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新たな世界で最高の人生記録!  作者: 勇敢なるスライム
第2章 少年期
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百二十五話 オンパレード

 やり返す様に俺も大きく叫んでトロールに威嚇する。

 それが効いているかは分からないけど気合いと勢いだけはトロールにだって負けはしない。


 逃げ回るだけじゃやなくてこっちからも攻めてやる。

 一撃でも貰えば即死、逃げても飛びかかってくる……それなら策は一つしかない。

 俺は武器を握り直す、今回は剣術を使う予定は無いので構えなんて使わない、ただ鋭利な杖ぐらいの認識で行く。

 俺は魔力を込めてトロール目掛けて、トロールは殺気を込めて俺に目掛けて走り出す。

 自棄になった訳でも無ければ自殺特攻しに行った訳でも無い。

 一応、俺なりの策はある。


 走りながら床に短剣を押し当てる、剣先が床と擦れ合って摩擦によって火花が迸る。

 俺は大量の魔力を短剣に込める。


 トロールと接触する少し手前で短剣を下から振り上げる。

 使う魔術は父さん直伝の高火力の上級火魔術 


「【火柱(フレイムピラー)】!」

 床が少し赤く染まった次の瞬間、地面から溢れんばかりの炎の柱が形成されてトロールを攻撃、するかに見えた。

 実際はトロールには当たらなかった……いや、当てなかった。

 走っている巨体に火柱を当てても攻撃する時間は一瞬、しかも俺の攻撃は実際の所、当たっても脅威にはならない。

 でも、自身の目前に攻撃が置かれれば、脅威で無くても普通の生物なら足を止める。

 今の所、俺の知っているトロールの行動原理は狂気的では無く野性的、ただ突っ込んでくるのでは無く、本能で動いている。

 だから、危ない物に自ら突っ込んでは来ないという予想だ。

 そしてそれは的中した。

 トロールは火柱の前で勢いを殺して留まった、あのサイズが走って来たり飛び込んでくると小さな体ではそれの余波ですら死ぬ、一番危険だ。


 だからそれをさせない、その為に魔力消費の高い火柱まで使って動きを止めた。

 今からはビビらずに近接戦だ。

 だが結局は攻撃は避ける以外の選択肢しか無い、死にゲーを死なずにクリアするとかドMぐらいしかやらないだろ。


 さぁ、どんどん燃やしていこう、火魔術のオンパレードだ。


 トロールは雄叫びを上げて右拳を振り上げる、ここはかっこよくバックステップで避けたいんだけどサイズ感が違いすぎてそんな事をした暁にはペシャンコになって速攻1デス、YOU DIEDだ。

