百十二話 依頼達成!?
「それでエルトリスさん、依頼主の方は何と仰っていたんですか?」
「それがねー、話を聞くとお店で食べたものじゃ無いみたいなんだよね」
「子供の頃にお外で怪我して泣いていた時に通りがかったお兄さんから貰ったクッキーみたいです」
「昨日は疲れたから紅茶が染みるよぅ」
いつものオシャレで静かなお店、4人で一つのテーブルを囲んで雑談をしたり時に依頼の話をしたりと女子会の真っ最中だ。
「あ、今日の紅茶も美味しい」
「これは私のお気に入りなんですよ! ハチミツ入りで甘くて大好きです!」
甘い紅茶に甘いお菓子、ちょっと甘すぎる気もするけど仕事の疲れはこの甘さで回復する。
「私も皆さんとお別れした後に少し調べたのですけれど、予想通りで少なくともこの国中で伝説のスイーツと呼称されている商品は無く、市民の間でもこれと言って噂は立っていませんでした。それとお菓子やスイーツを売っているお店の数は全部で8件です。この街は広いですしニ日あれば回れそうですね!」
ん? 国中? 市民?
ティア今なんて言ったんだ。
いや、聞こえはしたけど……
「お手伝いありがとうございますティアさん」
「僕達には人脈がないから凄く助かるよ、それに全部で八件なら僕の情報も役立てそうだ」
子供2人が優雅に聞き流してお菓子と紅茶に手を伸ばしている。
この街ならギリギリ人脈が凄いで分かるんだけど聞き間違いじゃなければティアは今この国って言ったよね。
この街はサンセリティア神聖教国の中央機関のある街だからかなりのサイズがあってこの街の規模だけでも小国や城下町でも通用する規模感なのにそれら全てを含んだ国中を調べたって事だ。
このポワポワとした性格で優しくて人脈どうこうで済ませれるレベルじゃ無い情報力持ってるってティアはいったい何者なんだ。
立ち振る舞いや装備の軽さなんかは……やっぱり戦闘はしない唯の一般人だ。
情報屋の友達がいるとかかな、私もカルガーがいた時は情報の殆ど頼り切っていたから普通にその線もあり得るか。
「みんなの情報を聞いたところで僕もとっておきの良い情報を話さないとね」
「ミナ君も何か手掛かりを掴んだんですか?」
興味津々なシャルに少し誇らしげなミナが話し始めた。
「この国にあるお菓子屋さんはティアさんも言っていた八件。その内、四件は三十歳以上の男性店員さんか女性店員のお店で一つが老夫婦が2人で経営しているお店で残り二つは女性店員だけのお店」
「え? ミナ全部行ってくれたの? 凄く助かるしありがとうだけど言ってくれれば手伝ったのに」
「ミナ君すごいです! かっこいいです!」
同業者の近くにお店を構える人は居ない、つまりお店同士はかなり離れている。
それに昨日解散したのは午前中からお昼時の間、半日でお店全部を回ったって事か……
2人とも優秀過ぎて面目無いなぁ私。
嬉しい反面、2人が自立していくのが少し悲しかったりもする。
あれ? 四件が年齢違い、一つは老夫婦、二つが女性限定、後一つはどうなんだろう。
「ミナ、あと一件はどうだったの?」
「それは今から説明するよ。ねぇ、シャルリア。依頼人は自分が子供の頃に若い男性に助けられたって言ってたんだろ?」
「はい、確かに依頼人の女性はそう言ってました!」
「数年前に若い男の人……今は20前後って所じゃないかな。それと依頼文には当時その男性が働いているお店は無かった……でも作るお菓子は何処よりも美味しかったって事はお店を出せるレベルの腕前。ここ数年でお店を開いた二十代男性、お菓子の味は折り紙付き。ほら、心当たりがあるだろ?」
そうか、お店が綺麗で客が少ないのはここ最近に開店したからか。
そして八つのお店で唯一の若い男性店主。
昔にお菓子作りで人にプレゼントしていてもおかしくは無いか。
「つまりミナ君!」
「ミナさんそれってーー」
ーーーー
「はい、確かに依頼の完了を確認しました。お疲れ様です」
ギルドの女性職員の人は慣れた手つきで依頼書にハンコとサインを記していた。
依頼の完了にはまず、依頼主の人がギルドに報告に行ってそれから依頼金を職員の人に渡す。
その後に依頼をクリアした人がギルドに行って受け取る仕組みになっている。
「こちら依頼達成による報酬金です」
じゃりじゃりと音のなる小袋をギルドのカウンターに置くと重量感のある音が鳴り響いた。
依頼を達成した私とエルトリスとミナの三人で顔を合わせる。ゴクリと生唾を飲み込んでからゆっくり中を確認した。
「し、師匠! 見間違いじゃないですよね!?」
「ちちち違うよ、これは本物で全部私達のお金だよ! 」
依頼書に書いていた報酬は銀貨百枚。
