百二十二話 神殿の奥底で
「これ、入らなきゃダメか? っておい、ペコ! ……もうちょっと俺の言う事も聞いて欲しいんだけど」
うちの子は我が物顔で遠慮する素振りも無く堂々と入って行った。
なんて奴だ、まだ心の準備が出来てないってのに、他人の家に堂々と入る様な子に育てた覚えはありません!
とまぁ、保護者感を醸し出しながら付いて行く。
「し、失礼しまーす……」
完全に空き巣みたいな感じでこっそりこっそり中に侵入した。
憧れだった冒険したい50%、不安だから逃げ出したい50%って感じで今だに不安だ、ペコが居てくれるからまだマシだけど俺一人だったら怖くて逃げてるかも知れない。
「うわっ薄暗いな……ペコ、灯りに使えそうな物は無いか?」
夜目に慣れ無い状態で周囲を見渡してみる、扉からギリギリ入ってくる光を頼りに壁伝いに灯りになりそうな物を探す。
だいたいこういう時は入り口近くの壁に松明なんかが置いてあるもんだ。
うーん…無いな。
俺は松明は諦めて初級火魔術の炎を発動だけして手の上で止まらせた。
そう言えば魔術で出した火は何故か熱くは無いんだよな、魔術で何かが燃えるとそれは凄く熱いのに何で何だろう。
その辺も今度時間が空いたら調べてみるか。
今後、旅をするならいくらでも時間はあるだろうしな。
洞窟などで火を使うと確か酸素が無くなるけど今は扉開けっぱなしだから大丈夫だろう。
灯りができた事で周囲がある程度見える様になった。
神殿内はとても綺麗な柱や装飾品で彩られていたけど、長年掃除とかされていないのが直ぐに分かるぐらい埃や蜘蛛の巣が隅の所などから広がっていた。
「まぁ、現実だとこんなもんか……」
それよりもこの世界にも蜘蛛みたいな小さな虫もいるんだな、もしかして滅茶苦茶大きな蜘蛛型モンスターとか……考えないで置こう。
「おぉー白くて丸い柱だ! 何で見たかは忘れたけど、どっかで見たことある奴だ!」
少しの間、キョロキョロと神殿内を見渡しながらゲームとかアニメで見たことある様な神殿に心踊らせながら探索をした。
広さはだいたい普通の体育館ぐらいのサイズで天井はまぁまぁ高くて今の俺じゃ絶対に届かない高さだ。
これあれだ、モンスタを探す時に『どこにもいなぞ!?』 『上だ!』の件をやるタイプの天井だ。
そんな事を考えていると気になって上をチラっと見てみるが特にモンスターがいそうな気配は無い、いたら全滅確定だから良かった。
だいたいは調べたから後はペコが待機している一番奥の所だけだな。
今日のペコはいつもの何考えてるか分からず、適当にほっつき歩いてる野生的な小動物では無く、何か考えがあって行動している理性的な生き物だ。
ペコの目線の先にある物に目を向ける。
「何だこれ……台座?」
台座っぽい物は柱に円盤がついている様な形で高さは俺より少し小さいぐらいだし多分1メートル前後ぐらいだと思う。
ゲームとかでみる奴は宝石とか嵌め込むと隠し扉なんかが出る筈だけどそれっぽい物を嵌め込む場所が見当たらない。
これが何かのスイッチにはなりそうなんだけど……どうしようか。
「なぁ、ペコ……何か知ってるんだろ? 助けてくれよ」
俺はペコと目線を合わせる為に子供と話す様にしゃがみ込んで話しかけた。
するとペコは自分の右手を差し出して来た、それも何かに手を置く様な動作をした。
よし、今のジェスチャーで全てが分かった、さすがペコだ。
「お前はお手が出来たんだな、偉いぞペコぉー」
ペコの頭を撫で回して甘やかす、この愛くるしい見た目で噛まずにお手で甘えてくるなんていつからこんなに可愛くなっちまったんだ。
「次はおかわりを覚えような!」
声が反響するとても静かな神殿内にガブリと大きめな音が鳴り響いた。
そして続け様に俺の悲鳴が鳴り響いた。
「ちょっと遊んだだけじゃんか! 分かってるよ! 台座に手を置けば良いんだろ!? 置きますよ! 置かせていただきます!」
痛みに堪える為に文句を垂れながら台座に右手を掲げた。
「……あれ?」
何も反応が起きない、やり方間違ってるか? それとも左手……でもダメだな。
「フンっ!」
置いている右手にめいいっぱい力を入れる、それでもダメなので次は違う力を込める。
魔力だ……こう言うのは血とか魔力とかを使うのが相場は決まっている。
生憎、血はさっきペコに噛まれた時に出たけど反応が無かったから最後の策に出たわけだ。
手に魔力を込める……少しすると一番奥の壁が動く音が聞こえた。
当たりだったみたいだ、これは秘密の部屋が出てくるんだろう、たぶん。
中には伝説の剣やら魔法の道具とか封印されているんだろう……きっとそうに違い無い!