 今にも攻撃してくるトロールに背中を見せてカッコ悪く走ってトロールの射程距離から離れる様に走って避ける。


 その瞬間、俺の背中付近に巨大な拳が降り掛かる。

 トロールが地面を殴る音は机を叩きつける台パンの数十倍の大きさでもはや爆発音にも聞こえる。

 それに呆気を取られない様に直ぐに振り返ってトロールの左手側に周りながら剣先を顔に向ける。


 中級 火魔術

「【火塊(ファイアーボール)】」

 3発を回り込みながら顔に叩きつける、それを食らったトロールは少し痒い程度しかダメージが入っておらずそのまま左手も振りかざして来た。

 俺は撃ちながらも走っていたのでトロールの拳はさっきまで俺のいた所に叩きつけられた。

 観察している限り、トロール種が生物としては素早い方だけど……


「シャルの方が数倍早いな……『火の女神よ、業火の炎を宿し、怒りの矛先を()の者に』──【火柱(フライムピラー)】!」

 トロールが両手を振り下ろした直後に真後ろに回れたので詠唱時間が稼げた。

 覚えた時以来、使う事が殆ど無かった詠唱を唱える。

 詠唱は使う魔力が少なく威力が高い、詠唱時間を考慮しなければコスパ最強の技だ。

 きっと偉大な人達が研鑽を積んで改良に改良を重ねた結果、最適に調整されたんだろう。


 詠唱と短剣のお陰で膨大に膨れ上がった魔力が火柱に変わる。

 見た事も無い程に熱く大きくなった火柱がトロールを襲う。


 流石のトロールでも痛かったらしく耳が張り裂けそうな程、うるさく叫んでいる。

 並の人間が食らえば即死するレベルの高火力だ、致命傷にはならずともちょっとは動きが遅くなってくれても良いんだけど……


 火柱が消えるとそこには分厚い体毛が燃えて肥大化した筋肉が露わになっているトロールがいた。

 トロールはピクリとも動かない。

「もしかして……や、やったか──ッ!」

 しまった! この言葉は絶対に言っちゃいけないやつだ。

 緊張感が長時間続いて少し緩むと今みたいなフラグをつい口走ってしまった。


 直後、トロールが動き出した。

 振り返ると同時に腕を横に腕を振り回してきた。

 まずいッ! 普通に殴ると逃げられるから広範囲に攻撃してきた、想像以上に学習能力が高い。

 今から走っても避けきれない。


 中級 風魔術 【強風(ハイウィンド)

 自分に向けて強風を魔力で威力を底上げして使う。

 今は吹っ飛んだ後の事を考えている暇は無い。


「ぐぅッ!」

 勢い良く吹き飛んで床に強烈に叩きつけられる。

 背中から落ちたせいで鈍い痛みと肺に溜まっていた空気が全部押し出された。

 即死攻撃は免れたけど早くしないと次の攻撃が来る。


 走って追い打ちを狙うトロールに火塊をギリギリまで撃ちまくる。

 やっぱり防がずに全て顔で受け止めた。

 火塊を撃つ事が殆ど無意味にも思えるがこれで良い、あとは突進してくるトロールをギリギリで避けるしか無い。

 もう一度、風魔術で吹き飛ぶと意識が飛ぶかもしれないから安易には使えない。


 俺は左手と右手に魔力を込める。

 使う魔術はどちらも中級 土魔術

「【土壁】!」

 土で出来た広く大きな壁を二枚重ねて少しでも強度を上げる、しかし、これだけでは障害にすらならない。

 これは防ぐ事が目的じゃ無い、視界を遮ってその間に……走る!


 壁が形成されると同時に全速力で横に逃げる。

 気分は闘牛だ、違う点があるとすれば突っ込んでくるが牛じゃ無くて巨大な化け物って所だ。


 かなり強度に作った大きな二枚の壁は軽々しく突破された。

 あそこで待機していたら今頃俺は肉片に……考えないでおこう。

 壁で視界を遮れたお陰で土壁を突き破った後、トロールは俺を見失ってその場で止まった。

 また、突進される前に近付かないと。


 トロールが周囲を見渡してある一箇所を横目に見た。

 アイツ何処を見て……まずいッ!

 ペコ達を見ている、攻撃対象が変わってしまう。


 俺は火塊をトロールに撃ちまくるが俺の攻撃に一切興味を示さない。

 ゆっくりゆっくりとペコ達に近付いて行く。


 俺はグッと短剣を力強く握る、一か八かやるしか無い。

 注意を逸らす為には俺が危険だって思わせる。

 息を止めて全速力で走りながら魔力を高める。


 上級火魔術【火柱】と中級風魔術【旋風】の複合魔術

「【火災旋風】!」

 灼熱の柱と熱せられた風が高速回転する竜巻を起こす魔術だ。

 全身を火柱よりも火力の高い竜巻が直撃する。

 煙たくなってきた部屋の中を勢いを殺さずにトロールの足元まで駆けて武器を構える。


 力神流 鬼人の型 中級

「【鎌鼬(かまいたち)】!!!」 

 綺麗な型を使わずに狂った様に連続で色々な箇所を斬りつけて傷口を増やしまくる技だ。

「うぉぉぉぉぉ! これだけウザかったら無視でき無いだろッ!」

 分厚い体毛があったら俺の剣は皮膚に届かなかった筈だが、今は焼けて皮膚が露わになっているので足の皮膚をズタズタに切り裂けた。

 毛や鱗が丈夫な奴は弱い体を守る為に成長して行く、即ちそういう奴は皮膚や体内が脆い。

 さらに、傷が治りきる前に畳み掛ける。


 傷口に短剣を突き刺す。

 深くは刺さらなかったけど剣先さえ刺されば魔術を撃ちこめる。

 使う魔術は中級火魔術【火炎(ハイファイア)


