百二十一話 森の奥のその先へ
「ふぅ……ここまで戦ったら流石にそろそろ慣れて来たな」
あれから数体のホーンボアとよく分からないシカ見たいなモンスターとかと戦って何度か危なかったけど無事に勝つことができた。
進んでは戦って後ろに引いて、戦闘を挟む度に森の調査が少し難航して居た。
ペコもモンスターだからちょっとは戦ってくれるかと思ってたけど一番最初の戦闘以降手伝う気配が全く無い。
これはペコが面倒くさいだけなのか、俺が勝てると分かったからなのか。
「おい、食べるなよそれ。そんなの食ったらお腹壊すぞ」
別に食べようとしてたかは分からないけどペコが今さっき倒れたホーンボアに近付いて何か吟味して居たから先に注意喚起だ。
ペコは日本人だった俺からしたら犬ちか猫と同じペット感覚だ。
だから人を襲ったり、出来るだけモンスターは食って欲しく無い。
ペコは俺を見るとため息をこぼしていた。
俺をアホだと思っている顔だ、それともこんな安い肉は食べない的な奴か……ペコはグルメなのかもしれない。
心外だぞ! 見たいな反応をされたので何をしてるのか近付いて見てみると匂いを嗅いでいたり、ホーンベアの体をジロジロと見ていた。
やっぱり食べようとしてるじゃ無いか、モンスターの肉は食った事は無いけどなんか臭そうだし魔力がこもってるならお腹壊したり毒があったりしそうで食欲が全く湧いてこない。
そもそも動いてる生き物を見てすぐに加工された肉を想像出来ない、動物園に行って檻の中のいる動物を見て食欲は普通ならわかないはずだ。
肉食獣になる前にペコをホーンボアから引き剥がして、この場所から離れようとした時ペコからの合図が来た。
敵だ、俺には聞こえないし見えないけど同じモンスターのペコならそれが分かるみたいだ。
ホーンベアやそれと同じぐらいの強さのモンスターでは何も反応を示さなかったって事は今の合図は確実にそれ以上の奴が来る、そしてそれはこの森のボスでもあったネイルウルフだと思う。
しかもアイツらは群れで狩をするらしい、かなり厄介だ。
姿はまだ見えないけど俺でも聞こえる様になって来た。
戦闘に慣れて来て、続け様に強敵との戦闘、異世界転生って言うか冒険って言うか、取り敢えずそんな感じがして来た、よし!
「逃げるぞペコ」
その時、ペコの顔がチキンを見て軽蔑するゲスを見る顔になっていた。
だってくっそ怖いじゃん、イノシシですら怖かったのにいきなり襲って来たから戦うしか無くて、それのお陰でちょっと耐性付いたけど流石に狼は無理、しかも俺が生前で知ってる狼に凶器を持ってて体は大きくなってて凶暴になっている奴なんて絶対無理だ、今はフィオラもいないからカッコつける必要も無いし。
森の奥には行きたい、でもネイルウルフとは戦いたく無い。
ペコを抱き抱えて大きく迂回して森の奥に走って向かっていった。
俺のいた国には「逃げるが勝ち」「逃◯る恥だが役に立つ」「逃げるんだよォー」何て戦略的撤退を推進している言葉が沢山ある、何も恥ずかしくない。
そうしてプライドを一旦ドブに捨ててから拾い上げて森の奥に到着した。
ペコからはチキン野郎の烙印を押された気がするが今更だろう。
森の奥は驚く程広くて、木が生えていない広場みたいになっているところに出た。
多分ここがゴールかな。
聞いた話だけど父さんとライゼンさんがヤバめなジャイアン・トロールだかジャイアント・トロールだか名前は不確かだけど俺が戦ったクソ強かったトロールの上位互換見たいな化け物と戦ったのは多分この場所だろう。
冒険って感じがするので周囲を見渡しながら楽しんでいると、そんな俺を置いていく勢いでペコは森の奥へ奥へと進んで行く。
もうちょっと周りとか探索して見たい気持ちをグッと堪えてペコの背中を追いかける。
この広場は円状に広がっていてその周囲は木に囲まれている、ペコが進んでいる方向もほぼ同じで少し違う点があるとすればその先は断崖絶壁で崖を登る人以外は無関係な壁となっている。
「あの壁以外は特に何も無さそうだな。先に言うけど俺は絶対崖は登りたく無いぞ」
相変わらず無愛想、いつもの事だけど今日は特に愛想が足りない。
いや、よく分かんないけど……余裕が無いのかもしれない、と思った。
「ん!?」
今、なんか不思議な感じがした。
ペコと並んでして歩いていると何があったか分からないけどふと、体に何かが波打つ感じがした。