どんなお宝が待ってるんだろう、今はとにかく戦力か資金を手に入れたい。
だから強い装備がほしい、呪いの力でも何でも良いから手に入れたい。
「……階段?」
開けた壁の先には小さな小部屋と地下に続く螺旋状の階段があった、この部屋は階段を隠す為に作られたんだろうか。
ペコは躊躇う事無く、階段を降りていった。
ペコはいったいどこまで理解して動いてるんだ……それとも全部知っていて動いているのか。
螺旋階段は少し狭くて横幅は人がひとり入れる程度しか無い。
地下に行くなら火を使うと酸素が減っていくのは有名だけどどれだけ燃やすとダメなんだろう……
この俺の手で燃えている火は酸素を使っているのだろうか、それとも魔力だけを使って燃えているだけなのか。
でも洞窟では松明を使うのが有名って事は少量なら大丈夫だと思っておこう。
右手で出している炎が螺旋階段の先とペコの背中を照らす。
俺は最初、ペコを殺そうとした。殺す勇気があったかは定かでは無いけれど、多分フィオラが助けようとしなかったり、ペコが先に襲って来ていたら殺していたからもしれない。
いざ、助けてみると生意気だけど結構見た目は可愛いし、賢かった。
普通の犬や猫と違い意思疎通も取れる分、友達感覚もあったりで愛着も湧いて来た。
今はペコも大切な俺の仲間でフィオラもたぶん同じ考えだ。
何があっても失う訳には行かない。
でも……ペコはどうなんだろうか。
賢いとは思っていたけど、今日みたいに明確な意志を持って行動したのを見るのは初めてだ。
そもそも種族が違う、食べ物が違う、常識が違う。
ペコは俺達の事、どう思っているのだろうか。
ペコはモンスターだけど味方なのか……
それともモンスターだから敵なのか……
なんで急に不安になってるんだ俺は。
「ペコ……ペコが俺達の傍に居るのは何でなんだ? 俺達の味方なのか? それとも敵なのか……?」
声は返って来ない、それは知ってる。
言葉の意味を理解しているだけで話せるわけじゃないからだ。
ペコは不安になっている俺に近付いて足をカプリと優しく噛んできた。
「あはは、どっちだよ……もう……」
聞く前と聞いた後でも答えは変わらない……けど安心出来た。
結局は信じたい方を信じるしかないんだな。
俺は危険なペコを知らない。
フィオラとペコと過ごしたあの楽しかった思い出しか知らない。
この先に何があって、ペコが何故この場所を知っていて、何の目的で俺を連れて来たかは分からない。
でも、俺はペコを信じてみよう。
だってもう、ペコは俺とフィオラの友達なんだから。
俺は決心が付いて歩みを進める。
降りて行くと次第に一つの違和感に気付いた。
俺はそれを確かめるために手に出して居る炎に送っていた魔力を途絶えさせた。
すると火は次第に勢いを無くして消滅した。
魔力が送り込まれ無くなった魔術は燃料が無くなった火と同じで消えていく。
火が消えてもその違和感が消えることは無かった。
地下深くに進んでいるのに進む度に次第に明るくなっている。
それも松明とかランタンとかの次元の話じゃない。
もっと未知で眩い光が階段の奥から広がっていた。
螺旋階段も終わりを迎えて、その光の発生している部屋にたどり着いた。
そこは上の神殿と同じぐらいのサイズ、だけど違う点はあまりにも神々しすぎる所だ。
こっちも上と同じで人が掃除してるとは思えないのに異常な程に一面が銀世界で真っ白な空間だけが広がっていた。
部屋に入ると真っ白で何も無い空間に一つだけ……いや、1人だけその異質な空間に存在していた。
この神々しすぎる神殿の最奥にあまりにも盛大に結界やら魔法陣やらで閉じ込めて縛られている、或いは封印されている少女がそこに居た。
「あれを助けろって事か……ペコ……」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!