「はぁぁぁッッッ!!!」

 魔力をこれでもかと込める、込めれば込めるほど威力と時間が伸びる。

 魔術は焚き火みたいな物だから(魔力)を焚べればどんどん勢いを増して行く。


 苦痛で叫ぶトロールと気合いで叫ぶ俺。

 この先は意地でも通さない、一匹と一人(二人)を死なせてたまるか。


 一度で魔力を送り込める量は無限じゃ無い……少しの間燃え続けていた魔術が途切れる。

 直ぐに次の攻撃を仕掛ける為に距離を取る。


 ゴクリと生唾を飲み込んでトロールを見つめる。

 焼けた傷口は再生する気配は無いが鎌鼬で斬りつけた傷は一瞬の内に回復した。

 ようやく少しダメージが入った、でも足に少し怪我を負わした程度、トロールは何事も無かった様に振り返ってきた。

 異常なまでの再生力、普通に殺そうとしても絶対に勝てない。


 深呼吸をしようとするが呼吸がし辛くなってきた……疲れているからか、それとも魔力の使いすぎか。


「Ga──Gaaaaaaaaaaaa」

 そして、突如トロールがフラフラとバランスを崩して膝をついて、頭を両手で抱えて叫ぶ。

 何故、トロールは頭を抱えるか。何故、呼吸がし辛いか。

 俺はその理由をよく知っている……いや、日本人なら誰しも知っている。


 学生時代に嫌でも何度も学ぶ()()()()()

『火事になったら姿勢を低くしてハンカチで口元を塞げ』だ。

 火事の時に発生する煙を吸えば吸うほど死に近付いていく現象、一酸化中毒だ。

 呼吸に必要な酸素が無くなって有毒なガスを吸えば次第に意識を失って行く筈だ。


 何故、俺が立っていてトロールが膝を突いているかは体のサイズによるからだ。

 トロールは俺より天井に近くて多くの酸素を必要とする、それは酸素の少ない火事場や地下では致命的だ。

 俺は最後の仕上げに残っている魔力の多くを使って最後の魔術を使う。

 上級 火魔術 【火柱(フレイムピラー)

 ありったけの魔力を込めて放つ魔術は威力もそうだが空気中の多くの酸素を使い果たしてくれるだろう。


 絶叫するトロールに見向きもせずに服で口元を覆って残っている体力を使ってペコ達の元に駆け寄る。

「時間かけてごめんな……後あんまり呼吸すると危ないから我慢していてくれ」


 謎の少女とペコを抱き抱えてトロールを無視して階段までゆっくりと必死に歩いて行く。

 もう、トロールは脅威じゃ無い……後は呼吸をしているだけで死ぬだけだろう。

 俺もかなり息を吸ってしまった……早く俺も二人も新鮮な空気を吸わ無いと……


 重い足を気合いで持ち上げて、階段を一歩一歩登って行く。

「フィオラ……俺だって自分の力だけで守りきれたぞ……だからフィオラも……必ず……助けてやるからな」

 ふらふらになりながら螺旋状の階段を登りきる。

 あぁ、もう意識が持たないや……でも大丈夫、今回は守りきれたから、ちょっとここで眠るだけだ。


 出口の前の床にバタリと倒れ込む。

 視界が薄れて意識が離れて行く、ちょっと頑張りすぎちゃったかな。


 ーーーー


 少しだけ意識が戻ってきた。

 ユラユラと揺れている感覚がある、それは嫌な感覚では無くてなんだか心地よくて心温まる感覚だ。

 薄らと視界を開けるとチラリと黒くて長い髪が映った。

 この人が誰かも分からないし、理由も分からないけど……嫌な気はしない……次第に眠気が襲ってくる。

 今はこの感覚に浸りたい。

 そうしてまた意識が離れていった。

最後まで読んで頂きありがとうございます!

次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!

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