百十七話 謎の依頼主
「あれ? ここどこかな?」
目を開くと辺りはよく分からない景色が広がっていた。
明るいのか暗いのか……涼しいのか暑いのか……綺麗なのか悍ましいのか……
周囲を確認してみてもシャル達がいる様子も無い。
つまりは別の所に飛ばされたか、幻覚を見させら得れているか、それとも眠らされて夢を見ているのか、それとも私か誰かの意識に入ったとか……今までの経験だとどれもあり得そうだ。
『あぁ! やっとこっちに来てくれた!』
「えっと……君は誰?」
突如目の前に現れたその人は……いや、もしかしたらずっといたのかもしれない。
とても可愛らしいが男性とも女性とも見える中性的な見た目と声、その人を見ているとどこか不思議と安心する……だからこそ経験と本能がコイツを危険だと教えてくれる。
黒く短い髪は何処か引き込まれる様な綺麗さがあって、私も同じ黒髪だけど比べてみてもとても深い髪色だ。
身長は私より少し小さい……子供か? いや、亜人族や魔族なら数百歳だってあり得る。
服装は黒と白基調でとてもカッコ良さと可愛いさを持ち合わせた服装だけど見た事ない格好だ……
でも流石に女の子?だと思うけど。
『私が誰か……君なら分かるんじゃないかな』
私になら分かる……って事は面識があるとか有名人とかかな。
まず会った事はないし、たぶん過去にあった人の家族でも無い……指名手配犯でもこんな顔見た事ない……少し前のティアとの会話で可能性があるとするならば……
「先代の聖女様……?」
『おぉー! 流石はかの有名な剣豪、君の考察力は面白いね』
「もし先代の聖女様ならどうしてティアに顔を見せてあげないの? あの子心配してたよ?」
『だって杖に触れたの君だけだし』
「触れた人しか無理なんだ、ちょっと不便だね。それとドアを開かなくしたのも君の仕業?」
『大正解、あの杖ちょっとだけ不便なんだ。私がちょこっと小細工して会えるようにしたの』
この不思議で不気味な空間に入る条件はティアが使っていた魔装神具【聖界杖セレス=マキナ】を触れる事、そしてセレスマキナを使えるのは今分かっているだけで二人いる。
正面にいる先代聖女と今の聖女であるティアの二人。
魔装神具は誰でも使える訳じゃ無いから勝手に所有者しか使えないと思っていたけど適性がある人なら他の人にも能力が使えるのか、それとも一時的に乗っ取っているだけか……
「ここに私がいるのは偶然? それとも必然?」
『偶然だよ、本当なら全員で触って欲しかったのに。一度しか使えなかったから呼び出せたのは君だけ、まぁ戻ったらここの会話を話すかどうかは君に任せるよ』
「そうだ! ティアの昔話を聞かせてよ! ティアに聞いても恥ずかしがって全然答えてくれないんだ」
『悪いけどここを維持するのもかなりの力がいるからまた今度ね。本題がまだ話せてないんだからさ』
「それは残念。で本題は何なの?」
私に手紙を渡したのはたぶん先代の聖女様で間違い無いはずだ、なら目的は何だ。
私とティアを合わせたのは私と連絡を取る為かティアと連絡を取るためか……
『ある人物を殺して欲しいんだ』
「先代聖女様は結構腹黒いんだね。もし嫌だって言ったら?」
人は何度も殺してきた、今更一人二人数が増えても何とも思わない。
だけどコイツの命令で人は殺したくは無い、殺す相手ぐらいは自分で決める。
『大丈夫だよ、君は絶対に私と契約する。私にはその自信があるからね」
「その理由は?」
『六魔帝の一人、闇魔帝の殺害を手伝ってあげるよ。居場所、情報なんでも協力してあげる。憎いよね、復讐したいよね、だって最愛の友が殺されたもんね』
「……本当に私と二人きりで合ってるのは偶然?」
『いいねその顔、君の弟子や友人に見せてあげたいよ』
「はぁ……もう君が誰であるかはどうでも良いよ……それで、誰を殺して欲しいの?」
『この世界を黒く染めちゃった、とってもわるーい神様だよ』
「ちょっと話が長くなりそう」
ーーーー
サンセリティア神聖教国からかなり遠い月明かりが差し込む森の中、一人の男が木の上で周囲を見渡していた。
