百二十三話 死ぬ気で死ぬな
「あれを助けろって事か……ペコ……」
走って駆け寄るペコとは別に俺はゆっくりと警戒しながらその少女に近付いた。
服を着ていないその少女は余りにも惨めで可哀想だった。
こういう事する奴ってなんで直ぐに裸にするんだろうか……服着せて封印しても変わらないだろうに。
一番の問題はコレを助けても良いかどうかだ。
取り敢えず封印されていると仮定した場合。
悪い奴に封印された良い人なのかはたまた、良い奴に封印された悪い人なのか……どちらかだろう。
パッと見た感じ目立った外傷は無い。
それにペコの目的は十中八九この子で間違い無い。
だってそれ以外にこの部屋何も無いし。
周囲をどれだけ見渡しても、見えるのは白い壁と天井だけ。
柱も無ければ物陰すらないので特にモンスターが隠れている事も無い。
ペコを信じると誓ったからには助ける方向性なのは間違い無いけど……
不測の事態も考えて逃亡用のルートを頭に刻み込む。
それと魔力が使えるかも確認する、封印されている部屋で魔力が使えないとかは結構ありそうだしな。
魔力が使える事を確認してから、靴が脱げなか、剣を持っているかを確認した。準備万端だ。
封印される程に危険な少女って事なら考えられるのは魔女とかの類かな。
街を滅ぼす魔術が使えるとか、存在するだけで危険な力を持ってるとか。
これ封印解かない方が正解なのでは……
ええい、もうどうにでもなれ。
やばい力を持ってるなら封印解いたお礼に助けて貰おう、それぐらいしないとフィオラを取り戻す事は不可能だろうからな、手段は選んでられない。
「これどうやったら封印解けるんだ? まぁ、考えても分からないしその場の勢いでやるか!」
俺は張り巡らされている結界にまずは髪の毛を一本引き抜いてからゆっくりと結界の中に入れてみた。
よし、別にこの中に入っても消滅したりはしないみたいだ。
助ける方法は理解は出来てない。
けど、何と無く……何故かは知らないが分かっているみたいに俺は結界の中に入っていった。
これが直感なのかペコのおかげなのか知らないけど、そのまま歩みを進めた。
結界の中は水の中にいるみたいに体がふわふわしている感じだ。
魔力で溺れそうになる初めての体験に苦しみを覚えながらもグッと堪えながら少女の元に近付いた。
少女の顔に触れた刹那、結界や魔法陣がひび割れて発光した後にバリンッとガラスが割れたみたいな音が鳴り響いて結界や魔法陣の全てが破壊された。
俺は何もしていない、俺にこんな力は無い。
これを行ったのはペコかこの少女のどちらかだ。
倒れ込んだ少女を抱き抱えてから俺が着ていた上着を着せて床に寝転ばさせる。
ペコがその少女に近付いて触れようとした時だった。
神殿内全体が真っ赤に染まる。
天井全体に広がる赤い魔法陣が現れてそこから不気味な何かゆっくりと現れた。
あれ召喚魔法とかの類だろ、絶対にあれと戦ったらだめだ。直感で分かる、あれはやばい。
きっと防衛機能が備わっていたんだ、結界等が解除された時に侵入者を排除する為に。
完全に現れるまでにちょっと時間がかかりそうだ、今の内に距離をとって逃げるしか無い。
今見えている一部だけでもかなりのサイズだ。
俺は少女を背負って天井から出て来ている奴の足元を避けて入口目掛けて走った。
「ペコ、頼むから走ってくれぇぇぇー! あとこの子重いぃぃぃ!」
判断と勢いは自画自賛したいぐらい全速力で走っているのに全く進んでくれない。
十六歳の俺からしたら軽い少女なんだけど、七歳の俺からしたら失礼だけど、めちゃくちゃ重い。
それに今の俺よりちょっと身長高いみたいだから体格差もあるからかなりきつい。
あのサイズが落ちて来たらきっと衝撃波がすごいはずだ、その時に扉側にさえ向いていたらそっちに吹っ飛ばされるはずだ。
それが上手くいかなかったら……いかなかったら……その時に考えろ俺!
「やばいやばいやばいやばい! もう落ちて来るのかよッ! うわッ──」
天井にある赤い魔法陣から巨体が落ちて来て俺はその落下の衝撃を受けて少女を抱えたまま吹っ飛ばされた。
少女が怪我をしない様に抱き抱えて背中を丸めて転がる様に壁際に飛ばされる。
「痛すぎるだろ──怪我は!? 良かった……」
上着を被せていて良かった、服がない状態で吹っ飛ばされたら酷い怪我をしてたに違い無い。
それよりもどこに飛ばされたんだ、作戦通り扉側に飛んだのか!?
「ゴホッゴホッ……出口はどこだ!?」
周囲を見渡して必死に出口を探す、視界にペコと少女が居るのは見えた。
右の壁にも無い……左の壁にも無い……
「おいおい……嘘だろ……流石にその冗談はキツいって!」
今、俺が……俺達がいる場所は……
扉の反対側の壁、部屋の角だ。
ここから最短距離で一人で走っても結構かかるのに真ん中にはデカい化け物が居て、しかも一人と一匹を連れて逃げ切れる訳がない。
しかもあの怪物の顔は嫌でも忘れれない。
「トロールだ……」
俺が殺されかけたトロール、父さんとライゼンさんが二人掛で倒したジャイアントトロール……それと同じタイプだ。
それにコイツは俺が知ってるやつとは確実に違う、俺のはせいぜい二メートルかそこらのサイズだ。
でも、今俺の目の前にいる奴はそんなサイズ感じゃない……五メートルぐらいはあるだろ……これ……
こう言うのって最初に負けた相手を再戦するんじゃ無いのかよ!
何で普通のトロールも倒してないのに上位互換が出てくるんだよ!
くそっ! そんな時に愚痴言ってても始まらないけど。
俺一人で担いで逃げるのは無理だ。
「おい、おい! 起きてくれ! なんか凄い力とか持ってないのか!?」
くそっ! やっぱり都合よく起きてはくれないか。
やるしか……無いのか……
「へっへへへ。ペコ、その子頼んだぞ」
恐怖からなのかおかしくなったのか分からないけど変な笑いが込み上げて来た。
「ここで全員生き残って帰ったら流石にかっこいいぞ! 死んで助けるのはかっこよく無いからな、俺!」
自分に言い聞かせる様に、恐怖をかき消す様に大声で叫ぶ。
一周回って震えとか出ないのが唯一の救いだ、腰に刺している凄い剣を抜いてから力と魔力をめいいっぱい込める。
「フィラの為にも死ねないんだよ俺は! 火事場の馬鹿力見せてやるよこの化け物が!」
口調も態度でもデカくて悪いくらいじゃやないとやってられないぞマジで!
無理矢理でもテンション上げてアドレナリンを出してやるしか無い。
ここで生き残らないとフィオラを助けるなんてまず無理だ。
ここが正念場だ。
死ぬ気で死ぬな!
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!