この国はかなり広くて人口も多いだけあって物価は高いけどそれでも安めの宿で止まるなら銀貨5枚近くで済ませれる。
今日のこの報酬だけで少なくても二~三週間は何もせずに過ごせる。
「あれ……師匠袋に何か紙がありますよ」
「ほんとだ……なになに。『貴方達が見つけてくださった物はただのお菓子じゃなくて私の大切な思い出です。心からの感謝の気持ちを底に埋めてあります。本当にありがとう』だって……なんだかこっちが嬉しくなっちゃうね」
「そうだね、僕達三人とティアさんの四人の力だね」
「はい! でも本当にティアさんは報酬要らないんでしょうか」
そう……店長さんにお菓子の確認を取った後、ティアにも報酬を山分けしようとしたらお金はいらないからその代わり三日後にまたカフェで会う約束をした。
丁度その日は聖女様と会う前の日だから時間がある、最後にティアとお茶会という名の女子会をするのも悪くない。
「気になるからもう見ちゃおっか。底にある感謝の気持ちは何かなっと……ん?」
「あれ、どうしてとまっているんですか師匠?」
「おーいエルトリス? 何だか固まってる見たいだし僕が見るよ。どれどれー」
じゃらじゃらと大量の銀貨を掻き分ける音が聞こえる。
底まで掻き分けると中から一部だけ銀貨とは別の輝きを放つ異質とも豪華とも言える物が現れた。
「って!? ききき、金貨!? しかも三枚も……」
「金貨? 金貨って銀貨の上ですよね? 銀貨何枚ぐらい何ですか?」
「シャルリア、君知らないの!? 金貨は一枚で銀貨百枚分だよ! つまりこれ一枚がこの袋と同じだけの価値があるって事!」
「えぇーーー!!! ミナ君、これ一枚で何ゴブリンですか!?」
「え? 何ゴブリン? そ、そうだなこの前のゴブリン討伐が十匹で銀貨一枚だから千ゴブリンぐらいじゃないかな?」
「なるほど! 全然わかりません何ですか千ゴブリンって」
「それは僕が聞きたいよ!」
隣で普段かなり賢いシャルリアがあまりの追加の高額報酬で目がお金マークになって知能がゴブリンまで落ちたみたいだ。
かなり頭にダメージを受けてしまっている。
「これは夢かもしれません! ミナ君、一回私のほっぺをつねってみてください!」
「わ、分かった……どう?」
隣でシャルのほっぺをミナがムニムニと摘まんで上下左右に動かしている。
ふわふわしていて凄く和む、そのお陰で金貨三枚という大金で飛んでいた意識が戻ってきた。
「みなふんそんなんひゃいはくないれふ」
「はい二人とも、いつまでも可愛い事してないで早く行くよ」
「師匠、どこに行くんですか?」
「今日はもうする事はご飯ぐらいじゃ――」
「その通り! 今日は普段は行けない良い店良い店に行くよ! 美味しくてとろけちゃうかもよー」
「本当ですか!?」「ほんとに!?」
二人はキョトンとした顔からパァーっと笑顔にさせて私の後に付いて来た。
いつも野宿や安宿でかなり窮屈な思いをさせているからこういう時こそケチケチせずにパァ―っと奮発してあげよう。
お金は何かあった時の為に二人に金貨を一枚ずつ、できるだけ使わない様に忠告してから渡した。金貨一枚あれば普通のお店で売っている物は何でも買える。離れ離れになったり解散した後もいつか二人を助けてくれるかもしれない。
それから銀貨は二人にお小遣いと称してしっかり三分の一の三十枚づつ渡した。
二人はお金の管理は私に任せたいらしいけど仕事に関しては出来るだけ子供扱いはして上げたくない、二人もプロだから報酬はきっちり三等分だ。
余った銀貨四十枚は衣食住等の活動資金で金貨一枚の使い道もう既に決めてある。
取り合えず、今日は美味しい物を沢山食べさせてあげよう。
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【ちょこっとおまけストーリ】
高級レストランでの話
「師匠師匠! このお肉凄く柔らかいです! ミナ君も早く食べてみてください! 口に入ったらとけて無くなっちゃいますよ! 凄いです! 美味しいです!」
「シャルリア、硬いお肉がとける訳ないだろ? うそ……ほんとにとけちゃった。美味しい……」
初めて食べる高級料理に満面の笑顔で食べる二人の様子を見てニコニコ笑うエルトリスだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
今回は初の試みとなる【ちょこっとおまけストーリー】を書きました!
本編に入れるには字数や心象描写が少ない小話です!
これからも不定期で最後に書いていくのでそちらの方も楽しみにしていてください!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!