景色を楽しんでいる訳では無く、ただひたすら自分の下で魔術結界の上で無防備に座っている女性を守る為に警戒して居るだけだった。
「やはり何度もやってもダメでした……」
それを聞くと男は木の上から飛び降りて衝撃を難なく受け流して着地した。
「見張りありがとうございます、レイブン」
女性は魔法陣の中央から立ち上がって膝に着いた砂や砂利を払っていた。
「ダメって連絡する手段がか? それともお前の後輩に意図が伝わらなかったのか?」
「私も詳しくは分かりません。ただ分かるのはティア以外の何者かに妨害されたことぐらいです。手紙に残せた魔力は1回分しか無いので別の手段を使ってティアと連絡を取らなくてはなりません。それにしても一体誰が……」
顎に手を当てて少し考えたが連絡を妨害できる人を考えたが該当する人物が居ないのでより頭を悩ませた。
「まぁ、無理なもんは無理だ。それにエルトリスが近くに居れば不安は多いがだいたい安心だ。早く飯にしようぜ」
「そう……ですね。レイブン、今日のご飯は何ですか?」
「今日はイノシシとキノコのスープだ。わがまま言うなよ”元”聖女様」
「違います! 先代の聖女なだけで私は今も歴とした聖女です! 凄く訳ありですが……それにレイブンも知っているでしょう? 私、高級なコース料理より野生的な料理の方が好きだって」
「流石は野生児な聖女様。ほらこれ食って早く寝るぞ、明日はまた作戦会議と移動で忙しいからな」
「期待してますよレイブン」
ーーーー
サンセリティア神聖教国 大聖堂 地下室
「師匠、目が覚めましたか?」
軽度の頭痛と眠気が体を一層重たくする。
周囲を見る限り場所は変わって無い、つまりはさっきのは夢や幻覚……にしては鮮明に覚えているのを見るとやっぱり
先代聖女様が杖を使って連絡してきたって事かな。
「シャル、状況は?」
「眠っていたのはほんの数分です、師匠が杖に触れた途端光が消えて師匠が眠っていました」
眠らせて夢に入ってきたか意識に潜り込んできたかのどちらかかな。
夢に入ってきたなら夢魔の類か、それとも別の何かか。
取り敢えずみんな無事で何よりだ。
「よく分からないけど光が消えたって事は外には出れるのかな?」
「はい、今はこの子も暴走してません、今は私の言う事を聞いてくれています」
「ならある程度は話したし今日はもう解散しよっか」
「分かりました」
部屋を出る前にティアが杖を取り出して地面に当てた途端に最初に広がっていった魔法陣が崩壊していった。
これで部屋の内と外が繋がったはずだ、ここからはティアでは無く聖女様として接しよう。
軽く社交辞令をしてから私達三人は大聖堂を後にした。
聖女様と会うって目的は達成できたけど悩みの種は尽きない。
本当に今日会った人は先代の聖女様なのか、私と二人で会ったのは本当に偶然か、シャミルの居場所は嘘じゃ無いのか、私の目的の為に二人を連れ回すべきなのか。
「ミナ君、すっごく緊張してましたね」
「シャルには分からないよ、悪い事してた人は絶対に近付かないような神聖な場所だよ? 僕とは無縁な場所だ」
「もう、今は良い子にしてるんだから気にし無くても……師匠?」
「ん? あぁ、どうしたのシャル?」
「何か難しい顔をしているので、もしかして何かありましたか? それとも嫌な夢でも見ましたか?」
察しがいいのは良い事だけどあの話は他の人には聞かせる訳にはいけないか。
「ちょっと嫌な夢だったんだけど内容はもう忘れちゃった」
「そうなんですか、でも忘れたなら良かったです」
「へぇ、エルトリスでも悪夢とか見るんだね」
「ミナって時々、私の事トロールか何かだと勘違いしてない?」
「最上級の悪魔か魔王ぐらいの認識ではあるよ」
「せめて天使とか勇者にしてよ……」
三人で笑い合いながら泊まっている宿屋に向かって行った。
因みに何処もかしくも高級宿ばかりでかなりお金を持っていかれたのはまた別の話。
取り敢えず、この旅の目標は四つ。
シャルを強くする事、ミナの妹を探す事、闇魔帝に復讐する事。
そして……悪い神様を殺す事。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!