百十一話 いつもいるあの人
聖女の休暇の間、ギルドの討伐依頼でその日の飯代と宿代を稼ぎながら空いた時間に伝説のスイーツの情報を集めて、いつものカフェで情報をまとめる……名目で美味しい紅茶とお菓子を堪能して既に3日が経過した。
「いやー疲れた疲れた。ゴブリン討伐は数は多いし洞窟はジメジメしててきらーい」
「私もゴブリンはちょっと気持ち悪くて苦手です。あの舐め回してくる様な目線が特に駄目です」
「僕はゴブリンを嫌と言うほど狩らされたから慣れちゃった」
今日もカフェに向かう道中で討伐依頼の愚痴を溢していた。
お店に入ると見知った顔が2人居た。
「いらっしゃい、今日も来てくれたんですね。ありがとうございます」
「ここは紅茶もお菓子も美味しいから毎日来れちゃうよ、この子達も気に入ってるみたいだしね」
1人は優しい店員さん……もとい店長さん。
若いから最初は店員の1人だと思っていたんだけどこの3日で見たお店のスタッフはこの男性だけで話を聞いたら店長だという事が分かった。
優しい顔で若くしてお店を持っててしかも美味しい紅茶とお菓子が作れるなんて完璧なんだろう。
どんなに完璧でもうちの娘は上げませんからねっと内心威嚇する。
そしてもう1人見知った顔の人は私達と同じで初日から毎日通っている女性だ。
茶色く腰まで綺麗に伸びている長い髪の女性でいつも2人前ぐらいのケーキを美味しそうに口一杯に頬張っている子だ。
「昨日は他のお客さん多かったのに今日はあの人だけですね」
「ほんとだ、私達と同じで甘いもの好きなんだろうね」
横目で流して女性を見ながらいつもの席に着いた。
本当に美味しそうに食べているから見ていて楽しい、たまに口に頬張りすぎて口をリスみたいになっているのがおかしくて少し微笑んでしまう。
あまり見ていると私が変な人に間違われるのでちょうど届いた紅茶とクッキーを食べて話を始める。
私達は基本的に行動するのはお昼頃からだ、なので午前中は結構自由なので朝に情報収集をしてお昼過ぎにご飯を食べてから普段通りギルドの依頼を受けて帰ってきたらカフェで作戦会議だ。
「今日も情報を集めたけど、もしかしたら伝説のスイーツって名前の食べ物とかは無いかも知れないね」
たまに依頼内容が雑な依頼がある、例えば研究員からの依頼で緑のアレを持ってきてくれって依頼があって報酬が良かったから受けたけどかなり苦労した事を思い出した。
色々な物を持っていったけどどれも違う違うの一点張りで何かは教えてくれ無かった。
まぁ、結果から言うとゴブリンを生捕りにして持ってこいって事で苦労して麻袋に詰めて村外れの研究室に持っていった、大々的にモンスターを拉致した事がバレたら危険人物認定されて街を追い出されるから依頼内容を曖昧にしていたんだとか。
ゴブリンを拉致して何をするかはちょっと気持ち悪くて聞かなかったし正直聞きたくも無い。
「僕は今日、街中のスイーツやお菓子店を調べれるだけ調べて回ってきたけどハズレだったね。どこの店も基本的に自分の店が1番だって言い張ってたよ」
「わ、私は……お洋服屋さんで話を聞いていたら華が咲いてしまって……ごめんなさい」
だから情報を集めたあ後に再集合した時にニコニコしていたのか。
「良いよ、気にしなくても。それで良いお洋服はあったの?」
「はい! 師匠にお似合いのドレスがありました! それにミナ君にも合いそうなワンピースもあったんですよ!」
本当にこの子は……
私とミナは無言でシャルの頭を撫でた。
シャルは少し混乱していた。
「うーん、完全に手詰まりだねー」
「どうする? 流石にもう諦めるか? 僕はまだ出来るけどあまり良い結果は期待出来ないよ」
「他の依頼をした方が効率が良いかも知れないですね」
三人で頭を抱えて悩んでいると、とある女性が自分の席を離れて近付いてきた。
足音を聞くに一般人だろうけど一応、懐に隠し持っているナイフをこっそりと握る。
「皆さん何か悩み事ですか?」
「貴方はいつもケーキを美味しそうに食べている人」
「間違って無いですけど少し恥ずかしいですね。私は……そうですね、ティアとお呼びください」
今の言い方的に何か隠し事があるみたいだ。まぁ、詮索はしないのがこの世で生き抜くコツだからしないんだけど。
「よろしくティア。私はエルトリス、こっちの金髪の可愛い子がシャルリアでこっちの銀髪の可愛い子がミナ」