ちょっとほんとに分からないけど暖かくて薄い波を通り抜けたみたいな感じだった。
咄嗟に後ろに振り返って見ても特に何も無いし、変わらない景色が一面に広がっていた。
「何だったんだ今の……ってどうしたペコ?」
ペコが俺のズボンを引っ張って来た、引っ張ろうとした先には崖しかないはず……何だけど……
「おいおいおいおい……何だよこれ」
俺の目の前には確かに崖しかなかった筈だ……でも、今目の前にあるのは──
「これは洞窟……ダンジョン……いや神殿かな……」
目の前にはさっきまで無かったのに神殿の様な物が立ちはだかっていた。
それは左右に開ける大扉があって高さは2mぐらいだ。
そして一つの大きな謎があった。
でもその謎は後回しにしよう。
さっきまで無かったのに今はあるって事はいくつか選択肢があるな。
一つ目は幻覚。見えているのが幻覚か、見えない様にされてた幻覚かは分からないけど。
二つ目は結界。認識阻害とか隠蔽だとかその辺の結界が貼られていた場合、その結界の外にいた時は見えなくて、さっきの不思議な感覚が結界に入って見える様になったとか。
三つ目は転移や転送、瞬間移動の類だ。
神殿が飛んできた場合、似た景色の違う場所に俺達が飛ばされた場合とか。
時間はあるんだし調べてみるか。
一度来た道を戻って見るとさっきと似た様な感じの感覚が全身に広がっていた。
振り返ると神殿は愚か、ペコの姿も見えなくなっていた。
ここまではどの予想も同じだ、ここからが検証次第で変わってくる。
取り敢えず左腰に刺している剣を左手で触りながら魔力を込める。
中級土魔術
「【土壁】」
これはよく使っている土の壁を形成する簡易的な壁を出せる魔術で道を塞いだり、攻撃を防いだりする魔術だ。
これを縦向きに使って壁の距離を少し伸ばして使う。
床から壁が生えて来たけどある場所を境に壁が途切れた。これは魔術が終わった訳では無くて途端に消えた事になる。
これだけなら俺が見えなくなったのと同じだけど土壁にはまだ魔力を込めれる。
一度使い終えた魔術には魔力は込めれない。何かしら特別な事をしたら行けるのかも知れないけど今の俺の常識と実力では無理だ。
つまりは土壁はこの途絶えた先でまだ伸びている、転移や転送なんかしてたら魔力が強制的に終了されるはずだから、三つ目の選択肢を消せた訳だ。
次は幻覚と結界かどうか調べてみよう。
その為に一度ペコの所に戻る。
「ペコ、危ないから少し下がっててくれ」
それだけ言って俺はまた外側に出て見た、我ながらあまり良い方法じゃ無いとは思ってるけどこれしか思い付かないからな。
中級水魔術
「氷塊」
俺の手から発射された大きな氷の塊は素早く射出されて少しすると甲高い音と共に砕け散る音が聞こえた。
そのまま続けてかなり上の岩の壁目掛け同じ様に撃ってみた。
こっちは鈍い音が聞こえてから砕け散る音が聞こえた。
映画とかでみる音の反響で神殿が何の素材で作られてるとかは全く分からないけど、俺が確実に言えるのは神殿と岩に当たった音が違うという事は見えている神殿は幻では無く本当に存在している事になる。
つまりは一つ目の選択肢もハズレ。
俺の予想は二つ目が正解に限り無く近い、この神殿は何かしらの結界で守られているとという事になる。
色々調べてから結界の中に入るとペコが何してんだコイツみたいな顔をしていた。
悪いなペコ、俺は気になった物はある程度触っていくタイプなんだ。
でもペコの気持ちも分かる。
普通はこういう場合はノリと勢いで進んでなんか不思議なことが起こってそのまま流される様に危険な目に遭うのがファンタジーだ。
でも、俺からしたら紛れもない現実で怖いものは避けて通るし、気になった事は自分のわかる範囲で調べる。
俺が物語の主人公ならかなり主人公に向いていない部類だろう、人の家の壺やタンスを荒らして周る伝説の勇者や
緑の服を着た選ばれし英雄とかとは真逆だ。
それに理不尽に初見殺しにも会いたくないし最大限警戒して行こう。
そのままペコと一緒に神殿の正面まで進んだ。
最初に見た時からあった最大の謎を回収して行こう。
「何で扉が開いてるんだ?」
誰かが先に入ったのか、中から何かが出て来たのか……謎と不安が脳裏に過ぎる。
ここからはきっと何かしらの危険があるに違いない。
最大限警戒して、心して進もう。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!