百十五話 聖女様
「師匠! 師匠! 早く起きてください!」
「ん……どうしたのシャル?」
「今日は聖女様に会いに行く日ですよ!」
あ……寝坊した。
昨日、夜に出かけたとはいえここまでぐっすり眠るとは思わなかった。
聖女様のいる中枢機関であるサンセリティア神聖教国の大聖堂にはこの国に来た日に今日行く事は伝えてはいるけど時間は明確には伝えていないのが唯一の救いだ。
大慌てして準備を済ませる。
主に私のせいで……
ブラシで髪を整えたり、服装をどれにするか、朝ごはんを何にするか。
寝ぼけた頭で考えながら体を動かす。
急いでいつもの服に着替えて、慣れた手つきで髪を梳かしていく。
「ねぇ、シャル。ミナはどこにいったの?」
朝起きた時ミナだけ部屋に居なかった。
荷物は置いていたから何処かに出かけているだけだとは思うけど。
「ミナ君は今は朝ごはんを買いに行ってくれています」
ミナには後で感謝の言葉をかけておこう。
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「朝ご飯も食べたし、準備も済んだしそろそろ行こうか」
「聖女様ってどんな人なんでしょうか」
「この国で一番偉い人だから他の国の王様みたいな感じの人なんじゃ無いかな」
「僕、王様って偉そうで自分勝手なイメージあるんだけど」
「ミナ、忠告だけど聖女様に斬りかかったりしないでよね。一応国家転覆の前科あるんだから」
「うっ、流石にしないよ。あれは仕事だったし」
その言い方だと仕事で依頼されたら国家転覆は今でもしそうだな……
まぁ、ミナも好んで暗殺の依頼していた訳じゃ無いから大人の私がしっかりしている内は大丈夫か。
大聖堂はこの国の中央にあるから真ん中に歩いて向かっている、辺りを見回して見ても白基調の建物が多い。
この宗教では白を聖なる色という認識で修道女の服装も建物の色も白色ばっかりだ。
「この街は何処も清掃が行き届いて綺麗ですね」
「ちょっと白すぎて不気味な気もするけどね」
「あ、僕も思ってた。流石にここまで白色押してくるとね……」
この感想の違いはシャルの心が綺麗なのか私達の心が汚いのか。
そんな他愛の無い話をしながら歩いていると嫌でも目立つ建物が見えてきた。
派手な装飾の無い白基調のお城の様な巨大な大聖堂で周囲が水で囲まれていて一つだけ橋が用意されている。
ミナが隣で『あそこからなら……』なんて小声でぶつぶつ呟いている、一種の職業病だと思って聞かなかった事にしておこう。
橋を渡って入口に近付くと全身を白色と青色と金色の三色で彩られた鎧を纏っている騎士2人が守っている。
聖女を守る聖騎士って感じだろう。
近付くと胸に右手を当ててとても礼儀正しくお辞儀をしてくれた。
右手で礼をするという事は剣を引き抜けない……つまり引き抜かないという事を自分から証明している事になる。
もてなされているという事なんだろうか……
「エルトリス様、シャルリア様、ミナ様お待ちしておりました。 聖女様がお待ちしています」
「ありがとね。ほら、行くよ2人とも」
「え……あ、はい!」「う、うん」
冷や汗を垂らして固まっていた2人に声をかけてから大聖堂の奥に進んでいった。
2人の騎士は敵意は一切出していない、それに丁寧に対応もしてくれていた、なのにシャルとミナが息が詰まる程、あの2人の聖騎士は強い、かなりの実力者だ。
今の二人には厳しそうだ。
「今の二人、凄く強かったです……師匠、私はあの人達に勝てますか?」
「んー、勝つにはもっと鍛錬が必要かな。でも、焦らなくても良いよ、私がもっと強くしてあげるから」
「はい……」
不安になっているシャルの頭を歩きながら雑に撫でた。
シャルは将来必ず強くなる、センスや才能が高いのはそうだけどこの子は人一倍強い感情を持っている。
家族に対しての愛情、仲間に対しての友情、敵に対しての憎しみや復讐心。
そういった感情が強い子は必ず強くなる。
「ミナにも期待してるよ、あの二人ぐらいは軽々倒してもらえる様になって貰わないとね」
「……任せてくれ。それで妹が助けれるなら二体一でも勝てる様になってやる」
ミナやライラス君にはシャルが強くなる為のライバルになって貰う、歳の近いライバルが居るとより一層強く成長できるからだ。
喝を入れる為にミナの背中を軽く叩いた。
シャル、ミナ、ライラス君、フィオラちゃんにはかなり期待している。
将来世代に互いの得意分野で活躍して助け合って欲しい。
ゆっくり歩きながら周囲を見渡してみる。
見た事の無い建築様式で教会内はとても広くて特に天井が高い。
「ミナ君見てください、屋上に何か絵が描いてますよ」
「何の絵だろう、三人の人と翼の生えた人が描かれてる……」
「それは多分おとぎ話の『三勇者の冒険譚』だね。この絵は多分、三人の勇者が神様から力を貰うシーンかな」
「師匠、あの絵は何ですか?」
他には絵が三枚あって勇者がそれぞれ剣、杖、星を受け取る絵が描かれている。
「神様に別々の力を受け取っている絵だと思うよ、おとぎ話では明確な力は描かれていないんだよね」
「そうなんですか......」
剣は剣術で杖が魔術だとして星はどんな力なんだろうか。
考えても私の知識じゃ分からないや。
絵柄を見ながら奥に進むと大聖堂の最奥に続く扉が会った。
両開きの大きな扉の正面には一人の年老いた修道女が佇んでいた。
「皆様、お待ちしておりました。わたくし聖女様のお世話係を務めさせて頂いているヒシアと申します。こちらの御膳でセレスティア聖女様がお待ちしております」
片膝を曲げてスカートを軽く摘み上げてお辞儀をした。
屋敷のメイドさんや貴族の人がやる懇切丁寧なカーテシーというお辞儀だ。
修道女の人や聖騎士の人達がしていた胸に手を当てるお辞儀とは違うのを見ると他の人とは違い聖女専属の付き人だと分かる。
「ありがとうございます」
ヒシアさんが大扉の正面から右側に捌けると扉が独りでに開き、招かれる様に部屋の中に入った。
部屋の奥には全身を白基調で金色と青色が所々に施されている綺麗で清楚な修道服を着込んだ人の背中があった。
「初めまして......この国を統治している聖女、セレスティアです」
声を聞いた時は少し疑問を浮かべる程度だったけど顔を見てそれが確信に変わった。
いつものゆるふわな雰囲気が消え、表情は固く冷たさを感じる程に変化していた。
この国のトップの聖女セレスティアの正体は、紛れもなく私達がカフェで知り合った友達のティアだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!