「まぁ、よろしくお願いします。エルトリスさん、シャルリアさん、ミナさん」
話し方、体の動かし方、服装を見るに武器も持っていない。警戒はしなくても良さそうだ。
ナイフを懐にしまって警戒心を少しだけ緩める。
シャルとミナに目線を向けて合図を送った。警戒心を緩めて良いという事と一つの提案をした。
「ティアが良かったら一緒に座らない? 話はそれからでも大丈夫でしょ?」
「良いんですか! 是非ご一緒しましょう!」
ティアと名乗る女性は紅茶とお菓子を持ってきてこちらの椅子に座った。
その間、嬉しそうにニコニコしながら運んでいるものだから少し場が和む。
ティアが移動してからクッキーで乾いた口を暖かい紅茶で潤してから話し始める。
「それで、ティアはどうしたの?」
「実は数日前から貴方達が伝説のスイーツを探していると少し小耳に挟んでしまって。気になったのとお力になれればなと思いまして」
確かにここ3日は毎日このお店で依頼の話をしていたから気になるわけだ。
「ちょうど困ってた所なんだ、力になってくれるならこっちからもお願いしたいよ」
「はい! 人脈には自信がありますから任せてください!」
それからティアに事情と今持っている数少ない依頼の情報を話した。
「なるほど、ギルドの依頼で探していたのですね。残念ですけどこの国に伝説のスイーツと呼ばれるものは多分ありませんね、その依頼をした人が勝手にそう呼んでいるだけとしか……」
「やっぱりそうなのか、どうりで僕達がどれだけ調べても名前を聞かない訳だ。これじゃあどれだけ調べても探すのは難しいぞ」
ミナの言う通り、それだと情報が曖昧過ぎてこれ以上見つけるのは難しい。
「一度、依頼主に直接話を聞いてみるのはどうでしょうか? 依頼内容を見るに伝説のスイーツは依頼主の思い出の品なのでしょう? でしたら話を聞いてみると分かる事もあるかも知れません」
「確かに……2人ともこれ食べたら依頼主を探しに行こうか」
「はい!」「りょーかい」
三人で凝り固まった思考が甘い紅茶と柔軟なティアの発想で解決しそうな兆しが見えた。
「ティアさん、こっちのクッキーどうぞ。凄く美味しいですよ」
「ありがとうね、シャルリアさん。私のスコーンも良かったらぜひ!」
シャルとティアがお菓子を交換しながら談笑をしていて、それをミナがチラチラと見ながら紅茶を口に運んでいる。
持ち前の性格上、シャルはかなり社交的でミナは少し恥ずかしがり屋だから会ったばかりの人と直接話すのは苦手だ。
でも表情を見るに嫌そうでは無くてどちらかと言えば話に混ざりたそうにも見える、面白いから少しこのままにしておこう。
「つまり今は旅の途中と言う事ですか?」
「そうなんです! 三人で旅をしているんです! 師匠はカッコよくてミナ君は賢いんですよ! 頼れる仲間です!」
それを聞いてミナの紅茶を飲む速度が上がった、堂々と本人の前で褒められて恥ずかしくなっているんだろう。
「凄いですね。 私、この国から出た事が無いので少し羨ましいです」
「ティアさんは旅をしないんですか?」
「私は……この国でお仕事がありますから旅は出来ないですね、いつかはしてみたいですね」
この子にも何かしら事情があるみたいだ。いや、事情が無い人はいないか。
それから旅の出来事だとか美味しかった食べ物の話など一通り楽しく話してティアとは解散した。
ティアも解散してから調べてくれるみたいでまた明日のお昼以降にお店で集合する事になった。
「師匠! ティアさんはとても良い人でしたね!」
「そうだねー、このままいけばもしかしたら聖女様のお仕事復帰までにこの依頼達成出来そうだね」
「取り敢えず僕はこのまま調査してくるよ、依頼人の所は2人で行ってきてくれ」
「うん、分かった。また後でねミナ」
「ミナ君、あまり遅くならないようにね」
「シャルリアはお母さんかよ……ありがと」
ミナはフードを被って路地裏の暗闇に消えていった。
あの子、私達の前ではフードを外す様になったけど他ではやっぱり常にフードを被っている。
警戒心が強いのは良い事だけどミナ自信の根本的な解決になっていない気がする。
それは徐々に解決していくしか無いか。
「それじゃあ私達は依頼人探しから始めようか」
「はい、師匠!」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!