懐いても居たからペコもフィオラが好きなんだ。
「はいはい、よろしくね――――うーん……下僕かご主人様どっちが良い?」
小馬鹿にするように提案してきた。
異世界にもそういう文化があるのか……
「その生意気な性格が無かったら可愛いんだけどな……因みにどっちもお願いします」
ゴキブリを見るような視線を送られた気がするけどたぶん気のせいだろう。
こっから直ぐに隣町に向かうか、母さんに説明してからにするかが悩むな……言わないと心配させるし言っても心配させるしほんとどうしよう。
まぁ、取り敢えずペコが正式に仲間に加わったって事で進展だな。
さぁ、俺立の旅はこれからだ!
「(打ち切りじゃないよ!(裏声)」
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【ちょこっとおまけストーリー】
「俺はどっちのパターンも聞いてみたい!」
「ちょっとキモイ……」
「子供に言われて喜ぶ変態じゃないけどそのセリフは一度は聞いてみたいんだ! 美味しい干し肉上げるから!」
「お肉ぅ!?・・・はぁ……これからもよろしく、下僕」
「おぉ……! つ、次も頼む!」
「絶対絶対、フィオラに言い付けるから……これからもよろしくね、ご主人様♪」
「ちょっと楽しんでない?」
「……違う」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!