百二十四話 言ったもん勝ち
目の前には俺が前に殺されかけたトロールの上位種、隣には封印されてた謎の少女と賢いモンスターのペコ。
しかも少女は眠っているのか気絶しているのか分からないけど目を覚さない、ペコもトロールの衝撃で吹っ飛ばされてかなり疲弊している。
今もフラフラになりながら少女に駆け寄ろうとしている。
助けてあげたいけど俺がペコに構ってる暇に直ぐにでもあの化け物に殺される。
「ペコ。少しの間、その子と一緒にそこにいてくれ。ペコもその子も必ず助けてやるからな」
俺の取り敢えずの目標は三人とも生きて帰る事。
でも、襲ってくるトロールから二人を連れて逃げるのはたぶん不可能だ。
目の前のモンスターを無理に倒す必要は無い、あのサイズなら階段を登っては来れないから動きを止めてその間に逃げる。これしか無い。
トロール系の特徴は今知ってる限りでは異常なまでに早い再生力と恐ろしいまでの馬鹿力、それと俊敏な動き。
サイズはだいたい五メートルぐらい、常識的に行けば動きは遅い筈だ、いやそうであってくれ。
まずは速度を確認する、流石にあの巨体の攻撃を受け流しに行くのは流石に怖い、一度でもミスしたら即死だ。
それに早すぎると避ける前に一撃で殺される。
近付いて避けながら戦うか、距離を取って戦うかの二択しか無い。
そして、俺はミスも良くするし怖いから後者を選ぶ。
それに今の俺にはかなり狂ってるとっておきの作戦がある。
トロールが動くよりも先にこっちから仕掛ける。
俺はトロールを中心として円を描く様にペコ達がいる所の反対側に走りながら握っている短剣に魔力を込める。
中級 火魔術
「【火塊】!」
剣先から通常の火塊よりもサイズも威力も短剣の影響で強化された状態で何発も撃ち出された。
いつもなら、中級魔術を何発も撃つと魔力を結構消費するけどこの短剣のおかげでそれ程多くの魔力を使わずに威力の高い魔術が使える。
コスパの悪い俺を支えてくれる超助かる武器だ。
強化された火塊の矛作はトロールの顔面に目掛けて飛んでいく。
この攻撃で倒せるとは流石に思っていない、この攻撃をどう防ぐか、どう避けるかを確認したい。
何故、火魔術を選んだかは理由が二つある、その内の一つが再生能力持ちは火が弱点って話は有名だからだ。
トロールは高火力の火塊を──
「おいおい、マジかよ……」
防ぐ事も避ける事もせず直撃した。
それは俺の攻撃が当たってダメージが入ってるとかそんな簡単な話じゃ無い、俺の高火力の火塊を防ぐ必要も避ける必要も無い……つまりダメージを一切受けていない。
考えてる暇は無い、相手が動くよりも先に次の攻撃を──
「Gaaaaaaaaaaaaaa」
突如、いや俺の火塊が引き金となってトロールが叫んだ。
上位種のトロールが吐いた咆哮は鼓膜を突き破る様な溢れんばかりの怒号だった。
あれを見れば誰だって分かる。
怒っている……トロールが臨戦態勢に入った。
筋肉が肥大化し、分厚い体毛からでも見えるぐらいに血管が浮かび上がった。
トロールの体が全身を巡る血で赤色に染まる、初めて見る光景に呆気に取られそうにもなったけど油断していると殺されるのはすぐに分かった。
撃ち続けるしか無い。
トロールは人型で二足歩行だが人いうよりはゴリラに近い、俺に向かって前傾姿勢になって力を溜め込んでいる。
シャルみたいにほんの一瞬の隙に高速で突っ込んで来たら俺に防ぐ術が無い、もう走ってくる時を想定して魔力を込めるしかない。
トロールの動きが一瞬止まった、来る。
壁を生成して動きを少しで良いから止めたい。
使う魔術は土属性 中級魔術
「ソイル・ウォ――――はぁ!? うそうそうそうそ! 流石にそれは無理だってッ――――」
力を溜め込んだトロールは高速で突っ込んで来る事も無ければ走ってくる事もしなかった。
その場で勢い良く飛び跳ねた……そう、踏み潰す気だ。
俺は直ぐに魔術を使うのを止めて死ぬ気で走った。
走るだけなら壁を出して止める事も出来るかも知れないが、飛び込んで来る巨体を壁一枚でどうにかできるわけが無い。
ペコ達が居る反対側に走って何とかして一人と一匹からトロールを遠ざける。
でも、七歳の子供の体では勿論、回避が完璧に間に合う訳もなくすぐ隣に落ちてきたトロールの衝撃波でまた壁に目掛けて吹き飛ばされた。
「うぐぁッ!」
勢い良く壁に激突しそうになるのを咄嗟に壁に手を向けて魔力を込める。
中級 風魔術 【強風】
強烈な風が壁に激突して、跳ね返るように俺に向かってくる。
跳ね返った風がクッションの役目を担ってくれて止まらずとも壁に激突した時の威力を落としてくれた。
「くっそ……痛い」
まだトロールの攻撃を直接食らった訳でも無いのに2度も吹き飛ばされて体が悲鳴を上げつつある。
ふと、立ち上がる時に壁にもたれ掛かると壁と言うには少しだけ違和感があった。
俺が持たれかかった所はちょうど入口だった。
このまま入って階段を登ると、俺は確実に逃げる事に成功して生き残れるだろう。
でも、倒れている女の子と友達を捨てて俺は自分を許せるだろうか……絶対に無理だ、俺が憧れた主人公はそんなかっこ悪い事は絶対にしない、バカ正直に人を助けて、見返りを求めないのがカッコイイ主人公だ。
それにペコが死ねばフィオラが悲しむ、それは絶対に嫌だ。
俺は立ち上がってその場に落ちている短剣を握る。
どれだけ敵にボコられても武器だけは落とすなってなんかの作品で言ってた気がするな、それでいくと俺は二流も良い所だ。
だから、そんな二流の俺は圧勝するとかカッコよく助けるとかは目的じゃない。
勝つ時はダサくても良いしギリギリで勝つ、死にそうになったら走って逃げる。
別に無理に世界は救わないし、自分の手でつかみ取れる範囲の大切な人を助ける為に頑張るだけだ。
そして今がその時だ。
友達とその友達が守ろうとしている大切な人は俺が助けたい相手だ。
そろそろ俺も本気で行く。
さっきまでは本気じゃ無かったのか! って怒られそうだしさっきもめちゃくちゃ本気だったけどこう言うのは気合いの問題だ。
見栄も張るし嘘も着く、こんなのは言ったもん勝ちなんだよ!
意気込みだけは化け物にだって俺は負けない。
俺は大きく深く息を吸い込む。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 決めた、俺はもう逃げない。ここからは化け物討伐の時間だ!」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!