百二十話 森の調査 第2回
村には動ける人材は俺しか居ない、だから村を出てフィオラと父さんを探す旅に出ようと決心して準備を終えるとペコがやって来た。
俺の適当な予想が正しかったら多分ペコは俺を何処かに連れていきたいらしい。
と勝手に思ってペコを抱き抱えて村の中央までやって来た。
最後ぐらいはコイツとしっかりと向き合っても良いのかもしれない。
中央に着くとペコが俺の手を優しくカプリと甘噛みしてきた、止まれの合図だと思ってその場で止まった。
「ペコ、次はどっちだ?」
ペコは体をジタバタさせていたので離してやると勢いよく俺の腕から飛び降りた。
その後、俺に背中を向けながらペコは銀狼の森の方に進んで行った。
ペコの目的地は森の方らしい。
この森ではいろいろあった、ペコと初めて出会ったのもこの森付近だし、フィオラと会ったのもここだ。
モンスターと初めて戦ったのも、フィオラが俺を守ってくれたのも、死にかけたのもこの森だ。
森には勝手に入っちゃダメだ、でもそれはモンスターに襲われて危険だからだ。
大丈夫、この森で一番強いモンスターはネイル・ウルフ、今の俺なら問題は無く勝てる……はずだ。
今の俺でも出会うとすぐにでも殺されるやばい奴は本来居ないはずのモンスターで父さんとライゼンさんが全て倒してくれているから今のこの森に危険は無い。
俺は腰に刺している剣を確認して、深呼吸をしてからペコの背中を追いかけた。
ーーーー
森に入ってすぐの事
「ペコ、見張りの人に見つかったら連れ戻される所だったんだぞ! それを助けたのになんで噛むんだよ!」
ペコがゴリ押しで通ろうとしたので尻尾を掴んで止めて、見張りの人が交代するタイミングでペコを抱えて走って中に侵入した。
何処かの伝説の傭兵もびっくりのステルス能力だ。
「待たせたな」
先に進んでいたペコの所まで走って追いついた。
俺は今、ペコと初めて横並びで歩いている。
コイツは自由人、もとい自由モンスターだから基本的に足並みは揃えないし、そもそも一緒に歩いてもくれなかった。
俺が触ろうとすると露骨に嫌な顔して噛んでくるし、触らせてくれるのは俺が干し肉を上げた時だけだった頃に比べるとかなり仲良くなった方では無いのだろうか。
「ペコ、先に言うけどお前見た目は可愛いけど今からマスコット枠は流石に無理があるからな」
あ、すっごい睨んでくる、これ目を合わせたらまた噛みついてくるに違い無い。
「どれだけ小さくて可愛くて大人しくても人間に噛み付くモンスターは他の人から見たら怖がられたり討伐の対象になる筈だ、あるかは知らないけどモンスターとか魔族を絶対に殺す集団とかにバレたら流石に俺でも守りきれないから噛みつくのは俺だけにしとけよ。お前がいなくなるとフィオラが悲しむからな」
ペコは返事をしない……けど、きっと俺の言いたい事はなんとなく分かってくれてるはずだ。
コイツは……ペコは賢いからな。
ペコは俺が話し終えると近づいて来てまたガブリと噛んで来た。
「噛んでも良いとは言ってな──」
噛んですぐに離してからペコが森の奥に向かって進まなくなった。
「……モンスターか!」
俺はすぐに剣を抜いてからペコの前に立ちはだかった。
足音は草木が風に当てられて全然聞こえない、でも多分いる。
同じモンスターのペコが合図を出したんだからきっとあってる。
短剣を強く握ってから魔力を込める。
剣を介した魔術は効率的になって使う魔力も少なくなる、魔術の形をイジってもそれほど多くの魔力は消費されない、俺の持って居た杖よりも魔力と相性が良い武器だ。
氷魔術 中級 【氷塊】
剣の先から氷の塊が出現した。
よく分かってないけど魔術が出てくる場所は素手なら掌から、杖やこの剣は先端から出てくる。
もしかしたら杖の先には宝石が付いてたからそこから出るのかも知れない。
詠唱をある程度飛ばして魔術を使っている非効率的な戦い方をしてる俺はフィオラと違って規格外の魔力も効率性も良くない。
杖とかで補強しないと魔力が増えて来た今でもかなり早めに使い切ってしまう。
この剣は本当に助かっている、村を出る時は隣町は経由する予定だからその時、ダイダロにもう一度お礼を言いに行こう、お金は多分高価すぎる物だから今の俺では絶対に返せないと思うけど。
魔術はすぐに撃たずに森の先に向けて構えておく、置きエイムって奴だ。
いつ来るかも分からない緊張感で汗が垂れてくる。
「ペ、ペコ。いつ来るんだ……まだか……?」
返事が無い、そしてほんのすこしの静寂が続いた。
実際は数秒なのだが体感時間は数分ぐらいに感じる。
草木の音が一瞬やんだその瞬間──
「みゃう!」
ペコが合図を送ってきた、きっとこの瞬間に敵が来るのだろう、だけどその前に。
「お前そんな鳴き声だったのか!?」
俺はペコの鳴き声を初めて聞いた驚きで動揺していた。
その刹那、森の奥から1匹の大きな体に鋭利な角を持った猪が走ってこっちに向かってきている。
前に父さんが倒していたホーンボアで間違いない。
「やばッ!」
ペコの鳴き声に意識を取られて判断が遅れた。
体を動かして即座に発射された氷塊は標準がブレてホーンボアの横を通り過ぎた、氷塊は地面を抉って砕け散った。
2発目は……間に合わない。
近接戦になるけどあの巨体で突進されたら一溜りも無い。
今こそこの2年間で父さんに鍛え上げられた剣術を披露する時だ。
「ペコ! 離れてろ!」
技神流 天人の型 中級
「……流水」
敵の攻撃を受け流すカウンター技、相手の勢いさえあれば俺が力が弱くてもダメージを出す事は出来るはずだ。
突進してきたホーンボアの角目掛けて短剣を叩きつける。
圧倒的技術だが威力の高い攻撃を当てれば綺麗に切れなくても叩き折れる。
すれ違い様に、ホーンボアのご自慢の角が砕け散った。
「よし! 行ける!」
バランスを失ったホーンボアが振り返るよりも先に走って剣に力を込める。
力神流 武人の型 中級
「昇刃ッ!」
ホーンボアの足元から剣を振り上げながら高くに跳んで攻撃する。
敵との体格差がある時は普通に斬るよりも広範囲にダメージを与えれる技だ。
ホーンボアの背中がザックリと切断された。
ちょっとグロいけど怯んでると自分が死ぬ。
斬られた痛みでその場で暴れるので後ろに跳んで離れる。
次こそ当てる、俺はさっき外した氷塊を使ってホーンボアの頭をよく狙う。
「流石にこの距離外すとやばいか……慎重に慎重に」
ゆっくりと狙った氷塊は綺麗に飛んで行った。
飛来した氷塊が頭に直撃したホーンボアはそのまま鈍い音と共に倒れ込んだ。
殺すのはまだ勇気が居るから気絶させるだけでそれ以上は何もしない、それに血を出し過ぎるとコイツの匂いに釣られてネイルウルフが群れで来るって前に聞いた気がする。
サメとかピラニアと同じ感じだろうか。
「ペコ、見てたか? 何とか勝っただろ?」
ホーンボアを横目で見ながらペコがまた歩みを進めた。
褒めてはくれない見たいだ。
まぁ、まだ入って間も無いしボチボチ順調って感じかな。
ペコはこの先でいったい俺に何を見せたいんだ。
進めば分かる事か………
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!